法律27条1項および4項1号に該当するとして懲役刑が言い渡された事例(平成14・10・21福岡地裁)平成14(わ)986 [猫] 

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平成14年10月21日宣告

平成14年(わ)第986号 動物の愛護及び管理に関する法律違反被告事件

判決

主文

被告人を懲役6か月に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成14年5月6日午後11時10分ころから同月7日午前3時20分ころまでの間,福岡市a区bc丁目d番e号fコーポg号の被告人方(当時)において,愛護動物である猫1匹の尾及び左耳を波板切りはさみで切断してみだりに傷つけた上,その頸部をひもで絞めつけ,自宅付近のh川の水中に投げ捨ててみだりに殺した。

(法令の適用)
1 判示の行為は動物の愛護及び管理に関する法律27条1項,4項1号に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役6か月に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
2 訴訟費用は刑事訴訟法181条1項本文により,全部被告人に負担させる。

(量刑の理由)
本件は被告人が猫を虐待して殺害し,同時にその模様をインターネットの掲示板サイトで実況中継した動物の愛護及び管理に関する法律違反の事案である。
 被告人は,犯行当日拾ってきた猫に対する虐待を実行して,その模様をインターネットで実況中継するため,有名掲示板サイトに新たに掲示板を立ち上げ,「猫祭り開催しますか」「血だよ,血塗れ。それがなければ面白くないだろうが」などと書き込んで,インターネット上で虐待方法の意見を求め,その書き込みに答える形で,尾,続いて左耳を波板切りはさみで切断して判示の虐待行為を行うとともに,その状況をデジタルカメラで撮影し,その残虐な画像をインターネットで同時に公開した。そして,「もう飽きちゃったんで一気に〆てもいいですか」などと書き込み,ひもで宙づりにした猫の尾や後ろ足を下に引っ張ってその頸部を絞め付けた上,第二次世界大戦での脱走兵の処刑写真を真似て「私は敗北主義者です」と書いたCDRディスクを首吊り状態の猫の首にかけて撮影して,その画像を公開し,さらに,「近所の川に投げ込むよ」「死体捨てに行ってきます」などと書き込んだ後,猫を自宅アパート近くの川の中に投げ捨てて殺害したものである。インターネットの掲示板という無責任な仮想空間において,悪意を相互に増幅させながら,動物虐待・虐殺行為を現実に実行して見せたもので,悪質な犯行である。
 その動機について,被告人は,猫に餌を与えたところ糞をされ,これを友人らから裏切られたつらい経験に重ね合わせて憤激したためと説明しているが,被告人の犯行時の掲示板への書き込み内容からすると,動物愛護に対する反感や猫の虐待行為自体を面白がって行っていたものと認められ,何ら酌量すべき点はない。
 本件犯行がインターネットで実況中継され,被告人の犯行を見ながら,これを止めようにも手の届かないところで動物虐待・虐殺行為が現実に進行したことで,良識ある多数の人々には不快感,嫌悪感を超えた深い精神的な衝撃を与えた。しかも,本件に追随する模倣犯,愉快犯の出現の危険も高めたものであり,社会に与えた悪影響は大きい。
 以上のとおり,本件犯行は動物の命を弄び軽んじた悪質な犯行であり,その社会的影響も大きく,動物の愛護及び管理に関する法律の立法目的に照らせば,被告人の刑事責任は決して軽くない。
 他方で,インターネット上でも本件が被告人の犯行であることが突き止められて,被告人のみならずその家族までもが,そのプライバシーに関する情報まで公にされた結果,様々な嫌がらせを受けていわば「さらし者」にされており,社会的制裁としても行き過ぎた制裁を既に受けていること,被告人には前科前歴はなく,本件犯行により動物の愛護及び管理に関する法律違反の事件としては異例の長期の身柄拘束を受けたこと,被告人は人間関係が苦手で社会的にも未熟な青年であり,捜査当初は猫は死んでおらず逃げていったなどと虚偽の弁解をしてみたものの,最終的には事実を認め,本件犯行に及んだ自分の心の中の闇と向かい合い,反省していることなど酌むべき事情もあるので,その刑の執行を猶予し,社会内での更生の機会を与えることとする。

(求刑:懲役6か月)
[検察官酒井博史,弁護人------各出席]

平成14年10月21日

福岡地方裁判所 第2刑事部
裁判官   冨田敦史