法律27条2項の「虐待」に該当するとして罰金刑が言い渡された事例(平成15・3・13伊那簡裁)平成14(ろ)4[馬]

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動物の愛護及び管理に関する法律27条2項の「虐待」に該当するとして罰金刑が言い渡された事例

主        文

被告人を罰金15万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。


理         由

(罪となるべき事実)
被告人は,長野県上i郡A町B番地及びその周辺土地において「C乗馬牧場」を経営し,同所に設置された厩舎において被告人が所有・管理する愛護動物である馬2頭(クォーターホース1頭,シェトランドポニー1頭)を飼育していた者であるが,平成13年3月9日ころから同年4月11日までの間,上記馬2頭に対し,死馬2頭が放置されていた上に馬糞の清掃もなされていない不衛生な環境の下,十分な給餌をせず栄養障害状態に陥らせる虐待を行ったものである。

(証拠の標目)
省略

(補足説明)
1 弁護人は,「2頭の馬の給餌を減らしていたこと及びその結果として2頭の馬の各体重が減少していたことは事実であるが,『伏せ』の調教課程として給餌を通常の約半分に減らしていたにすぎないし,結果として2頭の馬も衰弱などしていなかったから,虐待には該当しない。」旨主張し,被告人もこれに沿う供述をしている。

2 動物の愛護及び管理に関する法律27条2項に規定する「虐待」とは,愛護動物の飼育者としての監護を著しく怠る行為を指すものであり,その代表的な行為として「みだりに給餌又は給水をやめることにより衰弱させる行為」が例示されているものと解される。したがって,必ずしも愛護動物が「衰弱」していなければならないものではなく,著しく不衛生な場所で飼育し,給餌又は給水を十分与えず愛護動物を不健康な状態に陥らせるといった行為も,上記「虐待」に該当するものと言うべきである。
これを本件においてみると,確かに,平成13年4月11日前後の時点における2頭の馬の体重の正確な測定値は記録に残っていない。しかしながら,①平成13年3月2日にヘイキューブ(30キログラム入り)12袋が本件牧場に配達(なお,これは,牧場の地主であるDがA町役場から「牧場に餌がほとんどない。」と告げられて手配したものである。)され,さらに同月28日にもヘイキューブ(30キログラム入り)1袋をDが上記牧場に持参したものであるところ,同年6月ころに上記牧場に残存していたヘイキューブは7袋(内1袋は使いかけのもの)(総量約202.7キログラム)であったから,平成13年3月2日から同年4月11日までの間に使用されたヘイキューブの量は約187.3キログラムと推定できる(平成13年4月11日に馬2頭が保護されて以降は上記牧場には飼育馬が1頭も存在しない状況となったから,同年6月時点で残存していたヘイキューブの量が上記保護時点における残存量と推定できる。)。そうすると,この間の1日当たりの平均飼料使用量は約4.57キログラムとなるが,保護馬2頭分の飼料必要量として算出される1日当たりの平均量約11.3キログラムをかなり下回っていると言える。

②次に,その結果として,保護されたクォーターホースは,ボディコンディションスコア1(削痩)もしくはスコア2(非常にやせている)と判定され,栄養消耗症と推定されている。また,保護されたシェトランドポニーは,上記スコア3(やせている)もしくはスコア4(少しやせている)と判定され,栄養失調症と推定されている。

③さらに,被告人は,毎日上記牧場にいるわけではなく,自分が仕事等の用事がある時には別の人物に給餌及び給水をしてもらう必要があったが,世話を依頼していたEは平成13年1月下旬まででその役目を辞め,その後に「電話した時に世話をしてくれ。」と依頼していたFも2回しか上記牧場に赴いていない(しかも,1回は馬に与える餌がなかった状態である。)。そして,その他に上記牧場で馬の世話を継続的に行っていた者もいないのであるから,少なくとも平成13年3月9日から同年4月11日までの間,被告人が上記牧場において給餌・給水を含む馬の世話をきちんと行っていなかった蓋然性は高いと言わざるを得ない。

④また,平成13年4月7日の時点における厩舎の状況を見ても,周囲の馬糞が除去されず,しかも厩舎内及びその手前に死んだ馬2頭(しかも腐敗が進行していたものである。)がそのまま放置されており,建物自体もボロボロと言っても過言ではないものである。保護された馬2頭は,そのような厩舎内に,それほど長くない綱(1メートル前後)で繋がれた状態にあったことに鑑みれば,極めて不衛生な状況下で飼育されていたと言わなければならない。

⑤その上,被告人は,平成13年4月28日,生きている馬2頭の所有権の譲渡をGから求められ,それほど強く反対することもなくこれに応じている。このことは,被告人自身が今後適切に馬を飼育していくことはできないと認識していたことを推認させる。

以上の諸点を総合考慮すると,被告人は,本件2頭の馬に対し,十分な給餌をせず結果的に不健康な状態(栄養障害状態)に陥らせた上,著しく不衛生な状況下で飼育していたものであって,馬の調教の事実の有無・内容を検討するまでもなく,愛護動物の飼育者としての監護を著しく怠っていたと評価せざるを得ない。したがって,被告人は動物の愛護及び管理に関する法律27条2項に規定する「虐待」を行ったと認定するのが相当である。

(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも動物の愛護及び管理に関する法律27条2項に該当するが,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として犯情の重いクォーターホースに対する虐待罪の刑で処断することとし,所定刑期の範囲内で被告人を罰金15万円に処し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)
本件は,乗馬牧場を経営していた被告人が,そこで飼育していた馬2頭に対し,極めて不衛生な状況下で,十分な給餌をせず栄養障害状態に陥らせたという事案であり,生命ある動物を苦しめた被告人の行為は非難されなければならない。特に,上記2頭の馬は,5年以上もの間,被告人の下で飼育されてきており,十分な餌を与えられなくなっても,被告人を信頼して従順に空腹に耐えていたであろう様子を想像すると,まことに不憫である。

これらの点を考慮すると,被告人の刑事責任を軽視することはできない。

しかしながら,被告人が上記2頭の馬の世話を適切に行えないようになったのは,傷害ないし病気の影響で被告人の体が不自由になったことと無関係ではないと推察され,この点は酌む必要があること,上記2頭の馬は栄養障害状態には陥ったが,シェトランドポニーは未だ栄養消耗状態にまでは陥ってはいなかったこと等,被告人に有利に斟酌できる事情も認められるので,これら諸般の情状(なお,上記牧場においては平成13年1月20日前後に2頭の馬が死亡しているが,その死因は解明されておらず,本件公訴事実においても問擬されていないから,この点を量刑に当たって反映させることは許されない。)を総合考慮して,主文のとおり量刑した。

よって,主文のとおり判決する。

(出席検察官 大井良春)

(出席弁護人 ------)

(求刑 罰金30万円)

平成15年3月13日

    伊那簡易裁判所

        裁 判 官       藤   田   昌   宏