賃貸借契約に係る敷金契約に基づく敷金返還請求を一部認容した事例(東京簡裁平成17・3・1)平成16(少コ)3652 敷金返還請求 [猫5匹を飼育していた事例]

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平成17年3月1日判決言渡
平成16年(少コ)第3652号(通常訴訟移行)敷金返還請求事件
口頭弁論終結日 平成17年2月22日

判         決

主         文
1 被告は,原告に対し,17万8665円を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求
被告は,原告に対し,23万4000円を支払え。

第2 事案の概要
1 請求原因の要旨
原告は,被告に対し,平成15年5月22日締結の東京都K市ab−c−d所在のe号室(以下「本件居室」という。)の賃貸借に係る敷金契約に基づく敷金23万4000円の返還を求める。

2 被告主張の要旨
被告は,原告が猫を飼育していたために,原状回復(修繕)費用として
35万8050円を支出したので,これを敷金から控除すると,原告に返
還すべき敷金はない。

第3 当裁判所の判断

 1 見積書(乙1),請求書(乙2)及び領収書(乙3)によれば,被告は,本件居室を原状回復(修繕)し,修繕業者Aに修理代金37万5952円を支払っていることが認められる。

2 ところで,被告が負担した修繕代金は,そのすべてを原告が負担すべきものではなく,当事者間に特約がなければ,原告が本件居室を故意又は過失によって毀損したり,あるいは原告が通常の使用を超える使用方法によって損傷させた場合には,その回復を原告の負担とするが,原告の居住,使用によって通常生じる損耗については,その回復を原告の負担とするものではないと解するのが相当である。そして,本件契約では,特約条項としてペットの飼育を許可するが,解約時に室内クリーニング代の他に原状回復費用(脱臭作業を含む。)を頂戴する旨の記載がある(甲1)が,契約の趣旨から合理的に解すると,この条項は,原告が負担すべき費用を一般的に例示したものであり,上記費用負担の趣旨を変更するものとは考えられない。

3 そうすると,被告が原告に対して修繕代金を請求するには,原告が本件居室を故意又は過失によって毀損したり,あるいは原告が通常の使用を超える使用方法によって損傷させたことを立証する必要があるところ,被告には,原告が「猫を5匹飼育していたので,請求書(乙2)のうち「洋間壁クロス張替え工事3万7700円」及び「室内脱臭処理1万5000円」を負担する」旨供述している以外に,これを認めるに足りる証拠はない。被告は,上記乙1から3号証の他,修繕工事を施工したBを証人として申し出たが,退去時に当事者双方が立ち会って居室の状況を確認しなかったこと,退去時の居室状況を明らかにする証拠がないことが弁論の全趣旨から窺われるから,証人の供述によって原告の費用負担を認めることは困難といえる。

4 以上から,被告の主張は,原告が供述している範囲において認めることができるから,洋間壁クロス張替え工事3万7700円と室内脱臭処理1万5000円の合計額5万2700円及び消費税分2635円(合計5万5335円)が原告が負担する原状回復費用となる。したがって,敷金23万4000円から差し引くと,返還すべき敷金残額は17万8665円となるから,原告の請求は,主文の限度で理由がある。

東京簡易裁判所少額訴訟4係
裁 判 官   行  田     豊