畜犬の飼主に保管上の過失が認められた事例(昭和56・11・5一小法廷判決)[上告棄却]

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last update 02 December 1999


□畜犬の飼主に保管上の過失が認められた事例

損害賠償請求事件、最高裁昭和五六(オ)五二三号、昭和56・11・5一小法廷判決、上告棄却

一審長野地裁上田支部五二(ワ)四九号、昭和55・5・15判決、二審東京高裁昭和五五(ネ)一二九四号、昭和56・2・17判決。

判例時報1024号49頁。

《参照条文》七一八条

 

上告人         D

右訴訟代理人弁護士   ------

被上告人        P

右訴訟代理人弁護士   ------

 

主文 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

理由 上告人及び上告代理人------の上告理由について

  所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし肯認することができ、右事実関係のもとにおいて、原審が上告認に民法七一八条による損害 賠償責任を認めたことは正当であり、また、上告人の過失を六割、被上告人の過失を四割として過失相殺した原審の判断を違法とすべき理由もない。論旨は、い ずれも採用することができない。

 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤崎萬里 裁判官 団藤重光 本山亨 中村治朗 谷口正孝)

 

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上告人の上告理由 《略》

上告代理人------の上告理由

 一、原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかなる法令の違背があるから破棄を免れないものである。

  原判決は、「民法七一八条に則り、本件事故により控訴人(被上告人)の被った損害の賠償責任があるものというべきである。」旨判示しているが、民法七一八 条の規定は、動物がその有する危険な性質の発現行動にもとづいて加害した場合において、動物の占有者が損害につき賠償責任を負担する趣旨のものであると解 すべきところ、本件事故は、上告人の占有する動物(本件犬)がその有する危険な性質の発現行動にもとづいて加害したものではなく、もっぱら被上告人が本件 犬の動静を注視しないで、漫然とその至近した後側方を通過しようとしたために運転姿勢を誤り、その結果自らバランスを崩して転倒して発生した自損行為にも とづくものであって、本件犬の行動と被上告人の事故との間に何らの因果関係はないものである。

  二、即ち、被上告人は、巾員五・三五メートルの県道上を第二種原動機付自転車に乗って毎時約四〇キロメートルのスピードで運転していたところ、約四一メー トル前方で本件犬をすでに目撃していたこと、さらに約二五メートル進行したさい歩行者に向って吠えかけている本件犬を認めたこと、それにも拘らずこれに特 段の注意を払うことなく漫然と本件犬の極めて近接した後側方を高い排気音を立てながらかなりのスピードで通過しようとしたことが認められ、これらは第一審 ないし第二審の各判決において判示のあるとおりである。

 このよう な場合、被上告人としては、本件犬の動静を注視しながら安全を十分確認して運行する方法をとるべきであり、例えば本件犬の手前で一旦停車してその動向を見 きわめたうえで運転を再開するとか、最徐行して何時でも停車できる状態にしておくとかの措置を講ずること、さらには本件犬をいたづらに刺激することなくで きるだけ本件犬との間隔を保ちつつその側方を通過すること等に配慮すべきであった。もし被上告人がこれらの注意を怠らないで車両を運行していたならば、本 件事故が発生しなかったであろうことは容易に推量できるところである。

  しかるに、被上告人はその注意を怠り、前記の通り運行したため、本件犬を刺激驚愕させたこと、そして本件犬をして被上告人運転車両と衝突する危険を感得さ せ逃避行動に出させたことについては同じく既に判示されている通りである。これはとりもなおさず、本件犬が被上告人に対し加害する行動をとったものでない ことを意味する。(高い排気音を立てながらかなりのスピード(毎時四〇キロメートル前後)で被上告人と一体となり至近距離にせまって突進してきた被上告人 運転車両は、体重約一五キログラムの本件犬にとっては、生命の危険を感じる恐怖の物体に等しく、従って加害されようとしていたのは本件犬のほうであり、む しろ本件犬が被害者だとも言えるのである。これが本件犬ではなく他の動物例えば猫であった場合を想定するとなお一層動物側が被害者的立場に置かれるもので あることが歴然とするであろうし、本ケースでは、これが猫であろうと犬であろうと同じである。)

  ところが被上告人は、本件犬の至近距離を通過[し]ようとしたため、本件犬の逃避行動に対応できず、誤ってハンドル操作もしくは急ブレーキ措置を講じ、被 上告人が車体とのバランスをとることができず、自ら転倒したものである。(本件犬が被上告人運転車両と衝突すべくあえて自殺的行動に出たものでないし、本 件犬が右車両を押し倒したものでもない。)

 そうであれば、本件事故は被上告人の自ら招いた行為によって損害を生ぜしめたものであり、上告人の占有する本件犬が被上告人に加えた損害と言うべきではない。

 三、然るに原判決はこれを看過して民法七一八条を適用した法令の誤りがあり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから破棄されるべきであり、被上告人の請求はすべて棄却されるよう裁判を求める次第である。

 


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