ラベル 居住事案 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 居住事案 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

マンションの販売業者の従業員が、ペット類飼育の許否につき、販売時期によって異なる説明をして正確な情報提供を怠ったなどとして、販売業者から区分所有建物を購入した原告らのうち2名に対する不法行為の成立を認め、慰謝料請求を認容した事例(大分地判平成17・5・30)平成16(ワ)297

* 最高裁判所判例検索による検索結果(PDF)

--------便宜のためのテキスト表示(改行が不正確となっている箇所あり)------

平成17年5月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成16年(ワ)第297号 損害賠償請求事件(甲事件)
平成16年(ワ)第443号 損害賠償請求事件(乙事件)
口頭弁論終結日 平成17年4月22日

主      文

1 被告は,原告Aに対し,11万円及びこれに対する平成16年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告Bに対し,90万円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による金員を,それぞれ支払え。

2 原告A及び同Bのその余の請求並びに原告Cの請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は,原告Aと被告との間で生じた分はこれを10分し,その9を同原告の負担とし,その余を被告の負担とし,原告Bと被告との間で生じた分はこれを3分し,その1を同原告の負担とし,その余を被告の負担とし,原告Cと被告との間で生じた分は,同原告の負担とする。

4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

 1 甲事件

   被告は,原告Aに対し,110万円及びこれに対する平成16年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告Bに対し,135万円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による金員を,それぞれ支払え。

 2 乙事件

   被告は,原告Cに対し,110万円及びこれに対する平成16年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

   本件は,被告からマンションを購入した原告A,同B及び同C(以下「原告ら」という。)が,原告Aにおいては,被告の従業員からペット類の飼育が禁止されるマンションであると説明を受けて購入したにもかかわらず,後にその飼育が許容されるマンションとして販売されていたことなどにより生活の平穏等を害されて精神的苦痛を被ったなどと主張し,原告B及び同Cにおいては,被告の従業員からペット類の飼育が許容されるマンションであると説明を受けて購入したにもかかわらず,従前その飼育が禁止されるマンションとして販売されていたことなどにより犬の飼育ができなくなって精神的苦痛を被ったなどと主張して,被告に対し,不法行為(民法715条)又は債務不履行(415条)に基づく損害賠償請求として,原告A及び同Cについては110万円(慰謝料100万円及び弁護士費用10万円),原告Bについては135万円(慰謝料100万円,犬の購入代金に係る損害23万円及び弁護士費用12万円)並びに上記各金員に対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

 1 前提事実(争いがない事実又は掲記の証拠等により容易に認定できる事実)

  (1) 当事者及び被告関係者

   ア 当事者(争いがない。)

     原告らは,いずれもE(以下「本件マンション」ということがある。)を購入して入居している者であり,被告は,本件マンションの販売業者である。なお,Fは原告Aの母親であり,Gは,原告Cの父親である。

   イ 被告関係者(乙1,証人H,同I)

     Hは,平成5年5月17日から平成15年4月末まで被告に勤務し,被告におけるマンション営業部の営業課長として本件マンションの販売に従事していた者である。Iは,平成14年10月から平成16年5月31日まで被告に勤務し,同人も同部の課長としての地位に就き,本件マンションの販売に関わっていた者である。J(以下「J」という。)は,平成15年5月から被告で勤務を始め,同部に配属された従業員である。

  (2) Eの建設等(甲イ2,ロ2,ハ3,乙2,3,証人H)

    本件マンションは,平成14年8月20日新築された15階建てのマンション(販売戸数56戸)であり,O市の市街地が徒歩圏内という利便性を有し,1階フロアに共同天然温泉浴場施設を完備している。2階から15階までが居住部分となっているが,各階とも4つの区分所有建物が設置され,東側から1,2,3及び5の順に号室番号が付されている。

  (3) マンションの購入

   ア 原告Aの購入(甲イ1,2,弁論の全趣旨)

     原告Aは,Fとともに,平成14年2月8日,土地付区分建物売買契約書(甲イ1)を交わし,被告から,別紙1物件目録記載のマンションを購入し,同年9月の建物竣工直後に入居した。購入金額は合計2650万円であり,原告Aらは,契約時に手付金として100万円を,同年9月6日に中間金として1000万円を,同年10月24日に残代金として1550万円を支払うこととなった。そして,同月23日売買を原因として,同月24日原告A及びFの共有名義により所有権保存登記が経由された。なお,被告は,売買契約書14条(管理運営)において,買主は所有権取得の日から使用,共用部分の管理並びにEの環境維持について別に定める管理規約を順守し,他の購入者と共同して管理組合を結成することや,引渡後,最初の1年間は被告が管理組合の運営について協力することを規定していた。

   イ 原告Bの購入(甲ロ1,2,弁論の全趣旨)

     原告Bは,平成15年6月18日,土地付区分建物売買契約書(甲ロ1)を交わし,被告から,別紙1物件目録記載のマンションを購入し,同年7月26日妻と共に入居した。購入金額は合計1950万円であり,契約時に手付金として100万円を,その後,中間金として365万円を,残代金として現金1135万円及び福岡銀行住宅ローンにより350万円を支払うこととなった。そして,原告Bは,被告から,平成15年12月5日売買を原因とする同日付け所有権移転登記を受けた。

   ウ 原告Cの購入(甲ハ1ないし3,5,弁論の全趣旨)

     原告Cは,平成15年3月24日,同原告名義により土地付区分建物売買契約書(甲ハ1)を交わし,被告から,別紙1物件目録記載のマンションを購入した。購入金額は合計2500万円であり,契約時に手付金として100万円,同月31日に中間金として1120万円を,同年6月24日に残代金として1280万円を支払うこととなった。ただし,残代金については,同原告所有の区分所有建物Kの売却資産から充当するものとし,支払期日までに売却できないときは被告が決済を行うことを内容とする同年3月24日付け覚書(甲ハ2)が交わされた。そして,原告Cは,被告から,平成15年8月29日売買を原因とする同年9月1日付け所有権移転登記を受けた。

  (4) 管理規約案におけるペット類飼育に関する定め(甲ニ5,弁論の全趣旨)

    販売業者である被告は,購入者との売買契約に当たって管理規約案を用意していたが,同管理規約案には,本件マンションの入居者によるペット類の飼育に関する規定はなかった。

  (5) 「管理組合」設立に向けての説明会での決議(甲ニ1,弁論の全趣旨)

    本件マンションの入居者は,平成15年8月24日,本件マンションの管理組合設立に向けての説明会(以下「本件説明会」という。)を開催し,議事内容として,①管理組合に関しての説明,②共用施設(温泉・駐車場等)に関しての説明,③ペットの飼育に関しての説明,④その他質疑応答が予定されたが,その際,同日時点でペットを飼育している入居者につきそのペット1代限り飼育を認めることが決議された(以下「本件決議」という。)。

  (6) 原告Bのペット死亡と管理組合理事会の対応(争いがない。)

    原告Bは,被告の従業員から本件マンションでペット類(犬)の飼育が可能であると説明を受け,入居当初から犬を飼育していたが,間もなくして犬が死亡した。そこで,本件マンションの管理組合理事会は,平成15年10月25日,原告Bについて特例(以下「本件特例」という。)として新たに犬を購入して飼育することを許すことにした。


  (7) 第1回総会の議事(甲ハ2,6,8,9,弁論の全趣旨)

    本件マンションの管理組合第1回総会(以下「第1回総会」という,)が,平成15年10月19日に開催され,本件決議を前提とする内容の動物飼育の禁止条項(67条)が追加された管理規約(甲ニ8)が承認されるとともに,一の専有部分につき犬もしくは猫一匹の飼育とする旨定めたペット飼育細則(甲ニ9)(以下「本件飼育細則」という。)が承認された。

  (8) 第3回総会の議事と原告Bの対応(甲ニ4,弁論の全趣旨)

    本件マンションの管理組合第3回総会(以下「第3回総会」という。)が,平成16年2月8日に開催され,ペットの飼育に関する議題の中で本件特例が問題となり,原告Bは,新たに購入した犬の飼育を断念した。

 2 当事者の主張

 (原告らの主張)

  (1) 原告Aの主張

   ア 原告Aは,動物,特に犬に対して恐怖心と嫌悪感を有していたが,本件マンションの売買契約に当たってHに確認した際,同女から,「当マンションはペット類を飼育できる造りにはなっていないので,ペット飼育は禁止です。」と確定的な説明を受けたため,購入を決意した。なお,Fも動物嫌いである。

   イ ところが,被告は,竣工前から平成15年3月ころまではペット類の飼育が禁止であると説明していたが,販売実績が伸び悩み,これを上げるため,同月ころから,入居者の承諾も得ず,飼育可能と説明するようになった。また,被告の従業員は,ペット類の飼育が最終的に管理組合で決せられるという留保を付けた説明を全くしていなかった。そして,同月以降の購入者には,飼育する者が多かったため,同年8月24日の本件説明会において,入居者らは,管理組合内部に対立が生じるのを避けるため,苦渋の選択としての次善の策として,本件決議をした。

   ウ ところで,マンションで動物を飼育できるか否かは,動物の鳴き声や悪臭の可能性,共用部分での動物との遭遇による恐怖や現実の事故の危険性,建物の価値の低下などの点から,マンション購入の判断に当たって重要な要素となる。ところが,Iら被告の従業員が上記のとおり時期的に異なった説明をしたことにより,後の購入者が動物を飼育することとなったため,原告Aは,騒音や悪臭,共用部分で遭遇した際の恐怖感,建物価値の低下などの損害を受けた。こうした被告従業員の行為は,原告Aの生活の平穏や健康,財産価値を侵害する不法行為を構成する。また,ペット類飼育の可否について説明を変更する場合,入居者に対して説明し,承諾を得ることは,販売業者として,契約に付随する信義則上の義務であって,権利侵害をもたらす違法性がある。

   エ 原告Aは,本件決議を考慮しても,10年以上にわたって動物が飼育されることに耐えなければならないし,5世帯も飼育していることにより大きな苦痛を受けている。その精神的苦痛に対する慰謝料としては100万円を下らないし,不法行為と相当因果関係のある損害は10万円である。

  (2) 原告Bの主張

   ア 原告Bは,以前から自宅でイギリス産キャバリアキング・チャールズ・スパニエル犬(以下「スパニエル犬」という。)を飼育し,子供がいないため,妻共々家族の一員のように可愛がり,犬を飼育できるマンションを探していたところ,平成15年5月24日,本件マンション見学した際,Jからペット飼育が可能であるとの説明を受け,購入する気持ちになった。I及びJらは,同月末,同原告の旧自宅を訪れて勧誘した際も,原告Bの確認に対して飼育可能と答えた。

   イ 上記(1)イ(原告A)に同じ。

   ウ 原告Bは,平成15年9月19日,スパニエル犬を死亡により失ったため新たに購入を希望したところ,同年10月19日開催の管理組合理事会で,本件特例が認められたため,同年11月10日新たにプードル犬を23万円で購入した。ところが,平成16年2月8日の第3回総会で,本件特例承認の報告に対して,一代限りの原則を貫くべきであるとの意見が強く出されたため,原告Bは,管理組合とではなく,被告との間で今後話し合う旨発言し,本件特例は認められないとの決議がされた。そのため,原告Bは,同月10日,販売先のペットショップを通じて,上記プードル犬を第三者に譲渡せざるを得ず,犬を飼育できなくなった。

   エ ところで,ペット類を飼育する者にとっては,マンション購入の判断に当たって飼育できるか否かが決定的な要素であり,このことは販売業者の従業員である以上当然認識できる。ところが,Iら被告の従業員は,上記のとおり時期的に異なった説明をし,飼育可能であると説明して本件マンションを販売するに当たって,従前飼育禁止の説明を受けた購入者がいたことから,将来的に問題が発生する可能性があることは予期できたにもかかわらず,飼育できなくなる可能性についての説明を怠った。こうした被告の従業員の行為は,ペット類を飼育する購入者の動物飼育自由を侵害し,売買契約に付随する重要な事項の説明義務違反であって,不法行為又は債務不履行を構成し,被告は,使用者責任(民法715条)又は履行補助者の説明義務違反による債務不履行責任(同法415条)を負う。

   オ 子供がいないために長年犬を飼育してきた原告Bは,不法行為又は債務不履行により犬を飼育できない状態に追い込まれ,極めて寂しい生活を余儀なくされた。その精神的苦痛に対する慰謝料は100万円を下らないし,前記のとおり新たに購入したプードル犬を手放さざるを得ず,これにより購入代金23万円が無駄となったため,同金額の損害を被った。また,不法行為又は債務不履行と相当因果関係のある損害は12万円である。

  (3) 原告Cの主張

   ア 原告Cは,幼いころから常時犬を飼育し,実家で居住していた平成13年11月までポメラニアンを飼育していた。原告Cは,同月,仕事の都合によりKを購入して転居したが,同マンションは動物の飼育が禁止されていたため,つらい思いをしていた。平成15年3月上旬ころ,IがGの紹介で原告方を訪れ,本件マンション購入を勧めた際,原告らの確認に対し飼育可能であると説明したため,Kを売却するとともに,本件マンションを購入することとし,転居後しばらくして実家からポメラニアンを本件マンションに引き取る予定でいた。

   イ 上記(1)イ(原告A)に同じ。

   ウ 原告Cは,被告従業員から住民間の調整を依頼されたGが理事長に就任していたため遠慮し,平成15年8月24日時点でポメラニアンを引き取っていなかったため,飼育できないこととなった。

   エ 上記(2)エ(原告B)に同じ。なお,原告Cが,仮にペット類飼育の可否を被告の従業員に対して確認していなかったとしても,被告の従業員が他の入居者に承諾を得ず,飼育の可否という重要問題に関する説明を変更したことにより,ペット類を引き取って飼育する権利を失った。

   オ 幼少時から長年犬を飼育してきた原告Cは,Kを売却し,引越費用等相当な金額を掛けて本件マンションを購入したが,不法行為又は債務不履行により犬を飼育できない状態に追い込まれ,引き取る予定のポメラニアンを引き取れず,極めて寂しい生活を余儀なくされた。その精神的苦痛に対する慰謝料は100万円を下らない。また,不法行為又は債務不履行と相当因果関係のある損害は10万円である。

 (被告の主張)

  (1) 被告は,本件マンションの販売に当たって,当初ペット類の飼育を禁止する説明をしていたが,最終的には管理組合で決められるものであるため,売買条件とはしなかったし,管理規約案にも飼育禁止の規定はなかった。平成15年4月ころまでの購入者のうち,11世帯が入居済みとなり,そのうち2世帯が猫(2匹)とウサギ(1匹)を飼育していたことや,同年5月ころからペット飼育希望者が数名いたことから,飼育禁止の説明を止めて,飼育可能と説明することにした。原告らは,いずれも慰謝料を請求しているが,社会生活上,受忍の程度を超えた精神的,肉体的苦痛を感受した者,金銭で慰謝されるに値する程度に精神的利益を喪失した者については慰謝料を請求できるものの,原告らの主張する権利侵害は,いずれも社会生活上受忍の程度を超えるとは評価できない。

  (2) 原告Aの主張について

   ア 被告は,原告Aらから,動物嫌いであるため,ペットの飼育の可否により購入を判断するとの意向を示されたことはないし,原告Aに対してペット類の飼育が禁止であることを具体的に説明したことはない。

   イ ペット類は,本来屋内で飼育されるから,鳴き声や悪臭の可能性等をもたらすものではない。したがって,説明が時期的に異なってもそれ自体権利侵害をもたらす違法性はない。

   ウ 原告Aが主張する平穏や健康という概念はあいまいである上,ペット類の飼育が一代限りとされ,本件マンションでペット類を飼育している数世帯に限られている現状に照らしても,原告Aの生活の平穏や,健康,財産の価値を侵害する状況にはないし,原告Aも日常的に犬を飼育している入居者方を訪れている。したがって,社会生活上の受忍限度を超えるとは評価できないし,ペット類飼育の可否によってマンションの客観的な財産価値を評価できるものでもなく,財産権の侵害が直ちに慰謝料請求権を発生させるものでもない。

  (3) 原告Bの主張について

   ア ペット類飼育禁止の説明を受けた入居者がいたとしても10名前後であって,うち2名がペットを飼育していたにもかかわらず,異議を唱える者がなかったことに照らし,被告において将来ペット類を飼育できなくなる可能性を予見できるものではないし,一代限りとしたのは,管理組合である。原告Bもこれに同意し,本件特例についても自ら飼わなくて良いと申し出ているのであって,被告の従業員の説明との間に因果関係はないし,原告Bの飼育自由の侵害と評価しうる不法行為及び債務不履行もない。

   イ 原告Bが新しい犬を購入したのも理事会決議に従ったに過ぎず,被告が関与したものではないし,被告従業員の説明との間に因果関係はない。

   ウ 原告Bは,動物飼育の自由を被侵害利益とするようであるが,ペット類飼育を禁止する管理規約も違法ではなく,飼育できなくなったとしても,直ちに社会生活上受忍限度を超えるとは評価できない。

  (4) 原告Cの主張について

   ア Iは,原告C名義で契約を締結したものの,Gと交渉したのであって,同原告との間では何ら交渉を持っていない。Gが本件マンションに一人で来場し,その後,IがGに連絡した上,Kを訪問したが,同所には同人とその友人の女性がいたに過ぎないし,犬が飼えるかを聞かれたことや飼えると説明したことはない。

   イ 原告Cが購入直後に本件マンションに入居した事実はないし,U号室を同原告及びその父親が利用しているものの,日常的な生活空間として居住していたものではない。

   ウ 原告Cも,動物飼育の自由を被侵害利益とするようであるが,ペット類飼育を禁止する管理規約も違法ではなく,飼育できなくなったとしても,直ちに社会生活上受忍限度を超えるとは評価できない。

 3 本件の争点

   本件の主要な争点は,本件マンションの販売に当たって,被告従業員の原告らに対してペット類の飼育に関してした説明等が,原告らに対する不法行為又は債務不履行を構成するか否か,上記不法行為又は債務不履行により原告らに慰謝料請求権が認められるか否か,その損害の額はいくらかである。

第3 当裁判所の判断

   当裁判所は,被告従業員の原告A及び同Bに対する説明等については,不法行為(又は債務不履行)を構成し,慰謝料請求権が発生すると判断し,原告Aにつき慰謝料10万円及び弁護士費用1万円の合計11万円,原告Bにつき慰謝料70万円,犬の購入代金に係る損害11万5000円及び弁護士費用8万5000円の合計90万円の支払いを求める限度で,それぞれその請求の一部につき理由があると判断し,原告Cに対する説明等については,不法行為及び債務不履行を構成しないと判断し,その請求には理由がないと判断する。その理由は,次のとおりである。

 1 本件の事実関係

   前提事実に加え,証拠(甲イ3,ロ3ないし6,ハ4ないし6,ニ1ないし9,15,乙1ないし4,証人I,同H,原告A,同B,同C)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

  (1) 原告Aの購入の経緯

    原告Aは,旧宅にFと居住していたが,同女が足を悪くして車いすを利用するようになったため,バリアフリーのマンションを購入しようと考えた。ただし,2人とも犬や猫が嫌いであったため,ペット類の飼育ができないマンションを探して約3軒見学するなどし,その中には飼育可能と聞いて購入を断ったものもあった。原告Aは,旧宅の売却を依頼した不動産業者から被告を紹介され,同不動産業者から,本件マンションのパンフレット上,ペット類の飼育は認められていないようであると聞いていた。原告Aらは,被告から,平成14年2月8日,本件マンションのV号室(以下,本件マンションにおける区分所有建物につき,単に号室のみにより特定する。)を購入し,同年9月1日引渡しを受けて,同月17日入居した。購入代金は旧宅の売却代金と原告Aの貯金を充てた。

  (2) 原告Cの購入の経緯

    原告Cは,Gの資金によりKを購入し,約1年間居住していた。Iは,Hから,平成15年3月14日,Gが新規に本件マンションに来場した旨を聞き,Gに対して連絡を取った上,翌15日,Kにおいて,同人及びその知人女性と会い,マンション購入の値引額等について話し,同月24日,U号室につき売買契約書を交わした(Gが原告C名義で契約書に署名した。)。同年4月4日に引渡しが行われた際,Iが原告Cと面談したことがあったが,原告Cが入居したのは同年8月26日であった。なお,上記U号室についても,Gが購入資金を準備した。

  (3) L・Mに対する販売と被告の対応

    Iは,平成15年3月30日,来場したLをW号室に案内するなどし,同年4月13日,来場したL及びMから,犬を飼っているという話を聞いた(なお,両名は,被告の常務との間で,マンション購入を決めたようであった。)。Iは,Hから,ペット類の飼育が禁止であると聞いていたため,被告代表者Dに相談した結果,同人から入居者全員を回って了解を取るよう指示を受けた。そこで,Iは,同月21日,Nの妻及びOの妻に対して問い合わたところ,Nからは,どちらでもよいが,入居者の中で反対があれば良くない旨,Oからは,ペットは嫌いだから反対である旨回答を得た。Iが問い合わせたことは,その翌日ころまでにほとんどの入居者に知れ渡り,Iは,それ以上,他の入居者を回って了解を取ることはなかった。被告の従業員は,このころから,本件マンションをペット類の飼育が可能なマンションとして販売するようになった。そして,被告は,Mとの間で,同年5月11日,X号室の売買契約をした。

  (4) 原告Bの購入の経緯

    原告Bは,一戸建ての旧宅で妻と2人暮らしをし,子供がいないため,過去20年以上に渡って犬を家族の一員のようにして飼育していたが,旧宅が老朽化したため,リフォーム等も検討した結果,老後に備え,バリアフリーのマンションを購入しようと考えた。原告Bは,犬を飼育できることを大前提としてマンションを探し,平成15年5月下旬,本件マンションを見学した際,Jに対して,犬を飼育していることを伝え,飼育の可否を尋ねたところ,Jから可能であると言われ,本件マンションを購入する気持ちになった。また,原告Bは,同月末ころ,旧宅を訪れたIやJから,飼育が可能であると説明を受けた。Iは,上記旧宅を訪れた際,原告Bが年老いたスパニエル犬を飼育し,家中に犬の写真を飾っていたことから,犬を家族の一員としているものと認識した。そして,原告Bは,被告から,同年6月18日,ペット類(犬)の飼育が可能であることを前提としてY号室を購入し,同年7月26日,上記スパニエル犬を連れて入居した。

  (5) M・Lの入居と被告の対応等

    M及びLは,平成15年7月7日,シェットランドシープドッグという中型犬を連れてX号室に入居した。原告Aは,同月上旬ころ,Mが犬を飼育しているのに気付き,Iに対して,抗議するなどした。Iは,被告代表者Dから呼び出された上,同年4月に指示した際,入居者の了解を取ったのか聞かれて叱責され,改めて全入居者を回るよう指示を受けたが,個別に回って了解を取ることはなかった。その後も,原告Aは,Iに対し,何度となく,ペット類の飼育に関して苦情を述べていた。原告Aは,同年8月1日,飼育細則を持参した被告の従業員Pから,同細則が同年4月にできていたと言われ,同人に対し,話が違うことや,総会を開いて入居者全員の話を聞いて欲しいことを伝えた。また,原告Aは,このころ被告が販売している別のマンションにおいても,ペット類飼育に関するトラブルが生じていることを知った。

  (6) 本件説明会及び被告の対応等

    本件説明会は,平成15年8月24日,本件マンション1階の集会所において,ほとんどの入居者の出席の下(ただし,原告Cは出席せず,Gが出席した。),ペット類の飼育を中心的課題として開催された。Iは,入居者らに対して,ペットの件で迷惑を掛けたことを謝罪したが,入居者から,被告及びIに対する怒りから来る発言が相次いだ。そうした中,入居者のNは,先の入居者からペット類の飼育に対する了解を得ていない以上,規約案に67条「動物飼育の禁止」を入れるべきであるが,被告との間で,飼育が可能として契約をした入居者が気の毒であるため,現時点で本件マンションにおいて飼育されている動物に関しては,特例としてその一代限りで許可してはどうかという提案をし,出席者の賛同を得た。原告Aは,本件マンションにおける人間関係を考慮して,一人反対の意見を述べることはできなかった。そして,本件決議が全会一致で可決されるとともに,Iは,今後,ペット類の飼育が禁止されるマンションとして販売する旨言明した。さらに,参加者から管理組合を早急に作るよう意見が出たため,理事を選出することとなり,管理規約案では理事予定人数を5名としていたが,参加者の協議により,飼育者として,犬につきQ及びL並びに猫につきRの3名が,非飼育者として,G,原告A,S及びTの4名が,それぞれ理事に選出された。

    その後,Iは,飼育細則等の作成につき,理事から協力を得た上,同年9月28日の理事会において,管理規約の67条に飼育禁止規定を入れることや,飼育細則の内容を討議した上,管理規約(甲ニ8)及び本件飼育細則(甲ニ9)が,同年10月19日の第1回総会で承認された。なお,本件飼育細則4条は,「平成15年8月24日以前に当マンションにて飼育されていた動物は特例として飼育を認める。なお,該当する動物がいなくなった場合は,本条は削除する。」と規定している。

  (7) 原告Bのペット死亡と管理組合理事会の対応

    原告Bは,平成15年9月19日,スパニエル犬を死亡により失い,その旨をJらに対して伝えた。Iは,原告Bの飼育が短期間であったため,当時の理事に対して,2代目のペットを認めるよう願い出たことから,同年10月25日,理事会が開催され,本件特例を認める決定がされた。もっとも,本件特例については,後に管理組合総会で承認を受けることを予定していた。しかし,原告Bは,Qから,再び飼って良いことになったという連絡を受けるなどしたため,同年11月10日,プードル犬を23万円で購入した。なお,原告Bは,しつけの訓練を受ける必要があったため,上記プードル犬をマンションに引き取らずにいた。

  (8) 第2回及び第3回総会の経緯等

    管理組合の第2回総会は,平成15年11月16日開催されたが,当時本件マンションの空きが半数を占めていたため,被告において理事7名全員を解任するなどの混乱が生じた。その後,入居者が過半数に達し,上記7名が理事に復帰した。第3回総会は,平成16年2月8日開催され,本件飼育細則について議題となった際,平成15年8月24日以前にモデルルームを見学にきたRについては,被告従業員からペット類の飼育を許可されたとして,飼育が承認されたのに対し,本件特例については,認めてはいけないと発言があり,Bから,分かりました,この問題は管理組合とではなく,被告との間で今後話をしますと発言したことにより,承認されることはなかった。なお,平成16年2月22日の理事会において,Gが理事長を退任し,原告Aが後任の理事長となった。

  (9) 原告Bと被告従業員との交渉経緯

    原告Bは,平成16年2月10日,ペットショップを通じてプードル犬を手放し,同年3月6日,Iの指示により被告の従業員から品物の提供を受けたところ,これを直ちに返却し,更に同月から4月にかけて35万円を支払うとの提案を受けたのに対し,金額的な納得がいかなかったため,50万円の支払いを要望していた。しかし,原告Bは,Iから,同年5月,被告に支払意思がないことを伝えられた。

  (10) 本件マンションの入居者及びペット類飼育の現状等

    本件マンションの入居者及びペット類飼育の現状等については,別紙2のとおりである。本件マンションの入居者の中で,犬を置いて外出した際,その鳴き声により隣のマンションからも苦情が出たことや,エレベーターの前で犬が尿をしたことから問題となったことがあったが,現在,入居世帯数45戸のうち,猫を飼育する世帯が2世帯で,犬を飼育する世帯が3世帯となっている。なお,本件マンションは,犬や猫などのペット類が飼育されることを想定した構造として建築されたものではなかった。

 2 原告Aの損害賠償請求に対する判断

  (1) 不法行為(又は債務不履行)の成否

    原告Aは,被告従業員から,ペット類の飼育が禁止されるマンションとして説明,販売を受けたにもかかわらず,原告Aら入居者の了解を取ることなく,後に飼育可能なマンションとして説明,販売し,その結果,犬や猫が嫌いな原告Aの生活の平穏等に対して被害をもたらしたことにより不法行為を構成するなどと主張し,これに対し,被告は,原告Aに対して飼育禁止である旨説明したことはないし,特段受忍限度を超えるような権利侵害がないなどとして,不法行為の成立を争っているところ,被告の従業員が原告Aに対してした説明及び後の購入者に対して原告Aの了解を求めることなく飼育可能として販売した行為に照らすと,次の理由から,被告従業員の行為は,原告Aに対する不法行為を構成するというべきである。

   ア 一般にマンション等の集合住宅においては,入居者が同一の建物の中で共用部分を共同利用し,専用部分も相互に隣接する構造で利用するという密着した生活を余儀なくされ,戸建ての相隣関係に比べ,各入居者の生活形態が相互に重大な影響を及ぼす可能性がある。マンション内における動物の飼育は,こうした建物の構造上,ふん尿によるマンションの汚損や臭気,病気の伝染や衛生上の問題,鳴き声による騒音,咬傷事故等,建物の維持管理や他の入居者の生活に影響をもたらすおそれがあるほか,犬や猫などの一般的なペット類であっても,そのしつけの程度が飼育者によって同様ではなく,飼育者のしつけが行き届いていたとしても,動物である以上,行動,生態,習性等が他の入居者に対して不快感を生じさせるなどの影響をもたらすおそれがある。そこで,多くのマンションその他の共同住宅においては,入居者による動物の飼育によって,しばしば住民間に深刻なトラブルを招くことから,こうしたトラブルを回避するため,予め動物の飼育を規約で禁止したり,動物の飼育を認める場合には,飼育方法や飼育が許される動物の定義等について詳細な規定を設け,防音,防臭設備を整えるなどして住宅の構造自体を相当整備するなどし,他の入居者に迷惑が掛からないよう配慮されているところである。そして,マンションにおいてペット類の飼育が禁止されるのか,可能であるのかが,購入者にとって,契約締結の動機を形成するに当たって重要な要素となることもあり得ることである。こうした点に加え,マンション販売業者と購入者との情報の格差や,マンションの管理規約の作成に当たっては,販売業者がその案を準備し,個々の売買契約時に購入者から同意を取得してこれを交付している状況等に照らすと,マンションの販売業者には,購入希望者との売買契約に当たって,少なくとも当該購入希望者がペット類の飼育禁止,飼育可能のいずれを期待しているのかを把握できるときは,こうした期待に配慮して,将来無用なトラブルを招くことがないよう正確な情報を提供するとともに,当初ペット類の飼育を禁止するとして販売し,後に管理規約案に飼育禁止の条項がないなどとしてペット類の飼育を可能として販売する場合には,先の入居者(非飼育者)と後の入居者(飼育者)との間でトラブルとなることが予測できるのであるから,先の入居者に対してその旨を説明して了解を求めるべき信義則上の義務を負っているものと解するのが相当である。

     原告Aは,前記1(1)認定のとおりかねてから犬や猫に対して嫌悪感等を有し,ペット類飼育禁止のマンションを探していたところ,同人が供述するとおり,被告との売買契約に当たって,念のため,契約書に署名押印するに先立ち,ペット類の飼育が禁止されるマンションであることを確認していたのであり(その供述の信用性については後述する。),被告の従業員には,ペットの飼育が禁止されているのか,可能であるのか,管理規約案には規定がないため後日管理組合で決せられるものであるのかに関して正確な情報を提供すべき義務がある上,後にペット類の飼育が可能として販売する場合には,原告Aに対してその旨説明して了解を求める義務があったというべきである。

     ところが,被告の従業員は,原告Aに対し,単に飼育が禁止である旨説明しただけで,管理規約案に禁止条項がなく,後に管理組合で決められるため,飼育する入居者が出現する危険性があることはもとより,後に飼育可能として販売する可能性(管理規約案にペット類の飼育を禁止する条項がないとか,飼育禁止を売買条件としていなかったなどという被告の主張や,現実に飼育可能として販売していた経過等に照らして,被告においては,当時,飼育禁止としながらも,後の購入者に対してペット類を飼育して販売する余地を残していたことがうかがわれる。)や,販売した場合には現に飼育する入居者が出現し,住民間のトラブルに発展するなどして,結局,管理組合においてその解決を図る必要があることは一切説明していない。また,後に飼育可能として販売するに当たって,原告Aに対して説明すらしていない。飼育禁止のマンションである旨説明を受けていた原告Aは,本件マンションにおいてペット類の飼育が禁止され,後の購入者においても飼育が予定されることはないと信じた上,2500万円という高額な売買代金を支払ったにもかかわらず,前記認定のとおり,平成15年4月以降,原告Aの了解を求めることなく,被告がペット類の飼育を可能として販売した結果,ペット類を飼育している入居者が出現するに至り,その後住民の間で,ペット類の飼育の可否が問題となっているのであって,原告Aの信頼が裏切られたものと認められる。こうした事情に照らせば,被告の従業員は,上記のような事情を説明しなかったことなどにおいて,信義則上の義務に違反したものと認められ,こうした義務に違反して,原告Aの信頼を裏切り,住民間にペット類の飼育に関する問題を生じさせるなどの不利益を与えたのであるから,被告従業員の行為は,不法行為を構成し,これによる原告Aの精神的苦痛に対して慰謝料請求権が発生するというべきである。

     なお,被告は,社会生活上の受忍限度を超える権利侵害がないと主張するが,原告Aと被告が契約関係にあり,これに付随する信義則上の義務に違反していると認められる以上,被告の主張は採用できない。

   イ 仮に,原告Aが,上記契約の時点で,具体的にペット類の飼育禁止を確認しなかったとしても,本件マンションは,前提事実及び前記1で認定したとおり,1階フロアには,共同温泉浴場が設置されるなど,ペット類の飼育による衛生上の問題もある上,犬や猫などのペット類を飼育できる構造にはなっていないことから,ペット類の飼育に適していないマンションであること,被告作成のパンフレット上,飼育可能である旨は記載されていなかったこと,管理規約案にも飼育に関する規定がなく,飼育細則すら準備されていなかったこと,IやHが証言するとおり,当初飼育禁止のマンションとして販売していたことなどに照らすと,原告Aと被告との売買契約においては,ペットの飼育が禁止されるマンションであることが売買契約の内容となっていたというべきである。そして,H証言を前提としても,同女は,原告Aに対して,契約の際,ペット類の飼育に関して全く説明をしなかったことが認められる上,契約後の本件マンションの建設工事中の段階で,原告Aから,ペット類の飼育が禁止されるマンションであるかを聞かれて禁止である旨回答したが,それ以上の説明がなされたとは認められないところ,未だ手付金しか支払われていなかったことに照らすと,この時点においても原告Aに対して正確な情報を提供すべき義務があったというべきであり,原告Aが正確な情報提供を受けたなら,中間金及び残代金の支払いをせずに済んだ可能性が相当程度あったものというべきである。したがって,いずれにしても,被告の従業員が契約に付随する義務に違反したことにより,不法行為の成立は免れないというべきである。

   ウ なお,被告は,原告Aが契約の際にペットの飼育禁止を確認したことや,Hが禁止の説明をしたことはないと主張し,Hも,この点に関して別紙3証人Hの証言要旨のとおり,上記主張に沿う証言をしている。しかしながら,原告Aは,この点に関して別紙3原告Aの供述要旨のとおり供述するところ,同原告は,Hがマンションの構造上ペット類を飼育できる造りになっていないため飼育が禁止であると述べた旨明確かつ具体的に供述しているし,前記1(1)で認定したとおり犬や猫に対して嫌悪感を有しているため,本件マンションに先立ち,他にもマンションを物色して飼育可能なマンションであることから購入を断念したことがあった経緯や,本件マンションで犬を飼育している入居者を把握するや,何度となくIに対して抗議をしていた経過に照らせば,契約の際に念のために飼育禁止を確認していたという同原告の供述は信用できる。被告は,原告Aが被告従業員から契約の場に至るまでペット類の飼育の可否について確認せず,すでに手付金を用意した状況の中で飼育の可否を確認したというのは不自然であるなどと主張するが,上記のとおり本件マンションがペット類を飼育できる構造になかったことや,被告を紹介した不動産業者からも飼育可能ではないようである旨伝えられていたこと(前記1(1))などから,原告Aにおいて飼育が禁止されるマンションであると想定した上,契約書に署名する前に念のために確認したという供述が不自然とまでは認め難い。なお,Hは,契約時に原告Aから確認されたことはなかったと証言するが,本件マンションがペット類の飼育が可能な構造であるか分からないなどとし,飼育の可否についても聞かれれば答える程度で,特段契約の条件として意識しているわけでもなかったというのである上,当時マンション営業部の課長という立場にあった被告との関係に照らすと,原告Aの供述との対比において,必ずしも採用し難い。

  (2) 不法行為による損害の額

    上記(1)のとおり被告の従業員の行為が不法行為を構成し,被告の販売業務に関連して行われたことは明らかであるから,被告は,原告Aに対し,民法715条により不法行為責任を負うところ,本件決議によりペットが一代限りとなっているものの,原告Aの信頼が損なわれていること,本件決議までの間,ペット類の飼育に関して入居者間で問題が生じ,原告Aが苦情を述べるなどしてその対応を余儀なくされたこと,他方,現在の本件マンションにおけるペット類の飼育状況,原告Aが犬や猫に対して嫌悪感を有するとはいえ,身体的な症状が現れているわけではないこと,ペット類の飼育により本件マンションの客観的な価値が下落したことは認めるに足りないことなどに照らせば,原告Aが受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては,10万円と認めるのが相当である。そして,本件訴訟の経過や認容金額等に照らし,不法行為と法律上の因果関係の認められる弁護士費用としては,1万円と認めるのが相当である。

 3 原告Bの損害賠償請求に対する判断

  (1) 不法行為(又は債務不履行)の成否

    原告Bは,Iらからペット類の飼育が可能であると説明を受けたが,従前飼育禁止として購入した入居者がいたことから,飼育できなくなる可能性についての説明を怠ったなどとして,不法行為が成立するなどと主張し,これに対し,被告は,将来ペット類を飼育できなくなる可能性は予見できないとか,原告Bがペット類を飼育できなくなったのは,管理組合の総会や理事会の決議に従ったに過ぎないとして,不法行為の成立を争っている。しかしながら,Iらが原告Bに対してペット飼育可能という説明をして販売した行為については,次の理由から,原告Bに対する不法行為を構成するというべきである。

   ア 前記2のとおり,マンションにおいてペット類の飼育を認める場合には,しばしば住民間でトラブルが生じ,こうしたトラブルを防止するため,飼育のルール等を設定したり,マンション自体の構造面でも整備をしたりして,他の入居者に迷惑が掛からないよう配慮されているところである。ところが,前記1(3)ないし(5)及び(10)で認定したとおり,本件マンションでは,こうした特段の配慮がなされておらず,従前ペット類の飼育を禁止するものとして販売されてきた上,原告Bが被告との間で契約した平成15年6月18日に先立つ同年4月段階で,ペット類の飼育を可能として販売することに関して,従前の購入者からIに対して抗議が出ていた状況があったにもかかわらず,従前の購入者全員に対して了解を求めていなかったことが認められる。そうすると,販売業者としては,マンションを販売するに当たって,従前の購入者との間でトラブルが生じる危険性があることや,管理組合の決議により飼育できなくなる危険性があることを具体的に予見でき,ペット類の飼育を希望している購入予定者に対して,こうした危険性を説明すべき信義則上の義務があるというべきである。ところが,IやJは,こうした義務に違反して,漫然飼育できることを販売の条件とする一方,こうした危険性を何ら説明せず,原告Bをしてペット類の飼育ができるものと期待させた上,1950万円で購入させたことが認められる(原告Bは,上記不法行為がなければ契約しなかった可能性も否定できない。)。こうしたIらの行為は,不法行為を構成するというべきであり,これにより原告Bは,本件決議等により犬の飼育ができなくなっているのであって,本件においては,その精神的苦痛に対する慰謝料請求権が発生するものというべきである。

   イ これに対し,被告は,被告従業員の行為と原告Bが飼育できなくなったこととの間には因果関係がないと主張する。確かに,本件説明会において,ペット類の飼育をペット一代限りとする本件決議が行われ,原告Bがこれに反対しなかったこと,その後原告Bのペットが死亡したため,理事会の承認を受けて原告Bが新しい犬を購入したが,後の総会で承認されず,原告Bが飼育を断念した経緯が認められることは,前記1(6)ないし(8)のとおりである。しかしながら,こうした事態は,そもそも被告が時期によってペット類の飼育の可否の説明を変更した結果,入居者の間で飼育者と非飼育者との間の利害を調整する必要が生じたことに起因し,本件決議は入居者(飼育者及び非飼育者)による妥協の産物である上,原告Bが,その供述するとおり,マンションにおける区分所有者間の人間関係を考慮して,その決議に従ったからといって,そもそも被告の従業員においてこうした危険があることの説明を欠いたことを不法行為とみる以上,因果関係がないということはできない。

     また,被告は,原告Bが新しい犬を購入したことについても因果関係がないと主張する。確かに,理事会の承認のみを前提として原告Bが新しい犬を購入するなどしたことが軽率であった面は否定できないけれども,前記1(4)で認定したとおり,Iは原告Bが犬を家族の一員のように扱っていることを認識していた上,スパニエル犬が死亡したことを受けて理事会に特例を認めるよう願い出ている状況も認められる。そうすると,そもそも飼育可能であるとして販売を受け,家族の一員であったスパニエル犬を失った原告Bが,新しい犬を購入してしまい,後の総会で他の入居者に配慮して再び断念し,購入代金を無駄にしたという本件の経過は,十分な説明を欠いた被告の従業員の予測可能な範囲内の出来事というべきであって,因果関係を否定するのは相当でないというべきである。

  (2) 不法行為による損害の額

    上記(1)のとおり被告の従業員の行為が不法行為を構成し,被告の販売業務に関連して行われたことは明らかであるから,被告は,原告Bに対し,民法715条により不法行為責任を負うところ,原告Bは,子供がいないため,犬を家族の一員として長年可愛がってきたのであって,新しいマンションの購入に当たって,犬の飼育ができることを重要な条件と位置づけていたこと,被告の従業員もその旨を十分認識していたこと,上記のとおり犬を飼育できない事態に至っていることのほか,本件訴訟に至った経緯等その他一切の事情を考慮すると,原告Bが受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては,70万円と認めるのが相当である。

    また,新しい犬の購入代金が無駄になったことについては,前記のとおり理事会の承認にとどまり,総会の承認が予定されていたにもかかわらず,これを待たずして購入に至った点において,軽率であったことは否定できず,5割の過失相殺をした上,11万5000円について損害賠償請求を認めるのが相当である。

    そして,本件訴訟の経過や認容金額等に照らし,弁護士費用としては,8万5000円を認めるのが相当である。

 4 原告Cの損害賠償請求に対する判断

   原告Cは,原告Bと同様,従前飼育禁止の説明を受けていた購入者がいたため,ペット類の飼育ができなくなる可能性があることの説明を欠いたことなどを指摘して,不法行為及び債務不履行が成立する旨主張し,これに対し,被告は,原告Cからペット類飼育の可否について尋ねられたことがなく,ペット類の飼育が可能であるとの説明もしていないとして,不法行為等の成立を争っているところ,次の理由から,被告Cに対しては,被告従業員による不法行為及び債務不履行は成立せず,その請求は理由がないというべきである。

  (1) 確かに,原告Bの場合には,被告の従業員がペット類の飼育できなくなる可能性があることの説明を欠いた点で,義務違反があることは,前記3のとおりであるが,原告Cについては,次のとおり,そもそもIに対してペット類の飼育を希望したとか,Iから飼育が可能であると説明を受けたなどの事実を認めることができない。

   ア 原告Cは,別紙3の供述要旨のとおりKでGとその知人女性の3人で,Iからペット類の飼育が可能であると説明を受けた旨供述している。しかし,原告Cの供述は,その説明を受けた日時において曖昧であるし,後にIに対して苦情を述べたか否かに関してもその時期や経過等につき覚えていないとするなど明確でない。他方,Iは,別紙3の証言要旨のとおりKでは原告Cに会っていない旨証言し,その日時や,後に原告Cと面談した機会等についても具体的に証言している。したがって,上記原告Cの供述は直ちに採用し難い。

   イ Gの陳述書(甲ハ6)において,上記原告Cの供述に沿う説明をする部分があり,また,原告Cは,平成15年12月中旬ころにIとGの会話が録音されたテープ及びその反訳録取書(甲ニ15)を提出している。しかしながら,同録音テープにおいても,GがIに対して本件マンション販売時の状況を尋ねたのに対し,Iは,ペット(の問題)が出てきたのは,(同年4月の)L(M)である旨と述べており,G自身に対してペット飼育が可能であるとの説明をしたとか,同人から本件決議等に関して苦情を言われた状況はうかがわれないこと,前記1(6)で認定したとおり,Gは非飼育者として理事に選出されていたことなどに照らし,原告CやGがペット類の飼育を希望していたなどとは認め難い。

   ウ 原告は,同席した知人女性の陳述書(甲ハ7)を提出する。しかし,同陳述書には,Gは,本件マンションがペット類を飼育できて温泉もあるので買い換える価値があって条件がよいことを喜んでいたなどとしているところ,同席していたはずの原告Cの供述中では,Gが本件マンションの購入を勧めた動機について明確でなく,供述が整合していないことのほか,その提出時期等に照らし,採用し難い。

  (2) 上記(1)のとおり,原告Cがペット類の飼育を特段希望していたとの事実は認めるに足りない。そして,前記のとおり,本件マンションはペット類の飼育が予定されるような構造にはなく,管理規約案においても,飼育が可能であるなどの記載はないから,仮に原告Cが飼育できるマンションを期待していたとしても,その旨の意向が具体的に伝えられない以上,被告の従業員において,飼育に関して説明をしなかったからといって,直ちに説明義務違反であるなどとは認め難い。他方,原告Cは,幼いころから実家で犬を飼育していたなどと主張していること,総会等にも参加していた事実も認められないことなどに照らすと,他の入居者がペット類を飼育しているか否かによって,同原告に特段不利益がもたらされている状況も認められず,原告Cに対する不法行為等の成立を認めることはできない。

 5 結語

   以上によれば,原告A及び同Bの請求については,主文掲記の金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し,同原告らのその余の請求及び原告Cの請求については,いずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。大分地方裁判所民事第2部

裁判官   瀧  岡  俊  文

(別紙省略)

賃貸借契約に係る敷金契約に基づく敷金返還請求を一部認容した事例(東京簡裁平成17・3・1)平成16(少コ)3652 敷金返還請求 [猫5匹を飼育していた事例]

* 最高裁判所判例検索による検索結果(PDF)

--------便宜のためのテキスト表示(改行が不正確となっている箇所あり)------

平成17年3月1日判決言渡
平成16年(少コ)第3652号(通常訴訟移行)敷金返還請求事件
口頭弁論終結日 平成17年2月22日

判         決

主         文
1 被告は,原告に対し,17万8665円を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求
被告は,原告に対し,23万4000円を支払え。

第2 事案の概要
1 請求原因の要旨
原告は,被告に対し,平成15年5月22日締結の東京都K市ab−c−d所在のe号室(以下「本件居室」という。)の賃貸借に係る敷金契約に基づく敷金23万4000円の返還を求める。

2 被告主張の要旨
被告は,原告が猫を飼育していたために,原状回復(修繕)費用として
35万8050円を支出したので,これを敷金から控除すると,原告に返
還すべき敷金はない。

第3 当裁判所の判断

 1 見積書(乙1),請求書(乙2)及び領収書(乙3)によれば,被告は,本件居室を原状回復(修繕)し,修繕業者Aに修理代金37万5952円を支払っていることが認められる。

2 ところで,被告が負担した修繕代金は,そのすべてを原告が負担すべきものではなく,当事者間に特約がなければ,原告が本件居室を故意又は過失によって毀損したり,あるいは原告が通常の使用を超える使用方法によって損傷させた場合には,その回復を原告の負担とするが,原告の居住,使用によって通常生じる損耗については,その回復を原告の負担とするものではないと解するのが相当である。そして,本件契約では,特約条項としてペットの飼育を許可するが,解約時に室内クリーニング代の他に原状回復費用(脱臭作業を含む。)を頂戴する旨の記載がある(甲1)が,契約の趣旨から合理的に解すると,この条項は,原告が負担すべき費用を一般的に例示したものであり,上記費用負担の趣旨を変更するものとは考えられない。

3 そうすると,被告が原告に対して修繕代金を請求するには,原告が本件居室を故意又は過失によって毀損したり,あるいは原告が通常の使用を超える使用方法によって損傷させたことを立証する必要があるところ,被告には,原告が「猫を5匹飼育していたので,請求書(乙2)のうち「洋間壁クロス張替え工事3万7700円」及び「室内脱臭処理1万5000円」を負担する」旨供述している以外に,これを認めるに足りる証拠はない。被告は,上記乙1から3号証の他,修繕工事を施工したBを証人として申し出たが,退去時に当事者双方が立ち会って居室の状況を確認しなかったこと,退去時の居室状況を明らかにする証拠がないことが弁論の全趣旨から窺われるから,証人の供述によって原告の費用負担を認めることは困難といえる。

4 以上から,被告の主張は,原告が供述している範囲において認めることができるから,洋間壁クロス張替え工事3万7700円と室内脱臭処理1万5000円の合計額5万2700円及び消費税分2635円(合計5万5335円)が原告が負担する原状回復費用となる。したがって,敷金23万4000円から差し引くと,返還すべき敷金残額は17万8665円となるから,原告の請求は,主文の限度で理由がある。

東京簡易裁判所少額訴訟4係
裁 判 官   行  田     豊

マンションにおけるペット飼育に関して売主である販売業者の説明義務違反及び不法行為責任が否定された事例(平成16年09月22日福岡地方裁判所第5民事部)平成15(ワ)974損害賠償請求事件

* 最高裁判所判例検索による検索結果(PDF)

--------便宜のためのテキスト表示(改行が不正確となっている箇所あり)------

平成16年9月22日判決言渡し 同日原本交付 裁判所書記官
平成15年(ワ)第974号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成16年8月4日

判決

主文
 1 原告の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
 (1)被告は,原告に対し,908万5902円及びこれに対する平成15年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (2)訴訟費用は被告の負担とする。
 (3)仮執行宣言
 2 請求の趣旨に対する答弁
 (1)原告の請求を棄却する。
 (2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要
   本件は,原告が,被告に対し,被告が原告に対してマンションを販売する際,ペットの飼育に関して不適切な説明を行い,原告を同マンションでのペットの飼育が可能であると誤信させてその売買契約を締結させたとして,損害賠償または不当利得の返還を請求している事案である。

 1 争いのない事実及び後掲証拠により容易に認められる事実
 (1)被告は,不動産の売買及び仲介等を目的とする会社であり,平成12年12月ころから平成13年にかけて,福岡市(以下省略)所在のマンション「A」(以下「本件マンション」という。)の販売を行った。

 (2)原告及びその妻B(以下「B」という。)は,平成13年4月から9月にかけて,被告従業員C(以下「C」という。)から,本件マンションの説明を受けたり,本件マンションのモデルルームを見学したりしていた。
    その後,原告は,同月22日に,被告との間で,本件マンション2号室を,3970万円で購入するとの売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し,平成14年3月ころ,家族,ペットの犬とともに同室に入居した。

 (3)被告が,購入予定者に提示した本件マンションの管理組合規約案には,以下の規定があり,同案は,本件マンションの管理組合規約として承認され,現在も通用している(乙3)。

   1条 この規約は,Aの管理又は使用に関する事項等について定めることにより,区分所有者の共同の利益を増進し,良好な住環境を確保するとともに,地域社会の健全な発展に資することを目的とする。

   3条1項 区分所有者は,快適な共同生活を維持するため,この規約及び別に定める使用細則を誠実に遵守しなければならない。

   6条1項 区分所有者は,第1条に定める目的を達成するため,区分所有者全員をもってA管理組合(以下「本件管理組合」という。)を構成する。

   17条 区分所有者及び占有者は,本マンション内において,次の行為を行い,又は他人に行わせてはならない。但し,建物等の保存に有害でなく,その他建物等の使用又は管理に関し,区分所有者の共同の利益を損なわず,且つ,他の居住者に迷惑を及ぼしたり,不快感を与えたりしない使用上のやむを得ない行為であって事前に管理組合の承認を受けた事項はこの限りではない。
     10号 その他区分所有者の共同の利益に反し,又は他の居住者に迷惑を及ぼしたり,不快の念を抱かせる行為をすること。

   45条1項 組合員は,その所有する住戸1戸につき各1個の議決権を有する。

   46条3項 次の各号に掲げる事項に関する総会の議事は,前項にかかわらず,組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する。
      1号 規約の変更

 (4)被告が,購入予定者に提示した本件マンションの使用細則案には,以下の規定があり,同案は,本件マンションの使用細則として承認され,現在も通用している(乙3。以下,現行の管理組合規約及び使用細則をあわせて「現行管理組合規約等」という。)。

   1条 本マンションの区分所有者または占有者並びにその家族(以下「居住者」という。)は,当該専有部分およびその専用使用部分の使用にあたり次の行為をしてはならない。
     (12)その他,公序良俗に反する行為および他の居住者に迷惑・危害を及ぼす行為をすること。

 2 争点
 (1)債務不履行の成否

   (原告の主張)
   ア 被告は,マンションの売主として,契約を締結しようとする買主に不測の財産的,精神的損害を与えないように共用部分,専有部分の用途その他利用制限等,建物または敷地の使用権に関する規約の定めの内容につき,特に重要事項として説明する信義則上の義務を負っている。

     そして,原告は,ペットの飼育が可能であることをマンション購入の条件としていたから,本件売買契約においては,本件マンションにおいてペットの飼育が許可されていることが売買契約の重要な要素であり,被告は,本件マンションにおいてペットの飼育が許可されているのか,される見込みがあるのかにつき具体的に説明すべき信義則上の義務を負う。

     被告が上記義務を負うことは,宅地建物の取引において売主が,権利や利益が制限されることになる事項その他原告の利害に関わる事項については,重要事項として説明する義務を負っていること(宅地建物取引業法施行規則16条の2参照)及び消費者契約法の趣旨に照らしても明らかである。

   イ それにもかかわらず,被告または被告の履行補助者であるC,D(以下「D」という。)は,原告及びBに対し,本件マンションはペット飼育が可能であると説明し,ペット飼育の可否が将来において変更される可能性,他の購入者のペット飼育に関する認識を説明せず,ペット飼育に関する正確な情報を提供しなかった。さらに,被告は,他の購入者に対し,ペット飼育は禁止されていると説明していながら,原告に対しては,他にもペットを飼育している購入者がいると述べるなど,虚偽の説明をしており,被告は,上記説明義務を果たしていない。

   ウ したがって,被告は,原告に対し,債務不履行責任を負う。

   (被告の主張)
   ア(ア)マンションにおけるペット飼育は原則として禁止されているのが通常であり,ペット飼育を全面的に可能とするマンションの場合は,広告で明示されていたり,ペットの足洗い場等の設備が設けられていたりするところ,本件マンションの販売広告にはペット飼育可能との記載はなく,本件マンションにペット飼育のための設備はない。原告は,他のマンションの販売広告,モデルルームを閲覧した上で,本件マンションの現地販売事務所,モデルルーム,建設現場も見学したのであり,本件マンションにおいてペット飼育に何らかの制限が加えられるであろうこと,将来ペット飼育が禁止される可能性があることを認識できたから,それらの点について,被告は説明義務を負わない。

    (イ)そもそも,マンションにおけるペット飼育の可否は,管理組合が決定することであり,売主は,当該マンションに区分所有権を有しない限り,管理組合の意思決定に対し,影響を及ぼすことはできない。売主は,マンションの売買契約時において,管理組合設立総会で制定されるべき管理組合規約及び使用細則(以下「管理組合規約等」という。)を交付し,それについて同意する旨の承諾を得るが,承諾された管理組合規約等も,管理組合員により構成される管理組合総会によりいつでも変更されうるものであるから,売主が,買主に対して,将来制定,改正される管理組合規約等の内容を予想した上で説明することは不可能であり,被告にそのような説明を行う義務はない。また,管理組合設立総会で制定予定の管理組合規約等の内容,管理組合規約等の改正がなされ得ること及びその手続については,本件売買契約時に,被告が交付した制定予定の管理組合規約等に明記されているから,被告は,その内容の詳細について,買主から特に説明を求められない限り,説明する義務はない。

   イ(ア)現行管理組合規約等では,他人に迷惑,危害を及ぼす行為が禁止事項として挙げられているが,ペット飼育に関しては,明確な定めがなされておらず,C及びDが,原告に対し,ペット飼育は原則禁止されているが,他人に危害,迷惑を及ぼさない範囲においては問題ないと思われる旨述べたのは,制定予定の管理組合規約等を忠実に解釈して述べたにすぎない。

    (イ)原告は,本件売買契約締結時に,制定予定の管理組合規約等の交付を受け,また,重要事項説明書の説明によって,管理に関する事項は管理組合規約等を参照すべきことを知らされたにもかかわらず,制定予定の管理組合規約等について,被告に対し,説明を求めなかったのであるから,被告に説明義務違反はない。

 (2)不法行為

   (原告の主張)
   ア 被告は,C及びDをして,原告及びBに対し,本件マンションにおいてペット飼育が可能であると説明し,ペット飼育の可否が将来において変更される可能性,他の居住者のペット飼育に関する認識を説明しなかった。

     他方で,被告は,その従業員をして,原告他数名を除く購入者に対して,ペット飼育が禁止されていると説明し,また,原告宅の隣室をペットアレルギーを持つ家族がいる者に販売し,本件マンションでのペットの飼育を事実上困難な状況にしたのであるから,被告が,原告に対して行った説明は,ペット飼育が将来において禁止される,または困難になる可能性があるにもかかわらず,将来においてもペット飼育が可能であると積極的に原告を欺罔する詐欺行為であり,被告は,不法行為責任を負う。

   イ 仮に,C及びDの上記詐欺行為が被告自身の不法行為にあたらないとしても,C及びDの行為は,本件マンションの販売という被告の業務の執行においてなされたものであるから,被告は,使用者責任に基づき,その責任を負う。

   (被告の主張)
    前記(1)記載の被告の主張のとおり,被告に,原告に対する説明義務違反はないから,被告及び被告従業員に不法行為責任は発生しない。

 (3)債務不履行及び不法行為による損害

   (原告の主張)
    原告が被告の説明義務違反または不法行為によって本件売買契約を締結し被った損害は以下のとおりである。

   ア本件建物購入及び居住による財産的損害
     原告は,マンションを購入するにあたっては,ペットの飼育が可能であることを条件としていたのであるから,被告の債務不履行,不法行為がなければ,原告は本件マンションを購入しなかったのであり,本件マンションの購入に関して,原告が支出した以下の費用は,被告の債務不履行,不法行為と相当因果関係のある損害にあたる。
   (ア)本件建物購入代金           3970万0000円
     (但し,本件においては時価相当額3600万円を控除した370万円を請

求する。)
   (イ)ローン保証料・修繕積立金等 153万2752円
   (ウ)内装変更工事代金 91万6650円
   (エ)引越費用                 13万6500円

   イ マンションの買換え及び転居による財産的損害(ア(イ)ないし(エ)と選択的請求)
     被告の債務不履行,不法行為により,原告は,本件マンションからペットの飼育が可能である他のマンションへの転居を余儀なくされるから,本件マンションと同程度の価値を有するマンションの購入費用,転居費用等の以下の費用は,被告の債務不履行,不法行為と相当因果関係にある損害にあたる。なお,別のマンションの購入代金については,本件マンションを売却して一部資金に充てることから,本件訴訟においては請求しない。

   (ア)購入諸費用               153万2752円
   (イ)内装変更工事代金             91万6650円
   (ウ)引越費用                 13万6500円

   ウ 慰謝料
     本件マンションの多数の住民がペット飼育が禁止されることを前提に,本件マンションを購入していることから,原告は,共有部分の通行の度に,他の住民に不快感を与えていないか気にするなど精神的苦痛を被っている。
     また,隣家にペットアレルギーの住民がいることにより,ペットのにおい,毛が隣家に行かないよう極力窓を空けないなど,自宅専用部分にいる際にも精神的苦痛を被っている。
     さらに,被告は,本件売買契約の経緯についての説明,謝罪等を行わない。
     上記一切の事情に照らせば,原告の精神的苦痛に対する慰謝料は,200万円とするのが相当である。

   エ 弁護士費用                 80万0000円

    (被告の主張)
   (ア)現行管理組合規約等は,本件売買契約時に原告に交付した制定予定の管理組合規約等がそのまま制定されたものであり,現時点で何らの変更もされておらず,今後,どのような管理組合規約等の定めがなされるかもわからないから,原告には損害が発生していない。
      また,仮に現行管理組合規約等の改正がなされたとしても,それは改正の決議がなされる時点における本件管理組合の総会において決められたことであり,入居時点とは,本件マンションの区分所有者も,その考えも異なり得るから,改正によって原告に何らかの損害が発生したとしても,売主である被告の行為とは因果関係がない。

   (イ)本件マンション新築時から現在までの価格下落分は,全ての購入者に当然に発生するものであるから,それを売主である被告に転嫁することはできない。

   (ウ)現在,原告がペットを飼育するに際して払っている注意はペット飼育が全面的に可能なマンションにおいても払うべき,一般的な注意であり,原告に対して特別の義務が課されているわけではないから,原告に精神的苦痛があるとはいえない。

   (エ)原告は,本件マンションから転居するか,居住を続けるかを明らかにしておらず,転居費用が生じるか否かは未確定であるから,現時点では損害として認められない。

 (4)過失相殺
   (被告の主張)
    原告には,本件マンションの販売広告にペット飼育可能と明記されていないこと,本件マンションがペット飼育に適した設備が設けられていないマンションであることを認識していたにもかかわらず,ペット飼育が可能と信じ,制定予定の管理組合規約等を確認せずに本件売買契約を締結したという過失があるから,相当額の過失相殺が認められるべきである。

 (5)錯誤無効
   (原告の主張)
    ペットの飼育が可能であることは,原告がマンションを購入するにあたっての条件であり,また,マンションでペットを飼育するには,他の入居者の理解が不可欠であるから,本件マンションでペットの飼育が可能であること,他の入居者もペットの飼育が可能であると認識していることは,売買契約の締結を左右する重大な事項であり,本件売買契約の要素である。

    原告は,本件マンションでのペット飼育が原則禁止されており,他の購入者もそれを前提に本件マンションを購入し,その中には,ペット飼育を全面的に禁止するべきと考える者もいるにもかかわらず,本件マンションにおいてペットの飼育が可能である,他の入居者もペット飼育が可能であると認識していると誤信して本件売買契約を締結したものであるから,本件売買契約の要素に錯誤がある。

    したがって,本件売買契約は,原告の錯誤により無効であるから,被告は,原告に対し,本件売買契約の代金の一部を不当利得として返還する義務を負う。

   (被告の主張)
    ペット飼育の可否は,マンション購入に際して考慮する一要素であるとしても,マンションの売買契約の主要部分にはあたらないし,その錯誤がなければ,売買契約の意思表示をしないことが社会通念上当然ということはできない。

    また,ペット飼育が可能であるとされているマンションにおいても,ペットを飼育する者は他の入居者のために注意を払って飼育する必要があるし,その後の管理組合規約等の変更により,ペット飼育が制限され,禁止されることもあり得るから,ペット飼育の可否,他の購入者もペット飼育が可能と認識していることは,マンションの売買契約の主要部分にあたらず,ペットの飼育の可否は,契約の要素にはあたらない。

 (6)消費者契約法4条2項に基づく取消し
   (原告の主張)
    本件売買契約は,事業者である被告と消費者である原告との間でなされた消費者契約である。そして,マンションにおけるペット飼育の可否は,マンション購入についての判断に通常影響を及ぼすことが明らかであるから,消費者契約法4条2項に定める重要事項にあたる。
    被告は,本件マンションにおけるペット飼育の可否について,ペット飼育が可能であるとの原告の利益となる説明をしたが,他の入居者の中にペット飼育は禁止であると認識して本件マンションを購入した者がいること,本件マンションの管理規約等でペット飼育が禁止または制限される可能性があることという原告にとって不利益な事実を故意に告げなかった。
    原告は,そのため,本件マンションをペット飼育禁止であると認識している入居者はおらず,将来にわたってもペット飼育が禁止されまたは制限されることはないと誤信して本件マンションを購入するとの意思表示をした。
    したがって,原告は,消費者契約法4条2項に基づいて,本件売買契約を取り消し,本件売買契約の代金の一部を不当利得として返還することを請求する。

   (被告の主張)
    マンションにおけるペット飼育の可否は,売主ではなく管理組合が決定すること,売主は将来制定予定の管理組合規約等に売買契約締結時に買主の同意を得るという方法で関与することができるにすぎないこと,その管理組合規約等は後の管理組合総会で変更がなされ得ることからすれば,売主としては,買主に制定予定の管理組合規約等を交付し,これらが制定されることを説明することで足りるというべきであり,被告が,原告に不利益となる事実を告知しなかったとはいえない。
    仮に,原告が,不利益な事実が存在しないと誤信したとしても,本来マンションにおいては,共同住宅という本質上,ペット飼育に制限があること,ペット飼育可能との広告がなされず,本件マンションには何らペット飼育に適する設備が備えられていないことからすれば,被告の告知あるいは不告知によって,将来にわたってもペット飼育が禁止され又は制限されることはないと誤信をすることは考えられないから,原告の誤認と被告の説明とは因果関係がない。

第3 当裁判所の判断

 1 証拠(甲1,2,8,10,12,13,14,18,乙1,4,5,原告本人,証人B,証人C,証人D)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
 (1)原告は,平成13年4月当時,広島県に単身赴任していたが,福岡市(以下省略)所在のマンション(以下「旧原告宅」という。)に,B,翌年に小学校に入学する予定だった娘が住み,パグという種類の小型犬を飼育していた。
    原告及びB(以下「原告ら」という。)は,本件マンション2号室に入居後も同所において,上記犬を飼育しており,その犬は,平成15年7月当時,9歳である。
    原告らは,平成13年4月当時,自宅用にマンションを購入することを検討しており,旧原告宅が所在するX校区内にあり,ペットの飼育が可能なマンションを探していた。

 (2)被告は,平成12年12月ころから,本件マンションの販売を行っていた。
    被告は,マンションの販売にあたって,購入希望者に対し,ペットの飼育は原則禁止されているが,他人に迷惑,危害を及ぼさない範囲であればできると考えられる旨説明するよう,営業担当者に指示しており,本件マンションについて,特段異なる指示はなされていなかった。

 (3)本件マンションの販売を担当していたCは,平成13年4月ころ,旧原告宅に電話して,電話に出たBに対し,本件マンションを販売中であることを伝えた。
    Cは,前記電話において,Bが本件マンションの購入に興味を示したため,その日のうちに,旧原告宅にパンフレットを持参した。
    Cが,旧原告宅を訪問し,Bに会った際,Cは,Bから,本件マンションでペットが飼えるかを尋ねられたので,原則は駄目だが,危害を加えるなど人に迷惑をかけなければ,具体的には,外に出るときには籠に入れるとか,抱く等すれば問題ないと思われる旨返答した。Cは,その際,旧原告宅で飼育されている犬を実際に見た。

 (4)Cは,平成13年5月ころ,数回,旧原告宅を訪問し,原告及びBも,本件マンション付近に開設された現地販売事務所を訪問して,Cから本件マンションの詳細等の説明を受けたが,その間,本件マンションでのペット飼育の可否が話題になることはなかった。
    しかし,原告らは,希望予算を超えること等の理由で,本件マンションの購入を断念することとし,同年5月末ころ,BからCに対し,その旨を伝えた。

 (5)原告らは,さらにX校区内で,ペット飼育が可能なマンションを探していたが,適当な物件が見当たらなかったため,平成13年8月ころには,再度本件マンションの購入を検討するようになった。
    原告らは,平成13年8月下旬以降,数回にわたり,現地販売事務所を訪れ,本件マンションについて説明を受け,同年9月17日ころ,C及び被告営業部長であるDに対し,本件マンション2号室の購入を申し入れた。その際,原告らからCらに対し,本件マンションでのペット飼育に関しての質問はなかった。

 (6)C及びDは,平成13年9月22日,本件売買契約締結のため,旧原告宅を訪問した。
    Dは,原告に対し,「宅地建物取引主任者証」を提示した上,重要事項説明書を読み上げた。同重要事項説明書には,「15.管理に関する事項」の項に,「管理内容等については別途管理規約をご参照願います。」「入居者が一定数となった時点で管理組合を結成して頂きます。」との記載がある。
    また,Dは,原告から前記犬を見せられた上で,本件マンションでペットを飼育できるか尋ねられ,この程度の犬であれば特段問題はないと思う旨述べた。
    その後,原告は,Dから本件マンションの管理組合で制定される予定となっている管理組合規約等及び管理委託契約書の交付を受け,それらについて承認する旨の承認書及び本件売買契約書に署名捺印した。

 (7)原告とその家族は,平成14年3月末ころ,飼育している犬と共に,本件マンション2号室に引っ越してきた。

 (8)平成14年5月ころ,本件管理組合総会が開かれ,組合員の一人から,本件マンションはペット飼育禁止であるはずなのに,ペットを飼っている人がいるとの発言がなされた。
    その後,管理会社が本件マンションの購入者に対して実施したアンケートでは,回答者37名のうち,売買契約当時,被告の販売担当者からペットの飼育が可であると聞いていたと回答した者が原告を含めて2名,飼育は不可であると聞いていたと回答した者が16名,ペットの飼育に関しては何も聞いていないと回答した者が9名であり,その他の者は無回答であり,今後のペット飼育については,条件付でも不可と回答した者は2名,条件付で可とする者32名,無回答3名であった。
    また,ペットアレルギーに関するアンケートを行ったところ,回答のあった入居者35世帯中,7世帯はペットアレルギーを持つ居住者がいると回答している。

 (9)原告が,被告に対し,本件売買契約時のペットに関する説明の状況について説明するよう求めていたところ,原告への販売担当者であったCは,平成14年11月ころに管理会社の担当者とともに,同年12月1日には一人で,原告宅を訪問した。
    Cが一人で原告宅を訪問した際,原告は,Cに対し,本件売買契約締結の際,Dが,原告が飼っている犬を見て,この程度の犬だったら外で飼うわけではないから大丈夫だと言った旨を述べ,Cは,これに対し,問題ないという趣旨のことを述べたことは覚えている旨返答した。

 (10)平成15年4月5日,本件管理組合臨時組合員総会において,ペットの飼育に関し,次の三案が提示されたが,採択には至らなかった。なお,欠席者9名による不在投票の投票結果は,b案5票,c案4票であった。

    a案 ペットの飼育を全面的に禁止する。
    b案 別紙1(省略)の趣旨の規則を定め,それを遵守することを条件に現在飼育中のペットのみ1代限り認める。
    c案 別紙2(省略)の趣旨の規則を定め,それを遵守することを条件にペット飼育可能とする。 

 (11)本件管理組合は,上記臨時組合員総会において,上記三案の採択までの間,ペットの飼育について,以下の規定によることを決議した。
   ア 現在飼育しているペット以外の飼育は禁止する。来客のペット持ち込みも禁止する。
   イ ペットと外出する際は,籠に入れて移動する。
   ウ エレベーターにペットを同乗させる場合,他の同乗者に告知する。    
     エレベーターをおりる際には,除菌剤を使用する。
   エ 管理人の日常清掃の範囲で,ペットを飼っている住戸・アレルギー体質の家族のいる住戸の前の清掃は特に念入りに行う。 

 (12)原告は,現在,本件マンション2号室の原告宅で,ペットである小型犬の飼育を続けている。Bは,同犬を散歩のために室外に出す際には,できる限りエレベーターに乗らないようにしている。また,隣家にペットアレルギーを持つ子供がいるため,室内にいてもできるだけ窓を開けない,バルコニーの隣家寄り部分には洗濯物を干さない等の配慮をしている。

 2 争点(1)について

 (1)ア マンションにおいて管理上必要な事項は,居住者を組合員とする管理組合が制定した管理組合規約等により定められるところ,管理組合規約等は,当該マンションの居住者の生活に直接影響を及ぼすものであるから,マンションの販売業者は,購入者に対して,管理組合規約の内容等について説明する義務を負う。そして,ペット飼育の可否についても,ペットは鳴き声,におい,糞尿,毛等によって,他の居住者に迷惑を及ぼすおそれがあるから,多数の者が居住するマンションにおいては,管理組合規約等により禁止または制限されるのが通常であって,マンション販売業者は,購入者に対して,制定予定の管理規約等の内容を説明する限りにおいては,ペット飼育の可否ないしその制限等についても説明する義務を負うといえる。

      ところで,管理組合規約等は,管理組合総会によって制定,改正されるものであり,現行管理組合規約46条3項1号においても,組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上の賛成により,管理規約の変更がなされる旨規定されているところ,本件管理組合は,マンションの区分所有者により構成されるから(本件管理組合規約6条1項),販売会社である被告は,販売終了後は,本件マンションに対して何らの権利義務を持たない(証人D)。被告は,本件マンションの販売時に,購入希望者に対して,制定予定の管理組合規約等を交付し,承認をとっているが(乙1),それは,管理組合設立総会において,円滑に管理組合規約等が制定されるようにするために行っているにすぎない。

      そうであるとすれば,被告は,将来制定される管理組合規約等の内容については,これを確定的に説明することはできないから,被告が,本件マンションを販売するにあたって購入予定者に対して説明し得るのは,制定予定の管理組合規約等の内容に限られるものであり,ペット飼育の可否を含む管理に関する事項に関しても,被告は,制定予定の管理組合規約等の内容を説明する義務を負うに止まり,それを超えてペット飼育の可否についての説明義務までは負わない。

    イ また,原告は,被告は原告に対し,被告が他の購入者に対して,本件マンションではペットの飼育が禁止されている旨説明し,他の購入者の中に,ペットの飼育が禁止されているとの認識のもとに本件マンションの各居室を購入した者がいるという事情について説明する義務を負うと主張する。

      しかしながら,被告が他の購入者に対して行った説明の内容それ自体が,本件マンションにおけるペットの飼育の可否に影響するものでないことはいうまでもない。また,他の購入者が本件マンションにおいてペットの飼育が禁止されていると認識していたとしても,管理組合規約等を改正して,ペット飼育を可能とすることもあり得るし,逆に,全ての居住者がペット飼育可能と認識して入居したとしても,その後,管理組合規約等を改正してペットの飼育を禁止することが求められることもあり得ること,ペット飼育にあたって,他の居住者に対する配慮は,他の居住者が,ペット飼育が可能であると認識していたとしても必要なものであることからすれば,他の購入者の認識は,本件マンションにおけるペットの飼育の可否に,事実上の影響も含めて,結びつくものではない。

      そもそも,購入者が,被告の説明以外の情報により,ペット飼育に関して被告から受けた説明と異なる認識をすることもあり得るのであるから,購入者の認識という内心に関わる事項を,被告が正確に把握することは不可能である。

      したがって,被告が,原告に対し,被告が他の購入者に対して行った説明の内容,他の購入者の中にペットの飼育が禁止であるとの認識のもとに本件マンションを購入した者がいるという事情を説明する義務があるとはいえない。

 (2)以下,被告が,ペット飼育の可否ないしその制限に関し,制定予定の管理組合規約等の内容を説明する義務を果たしたかを検討するに,原告は,C及びDが,ペット飼育が可能であると断定する虚偽の説明したと主張し,それに沿う供述をする(原告本人)。

    しかし,Bの証言によっても,Cは,ペットを飼育するに関して,他人に危害を加えたり,迷惑をかけないこと,外に出るときは籠に入れるか,抱く必要がある旨述べたと認められること(証人B),原告も,Cが平成14年12月に原告宅を訪れた際,同人に対し,本件売買契約締結の際,Dが,原告が飼っている犬を見て,この程度の犬だったら外で飼うわけではないから大丈夫だと言ったと述べていること(甲18),C及びDは,原告が飼っている犬を見た上で,その犬について飼育が可能と思われる旨述べているにすぎないこと(証人B)からすれば,C及びDが,本件マンションにおいてペット飼育が一般的に可能であると断定する説明したとの原告の供述は直ちには採用できず,むしろ,C及びDは,本件マンションにおけるペット飼育に制約があることを説明したと認められる。

    そして,本件売買契約時に制定予定とされていた管理規約等によれば,ペット飼育は,他の居住者に迷惑・危害を及ぼす行為に該当する場合に禁止されることになるから,危害を加えるなど人に迷惑をかけなければ,具体的には,外に出るときには籠に入れる,抱く等すれば,問題ないと思われる旨の被告の説明は,制定予定の管理組合規約等の解釈として不適切とはいえず,C及びDの説明をもって,説明義務に違反する虚偽または不正確な説明であったということはできない。

 (3)以上から,ペットの飼育の可否について,被告に説明義務違反があったとはいえず,被告は,原告に対し,債務不履行責任を負わない。

 3 争点(2)について

 (1)前記2のとおり,被告が原告に対して行った説明は,制定予定の管理組合規約等の規定に従ったもので,説明義務違反があったということはできないから,被告が原告を欺罔したということはできず,また,被告が行った説明が,不十分,不適切だったともいえないから,被告の説明が不法行為にあたるとはいえない。

 (2)ア 原告は,被告が,原告とその他の購入者に対し,相反する説明を行ったため,ペット飼育が不可能になる可能性が高くなり,また,事実上ペット飼育は困難な状況になったと主張する。
      確かに,本件マンションの購入者の中には,本件マンションではペット飼育が禁止されているとの説明を受けたと陳述したり(甲19ないし21),管理会社が行ったアンケートにおいても,16名がペット飼育は禁止されていると説明を受けたと回答している(甲2)ことが認められる。
  イ しかし,制定予定の管理組合規約等では「他の居住者に迷惑・危害を及ぼす行為をすること」が規定されているのみであり,被告が前記のとおり,ペット飼育について制約があることを説明したことに対し,その受取り方につき,購入者間に,認識の差が生じたとしても,これをもって,被告が相反する説明をしたということはできない。そして,他の居住者が,被告からペット飼育は原則禁止されているとの説明を受け,ペット飼育は一切禁止されていると認識して入居していたとしても,前記のとおり,それによってただちに本件マンションにおけるペット飼育が禁止されるに至るものではなく,また,他の居住者の認識が,本件マンションにおけるペット飼育の可否に直接結びつくものでもない。
      したがって,被告が他の購入者に対して行った説明が,原告に対する不法行為になると解することはできない。

 (3)さらに,原告は,被告が,原告の隣室3号室を販売したE(以下「E」という。)の子供はペットアレルギーを持っており,そのため,原告のペット飼育は困難になったと主張する。
    しかし,原告が供述するとおり,Dが,本件マンションにおいて原告がペットを飼育することをすでに承知の上で,Eに対して,本件マンションではペット飼育は一切禁止されている,他の購入者にペットを飼っている人がいないと説明していたとしても(原告本人,甲18),それがEに対する関係で不法行為になり得るかはともかく,原告との関係でみれば,Eは,ペットの飼育に関して,一代限りであれば可能としてよいと考えており(甲2,原告本人,証人D),また,管理組合規約の改正には組合員の4分の3以上の決議が必要であり,E一人の意見でペット飼育の可否が決まるものではないことからすれば,原告の隣の居室を同人に販売したことにより,原告がペットを飼育することが不可能になるとはいえないし,原告が,Eに対しての配慮として行っていることは,ペットの飼育が可能なマンションであっても,当然に必要とされるものであるから,特段,原告のペットの飼育を困難にするものとはいえず,被告がEに対して,原告が主張するとおりの説明を行ったとしても,それは,原告に対する不法行為とはなり得ない。

 4 争点(5)について 

 (1)原告が,本件売買契約の要素であると主張する点のうち,本件マンションにおけるペット飼育の可否については,原告が本件売買契約に至る過程で,数回にわたり,C及びDに対し,ペット飼育の可否について尋ねていること,本件売買契約当時,原告が現に犬を飼育していたことから,本件売買契約を締結するにあたって,重要な事項であったと考えられ,契約の要素となっていたといえる。
    しかしながら,他の購入者がペット飼育が可能であると認識していたかどうかは,前記のとおり,他の購入者の中にペット飼育が禁止されていると認識する者がいたとしても,現行管理組合規約等が改正されない限りペット飼育が不可能になるものではないこと,現に,本件マンションの購入時にペット飼育が禁止されていると認識していた者の相当数が,規則を定めた上でペットを飼育することに否定的ではないこと(甲2)からすれば,他の購入者がペット飼育が可能であると認識していたかどうかは,ペットの飼育の可否に直接結びつくものではないし,共同住宅であれば,ペット飼育が可能であるとの理解が得られていたとしても,他の居住者への気遣いが必要になることは当然であるから,他の購入者がペットの飼育が可能であると認識していたことが,本件売買契約を締結するにあたって重要な事項であったということはできない。

 (2)そこで,本件マンションのペットの飼育の可否について原告に錯誤があったかを検討するに,本件売買契約の当時,制定予定の管理組合規約等によれば,ペット飼育は,他人に危害を加えない,迷惑をかけない範囲では禁止されていない,同管理組合規約等は,管理組合の議決により変更し得るという状況にあったところ,原告も,全面的にペット飼育が可能というわけではないが,他人に危害を加えない,迷惑をかけない範囲では禁止されていない旨の説明を受け,そのとおり認識していたのであるから,この点について,原告に錯誤があったということはできない。

 (3)ところで,原告は,将来にわたってペットの飼育が可能であると信じていた旨主張し,ペットの飼育の可否が管理組合規約で決まるのであれば,本件マンションを購入しなかったと供述する(原告本人)が,前記のとおり,一般にマンションにおけるペットの飼育の可否は,管理組合規約で定められるものであり,管理組合規約は管理組合の議決により変更され得ること,原告は,本件売買契約以前からマンションに住んでいたことからすれば,原告は,管理組合規約の変更がされ得ることは認識していたというべきであり,将来にわたってペットの飼育が可能であると信じていたとの原告の供述は直ちには採用できない。

 (4)したがって,本件マンションにおけるペットの飼育の可否について,原告に錯誤があったとはいえず,本件売買契約は有効といえるから,本件売買契約が無効であることを前提とした原告の不当利得返還請求は理由がない。

 5 争点(6)について

 (1)上記認定事実によれば,原告は,本件売買契約に至るまでの間,C及びDに対して,ペットとして犬を飼育していることを示し,本件マンションにおけるペットの可否について尋ねていたのであるから,原告にとって,本件マンションにおけるペット飼育の可否は,本件売買契約において重要な事項であったといえる。
    しかしながら,被告が,ペット飼育の可否に関して,原告に告げたのは,制定予定の本件管理組合規約等によれば,危害迷惑をかける行為に該当しない場合に限り,ペット飼育が可能であること,同管理組合規約等に照らせば,原告が飼育している犬の飼育は可能と思われるところ,特にペット飼育可能ということを広告しているマンションでない限り,被告が原告に対して告げた制定予定の管理組合規約の内容はマンションにおいて制定予定の管理組合規約としては通常のものであり,また,原告が現に飼っているペットの飼育に関しても,その管理組合規約の解釈を述べたにすぎないこと,原告は,本件マンションに入居する以前もマンションにおいて管理上一定の制限を受けつつペットを飼っていたことからすれば,被告が,原告に利益になることを述べたとはいえない。

 (2)したがって,不利益事実の不告知があったかを検討するまでもなく,消費者契約法4条2項に基づく取消しは認められない。

 6 以上より,本件売買契約に関し,被告に債務不履行及び不法行為があったとは認められず,また,本件売買契約は有効に成立しており,原告による取消しも認められないから,被告は,原告に対し,損害賠償義務及び不当利得返還義務を負わない。

 7 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

    福岡地方裁判所第5民事部

     裁判長裁判官   亀  川  清  長
     裁判官   板  野  俊  哉
     裁判官   山  口  幸  恵

猫嫌いの人が猫の糞尿被害を訴えているのを知りながら野良猫に餌を与え続けた近所の住人の行為が違法とされた事例[左記被害者が調停を申し立てたのに対し、訴え取下げを求める嘆願書への署名を近隣の多数住民から集めた行為が名誉毀損にあたるとされた事例](神戸地判平成15・6・11)平成13(ワ)1958

* 最高裁判所判例検索による検索結果(PDF)

--------便宜のためのテキスト表示(改行が不正確となっている箇所あり)------

            主    文

一 被告Y4,同Y1は原告らに対し,各自,各金20万円及びこれに対する平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二 被告らは原告らに対し,各自,各金33万円及びこれに対する平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

三 被告Y3,同Y1は原告らに対し,各自,各金5万円及びこれに対する平成15年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

四 被告Y3は原告らに対し,各金10万円及び内金5万円に対する平成14年1月11日から,内金5万円に対する平成13年8月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

五 被告Y3,同Y1は原告X1に対し,各自,金10万円及びこれに対する平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

六 被告Y3,同Y4,同Y1は原告らに対し,各自,各金2万円及びこれに対する平成15年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

七 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

八 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告らの負担とする。

九 この判決の第一項ないし第六項は,仮に執行することができる。

            事実及び争点
第一 申立
 一 被告らは原告X1に対し,各自,金330万円及びこれに対する平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 二 被告らは原告X2に対し,各自,金170万円及びこれに対する平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 三 被告らは,各被告の自宅の公衆の通行する通路に面した壁面,及び神戸市a区b通,同区c通,d通,e通,f通の各自治会の掲示板に隣接する位置で,それぞれ通行人からその全面が見える位置に,縦1メートル,横2メートルの白色板に黒色20ポイント文字で,別紙<省略>の謝罪文を記載して,60日間掲示せよ。

第二 事案の概要
   本件は,原告らが被告らに対し,猫の糞尿等による被害を発生させたことや名誉毀損行為等をしたことを理由に,これらが共同不法行為にあたるとして,損害賠償を請求した事件である。

 一 前提事実
  1 原告X1(昭和8年11月11日出生)は,昭和61年6月,神戸市a区b通c丁目d番地e所在の2階建建物の1階店舗(以下,「本件店舗」という。)を被告Y1(昭和13年9月11日出生。)から賃借し,「甲」の屋号で居酒屋を営んできた。
    原告X2(昭和34年8月4日出生)は原告X1の子であり,平成6年2月に3階建建物を,本件店舗から約20メートルの距離の場所に新築し,原告らは以後同建物に居住している。原告X2は,自宅で電子機器の組立業をしている。(<証拠略>)

  2 被告Y2(昭和25年9月12日出生。),同Y3(昭和34年12月1日出生。)夫婦は,原告らの自宅の南側に面した2階建の住宅に居住している。同住宅の南側には本件店舗建物が接しており,本件店舗の西隣には被告Y4(昭和6年11月5日出生。)所有の2階建建物が存在し,被告Y4及び同Y1夫婦(以下,併せて「被告Y1ら」ともいう。)が居住している。その西側の南北の通路を挟んだ真向かいには被告Y1の亡実父の所有していた2階建建物がある。
    被告Y2は自営業であり,被告Y4はタクシー運転手であり,被告Y3同Y1は主婦である。(<証拠略>)

  3 本件店舗賃貸借契約では,賃料月額7万円の約定で,賃借人である原告X1は権利の売買はできないことが約定されていた。賃料は数次の値上げを経て,月額9万5000円に改定されていたが,不況で売上が減少したことを理由に原告X1が減額を申し入れ,被告Y1はこれに応じて,平成13年3月分から月額9万円に減額変更された。(<証拠略>)

  4 原告らは,被告Y1らを相手方として,平成13年5月,神戸簡易裁判所に,同被告らが原告らの自宅及び本件店舗からそれぞれ50メートル以内の区域で猫の餌となる物を屋外に留置することの禁止及び同区域内で同被告らの給餌する動物が放尿・排便等により土地ないし工作物等を汚損した場合は,直ちに同被告らの費用で清掃及び脱臭措置をとるべきこと並びに原告らに100万円ずつ,合計200万円の慰謝料を支払うことを求めて,民事調停の申立(以下,「本件調停」という。)をした。(<証拠略>)

 二 争点に関する双方の主張
 (原告ら)
  1 被告Y1らによる猫関係の被害
   (1) 被告Y1らは,以前より自宅において猫を飼育するほか,付近に生息している野良猫に自宅周辺で餌を与えてきた。そのため,本件店舗入口やその周辺において,多数の猫が何か所にも放尿・排便し,異臭が頻繁に漂うなどして,本件店舗営業に支障をきたすことがあった。
   (2) 原告X1は被告Y1らに対し,昭和62年頃から野良猫に給餌することの中止等の対処を求めたが,被告Y1らは餌をやり続け,野良猫の数も増え続け,平成6年1月以降は原告らの自宅周辺を野良猫が徘徊し,排尿等を繰り返すようになった。
   (3) 平成12年春頃からは,原告らの自宅2階の入口踊り場にしばしば猫が排便し,また,自宅敷地内や本件店舗の周囲を猫が徘徊し,排尿・排便を続けた。
   (4) 被告Y1らは,付近の路上にプラスチック製容器に猫用の餌と水を入れておいて,公然と猫に給餌したので,原告らは被告Y1らに平成13年初め頃から給餌の中止を求めたが,被告Y1らはこれに応じなかった。
   (5) 被告Y3は,平成12年初め頃より,被告Y1らの猫への給餌のための餌の購入を手伝うなどして,これに協力してきた。
   (6) 原告らは,猫の排尿・排便等により日々異臭に悩まされ,原告X1は平成10年頃からいらいらがつのって高血圧症等で通院している。また,本件店舗でも,顧客から異臭がするなどの苦情が出て,営業収益も悪化した。

  2 被告らによる名誉毀損行為
   (1) 被告Y1らは,本件調停期日に出頭しないまま,被告Y2,同Y3(以下,この両名を併せて「被告Y2ら」ともいう。)と共謀して,本件調停申立について,原告らが一方的に訴訟を提起したかのような虚偽の事実,原告らが譲歩や話し合いを拒絶しているかのような虚偽の事実を記載した文書を,大量に広範な地域で配付し,もって,原告らの名誉を毀損した。
     すなわち,被告らは,平成13年7月初旬頃,原告らが居住するa区b通のほか,これに隣接するc通,d通,e通,f通の各地域の多数の住民に対し,原告らが裁判手続を行っていることを言いふらした上,「X1,X2氏のY4・Y1氏に対する猫の給餌・糞尿に対する慰謝料料請求について」と記載した嘆願書への署名を求め,その文書の中で,「二百万もの高額な慰謝料請求が一方的になされ」,「その良識を疑われます」と記載して,同事実を多数の地域住民に知らしめるとともに,原告らを誹謗してその名誉を毀損した。

  3 その他の違法行為
   (1) 被告らは共謀の上,被告Y3において,原告らが深夜まで稼働し,午前中就寝していることを知りながら,平成12年10月頃から,自宅内で飼育している室内犬を,午前9時半頃から路上に放置して1時間余り吠え続けさせて,その結果原告らの睡眠を妨害した。さらに,本訴提起後の平成13年9月末頃からは,犬の放置時間を2時間以上に延長させた。加えて,平成13年9月23日午前9時半頃から午前11時頃までの間,被告Y3において,原告らの自宅との境界に接する同被告宅の2階の窓をわざと全開にし,大音量の音楽を流し続けた。同様の嫌がらせ行為は,同年12月4日,5日,6日,9日,11日,13日,25日,平成14年1月7日,8日,10日,11日にもなされた。また,平成13年12月26日の午前10時前頃,被告Y3において,2度にわたり,必要もないのに,自宅北側の原告ら宅に面した窓を開けて,大声で「おばちゃん,おばちゃん」と叫び,就寝中の原告X1はこの声に驚いて飛び起き,しばらく心臓の動悸が止まらなかった。翌27日午前9時過ぎ頃にも,同被告は同様の行為をした。
   (2) 被告Y3は,毎日のように,自宅付近で大声で原告らの本件調停申立を誹謗し,原告らをa通地域に住めないようにしてやるなどの恫喝の言葉を吐き,原告らの名誉を毀損し続けた。
   (3) 被告らは共謀の上,平成13年7月6日,被告Y3において,原告X1が本件店舗営業のため10年以上取引してきたa区b通c丁目所在の株式会社乙豆腐店(以下,「乙」という。)に対し,原告X1に以後豆腐を販売しないよう働きかけ,その結果同豆腐店は原告X1に豆腐の販売を中止し,同原告の営業に支障が生じた。

  4 法的主張及び損害
   (1) 被告らの行為は,いずれも,原告らの人格権,営業権を侵害する不法行為である。
   (2) 損害
    ① 原告X1の名誉毀損,猫の徘徊,排便,睡眠妨害等による精神的被害につき金100万円
    ② 原告X1の名誉毀損行為等の営業妨害による売上の減少等による精神的苦痛に対する慰謝料200万円
    ③ 原告X2の猫の徘徊,排便等による精神的被害に対する慰謝料100万円
    ④ 原告X2の名誉毀損に対する慰謝料50万円
    ⑤ 弁護士費用として,原告X1につき30万円,同X2につき20万円

   (3) 原告らに対する名誉毀損の原状回復として,別紙の謝罪文を申立三のとおりの方法で掲示することを求める。
 (被告ら)
  1 被告Y1らによる猫関係の被害について
   (1) 被告Y1らは十数年以上前から前記同被告らの自宅の真向かいの2階建建物の中で猫を飼い始めたが,猫を外部に出すことはなかった。
   (2) 平成6年に前記原告らの自宅が新築された頃から平成7年1月の阪神・淡路大震災後の頃までの間は,それまで付近にいた野良猫は姿を見せなくなっていた。
   (3) 平成12年秋頃,被告Y1らが交通事故で負傷した子猫を介抱し,餌を与えたことがあり,それを契機に数匹の野良猫や飼い猫が集まるようになった。
     被告Y1らは,負傷した子猫の糞尿の処理については,近隣に迷惑をかけないよう,砂を入れた箱に排泄させ,1日置きに砂を替えていた。
     野良猫は,被告Y1らの占有下にはなく,同被告らには関係がない。
   (4) 本件調停申立前に原告らから被告Y1らに猫の関係で苦情が申し入れられたことはない。
   (5) 原告ら主張の猫の糞尿等による被害については否認する。原告ら以外の付近の住民が猫の関係で苦情を述べたこともない。原告X1の高血圧症等による通院と猫の被害は無関係である。
   (6) 平成13年4月中旬頃,被告Y1が原告らから呼ばれて本件店舗に赴くと,原告X2は,「俺のおふくろも年だし,店を他にやりたい人がいる。」と言って,同被告に本件店舗賃借権の譲渡(売買)の許可を求めた。同被告はこの申し入れを,契約上権利売買が禁止されていることから拒絶した。本件調停は,被告Y1が賃借権売買を認めなかったことに対する意趣返しであると考えられる。
     本件訴訟提起も,被告Y1らの味方をし,同被告らを擁護した被告Y2らに対して,事実無根の事件を作り上げて被告Y1らとともに共同被告とするという嫌がらせに出たものであると考えられる。
   (7) 原告X1は,深夜まで本件店舗の営業をして,被告らを含む近隣住民に迷惑をかけていた。他にも,顧客の立ち小便や嘔吐物等によっても近隣住民は迷惑を受けてきた。

  2 被告らによる名誉毀損行為について
   (1) 被告らが共謀して原告らの名誉を毀損したことは否認する。
   (2) 被告Y1らが本件調停事件の200万円の支払を求める書面を見て動揺していたところ,被告Y3はこれを見かねて円満な解決のため協力する目的で近隣住民から嘆願書への署名を集めることにしたものであり,原告らの名誉を毀損する目的があったものではない。
     嘆願書への署名を求める際に,原告らを誹謗したりもしていない。

  3 その他の違法行為について
   (1) 被告らが共謀して,被告Y3において室内犬を路上に放置して原告らの睡眠を妨害したこと,大音量の音楽を流し続けて原告らの睡眠を妨害したことは否認する。被告Y3は,朝の掃除の際,犬が掃除機の音を畏れることから20分ないし30分間犬を外に出しているが,知らない人が通りかかった際に吠えることはあっても,犬が吠え続けることはない。また,被告Y3は,掃除の際窓を開けており,同被告や同被告の子が音楽を聴いていることはあるが,原告X1は以前は「あんたええ音楽かけとったなあ。」と述べて抗議はしていなかったものである。
   (2) 平成13年12月27日午前9時過ぎに,被告Y3が窓を開けて,大声を張り上げて「おばちゃん,おばちゃん,甲(本件店舗)の前で猫が目むいて死んどうわ。」と叫んだことはあるが,同被告は地声が大きく,悪意をもってした行為ではない。
   (3) 被告Y3が自宅付近で本件調停申立を誹謗等したことは否認する。
   (4) 被告らが乙に原告X1へ豆腐を販売しないよう働きかけたことは否認する。

  4 法的主張及び損害について
   (1) 住宅地においては,様々な人々が生活しており,それぞれが互いの多少の生活上の騒音,塵芥等を排出することは不可避であって,その立場の互換性故社会通念上許容される程度のことについては,近隣住民ら相互に寛容の精神をもって許容すべきである。しかも,原告らにおいても,前記1(7)のような迷惑行為をしてきたことを考えると,被告らの行為については,社会通念上許容される行為であって,原告らにおいて受忍すべきものであるから,原告らの請求は,信義則に反し,権利の濫用にあたり,許されない。
   (2) 本件店舗の売上の減少があったとすれば,不況による影響等が原因であり,被告らの不法行為により生じたものではない。


            理    由
一 被告Y1らによる猫関係の被害について
 1 証拠(<証拠略>)と弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 被告Y1らは,猫が好きで,昭和60年以前から野良猫を前記前提事実2の自宅西側真向かいの2階建建物内で飼育するようになり,その数は10匹前後で推移してきた。野良猫を室内で飼育する前の段階で,被告Y1らは野良猫に給餌することがあった。
  (2) 昭和63年か平成元年頃,本件店舗に雨漏りが発生し,猫の糞尿によると思われる異臭がしたことから,原告X1は家主の被告Y1に申し入れ,同被告において屋根の修理をした。この以前は,本件店舗の顧客から臭いとの苦情が出ることがあったが,屋根の修理後は苦情はなくなった。
  (3) 被告Y2らは,昭和63年に前記前提事実2の自宅に引っ越した。被告Y2は以前に暴力団に所属していたことがあり,原告らもこの事実を知っていた。被告Y2らが引っ越して来てまもなくの頃,被告Y2らの関係者が近くに駐車した際,原告らが駐車違反を警察に通報したものと誤解した被告Y2らが原告らに怒鳴り込んで来て,被告Y2において,「店できんようにしてもたろか。」とか「車のことでごちゃごちゃぬかしやがって。」などと言った。
    こうしたことから,原告らと被告Y2らは互いに好感情をもってはいなかったが,被告Y2らの子の入学等の祝賀パーティー等には,原告X1も近所の人達とともに参加はしていた。
  (4) 平成12年秋頃,被告Y1らは,交通事故で負傷した子猫を介抱し,餌を与えたりしていたが,その際,他の猫4,5匹も餌を求めて集まるようになった。大半は野良猫であるが,飼い猫も含まれていた可能性がある。そして,少なくともこの頃から,周辺を徘徊する野良猫が増え始め,平成13年には約10匹にまで増加していた。なお,被告Y1らは,負傷した子猫の排泄用に砂を入れた箱を自宅前の通路に用意し,砂を1日置きに取り替えていた。
    もっとも,周辺の地域には,被告Y1ら以外にも野良猫に餌を与える者はいた。
  (5) 平成13年頃には,原告らの自宅内や敷地内に野良猫が入り込んだり,敷地や建物の周り,あるいは本件店舗周辺に糞尿をしたりして,悪臭が漂うようになった。原告らが猫の糞尿の始末をしなければならないことも度々あった。
  (6) 原告らは,被告Y1が本件店舗賃貸人であることから,遠慮もあって,明確に野良猫に給餌することを止めるよう求めたことはないが,猫の糞尿の被害を被告Y1らに指摘することはあり,原告らが猫を嫌がっていることは,被告Y1らや被告Y3において把握していた。
    なお,本件調停申立後,原告らは被告Y1らに対し,野良猫に給餌することを止めるよう求めたが,同被告らは拒絶した。
  (7) 被告Y1らは,平成13年8月末頃までは野良猫に給餌していたが,本件訴訟提起(平成13年9月1日)後,野良猫に給餌することを中止した。また,野良猫のうち4,5匹を前記自宅建物の西側真向かいの建物内で飼育するようになった。
  (8) 原告X1は,精神的ストレスによる血圧上昇により,平成12年6月7日から丙病院で投薬治療を受け,同年10月4日からは不眠が強くなり,抗不安薬を服用している。

 2 原告らは猫の糞尿による異臭のため本件店舗営業に支障をきたすことがあったと主張するが,原告X1本人が前記1■のとおり,屋根修理後は顧客からの苦情はなくなったと供述していることに照らして,少なくとも平成13年頃以前には営業に支障が生じていたとまでは認められない。
   また,原告らは昭和62年頃から被告Y1らに野良猫への給餌の中止を求めていたと主張し,<証拠略>中にはこれに沿う部分があるが,原告X1が被告Y1から本件店舗を賃借している関係等からすると,原告らが被告Y1らに明確に給餌の中止を要請したとまでは認められない。

 3 証拠(<証拠略>)によれば,平成13年4月中頃,原告X1側から被告Y1に対し,本件店舗の賃借権を買ってくれる人がいたら譲ることを考えているという趣旨のことを言ったが,同被告は本件店舗賃貸借契約上権利売買は禁止されていることを理由にこれを拒絶したことが認められる。
   被告らは,本件調停申立や本件訴訟提起はこの権利売買申出拒絶に対する意趣返しであると主張するが,原告X1の申出自体が具体的なものでなく被告Y1に打診した程度のものであること,前記1で認定のとおり原告らは猫の糞尿等による被害を現実に受けていたことからすると,被告ら主張のように解することはできない。

 4 違法性等について
  (1) 前記1で認定の事実によれば,平成12年秋頃以降被告Y1らが野良猫への給餌を続け,その結果平成13年には多数の野良猫が原告らの自宅や本件店舗付近を徘徊し糞尿による悪臭が漂うようになったものであり,原告らが猫嫌いであることを前提とすれば,受忍限度を超えるに至っていたと認めることができる。
  (2) 被告Y1らは,明確に野良猫への給餌の中止を求められたことはないものの,原告らが猫嫌いであり,野良猫の糞尿等を苦痛に感じていることを知っていたのであるから,野良猫への給餌を続行することが原告らの迷惑になることは認識できたものであり,給餌を続行したことにつき過失がある。
  (3) 世の中には様々な嗜好の人々が存在し,猫等の小動物を好む人も多く存在する。こうした嗜好に基づく行動の自由はできる限り尊重されるべきではあるが,一方で猫,特にその糞尿等による臭いを嫌う人も多く存在し,現代社会,特に都会においては,このような他人に不快感を与えないようにする配慮も当然要請される。したがって,近くに猫嫌いの人がおり,自分が野良猫に餌を与えることにより付近に野良猫が集まるようになり,その結果,野良猫の糞尿により猫嫌いの人が大きな不快感を味わっていることを認識できる場合には,野良猫への給餌を中止すべきであり,給餌を続ける行為は,野良猫による被害が受忍限度を超えるものである以上は違法であるというべきである。
  (4) なお,<証拠略>中には,被告Y3が平成12年頃から猫の餌の購入を手伝ったりして,被告Y1らの野良猫への給餌に協力してきたとする部分があるが,これを裏付ける的確な証拠はないし,仮にそれに類した事実があったとしても,給餌の主体は被告Y1らであるということができるから,被告Y3に対し,その不法行為責任を問うことはできない。被告Y2が被告Y1らと共同して野良猫に給餌したことを認めるに足りる証拠はない。

二 被告らによる名誉毀損行為について
 1 証拠(<証拠略>)と弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 本件調停申立書(<証拠略>)の送達と第1回期日の呼出を受けた被告Y1らは,これに驚いて,被告Y2らに同申立書を見せた上対処方法を相談した。これに対し,被告Y2らは被告Y1らに同情し,特に被告Y3は,事前の話し合いもなく突如弁護士に依頼して裁判を起こしたとの考えから,原告らに立腹した。被告らは,いずれも調停と訴訟との相違を正確に理解していなかった。
    そして,平成13年6月21日,被告Y3は本件店舗に来て,原告X1に対し,被告Y1らから被告Y2らが依頼を受けたことを告げた上,「家1軒2軒売ってでも甲(本件店舗)と闘ってくれとうちの人(被告Y2)に頼みに来たので,最後まで責任をもってやらなあかんな。」などと言った。
  (2) 被告Y3と被告Y1は,平成13年7月頃,「Y4・Y1氏に対する訴え取下げの嘆願書」と題し,以下のような記述のある文書をもって,嘆願書への署名押印を求め,a区b通,c通,d通,e通,f等の住民に依頼して回った。その結果,200名を超える住民らが嘆願書に署名押印した。被告Y4と同Y2も嘆願書の内容は承知していた。
   ① X1・X2氏のY4・Y1氏に対する猫の給餌・糞尿に対する慰謝料請求について私たちは以下の理由でその訴えを取り下げることを嘆願します。
    ア X1氏の訴えるような猫による被害は近隣住民は受けていません。
    イ 近隣隣保で今まで温厚な交流のあった人間関係が,二百万もの高額な慰謝料請求が一方的になされることにより,歪められることが近隣住民として,納得できずその良識が疑われます。
    ウ 本来このような事柄は,近隣住民が互いに譲歩し,話し合うことでその解決が図られることが一番望ましいと考えられます。
   ② 以上の理由により,私はY4・Y1氏に対する慰謝料請求の訴えが取り下げられることを切望しここにその趣旨に賛同の上,署名捺印致します。
  (3) 被告Y1らは本件調停の第1,2回期日には出頭せず,第3回期日からは,被告Y2らの知人が代理人として出頭したが,結局調停は成立しなかった。
  (4) 原告らは被告らを名誉毀損罪で神戸地方検察庁に告訴したが,平成13年12月27日,同検察庁はいずれも不起訴とした。

 2 前記嘆願書の内容のうち,「訴え取下げ」や「二百万もの高額な慰謝料請求」という表現は,被告らが調停と訴訟との相違を正しく理解せず,あたかも通常の訴訟のように,当事者間の合意によるのではなく判決等の裁判により決着をみる手続を原告らがとったことを表現したものであり,嘆願書への署名押印を求められた住民らもそのように理解したであろうと容易に推認できる。「互いに譲歩し,話し合うことでその解決が図られることが一番望ましい」という表現は,一つの見識ではあるが,これも,調停が話し合いのための手続であることを無視したものであり,住民らに誤った印象を与えるものである。さらに,「X1氏の訴えるような猫による被害は近隣住民は受けていません。」という表現と相俟って,原告らは根拠もなく一方的に裁判に訴えたという印象を与える。
   以上のような表現は,原告らが一方的に近隣住民を裁判に訴えるような人物であるという悪印象を与え,原告らの社会的評価を低下させる性質を有するものであり,原告らの名誉を毀損するものであるということができる。

 3 裁判等について,その当事者や支持者が広く広報活動等をして多くの人の賛同を得ようとする行為は,もとより違法ではないが,嘆願書への署名押印を広く求めるにあたり,調停と通常の訴訟とを区別せず,同様の性質を有するものであるとの前提で,原告らが近隣住民を一方的に裁判に訴えたという内容の嘆願書をもって署名捺印を依頼して回る行為は,原告らの名誉を毀損する違法な行為であるというべきである。被告Y4及び同Y2も被告Y3及び被告Y1の嘆願書への署名押印を求めて住民らに依頼して回る行為を容認していたものであるから,被告らは共同不法行為責任を負うべきである。
   なお,被告らが調停と通常の訴訟の相違を正確に理解していなかったとしても,調停期日に出頭するなどして調停の性質を知ることは容易であったといえるから,この点について過失がある。

三 その他の違法行為について
 1 証拠(<証拠略>)と弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  (1) 被告Y3は,少なくとも平成12年10月頃以降,雨の日などを除いて,午前10時前後頃から室内の掃除をする際,室内犬(ヨークシャーテリア)を自宅前の通路上のゲージの中に入れて外に出し,犬が鳴いて就寝中の原告ら(原告らは仕事が深夜に及ぶ関係で就寝時刻,起床時刻とも一般より遅い。)がその鳴き声に驚かされて目覚めたりすることがあった。原告らはこのことで被告Y3に抗議等をしなかった。
    原告らは被告Y3に平成13年9月13日に送達された本件訴状で犬の鳴き声による被害にも触れていた。しかし,その後も被告Y3は同様の行為を続け,犬を外に出している時間が1時間を超えることも多くなった。また,被告Y1も犬を外に出す行為を手伝うようになった。
    犬の鳴き声は相当大きく,70メガヘルツに達することもあった。
  (2) 被告Y3は,平成13年9月23日,同年12月4ないし6日,9日,11日,13日,25日,平成14年1月7日,8日,10日,11日の午前中,掃除の際に自宅の窓を開け放して,ラジカセ等から大音量(時には80メガヘルツを超える)の音楽を流し,そのため原告らの睡眠が妨害されることがあった。
  (3) 被告Y3は,平成13年12月26日午前10時前頃,2度にわたり,自宅の窓を開けて,大声で「おばちゃん,おばちゃん。」と叫んだ。また, 同月27日午前9時過ぎ頃,被告Y3は,同じく自宅の窓を開けて,「おばちゃん,おばちゃん,甲(本件店舗)の前で猫が目むいて死んどうわ。」と叫び,原告X1はその声に驚き,血圧が上昇した。
  (4) 原告らは警察署に以上の騒音による被害を訴え,平成13年12月頃には警察官が被告Y3に対し迷惑をかけないよう注意したこともあったが,被告Y3による犬や音楽による騒音発生は継続された。原告らは平成13年末頃には自宅の窓を二重サッシに改造する工事をし,その結果耳に届く音量は相当低下した。
  (5) 被告Y3は,原告らが本件調停を申し立てた後,原告らの自宅付近の道路上で大きな声で原告らの本件調停申立を非難するようなことを叫び,原告らがこれを聞きつけることが何度かあった。
  (6) 平成13年7月6日,被告Y3は被告Y1とともに,原告X1が本件店舗営業のため10年以上豆腐購入の取引をしてきた乙のAに会い,被告Y3において,被告Y2らと長い付き合いがあり,同被告らに恩義を感じているAに対し,本件店舗に納入している豆腐は全部被告Y3が購入するから,本件店舗との取引を中止するよう要請した。その結果,乙は本件店舗との取引を中止し,原告X1は他から豆腐を購入しなければならなくなった。<証拠略>中には,上記■の認定に反する部分があるが,採用できない。<証拠略>によれば,被告Y3のAに対する働きかけを優に認定できる上,被告Y3本人も,原告X1に納入していた分を自分が買うという発言をしたかとの質問に対し,「冗談で甲(本件店舗)に入れておる分やったら,何ぼぐらい入れとったか知らんけどというて,そういう話はしました。」と答えて,事実上自分が本件店舗への納入分を購入するという話をしたことを認めており,さらに,乙から豆腐を5,60丁購入して近所に配ったことが何度もあるとも供述していることに照らして,上記認定は覆らない。

 2 違法性等について
  (1) 1(1)犬による被告Y3の騒音を発生させた行為のうち,本件訴状送達後,原告らがこれにより睡眠を妨害されるなどの迷惑を被っていることを知った以降の分は,違法である。また,1(2)の被告Y3の音楽による騒音を発生させた行為及び同(3)の同被告の言葉による騒音を発生させた行為も違法である。
    いずれの騒音も時には相当大きく,受忍限度を超える場合もあること,前記二で認定のとおり,被告Y3は原告らの本件調停申立に立腹しており,1(6)の行為までしたことに照らすと,上記の騒音を発生させた行為は原告らに対する悪感情から嫌がらせのためになされた行為であると推認できること等を総合すると,元々は掃除の際に窓を開放して犬を外に出すという日常生活の習慣から発したことであるとしても,違法という評価は免れないというべきである。
    上記のうち,犬による騒音を発生させた行為については,被告Y1も被告Y3に加担していたと評価できるから,共同不法行為責任を免れない。他の行為について被告Y1が,また上記の各行為について被告Y4,同Y2が加担したと評価できる事情は,証拠上認められない。
  (2) 1(5)被告Y3による近隣路上での原告らを非難する行為は,前記二の名誉毀損行為と相俟って,原告らの社会的評価を低下させる違法な行為であるということができる。
    この点についても,被告Y3以外の被告らが加担したことは証拠上認められない。
  (3) 1(6)の被告Y3及び被告Y1の行為は,原告X1の本件店舗営業を妨害する意図の下になされたことは明白であり,違法である。
    この点について,被告Y4,同Y2が加担したことは証拠上認められない。

四 被告らの信義則違反,権利の濫用の主張について
  被告らが主張するように,現代社会,特に都会においては,様々な人達が相接する形で生活しており,それぞれの日常生活における行動が,他人には迷惑と感じられる場合も多く存在する。したがって,その全てを当然に違法視することが相当でないことは明らかである。しかし,本件の,猫の糞尿等による被害,本件調停申立に端を発する名誉毀損行為及び騒音を発生させる行為等は,そのいずれもが被害の程度が受忍限度内のものとはいえず,関係被告において原告らの被害を知り,または少なくとも知ることができる状況の下でなされており,乙関係の営業妨害行為に至っては,明らかに原告らに対する悪意から出たものであり,これらを違法というを妨げない。
  原告X1本人と弁論の全趣旨によれば,本件店舗営業が深夜に及ぶことがあることや,顧客の立小便等により近隣住民が迷惑を被ったことがあることを認めることができるが,このような事実があるからといって,以上で認定した被告らによる違法行為の責任を追及することが,信義則違反や権利の濫用にあたると解することはできない。

五 損害
 1 猫の糞尿等による被害(原告ら)
  (1) 原告の主張,特に遅延損害金の起算日を平成13年8月1日としていること及び前記一の認定のとおり,本訴提起後は被告Y1らによる野良猫への給餌は中止したことに照らし,同日までの被告Y1らによる違法行為を対象として,損害を認定する。
  (2) <証拠略>と弁論の全趣旨によれば,原告X1は平成15年2月頃本件店舗営業を断念して本件店舗を被告Y1に明け渡す予定であることが認められ,この営業継続断念は,不況による顧客減少も影響したと考えられる一方,被告らとの本件の紛争により原告X1が心身とも疲労した影響も大きいものと推認でき,この点も斟酌するのが相当である。
  (3) 一で認定の各事情,本件店舗営業に対する猫の糞尿被害の影響に関する的確な証拠はないこと,原告X1の高血圧症に対する影響についても,加齢による影響もあったであろうといえなくはないこと,被告Y1らは本訴提起後は野良猫への給餌を停止したこと,被告Y1ら以外の者の給餌による影響も皆無とはいえないこと等本件に現れた諸般の事情を考慮すると,原告らに対する慰謝料は各20万円をもって相当と認める。

 2 名誉毀損行為による被害(原告ら)
   前記二の被告らによる名誉毀損行為について認定した各事情,その他諸般の事情を考慮すると,原告らに対する慰謝料は各30万円をもって相当と認める。

 3 被告Y3,被告Y1の犬による騒音を発生させた行為による被害(原告ら)
   前記三1(1),(4)及び2(1)の犬による騒音を発生させた行為について認定した各事情,その他諸般の事情を考慮すると,原告らに対する慰謝料は各5万円をもって相当と認める。
   なお,弁論の全趣旨によれば,上記行為について,原告らは本訴係属後も継続してなされていると主張していると認められるので,この関係の損害については,遅延損害金の起算日を口頭弁論終結の日である平成15年4月16日とする。

 4 被告Y3の音楽による騒音を発生させた行為及び言葉による騒音を発生させた行為による被害(原告ら)
   前記三1(2),(3),(4)及び2(1)の騒音を発生させた行為について認定した各事情,その他諸般の事情を考慮すると,原告らに対する慰謝料は各5万円をもって相当と認める。
   なお,この関係の損害については,平成14年1月11日までの不法行為を原告らは主張しているので,同日を遅延損害金の起算日とする。

 5 被告Y3の路上での非難行為による被害(原告ら)
   前記三1(5)及び2(2)で認定した各事情及びこの関係の被告Y3の具体的行為の態様,発した言葉,回数等が不明確であること等諸般の事情を考慮すると,原告らに対する慰謝料は各5万円をもって相当と認める。

 6 被告Y3,被告Y1の乙関係の営業妨害行為による被害(原告X1)
   前記三1(6)及び2(3)で認定した各事情,その他諸般の事情を考慮すると,原告X1に対する慰謝料は10万円をもって相当と認める。

 7 弁護士費用(原告ら)
   以上の被告らの不法行為と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害は,原告らそれぞれにつき各5万円(嘆願書関係の名誉毀損行為につき各3万円,その余につき各2万円)をもって相当と認める。そして,各被告に対する上記の認容額からすると,被告ら全員に各内金3万円につき賠償義務を負わせ,被告Y2を除く被告らに各内金2万円につき賠償義務を負わせるのが相当である。なお,各内金2万円に対する遅延損害金の起算日は最も遅い平成15年4月16日に統一することとする。

六 原状回復措置の請求について
  前記のとおり,被告らによる嘆願書関係の名誉毀損行為は,原告らの社会的信用を損なうものであるが,本件における名誉毀損行為の態様,嘆願書の全内容,本件調停申立に引き続き本訴が提起されたこと等を前提に,本訴において金銭賠償が認められることを考慮すると,原告らが求める原状回復措置をしなければ原告らの人格的価値に対する社会的,客観的な評価を回復できないとまではいえない。
  よって,本件において原告らの原状回復を求める請求は理由がない。


七 結論
  以上によれば,原告らの請求は以下の限度で理由があり,その余は理由がない。
 1 原告らの被告Y1らに対する各金20万円及びこれに対する平成13年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求
 2 原告らの被告らに対する各金33万円及びこれに対する平成13年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求
 3 原告らの被告Y3,被告Y1に対する各金5万円及びこれに対する平成15年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求
 4 原告らの被告Y3に対する各金10万円及び内金5万円に対する平成14年1月11日から,内金5万円に対する平成13年8月1日から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求
 5 原告X1の被告Y3に対する金10万円及びこれに対する平成13年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求
 6 原告らの被告Y3及び同Y1らに対する金2万円及びこれに対する平成15年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求
     神戸地方裁判所第5民事部

          裁判官   前   坂   光   雄

賃貸借契約に係る敷金契約に基づく敷金返還請求を一部認容した事例(東京簡裁平成14・9・27)平成14(ハ)3341 敷金返還請求 [小型犬(チワワ)を飼育していた事例]

* 最高裁判所判例検索による検索結果(PDF)

--------便宜のためのテキスト表示(改行が不正確となっている箇所あり)------


         主     文
1 被告は,原告に対し,金35万7360円及びこれに対する平成14年1月8日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを20分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。


         事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,金41万7000円及びこれに対する平成14年1月8日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
本件は,東京都M区a丁目b番c号所在鉄筋コンクリート造5階建マンションd号室30.13平方メートル(以下「本件建物」という。)を,被告から賃借して(以下「本件賃貸借契約」という。)敷金41万7000円を差し入れていた原告が,本件賃貸借契約を解約して,本件建物から立ち退いたのに,賃貸人である被告が敷金を返還しないとして,敷金41万7000円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 争いのない事実
(1) 原告は,被告から,本件建物を次の約定で賃借し,その際,原告は,被告に対し,敷金41万7000円を差し入れた。
① 賃貸借期間 平成12年4月19日から2年間
② 賃   料 月額13万9000円
③ 権 利 金 27万8000円
④ 敷   金 41万7000円
なお,敷金は,本件建物の明渡しがあったときは,遅滞なくその全額を無利息で返還しなければならない。ただし,本件建物の明渡し時に,賃料の滞納,原状回復に要する費用の未払その他本件賃貸借契約から生ずる賃借人の債務の不履行が存在する場合は,当該債務の額を敷金から差し引くことができる。この場合には,賃貸人は敷金から差し引く債務の額を賃借人に明示しなければならない。

(2) 本件賃貸借契約は,原告の解約申入れによって終了した。

(3) 原告は,被告に対し,平成13年12月31日到達の内容証明郵便により,敷金41万7000円を内容証明郵便到達後1週間以内に支払うよう催告した。

(4) 被告から,原告に対し,平成13年12月4日付け見積書で,原状回復費用として,本件建物内のクロス張替費用,クッションフロアー張替費用,玄関ドア交換費用,つり込み施工費,クリーニング費用及び残材処理費の名目で合計金50万0745円が提示された。

2 争点
 (1) 本件賃貸借契約に際し,作成された住宅賃貸借契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)の特約事項3項の効力
 (2) 原告が負担すべき原状回復費用の額

(被告の主張)
本件賃貸借契約書の特約事項3項は,「室内のリフォーム,壁,付属部品等の汚損,破損の修理,クリーニング,取替,ペット消毒については賃借人の負担でこれらを行うものとする」旨,更に,同7項は,「ペットを飼育する場合,甲(被告)へペットの写真を提出するものとする」旨それぞれ定めている。

ところで,原告は,ペット(犬)を飼育し,室内のみならず,ベランダにまで排尿させる状態であった。

通常,賃貸用マンションにおいては,ペット不可のところがまだ多いが,本件建物では,ペット可とした上で,ペットについては,動物臭や毛,のみ等衛生の問題も残るので,特約事項を挿入しているものであり,その合理性はある。一方において,賃借人のペットとともに生活する権利を肯定はするが,他方において,ペットと居住することによって生じる衛生等の問題点については,賃借人が負担するのが公平に合致する。これが,ペット可ということで,賃料を近隣の賃貸マンションの賃料相場より高く設定しているのであれば,ペットの飼育を認めることによる負担は賃料に含まれているとの解釈も可能かもしれないが,本件賃貸借契約の場合には,そのような事情は存在しない。

したがって,本件においては,特約事項第3項がストレートに適用されるべき事案であり,クロス張替料金について,被告が原告に請求するのは当然である。

玄関ドアについては,何箇所にもわたって,窪みが作られており,通常の用法では到底生じない損害が存在し,なおかつ修理では完全に補修できず,交換しかない。これは,原告の通常の使用によって発生した瑕疵ではなく,用法違反である。

被告が本件建物の原状回復に要する費用は次のとおりである。
① クロス張替え 洋間 壁 4万2900円
② 同 同 天井 1万1700円
③ 同 キッチン 壁 3万6400円
④ 同 同 天井 1万4300円
⑤ 同 玄関 壁 2万0800円
⑥ 同 同 天井    3900円
⑦ 同 トイレ 天井 壁 1万9500円
⑧ クッションフロアー張替え 8万7400円
⑨ 玄関 鉄ドア 交換  15万0000円
⑩ つり込み施工費 3万5000円
⑪ 1DKクリーニング 5万0000円
⑫ 残材処理費    5000円
⑬ 消費税 2万3845円
合計金 50万0745円

(原告の主張)
本件賃貸借契約は,原告の解約申入れにより終了したが,被告から,原状回復費用として,平成13年12月4日付けで,本件建物内のクロス張替費用,クッションフロアー張替費用,玄関ドア交換費用,つり込み施工費,クリーニング費用及び残材処理費の名目で合計金50万0745円もの見積書が提示された。

しかしながら,原告は,本件建物を僅かに1年半強しか使用しておらず,本件建物について,通常の損耗以外に特別の損害を与えた事実はない。

したがって,甲第3号証に記載された費用は,いずれも原状回復費用として支払う必要のないものである。

第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 証拠によれば,次の事実が認められる。
① 原告は,被告に対し,本件建物を平成13年12月初旬に明け渡したこと。

② 本件賃貸借契約書の15条1項には,「乙は,本契約が終了する日までに(括弧内の記載は省略)本物件を明渡さなければならない。この場合において,乙は,乙又はその同居人,関係者の故意又は過失の行為により,本物件又は本物件の属する建物に破損,汚損,故障その他損害(喫煙による汚損を含む。)を生じさせたときは,甲の承諾のもとに,乙の費用負担で,本物件又は本物件の属する建物を原状回復しなければならない。但し,乙が任意に原状回復をしない場合には,甲は,乙の費用負担のもとに,原状回復することができる。」旨定められていること。(「乙」は原告を,「甲」は被告を意味する。)」

③ 本件賃貸借契約書の特約事項3項には,「本契約,解約時に於ける室内のリフォーム,壁,付属部品等の汚損,破損の修理,クリーニング,取替,ペット消毒については賃借人の負担でこれらを行うものとする。尚,この場合専門業者へ依頼するものとする。」旨定められていること。

(2) ところで,通常の建物の賃貸借において,賃借人が賃借建物を返還するに際して負担する「原状回復」とは,賃借人の故意,過失による建物の毀損や,通常の使用を超える使用方法による損耗等について,その回復を約定したものと解するのが相当であって,賃借人の居住,使用によって通常生ずる建物の損耗についてまで,それがなかった状態に回復すべきことまで求めているものではないというべきである。

しかし,修繕義務に関する民法の原則は,任意規定であるから,借地借家法の趣旨等に照らして無効とするほど賃借人に不利益な内容の合意でない限り,当事者間の合意によって,民法と異なる内容の合意をすることも許されるものと解される。

(3) そこで,上記の解釈を前提として,本件賃貸借契約書の特約事項3項の合意の効力を検討すると,「室内のリフォーム」については,何らの限定もなく賃借人が室内のリフォームの費用を負担するという合意は,室内のリフォームは,大規模な修繕になることからすると,借地借家法の趣旨等に照らして無効といわざるをえず,また,「壁,付属部品等の汚損,破損の修理,クリーニング,取替」については,その文言からすると,本件賃貸借契約書15条1項に定める「原状回復」と同じことを定めたに過ぎないと解される。

しかし,「ペット消毒については賃借人の負担でこれらを行うものとする。尚,この場合専門業者へ依頼するものとする。」との合意は,ペットを飼育した場合には,臭いの付着や毛の残存,衛生の問題等があるので,その消毒のために,上記のような特約をすることは合理的であり,有効であると解される。

2 争点2について
(1) 証拠によれば,次の事実を認めることができる。
① 本件建物に居住したのは,原告の長女であるA(契約当時20歳)であり,同人が本件建物に居住した期間は,1年7か月強であること。
② Aは,本件建物内において,小型犬であるチワワを飼育したこと。

(2) 上記1(2)の解釈及び(3)検討の結果に基づき,被告主張の原状回復費用について,個別に検討する。

① 被告の主張①ないし⑦の洋間,キッチン,玄関及びトイレのクロス張替えについて
  クロス張替えの根拠に関する主張が,本件賃貸借契約書の特約事項3項の「室内のリフォーム」に当たるとすれば,その理由がないこと上記説示のとおりであり,本件賃貸借契約書15条1項の「原状回復」に当たるとすれば,賃借人の故意,過失によって上記クロスを破損,汚損その他の損害を生じさせた事実を認めるに足りる証拠はない。また,ペット飼育による消毒のためであれば,クロスを張り替えるまでの必要性は認められない。

② 被告の主張⑧のクッションフロアー張替えについて
証拠によれば,クッションフロアーに,Aがつけたと推認される煙草のこげ跡とみられる損傷が存在し,その修理費(部分補修)として,3800円を要することが認められる。
上記の費用以外には原告が負担すべき費用のないこと,上記①のクロス張替えに関する説示と同様である。

③ 被告の主張⑨の玄関の鉄ドアの交換について
  証拠によれば,玄関の鉄ドアの外側の部分に傷がついていることが認められるが,傷は居室の外部についているのであって,賃借人の故意,過失によってその傷がつけられた事実を認めるに足りる証拠はない。

④ 被告の主張⑩のつり込み施工費について
証拠によれば,つり込み施工費は玄関鉄ドアの交換に際し必要とされる費用とのことであるから,玄関鉄ドアの交換が認められない以上発生する費用ではない。

⑤ 被告の主張⑪の1DKクリーニングについて
上記説示のとおり,ペット消毒については賃借人の負担でこれを行う旨の合意は有効と解されるのであり,1年7か月強の賃貸借期間中,仮に,Aが証言するように,本件建物内で犬を飼育した期間が100日くらいであり,殆ど飼育用のゲージ内で飼育していたとしても,臭いの付着や毛の残存,衛生の問題から室内を消毒する必要性のあることが認められる。被告から消毒費用としての具体的な主張立証はないものの,室内クリーニングによって,実質的に消毒的な効果が代替され得るものと思われるし,証拠によれば,Aは,洗面所の鏡の周囲にシールを貼り,そのままで退去した後,被告がクリーニング費用の費目で原状回復したことが認められるので,1DKクリーニング費用5万円は原告の負担とするのが相当である。

⑥ 被告の主張⑫の残材処理費について  
上記説示のとおり,クッションフロアーに部分補修を必要とする煙草のこげ跡とみられる損傷が存在し,その残材を処理する必要性が認められるところ,証拠によれば,その費用は,残材の量の多寡ではなく,主に人件費であると認められるが,被告の主張では大量の残材を処理することが予定されていたのに,上記のとおり原告の負担とされる部分は少量の残材分にしか過ぎないのであるから,残材処理費は3000円の範囲内で原告の負担とするのが相当である。

(3) 上記検討の結果によれば,クッションフロアーの部分補修費用3800円,1DKクリーニング費用5万円,残材処理費3000円及びそれらの消費税2840円の合計金5万9640円が原告の負担すべき費用となる。

3 以上によれば,原告の請求は,原告が被告に預け入れた敷金41万7000円から,上記原告が負担すべき費用である5万9640円を控除した35万7360円の支払を求める限度で理由があるが,その余の請求は理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京簡易裁判所民事第1室
      裁 判 官   若 生 朋 美

動物の飼育が禁止されていることを知った上で入居する場合には、犬の飼育を許可する権限ある者の承諾がなければ入居し得ないとした事例(京都地裁平成13・10・30)平成12(ワ)3097 建物明渡請求 [中型犬(シェットランド・シープドッグ)を飼育。建物明渡請求を認容]

平成13年10月30日京都地方裁判所
平成12(ワ)3097建物明渡請求


* 最高裁判所判例検索による検索結果(PDF)

--------便宜のためのテキスト表示(改行が不正確となっている箇所あり)------

主文

1 被告は,原告に対し,別紙物件目録2記載の建物部分を明渡し,かつ,平成12年11月14日より同明渡し済みに至るまで1か月金19万6500円の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は1項に限り仮に執行することができる。

事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 主文同旨
(2) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 原告は,平成8年6月5日,被告の父訴外Aに対し,原告代表者の母訴外B所有の別紙物件目録2記載の建物部分(以下「本件建物部分」という。)を次の約定で賃貸した(以下「本件契約」という。)。
    賃料月額    10万9000円
    共益費用月額     8000円
特約1  賃借人が契約違反により契約を解除されたときは,解除の日の翌日より明渡し済みに至るまで,1か月につき賃料等の1・5倍の割合による損害金を支払う。
  2  賃借人は建物において動物を飼育しないこと
(2) Aは,平成10年5月3日死亡した。
(3) 被告は,平成10年8月7日,Aの賃借人の地位を承継し,同年6月より駐車料月額1万4000円を支払うことを約した。
(4) ところが,原告は,平成12年9月中旬,被告が前記特約2に違反して本件建物部分で犬を飼育していることを発見した。
(5) そこで,原告は平成12年10月4日,管理会社を通じて被告に対し,犬の飼育を直ちにやめるように申し入れたが,被告はこれに応じなかっ  た。
(6) やむなく,原告は,平成12年11月13日被告に手渡した通知書で本件契約を解除した。
(7) よって,原告は,被告に対し,本件契約終了に伴う原状回復請求権に基づき,本件建物部分の明渡しと平成12年11月14日(解除の日の翌日)より同明渡済みに至るまで1か月金19万6500円(賃料,共益費,駐車料の月額の1・5倍相当)の割合による損害金の支払いを求める。

2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)ないし(6)はすべて認める。

3 抗弁
(1) 動物飼育に対する承諾
  ア 被告は,犬の飼育について,本件契約当時本件建物部分の管理会社であった訴外株式会社S興産(以下「S興産」という。)の担当者訴外Cから承諾を得た上で,本件契約を締結し,本件建物部分に入居した。
  イ Cは,犬の飼育について賃借人に承諾を与える権限を有していた。
(2) 信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない事情
   ア 1階に住む管理人,他の入居者から被告に苦情がきたことはない。
イ 管理人は黙認していた。
   ウ 他の賃借人も犬を飼っている。
4 抗弁に対する認否
  (1) 抗弁(1)アの事実のうち,Cから承諾を得たとの事実は否認し,その余は認める。
      同イの事実は否認する。
  (2) 抗弁(2)の事実は,不知もしくは否認する。


理由
第1 請求原因について
  請求原因(1)ないし(6)の事実については当事者間に争いがない。
第2 そこで,抗弁について次のとおり判断する。
 1 (1) 抗弁(1)アについて
     ア 被告本人尋問において,被告は本件契約締結の際にCから犬の飼育について承諾を得たと供述するのでその信用性について検討する。
     イ 被告が本件契約締結の際,既に犬を飼っていたこと(弁論の全趣旨),被告は契約書をCから受け取り,動物の飼育が禁止されていることを知った上で本件建物部分に入居したこと(被告本人尋問の結果)等の事実が認められ,かかる状況の下であれば,犬の飼育について承諾がなければ入居し得ないと考えるのが合理的であるから,被告の供述は信用できる。
    ウ これに対し, 証人Cは本件契約に際して被告に対して,犬の飼育を許可したか否かついては記憶がない旨証言するが,承諾について否定まではしておらず,その他に上記認定を覆す証拠はない。
     エ よって,抗弁(1)アの事実が認められる。

(2)抗弁(1)イについて
  ア 証人Cは,自分はS興産の管理部の担当者ではなく,仲介業務をしているにすぎないと証言するが,被告は,家賃額,共益費,敷金,入居時期,契約期間等,契約締結上での主要事項をすべてCとの間で交渉した上で決めていること(乙13),平成10年に行われた本件契約更新も被告はCとの間で行っていること(乙13)等の事実が認められるから,Cは本件契約に関して,契約締結の代理権限を有していたことが認められる。
  イ しかし,S興産代表取締役DはCに対し,犬の飼育を許可していないことが認められ(甲11),他に本件全証拠によっても原告からS興産に対し,犬の飼育について許可する権限を与えた事実を認めるに足りる証拠はないから,Cは本件契約の禁止条項に反して犬の飼育を許可する権限を有していなかったことが認められる。
  ウ よって,抗弁(1)イの事実は認められない。

(3) 以上によって,抗弁(1)は理由がない。

 2 抗弁(2)について
  (1) 誓約書第4条(4)項(甲3)を双方の合意で定めた趣旨は,動物が部屋を損傷すること,動物特有の臭いが部屋にしみ込み,これがなかなかとれず,次の賃借人が入居を嫌うこと,近隣の入居者から動物の苦情がきて賃貸人が困ることにある。
    したがって,本件において,賃貸人,賃借人相互の信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない事情があるか否かは上記条項の趣旨に鑑みて判断するのが相当である。
  (2) そこで,抗弁(2)の事実について判断する。
      証拠(甲第8ないし16号証,乙第1号証,被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。
      ア 被告が飼育している犬は雄の中型犬(犬種はシェットランド・シープドッグ)であり,現在生後8年である。
      イ 本件マンション近隣の訴外E宅で同種の犬を飼っている。
      ウ ベランダを開けると,上記犬の鳴き声に呼応して被告の犬が吠える。
      エ N工務店社員Fが被告宅に訪問した際,玄関から犬独特の臭いが感知され,犬の掻き傷がそこここに見受けられた。
      オ 被告の近隣の居住者(3A号室,1B号室,2B号室)から現管理会社N工務店に対し,苦情がでている。

(3) 上記認定事実によると,被告が飼育している犬は中型犬で,愛玩用の小型犬のように屋内で飼うことに無理がある犬種であり,吠えないような特別の訓練等が施されておらず,鳴き声等に悩む近隣の入居者の苦情や本件建物部分にしみついた犬の臭気や犬の掻き傷により,原告が非常に迷惑していることが認められる。
    これに対し,被告は本人尋問において,自らは管理人,他の入居者から苦情を受けておらず,管理人も犬の飼育を黙認し,他の賃借人も同様に犬等を飼っている旨供述するが,かかる事実が認められたとしても上   記認定事実からすると原告との信頼関係を破壊すると認めるに足りない事情があるとはいえない。

(4) よって,抗弁(2)は理由がない。

第3 結論
 よって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を,仮執行宣言につき同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。

   京都地方裁判所第1民事部
             裁判官     阿  部  靜  枝

マンションにおける犬の飼育差止請求及び弁護士費用相当額の損害賠償請求が認容された事例(東京地判平成8・7・5、判時1585・43)[分譲★]→控訴

事例目次へ・同一マンションでの別の事例を見る

last update 02 December 1999
□ 一、区分所有権者の規約違反行為の差止請求訴訟におけるマンション管理組合の原告適格が肯定された事例
  二、マンションにおける犬の飼育差止請求及び弁護士費用相当額の損害賠償請求が認容された事例
犬の飼育禁止差止請求事件、東京地裁平六(ワ)一七二八一号、平8・7・5民二五判決、一部認容、一部棄却(控訴)

判例時報1585号、43頁。

《参照条文》 一につき、建物区分所有法五七条、民事訴訟法四六条

       二につき、建物区分所有法六条・三〇条、民法七〇九条

 

原告          p管理組合

右代表者理事      P

右訴訟代理人弁護士   ------

被告          D

右訴訟代理人弁護士   ------

 

主 文

一 被告は、別紙物件目録記載の物件内で犬を飼育してはならない。

二 被告は原告に対し、金四〇万円及びこれに対する平成六年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三 原告のその余の請求を棄却する。

四 訴訟費用は被告の負担とする。

五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第一 請求

1 主文第一項と同旨

2 被告は原告に対し、金六〇万円及びこれに対する平成六年九月十八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

  本件は、マンションの管理組合である原告が、その構成員であり、専有部分で犬を飼育している被告に対し、管理組合規約の規定に基づき、マンション内での犬 の飼育に中止を求めるとともに、被告が原告の飼育中止の要請を拒否して犬の飼育を継続し、原告をして弁護士を依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくさせた ことが原告に対する不法行為に該当するとして損害賠償を請求した事案である。

 一 争いのある事実等(認定事実は証拠を示す。)

  1 原告は、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」)三条に基づき、区分所有者全員で構成されている、別紙物件目録記載の一棟の建物(以下 「本件マンション」という。)を含む五棟の共同住宅とその敷地及び付属設備の管理を行うための団体(管理組合)であり、同法三〇条に定められた規約(以下 「本件規約」という。)を有し、右規約に基づき、全組合員で構成する総会により理事長を選任する法人格なき社団である。

 2 被告は、昭和五八年七月末に本件マンション×××号室(別紙物件目録記載の専有部分)に入居し、以来居住している同質の区分所有者であり、本件管理組合の組合員である。

  3 本件規約二四条は、「管理組合は、共用部分の管理及び使用に伴う共同生活の円滑な運用をはかるため、区分所有者及び居住者が守るべき事項について別に 細則を定めるものとする。」と規定しており、原告はこれに基づき「共同生活の秩序に関する細則(以下「本件細則」という。)」を定めた。

 4 右細則の二条(2)(以下「本件規定」という)は、組合員が、「小鳥及び魚類以外の動物を飼育すること」を禁じている。

  5 ところが、細則の右規定に違反して犬猫を飼育する区分所有者がいたことから、昭和六一年六月一日の管理組合総会において、同時犬猫を飼育中の組合員に より構成されるペットクラブを設立させ、ペットクラブの自主管理の下で、当時飼育中の犬猫一代限りにつきその飼育を認めることを決議し、同年七月二六日、 右決議に基づき、当時のペット飼育者らが集まり、ペットクラブが発足した。

 6 被告は、平成四年八月以降現在に至るまで、自宅でシーズー犬(以下「本件犬」という。)を飼育している。

 7 原告は、平成五年八月二九日から、被告に対し、本件犬の飼育を中止するよう申し入れたが、被告は、同年一〇月一一日ころ、原告に対し、犬の飼育を続ける旨回答し、その後も犬の飼育を続けている。

 8 本訴の提起については、平成六年五月二九日、管理組合総会において承認された。

 二 争点

 1 本案前の争点

 原告に当事者適格が存するか。

 (一) 被告の主張

  本件犬の飼育差止め請求は、区分所有法五七条に基づく請求であるところ、同条三項によれば、訴訟追行権を有するものは「管理者又は集会において指定された 区分所有者」とされており、権利能力なき社団である原告には訴訟追行権は付与されていない。仮に、原告に当事者能力が認められるとしても、本件規約六八条 三項は、理事長が差止め等必要な措置を取るにつき理事会の決議を必要と定めているのであり、原告の訴訟提起についても、右規定の準用により、理事会の決議 が必要と解すべきである。

 (二)原告の主張

  本件犬の飼育差止め請求は、区分所有法五七条に基づく請求ではなく、本件規約上の義務に違反する行為に対する差止め請求であるところ、本件規約は原告と被 告の直接の法律関係を定めるものであって、原告は本件請求に係る権利の主体である。したがって、原告は民訴法四六条の規定に基づき、自己の名において訴訟 を提起することができる。

 2 本案の争点

 (一)本件規定の解釈上、被告による本件犬の飼育が本件規定に違反する行為か。本件規定により犬の飼育の差止めを求めることは権利濫用となるか。

 (二)本件規定が平等原則違反となるか。

 (三)原告の要求を拒絶し、本件犬の飼育を継続した被告の行為は原告に対する不法行為となるか。

 3 本案の争点に関する被告の主張

 (一)本件規定の解釈と被告による本件犬の飼育について

  犬をはじめとするペットを飼育する権利は、憲法一三条及び二九条によって保障された重大な権利であり、かかる重要な権利を制限するについては、本件規約及 び本件規定の弾力的解釈を通じ、対立する利益との比較衡量により、できるかぎり最小かつ合理的な制限にとどめるべきである。現在、ペット飼育の重要性が社 会的に認知されつつあり、東京都がマンションにおけるペット飼育の在り方を模索するなど、マンションにおけるペット飼育を許容する条件が整いつつある。ま た、本件マンションにおいても、被告のペット飼育を是認する住民が多数存在する。このような状況を考慮すれば、本件規定は、ペット飼育による被害が他のマ ンション住民に具体的に発生している場合ないし被害が発生する蓋然性が存在する場合に限り飼育を禁止する趣旨に解されるべきである。

 しかるに、被告の飼育している本件犬は、小型のシーズー犬であり、右犬を飼うことにより他のマンション住民に対して何らの被害も与えていないから、被告による本件犬の飼育は本件規定に違反しない。

 仮に右のような解釈ができないとしても、本件において、具体的被害なくして差止め請求するのは権利の濫用として許されない。

 (二)平等原則違反について

 ペットクラブの会員と被告との間でペット飼育に差別を設け、ペットクラブの会員のみに飼育を認める取扱いには合理的理由はない。非会員にのみ適用される本件規定は憲法一四条に違反するのであって、その効力は認められない。

 (三)不法行為の成否について

 被告は原告の要求に対し誠実に対応してきたものであり、被告の行為は不法行為に当たらない。むしろ、原告が、一方的に飼育中止を強制してきたものである。

 4 本案の争点に関する原告の主張

 (一)本件規定の解釈と犬の飼育禁止について

  マンション内のペット飼育は、鳴き声による騒音、排泄物による臭気、咬傷事故の可能性等、周囲の区分所有者に対する影響が大きいものであって、区分所有法 六条一項の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するものであり、区分所有者相互間における専有部分の使用を調整するために必要な事項として、管 理組合はペット飼育に関する規約を定めることができるものである。本件規定は合理的理由に基づくものであるから有効であることはもちろん、本件規定は、具 体的な迷惑行為が生じないように事前にルールを定めたものであって、ペット飼育により実害が生じた場合のみ適用されるものではない。

 被告主張のように限定的に解釈すべき理由はなく、被告の本件犬による具体的被害の有無を問わず、差止め請求認められるべきである。

 (二)平等原則違反について

 本件ペットクラブの設立については、あくまでも例外として一時的な猶予期間を定めたものであり、現在飼育している居住者は一代限りでしか飼育を認められないので、いずれは犬猫は消滅する運命にあり、本件ペットクラブは一時的暫定的な措置にすぎない。

 (三)不法行為の成否について

  被告は原告の度重なる本件犬の飼育中止要求を一年以上も無視し続け、また、本件訴訟提起を決議した組合員総会において、裁判は受けて立つと発言するなどし て挑発的言動を示したものであり、原告をして、弁護士に依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくさせた。被告の右行為は原告に対して不法行為となるもので あって、被告の右不法行為により原告は弁護士費用相当額金六〇万円の損害を被った。

第三 争点に対する判断

 一 本案前の争点について

  本件の飼育差止め請求は、原告が、被告による犬の飼育が本件規約に基づき定められた本件規定に違反するとして、その差止めを求めるものであるところ、規約 は区分所有者に対して効力を生ずるのであり(区分所有法三〇条、四六条参照)、区分所有者は規約において定められた義務を遵守しなければならないが、規約 は管理組合内部の規範であるから、そこに定められた義務は区分所有者の管理組合に対する義務であり、これに対応する権利は法人格なき社団としての管理組合 に帰属する。したがって、管理組合は、民訴法四六条に基づき自己の名において差止め訴訟を提起することができる。被告の主張には理由がない。

 また、被告は、理事会の決議の有無を問題とするが、前記争いのない事実等一8のとおり、本件訴訟の提起については管理組合総会の決議を経ているのであるから、少なくとも本件において理事会の決議が必要とされるものではなく、被告の主張には理由がない。

 二 本案の争点について

 1 飼育差止め請求について

 (一)本件規定の解釈について

  被告は、ペットを飼育する権利が、憲法一三条及び二九条によって保障された重要な権利であることを理由に、本件規定は、ペット飼育による被害がマンション 内の他の住民に具体的に発生している場合ないし被害が発生する蓋然性が存する場合に限り、飼育を禁止する趣旨に解されるべきである旨主張する。

  ペットの飼育は、飼主が飼主としての責任を果たし、愛情をもって飼育する限り、動物との触れ合いを通じて飼主及びその家族がより豊かな生活を享受すること を可能にするののであるから、広義においては個人の幸福追求にかかわるものであるということができるが、それが、憲法一三条後段にいう「幸福追求に対する 国民の権利」に含まれるか否かは別として、人格権、プライバシーの権利のように個人の人格そのものにまつわる権利と同一視することはできず、あくまでも他 人に迷惑をかけない限りにおいてペットを飼育するか否かの決定を自由に行うことができるというにとどまる(なお、憲法一三条後段にいう「幸福追求に対する 国民の権利」は、同条前段の個人の尊重の原理を受けているが、ここにいう個人の尊重の原理とは他人の犠牲において自己の利益を主張しようとする利己主義を 意味するものではないことはいうまでもないし、同条後段は、「幸福追求に対する国民の権利」についても、公共の福祉に反しない限りにおいて立法その他の国 政の上で最大の尊重を必要とするものであり、他人の権利、自由との矛盾、衝突のある場合に調整原理が働くことを明示的に定めているのであって、「幸福追求 に対する国民の権利」を主張する場合にはこれらの点に留意する必要がある。)。また、被告の本件犬に対する財産権は保障されるが、本件マンション内におい て本件犬を飼育することができるか否かは財産権の保障とは別の問題である。

  ペットの飼育は、動物の種類、生態、飼育環境、飼育方法等により他人の権利、自由と衝突することを免れない場合がある。公共の交通機関や施設、他人の店舗 等に持ち込む場合において顕著であるが、多数の人々が一棟の建物を区分所有している場合にも、各人の生活の場に不可避的に接点が生ずることとなるから同様 の問題がある。すなわち、このような建物においては、さまざまな価値観を有する人々が互いに節度を維持し、共存していかなければならないのであるが、ペッ トを自ら飼育したいと考え、又は他人がペットを飼育することに理解を示す人々があり得る反面、動物の鳴き声、臭気、体毛等を生理的に嫌悪し、あるいはそれ に悩まされる人々もあり得る。また、飼主が十分注意するにしても、動物による病気の伝染の危険等、衛生面の問題を完全に払拭することはできない。したがっ て、共用部分については、ペットの飼育がその用法に含まれる場合は別として、ペットの飼育のためn利用することができないことはいうまでもないが、飼主の 専有部分のみにおいてペットを飼育するにしても、一棟の建物の構造上他人の専有部分の利用に影響せざるを得ない場合があるから、ペットの飼育について区分 所有法の規定に従い規約でその調整を測ることは当然許容されるものというべきである。

  すなわち、マンションは入居者が同一の建物内で共用部分を共同して利用し、専有部分も上下左右又は斜め上若しくは下の隣接する他の専有部分と相互に壁や床 等で隔てられているにすぎず、必ずしも防音、防水面で万全の措置が取られているわけではないし、ベランダ、窓、換気口を通じて臭気が侵入しやすい場合も少 なくないのであるから、各人の生活形態が相互に重大な影響を及ぼす可能性を否定することはできない。したがって、区分所有者は、右のような区分所有の性質 上、自己の生活に関して、内在的な制約を受けざるを得ないものと考えられる。

  区分所有法六条一項は、右内在的制約の存在を明らかにしており、その一棟の建物を良好な状態に維持するにつき区分所有者全員の有する共同の利益に反する行 為、すなわち建物の正常な管理や使用に障害となるような行為を禁止するものである。そして、右の共同の利益に反する行為については、区分所有者は管理規約 においてこれを定めることができるものとされている(同法三〇条一項)。

  そして、マンション内における動物の飼育は、建物の構造上前記のような問題点があることからすれば、糞尿によるマンションの汚損や臭気、病気の伝染や衛生 上の問題、鳴き声による騒音、咬傷事故等、建物の維持管理や他の居住者の生活に有形の影響をもたらす危険があることはもちろんのこと、動物の行動、生態自 体が他の居住者に対して不快感を生じさせるなどの無形の影響をも及ぼすおそれのある行為であるといわざるをえない。たしかに、飼主が責任を持って必要な措 置を十分に執れば、動物の種類、生態等によっては、右のような有形、無形の影響を及ぼす危険、おそれを実際上無視し得るほど小さくすることは可能であるも のの、飼主の生活領域内での飼育であるだけに飼主及びその家族の良識と判断にゆだねざるを得ず、遺憾ながら規範意識、責任感、良識に欠ける者がペットを飼 育する可能性を否定できない。そうすると、居住者の自主的な管理にゆだねることは限界があり、大方の賛同を得ることは困難である。また、具体的な実害が発 生した場合に限って規制することとしたのでは、右のような不快感等の無形の影響の問題に十分対処することはできないし、実害が発生した場合にはそれが繰り 返されることを防止することも容易ではないことが考えられる。したがって、規約の適用に明確さ、公平さを帰すことに鑑みれば、右禁止の方法として、具体的 な実害の発生を待たず、類型的に前記のような有形、無形の影響を及ぼす危険、おそれの少ない小動物以外の動物の飼育を一律に禁止することにも合理性が認め られるから、このような動物の飼育について、前記共同の利益に反する行動として、これを禁止することは区分所有法の許容するところであると解するのが相当 である。

 したがって、本件規定について被告の主張するような限定解釈を加える必要はなく、本件マンションにおいて犬を飼育することは、共同生活上の利益に対する具体的被害やその蓋然性の有無にかかわらず、それ自体で本件規定に違反する行為というべきである。

 (二)権利濫用について

 《証拠略》及び前記争いのない事実等3、4によれば、以下の事実が認められる。

    (1) 本件規定が定められた後、本件規定に違反して犬猫を飼育する者がおり、管理組合に苦情が寄せられた。そこで、当時の管理組合の理事らは、現実 的な妥協策として、違反者を管理組合の管理下におき、当該犬猫一代限りでのみ飼育を認めることにより、歳月の経過とともに違反者を皆無とし、細則が遵守さ れた状態を実現することを目的として、昭和六一年六月一日、当時犬猫を飼育中の組合員を構成員とするペットクラブを設立し、自主管理の下で一代限りの飼育 を認めることを管理組合総会に諮り、賛成多数で承認された。

    (2) 同年七月二六日、右総会決議に従い、ペットクラブが結成され、ペットクラブ規約を定め、役員の選出等を行った。原告は、管理組合ニュースにより ペットクラブの発足を全組合員に公表するとともに、ペットクラブの全員の指名[ママ]、住所、電話番号、犬猫の種類及び匹数をも公表し、ペットクラブ会員 以外に犬猫を飼っている者を見かけた場合には、管理事務所に届け出るよう呼びかけた。そのころ以後、新たに犬猫の飼育を開始した者で、ペットクラブ会員以 外に、犬猫の飼育が管理組合に認められた例はない。

   (3) ペットクラブの会員数及びその飼育する犬猫の数は減少を続け、平成七年八月ころにはいずれも半数になった。

   (4) 本件マンションは、一四階建ての居住用の分譲マンションであり、動物の飼育を配慮した設計、構造にはなっていない。

  以上、認定の事実によれば、本件マンション内における犬猫の飼育を一律に禁じる本件規定を受けて、原告は区分所有者の共同の利益の保護のために、本件規定 の違反者を皆無とすべく、ペットクラブを設ける一方で、右クラブが歳月の経過により自然消滅するような構成にして本件規定の遵守を組合に対して求めてお り、その方針は多くの区分所有者の協力を得て浸透していることは明らかである。原告の執った右措置は、区分所有者の共同の利益の保護実現を目指しつつ、既 に飼育していた犬猫が寿命を全うできるように配慮した経過措置であって、その内容を公表したことと併せて十分合理的なものであるということができる。被告 は、本件規定のみならず右の事情を知りながら、平成四年八月に本件犬の飼育を始めたものであり、このような本件規定に違反する行為を放置していては規律を 保つことができないこととなるから、原告が、本件規定に基づき被告に対し犬の飼育禁止を請求することは、権利の濫用にも該当しないというべきである。

  被告は、ペットの飼育の重要性を強調するが、ペットの飼育は、飼い主の生活を豊かにし、ペットが飼い主やその家族にとって、かけがえのない存在となる場合 のあることは否定できないとしても、被告の主張するペット飼育の重要性を肯定するか否かは、多分に個人の主観にかかわるものであって、そのような認識を他 人に強要することはできないところ、前述のとおり、本件規定は本件マンション内における犬猫の飼育を一律に禁止しており、このような禁止も合理性がある以 上、実害の有無を問わず、飼育を禁じられるというべきである。また、被告の主張中には、ペット飼育の重要性が社会的に認知されつつあり、東京都等がマン ションにおけるペット飼育の在り方を模索するなど、マンションにおけるペット飼育を許容する条件が整いつつあること、本件マンションにおいても、被告の ペット飼育を容認する住民が多数存在することを理由に、本件規定を制限的に解釈すべきと主張する部分も存するが、本件訴訟の提起が、管理組合の総会におい て承認されている(前記争いのない事実一8)事実からすれば、本件マンションにおいて、住民の多数が犬猫の飼育を是認しているものとは認めることができな い。被告の主張は採用できない。

 (三) 被告は、また、ペットク ラブの会員に犬猫の飼育が認められていることに比して、被告のような非会員がペットの飼育を認められないことは平等原則に反すると主張する。しかしなが ら、前記(二)で認定したとおり、原告は、当時の飼育者に配慮しつつ、将来的に、時間の経過とともに違反者を皆無にするための現実的な妥協策として、ペッ トクラブを設立したものにすぎず、ペットクラブの会員も、新たな犬猫の飼育は禁止されているのであるから、本件規定の適用を受けるものであることは明らか である。以上によれば、ペットクラブの会員にのみ、一代限り飼育を認めることには合理的理由があるというべきである。

 (四) 以上のとおりであるから、本訴請求中、被告に対し、本件規定違反を理由に犬の飼育禁止を求める部分は理由がある。

 2 損害賠償請求について

 (一) 《証拠略》によれば、以下の事実が認められる(一部争いのない事実を含む)。

  (1) 原故意は、平成五年七月、組合員からの苦情をきっかけに、被告が本件犬を飼育している事実を知った。

   (2) 同年八月二九日、原告は被告に対し、管理規約を遵守し本件犬の飼育を中止するよう申し入れ、同年九月五日までに書面により回答するよう求めた が、右期限までに回答はなかった。その後、原告理事長が五回にわたり被告に電話で連絡した結果、平成五年一〇月一一日、被告は、原告に対し、本件犬の飼育 を続ける旨回答し、その後書面でも同様の回答をした。

  (3) 平成五年一一月一四日、原告は被告に対し、本件規約六八条一項により本件犬の飼育中止を指示し、中止しないときは同条三項により裁判手続をとることを通告した。

   (4) 被告はその後も本件犬の飼育を中止しなかったため、平成六年五月二九日、本件管理組合の総会において、被告に対し法的手続をとることを承認する 決議がなされた。右決議に先立ち、被告の妻Aは、「規約があることは認めるが重要とは考えてはいない。お互いの考え方が違うのだから仕方ない。裁判は受け て立つ。」と述べ、これは被告の意向でもあった。

  (5) 平成六年八月三〇日本件訴訟が提起された。

  (二) 右の各事実によれば、被告は、本件犬の飼育が本件規定に違反する行為であることを知悉しながら、原告の再三にわたる飼育中止の要請を拒否して、本 件犬の飼育を継続し、その結果、原告は弁護士に依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくなったものである。したがって、被告の右行為は原告に対する不法行為 を構成するものというべきである。そして、原告は、右訴訟提起のために、弁護士に訴訟の提起、追行を委任し、着手金三〇万円、成功報酬三〇万円の支払を約 した事実が認められる。そして、本件事案の難易、訴え提起に至る経過、被告らの応訴の状況等、その他諸般の事情を考慮すると、右弁護士費用のうち四〇万円 は被告らの不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

  三 よって、原告の請求は、犬の飼育差止め請求と金四〇万円の損害賠償を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費 用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

 

 (裁判長裁判官 高世三郎  裁判官 小野憲一 前澤達朗)

 


事例目次へ

マンションの居住者の野鳩の餌付け及び飼育が、区分所有者の共同の利益に反する行為であるとして、マンション所有者と居住者間の使用貸借契約の解除とマンションの引渡請求が認められた事例(東京地判平成7・11・21、判タ912・188)[分譲][確定]

last update 02 December 1999


□マンションの居住者の野鳩の餌付け及び飼育が、区分所有者の共同の利益に反する行為であるとして、マンション所有者と居住者間の使用貸借契約の解除とマンションの引渡請求が認められた事例

東京地裁平七(ワ)第六四六一号、建物明渡等請求事件、平7・11・21民事第一七部判決、認容・確定。

判例タイムズ912号188頁(1996.9.15)。

《参照条文》 建物区分所有法六条・五七条・六〇条

  

原告          p管理組合

右代表者理事長     P

右訴訟代理人弁護士   ------

被告          D1

右訴訟代理人弁護士   ------

被告          D2

 

主 文

 一 被告D1と被告D2の間の別紙物件目録記載の建物についての使用貸借契約を解除する。

 二 被告D2は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物から退去してこれを引き渡せ。

 三 被告D2は、原告に対し、金二〇〇万円を支払え。

 四 訴訟費用は、被告らの負担とする。

 五 この判決第三項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一 請求

 主文同旨

第二 事案の概要

  一 本件は、建物の区分所有等に関する法律(以下、「建物区分所有法」という。)三条の区分所有者の団体である原告が、区分所有者の一人である被告D1 (以下、「被告D1」という。)及びD1の子であって被告D1の専有部分(以下「本件専有部分」という。)を被告D1から使用貸借して居住しているD2 (以下「被告D2」という。)に対し、被告D2が毎日のように本件専有部分のベランダ、室内等においての鳩に餌付けをし、飼育する行動を何年間も反復し、 原告及び他の区分所有者らの抗議警告にも耳を貸さないで右行為を継続し、これにより、多数の野鳩が飛来して所構わず糞等をまき散らす等、その汚損、悪臭、 騒音が他の区分所有者らの共同生活に多大の被害を与える状態を生ぜしめているとして、建物区分所有法六〇条一項に基づき、被告D1と被告D2との間の使用 貸借契約の解除を請求するとともに、被告D2に対し、本件専有部分の原告への引渡しを請求し、併せて、被告D2に対し、右の餌付け等の行動反復継続に関す る不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

 二 争いのない事実等

 1 原告は、東京都港区白金--丁目--番地所在のマンション「p」(昭和五四年三月入居開始。以下「本件マンションという。」の)区分所有者全員によって構成される管理組合であり、建物区分所有法三条の区分所有者の団体である(甲一、二、証人A)。

 2 被告D2は、被告D1から昭和五四年三月ころ以降本件専有部分を使用貸借してそのころから独りで本件専有部分に居住している(甲一、証人A、弁論全趣旨)。

 三 争点

  1 被告D2が本件専有部分の占有を利用して野鳩に餌付けをし、これを飼育する等の行動を反復継続しているか、これが区分所有者の共同の利益に反する行為 であり、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活 の維持を図ることが困難な場合にあたるか否か。(建物区分所有法六〇条一項、五七条四項並びに六条三項及び一項の該当性)

 2 原告の被告D1に対する本件訴えの提起について原告の総合決議があったか。

 3 被告D2による右1の行動の反復継続が不法行為を構成するか。これにより原告に生じた損害の有無及び損害額。

第三 争点に対する判断

一 争点1(被告D2の行為の内容・建物区分所有法六〇条一項等の該当性)

 1 証拠(甲一から甲九まで、甲一〇の1から5まで、証人A)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。

   (一)被告D2は、平成元年ころから本件専有部分の南東にあるベランダの手摺に餌箱を取り付けて、野鳩に餌を与え始め、平成二年後半ころからベランダの 窓を開放して室内で鳩の飼育をするばかりか、室内でも野鳩の餌付けを始めた。餌の投与は、毎日、昼過ぎ及び夕方とおおむね一定の時刻に行われている。

   (二)このような被告D2の野鳩の餌付けにより、本件専有部分及びその付近に飛来する鳩の数は五〇羽を超え、その後もその数が増え続け、近時には一〇〇 羽以上となり、そのおびただしい数の鳩が糞や羽毛を本件専有部分を中心とする上下左右の他の専有部分のベランダ及び本件マンションの付近の道路、家屋、植 木等に所構わずにまき散らし、これらの場所を汚損し、洗濯物を戸外に干すことができず、屋根や雨樋に糞がつまり悪臭を放ち、羽毛にダニが発生し、更には時 に鳩の死骸も散乱し、ベランダに野鳩が産卵し、また飛来する野鳩の羽音、繁殖期に発する鳴き声が静穏を著しく妨げる等、本件マンション及びその付近の平穏 かつ清潔な環境が損なわれる状況が生じている。

 しかも、右の状況を理由として本件マンション付近の住民から原告及び本件マンションの他の区分所有者に対し抗議が出されて、原告らが困惑させられたほか、本件マンションの各専有部分の譲渡価格に関しても不動産業者が右の状況を価格低下の一因の如く言及する例も生じた。

   (三)このような状態に対し、原告及び原告の理事会が、平成三年七月二四日、被告D2に対し警告書を送付して、野鳩の餌付けの禁止、餌箱の撤去等を求め たのを始め、それ以降も本件提訴に至るまで、原告及び原告の理事会から被告D2に対し野鳩の餌付けの禁止を求める警告が何回も発せられたが、被告D2は、 これらを無視し、野鳩の餌付けを続行し、前記(二)の状況が現在も止んでいない。

   (四)原告は、平成五年一一月二五日及び平成六年三月二四日、被告D1に対して、電話により前記(一)及び(二)の事実を告げ、被告D2に対して注意を するよう要求し、平成六年一一月一五日、当時の原告の理事長A、原告代理人B弁護士、被告D1及び被告D1代理人C弁護士が、被告D2と話合おうとした が、被告D2は、本件専有部分の三〇四号室内に閉じこもって、玄関のドアも開けず、母の被告D1さえ室内に立ち入らせないため、話合いにもならなかった。

   (五)原告は、平成七年一月一九日、被告D2の本件専有部分の占有を終了させるための訴え提起の可否を議題とする総会が開催される旨及びその期日、場所 等を被告D2に対して通知し、被告D2に意見陳述の機会を与えたが、被告D2の出席も意見陳述もないまま、平成二年二月一九日に開催された総会において、 本件マンション区分所有者及び議決権の四分の三以上の賛成をもって、右の訴えの提起を可とする決議が成立した(甲第三号証の三)。

  2 右認定事実によれば、被告D2が数年間にわたり本件専有部分において野鳩の餌付けをしていること、被告D2のこれらの行為(以下「本件餌付け行為等」 という。)を原因として本件マンション及びその付近におびただしい数の野鳩が毎日一定の時刻ころに飛来し、そのまき散らす糞、羽毛、羽音等により本件マン ションにおける共同生活に著しい障害が生じていること、本件のマンションの他の区分所有者及び原告は何とか被告両名との交渉により被告D2の本件餌付け等 をやめさせようと努力したが被告D2においては直接の話合いも、被告D1を介しての話合いも頑なに拒んだ上本件餌付け等を続行していることが認められ、こ れらの事実からすると、被告D2の本件専有部分の占有を利用して行う本件餌付け等は、本件マンションの区分所有者の共同の利益に反する行為であり、その行 為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図るこ とが困難な場合に当たるものといわざるを得ない。

二 争点2(被告D1に対する本件訴えの提起についての総会決議の有無について)

  被告D1は、同被告に対する本件訴えの提起については、総会決議が行われていない旨主張するが、原告は、前記一、1、(四)の認定のとおり本件専有部につ いての被告D2の占有を終了させるための訴えの提起に踏み切ることを総会で決議したのであり、被告D2の本件専有部分についての占有を終了させるために は、被告D2の占有を基礎となっている被告D1との間の使用貸借契約を解除せざるを得ない法律関係であるから、原告の右総会決議は、被告D2に対する本件 専有部分の引渡の請求のみならず、被告D2及び被告D1に対する両者間の使用貸借契約の解除の請求についても訴えの提起に踏み切ることを決議したものと認 めるのが相当である。右総会の議事録の審議事項の記載は、担当した区分所有者の不慣れの表現にすぎず、これをもって右総会の決議が被告D2に対する提訴の みを可としたことの証拠とみることはできない。

三 争点3(被告D2の行為の原告に対する不法行為)

  被告D2による本件餌付け等は、前記認定のとおり、本件マンションにおける共同生活上著しい障害を生ぜしめる原因となったものであり、かつ、原告が、平成 三年七月に警告書を送付して被告D2に対し、本件餌付け等をやめるように求めていたものであるから、被告D2としては、本件マンションの他の区分所有者及 び付近住民に対してのみならず、原告に対しても、本件餌付け等を継続すれば損害を被らせるに至ることを、遅くとも右の平成三年七月ころまでには知り、 又は知ることができたものといわなければならない。

 それ にもかかわらず、被告D2は前記認定のとおり、その後も本件餌付け等を繰り返し、いよいよ多数の野鳩を飛来させ、もって、前記認定のとおり、本件マンショ ンの他の区分所有者及び付近住民に被害を生ぜしめるとともに、証拠(甲四、甲九、甲一〇の1から5まで、証人A)によれば、原告に対し本件マンションの管 理上多大な金銭上の損害を被らせたことが認められる。すなわち、被告D2の本件餌付け等の行為は、原告に対しても、不法行為を構成するものといわなければ ならず、原告がこれにより被った損害は、本件マンションの南側外壁の鳩糞汚損についての洗浄工事費用、本件訴訟の提起にかかる弁護士費用等に徴すると、そ の額は、二〇〇万円を下らない。

第四 結論

  以上によれば、被告らに対し本件専有部分についての使用貸借契約の解除を請求するとともに被告D2に対し本件専有部分の引渡しを請求し、併せて被告D2に 対し金二〇〇万円の不法行為損害賠償金の支払を求める原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一 項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

                       (裁判官 雛形要松)




マンション内における動物の飼育行為を具体的な被害の発生する場合に限定せずに一律に禁止する管理組合の規約が当然無効であるとはいえないとされた事例(東京高判平成6・8・4、判時1509・71)[分譲]

* 最高裁判所判例検索による検索結果(PDF)
-------

事例目次へ

last update 02 December 1999


□一 マンション内における動物の飼育行為を具体的な被害の発生する場合に限定せずに一律に禁止する管理組合の規約が当然には無効であるといえないとされた事例

二 マンション内での犬の飼育禁止を定めた管理組合の規約が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぶすものとはいえないとされた事例

犬の飼育禁止請求控訴事件、東京高裁平三(ネ)四四九〇号、平6・8・4民四部判決、控訴棄却(確定)

一審横浜地裁平元(ワ)一一〇一号、平3・12・2判決

《参照条文》 一につき、建物区分所有法六条・

       二につき、建物区分所有法三一条・

 

控訴人        D

右訴訟代理人弁護士  ------

被控訴人       p管理組合管理者 P

右訴訟代理人弁護士  ------

同          ------

同          ------

 

主 文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

 

事 実

第一 当事者の求めた裁判

 一 控訴人

 1 原判決を取り消す。

 2 被控訴人の請求を棄却する。

 3 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

 二 被控訴人

 主文同旨

第二 当事者の主張

 当事者双方の事実上の主張は、次のとおり不可訂正するほか、原判決の事実摘示(「第二 当事者の主張」)と同一であるから、これを引用する。

 一 原判決三枚目表八行末尾に行を変えて次のとおり加える。

  「仮に右入居案内が自治規則としての拘束力を有しないものとしても、控訴人が入居した当時の改正前の旧規約に基づく旧使用細則三条一二項は「公序良俗に反 する行為、震動、騒音、臭気、電波等により居住者及び近隣に迷惑を及ぼす行為、又は不快の念を抱かせる行為をすること」を禁止行為として規定しており、 「動物の飼育」は右禁止行為に該当し、旧規約等に直接違反する行為である。」

 二 同三枚目裏九行目末尾に変えて次のとおり加える。

  「5 控訴人の本件マンションにおける本件犬の飼育は区分所有法六条一項に定める「共同の利益に反する行為」として管理組合規約等により禁止された行為に 該当し、同法五七条による差止めの対象となる。なほ、本件マンションにおいて動物を飼育することは、それ自体管理規約等の定める禁止行為に該当し、右行為 により具体的な被害が発生することは、「共同の利益に反する行為」の必要な要件ではない。」

 三 同三枚目裏一〇行目「5」を「6」と改める。

 四 同四枚目表二行目「6」を「7」と改め、「よって、原告は被告に対し、」の後に「区分所有法六条一項、五七条に基づき」を加える。

 五 同四枚目裏一〇行目末尾に行を変えて次のとおり加える。

  「5 同5の事実は争う。区分所有法六条一項に定める「共同の利益に反する行為」とは、動物を飼育する行為を一律に含むものではなく、動物の飼育により他 人に迷惑をかける行為で、具体的な被害が発生する行為に限定されるものであり、本件マンションにおいて動物の飼育を一律に全面禁止する管理組合規約は無効 である。」

 六 同四枚目裏二行目を「6 同6の事実は認める。」と改める。

第三 証拠関係《略》

理 由

  一 当裁判所も、本件改正後の管理規約は有効であり、被控訴人の本件犬の飼育は、管理規約違反行為であり、かつ、共同の利益に違反する行為であって、被控 訴人の本訴請求は理由があり、認容すべきものと考える。その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。当 審における証拠調べの結果によっても、右結論を動かすに足りない。

 二 区分所有法六条一項の「共同の利益に反する行為」について

  控訴人は、区分所有法六条一項に定める「共同の利益に反する行為」とは、動物を飼育する行為を一律に含むものではなく、動物の飼育により他人に迷惑をかけ る行為で、具体的な被害が発生する行為に限定され、本件マンションにおいて動物の飼育を一律に全面禁止する管理規約は無効であると主張する。

  区分所有法六条一項は、区分所有者が区分所有の性質上当然に受ける内在的義務を明確にした規定であり、その一棟の建物を良好な状態に維持するにつき区分所 有者全員の有する共同の利益に反する行為、すなわち、建物の正常な管理や使用に障害となるような行為を禁止するものである。右の共同の利益に反する行為の 具体的内容、範囲については、区分所有法はこれを明示しておらず、区分所有者は管理規約においてこれを定めることができる(同法三〇条一項)ものとされて いる。そして、マンション内における動物の飼育は、一般に他の区分所有者に有形無形の影響を及ぼすおそれのある行為であり、これを一律に共同の利益に反す る行為として管理規約で禁止することは区分所有法の許容するところであると解され、具体的な被害の発生する場合に限定しないで動物を飼育する行為を一律に 禁止する管理規約が当然に無効であるとはいえない。

 《証拠略》に よれば、本件改正後の管理規約において本件マンション内での動物飼育行為を一律に禁止する規定を置いた趣旨は、区分所有者の共同の利益を確保することに あったことが窺われるから、控訴人が本件マンション(なお、本件マンションは七階建て二六戸の一般居住用分譲マンションであり、動物の飼育を配慮した設 計・構造にはなっていない)においてペットである本件犬を飼育することは、その行為により具体的に他の入居者に迷惑をかけたか否かにかかわらず、それ自体 で管理規約に違反する行為であり、区分所有法六条一項に定める「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるものといわなければならない。

  (なお、被控訴人は、本件入居案内が管理規約等と同等の拘束力を有すると主張し、更に、仮定的主張として、仮にこれが認められないとしても、改正前の旧規 約に基づく旧使用細則三条一二項により、本件マンションにおける動物の飼育は規約改正を待つまでもなく、当初から管理規約により禁止されていたと主張する けれども、本件入居案内がその作成の経緯に照らして区分所有法上の規約と同等の拘束力を有するとは認められないことは、原判決の説示するとおりである。そ して、《証拠略》によれば、改正前の旧規約に基づく旧使用細則三条一二項は、「公序良俗に反する行為、震動、騒音、臭気、電波等により居住者及び近隣に迷 惑を及ぼす行為、又は不快の念を抱かせる行為をすること」を禁止行為として規定していることが認められるけれども、右規定は文言が抽象的であり、動物の飼 育それ自体として直接禁止している趣旨を含むものと解することは困難であるというほかなく、本件マンションにおける動物の飼育が当初から管理規約により禁 止されていた旨の被控訴人の仮定的主張は採用できない。)

 三 規約改正決議の手続の効力について

  控訴人は、本件規約等の改正決議の手続が無効であるとして、その理由につき、白紙委任状による議決権行使が無効であること、動物飼育の全面的禁止への規約 改正は理事らの高圧的な姿勢により条件付飼育許可の意見を無視する不公正な方法で行われたもので無効であること等を主張するが、原判決挙示の関係証拠によ れば、本件規約改正決議の手続及びこれに至る過程において控訴人の主張するような瑕疵ないし無効事由の存在を認めるに足りないとした原判決の理由説示は是 認でき、当審における証拠調べの結果によっても、右結論を動かすに足りない。

 四 規約改正と区分所有法三一条一項の「特別の影響」について

 控訴人は、本件マンションにおける動物の飼育の全面的禁止を定める本件規約改正は控訴人の権利に特別の影響を及ぼすから、区分所有法三一条一項により控訴人の承諾が必要であり、右承諾なくして行われた本件規約改正は無効であると主張する。

  しかしながら、マンション等の集合住宅においては、入居者が同一の建物の中で共用部分を共同利用し、専用部分も相互に壁一枚、床一枚を隔てるのみで隣接す る構造で利用するという極めて密着した生活を余儀なくされるものであり、戸建ての相隣関係に比してその生活形態が相互に及ぼす影響が極めて重大であって、 他の入居者の生活の平穏を保障する見地から、管理規約等により自己の生活にある程度の制約を強いられてもやむをえないところであるといわねばならない。も ちろん、飼い主の身体的障害を補完する意味を持つ盲導犬の場合のように何らかの理由によりその動物の存在が飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を 有する特段の事情がある場合には、たとえ、マンション等の集合住宅においても、右動物の飼育を禁止することは飼い主の生活・生存自体を制約することに帰す るものであって、その権利に特別の影響を及ぼすものというべきであろう。

  これに対し、ペット等の動物の飼育は、飼い主の生活を豊かにする意味はあるとしても、飼い主の生活・生存に不可欠のものというわけではない。そもそも、何 をペットとして愛玩するかは飼い主の主観により極めて多様であり、飼い主以外の入居者にとっては、愛玩すべき対象とはいえないような動物もあること、犬、 猫、小鳥等の一般的と見られる動物であっても、そのしつけの程度は飼い主により千差万別であり、仮に飼い主のしつけが行き届いていたとしても、動物である 以上は、その行動、生態、習性などが他の入居者に対し不快感を招くなどの影響を及ぼうおそれがあること等の事情を考慮すれば、マンションにおいて認容しう るペットの飼育の範囲をあらかじめ規約により定めることは至難の業というほかなく、本件規約のように動物飼育の全面禁止の原則を規定しておいて、例外的措 置については管理組合総会の議決により個別的に対応することは合理的な対処の方法というべきである。

  これを本件についてみるのに、《証拠略》によれば、控訴人は昭和五八年一〇月ないし一一月ころから本件犬を飼育していたが、昭和六〇年三月三〇日本件犬を 伴って本件マンションに入居したこと、控訴人の家族構成は控訴人夫婦、長女及び長男の四人であって、本件犬は家族の一員のような待遇を受けて可愛がられて いたことは認められるが、控訴人一家の本件犬の飼育があくまでもペットとしてのものであり、本件犬の飼育が控訴人の長男にとって自閉症の治療的効果があっ て(控訴人は入居当初このことを管理組合に強調していた)、専門治療上必要であるとか、本件犬が控訴人の家族の生活・生存にとって客観的に必要不可欠の存 在であるなどの特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。したがって、本件規約改正は控訴人の権利に特別の影響を与えるものではない。

 結局、控訴人の本件規約改正が区分所有法三一条一項に違反する旨の主張は理由がない。

 五 よって、被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 岩佐善巳 裁判官 稲田輝明 一宮なほみ)

 


事例目次へ