動物の飼育が禁止されていることを知った上で入居する場合には、犬の飼育を許可する権限ある者の承諾がなければ入居し得ないとした事例(京都地裁平成13・10・30)平成12(ワ)3097 建物明渡請求 [中型犬(シェットランド・シープドッグ)を飼育。建物明渡請求を認容]

平成13年10月30日京都地方裁判所
平成12(ワ)3097建物明渡請求


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主文

1 被告は,原告に対し,別紙物件目録2記載の建物部分を明渡し,かつ,平成12年11月14日より同明渡し済みに至るまで1か月金19万6500円の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は1項に限り仮に執行することができる。

事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 主文同旨
(2) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 原告は,平成8年6月5日,被告の父訴外Aに対し,原告代表者の母訴外B所有の別紙物件目録2記載の建物部分(以下「本件建物部分」という。)を次の約定で賃貸した(以下「本件契約」という。)。
    賃料月額    10万9000円
    共益費用月額     8000円
特約1  賃借人が契約違反により契約を解除されたときは,解除の日の翌日より明渡し済みに至るまで,1か月につき賃料等の1・5倍の割合による損害金を支払う。
  2  賃借人は建物において動物を飼育しないこと
(2) Aは,平成10年5月3日死亡した。
(3) 被告は,平成10年8月7日,Aの賃借人の地位を承継し,同年6月より駐車料月額1万4000円を支払うことを約した。
(4) ところが,原告は,平成12年9月中旬,被告が前記特約2に違反して本件建物部分で犬を飼育していることを発見した。
(5) そこで,原告は平成12年10月4日,管理会社を通じて被告に対し,犬の飼育を直ちにやめるように申し入れたが,被告はこれに応じなかっ  た。
(6) やむなく,原告は,平成12年11月13日被告に手渡した通知書で本件契約を解除した。
(7) よって,原告は,被告に対し,本件契約終了に伴う原状回復請求権に基づき,本件建物部分の明渡しと平成12年11月14日(解除の日の翌日)より同明渡済みに至るまで1か月金19万6500円(賃料,共益費,駐車料の月額の1・5倍相当)の割合による損害金の支払いを求める。

2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)ないし(6)はすべて認める。

3 抗弁
(1) 動物飼育に対する承諾
  ア 被告は,犬の飼育について,本件契約当時本件建物部分の管理会社であった訴外株式会社S興産(以下「S興産」という。)の担当者訴外Cから承諾を得た上で,本件契約を締結し,本件建物部分に入居した。
  イ Cは,犬の飼育について賃借人に承諾を与える権限を有していた。
(2) 信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない事情
   ア 1階に住む管理人,他の入居者から被告に苦情がきたことはない。
イ 管理人は黙認していた。
   ウ 他の賃借人も犬を飼っている。
4 抗弁に対する認否
  (1) 抗弁(1)アの事実のうち,Cから承諾を得たとの事実は否認し,その余は認める。
      同イの事実は否認する。
  (2) 抗弁(2)の事実は,不知もしくは否認する。


理由
第1 請求原因について
  請求原因(1)ないし(6)の事実については当事者間に争いがない。
第2 そこで,抗弁について次のとおり判断する。
 1 (1) 抗弁(1)アについて
     ア 被告本人尋問において,被告は本件契約締結の際にCから犬の飼育について承諾を得たと供述するのでその信用性について検討する。
     イ 被告が本件契約締結の際,既に犬を飼っていたこと(弁論の全趣旨),被告は契約書をCから受け取り,動物の飼育が禁止されていることを知った上で本件建物部分に入居したこと(被告本人尋問の結果)等の事実が認められ,かかる状況の下であれば,犬の飼育について承諾がなければ入居し得ないと考えるのが合理的であるから,被告の供述は信用できる。
    ウ これに対し, 証人Cは本件契約に際して被告に対して,犬の飼育を許可したか否かついては記憶がない旨証言するが,承諾について否定まではしておらず,その他に上記認定を覆す証拠はない。
     エ よって,抗弁(1)アの事実が認められる。

(2)抗弁(1)イについて
  ア 証人Cは,自分はS興産の管理部の担当者ではなく,仲介業務をしているにすぎないと証言するが,被告は,家賃額,共益費,敷金,入居時期,契約期間等,契約締結上での主要事項をすべてCとの間で交渉した上で決めていること(乙13),平成10年に行われた本件契約更新も被告はCとの間で行っていること(乙13)等の事実が認められるから,Cは本件契約に関して,契約締結の代理権限を有していたことが認められる。
  イ しかし,S興産代表取締役DはCに対し,犬の飼育を許可していないことが認められ(甲11),他に本件全証拠によっても原告からS興産に対し,犬の飼育について許可する権限を与えた事実を認めるに足りる証拠はないから,Cは本件契約の禁止条項に反して犬の飼育を許可する権限を有していなかったことが認められる。
  ウ よって,抗弁(1)イの事実は認められない。

(3) 以上によって,抗弁(1)は理由がない。

 2 抗弁(2)について
  (1) 誓約書第4条(4)項(甲3)を双方の合意で定めた趣旨は,動物が部屋を損傷すること,動物特有の臭いが部屋にしみ込み,これがなかなかとれず,次の賃借人が入居を嫌うこと,近隣の入居者から動物の苦情がきて賃貸人が困ることにある。
    したがって,本件において,賃貸人,賃借人相互の信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない事情があるか否かは上記条項の趣旨に鑑みて判断するのが相当である。
  (2) そこで,抗弁(2)の事実について判断する。
      証拠(甲第8ないし16号証,乙第1号証,被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。
      ア 被告が飼育している犬は雄の中型犬(犬種はシェットランド・シープドッグ)であり,現在生後8年である。
      イ 本件マンション近隣の訴外E宅で同種の犬を飼っている。
      ウ ベランダを開けると,上記犬の鳴き声に呼応して被告の犬が吠える。
      エ N工務店社員Fが被告宅に訪問した際,玄関から犬独特の臭いが感知され,犬の掻き傷がそこここに見受けられた。
      オ 被告の近隣の居住者(3A号室,1B号室,2B号室)から現管理会社N工務店に対し,苦情がでている。

(3) 上記認定事実によると,被告が飼育している犬は中型犬で,愛玩用の小型犬のように屋内で飼うことに無理がある犬種であり,吠えないような特別の訓練等が施されておらず,鳴き声等に悩む近隣の入居者の苦情や本件建物部分にしみついた犬の臭気や犬の掻き傷により,原告が非常に迷惑していることが認められる。
    これに対し,被告は本人尋問において,自らは管理人,他の入居者から苦情を受けておらず,管理人も犬の飼育を黙認し,他の賃借人も同様に犬等を飼っている旨供述するが,かかる事実が認められたとしても上   記認定事実からすると原告との信頼関係を破壊すると認めるに足りない事情があるとはいえない。

(4) よって,抗弁(2)は理由がない。

第3 結論
 よって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を,仮執行宣言につき同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。

   京都地方裁判所第1民事部
             裁判官     阿  部  靜  枝