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宗教法人が行うペット葬祭事業が、法人税法2条13号、同法施行令5条1項各号所定の収益事業に該当するとして受けた決定処分及び無申告加算税賦課決定処分について、ペット葬祭事業は宗教的行為であり収益事業にあたらないと主張してその取消を求めた事案 (平成17・3・24名古屋地裁)平成16(行ウ)4

宗教法人が行うペット葬祭事業が、法人税法2条13号、同法施行令5条1項各号所定の収益事業に該当するとして受けた決定処分及び無申告加算税賦課決定処分について、ペット葬祭事業は宗教的行為であり収益事業にあたらないと主張してその取消を求めた事案 (平成17・3・24名古屋地裁)平成16(行ウ)4 法人税額決定処分等取消請求事件 [ペット葬祭事業は収益事業に該当するとして棄却された事例]


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平成17年3月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成16年(行ウ)第4号法人税額決定処分等取消請求事件
口頭弁論終結の日 平成16年12月15日


          判         決

主         文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。


事実及び理由
第1 原告の請求

被告が,原告の下記各事業年度について,平成14年5月20日付けでした法人税決定処分及び無申告加算税賦課決定処分(ただし,平成14年10月18日付け異議決定及び平成15年10月28日付け裁決によって一部取り消された後のもの)を取り消す。

(1) 平成9年3月期(平成8年4月1日から平成9年3月31日まで)
(2) 平成10年3月期(平成9年4月1日から平成10年3月31日まで)
(3) 平成11年3月期(平成10年4月1日から平成11年3月31日まで)
(4) 平成12年3月期(平成11年4月1日から平成12年3月31日まで)
(5) 平成13年3月期(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)

第2 事案の概要

本件は,宗教法人である原告が,死亡したペット(愛玩動物)の飼い主から依頼を受けて葬儀や供養等を行う(以下「ペット葬祭」といい,その事業を「ペット葬祭業」という。)などして,金員を受け取ったことに対し,被告から,ペット葬祭業は法人税法(以下,条文を示すときは単に「法」という。)2条13号及び同法施行令(以下「施行令」という。)5条1項各号所定の収益事業に当たるとして,前掲各事業年度(以下「本件各事業年度」と総称する。)における法人税の決定処分及び無申告加算税賦課決定処分(以下,両者を併せて「本件課税処分」という。)を受けたため,ペット葬祭業は宗教的行為であって収益事業に当たらないなどと主張して,同処分(ただし,異議決定及び審査裁決により一部取消後のもの)の取消しを求めた抗告訴訟である。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実,証拠によって明らかな事実等)

(1) 原告(甲22)

原告は,嘉暦元年(1326年)ころ,慈妙上人によって開山されたと伝えられる古刹であり,昭和44年10月28日,比叡山延暦寺を総本山とする宗教法人天台宗を包括法人として設立された宗教法人であって,現在,その代表役員には,住職を兼任するA(以下「A」という。)が就任している。

(2) ペット葬祭業の概要(甲16,22,乙5ないし12)

原告は,「B動物霊園」の名称で,約3000坪の境内に,ペット用の火葬場,墓地,納骨堂,待合室等を設置して,昭和58年ころから,ペット葬祭業を執り行っているところ,その概略は,以下のとおりである。

ア 死体の引取り
希望する飼い主に対し,引取車を派遣して死亡したペットを原告まで運搬する。

イ 葬儀
火葬場に隣接するペット専用の葬式場で,人間用祭壇を用い僧侶が読経して行う。

ウ 火葬
以下の3種類がある。
(ア) 合同葬 葬儀終了後,その日のうちに原告により合同火葬場にて合同火葬される。
(イ) 一任葬(個別葬) 葬儀終了後,立会葬のない時間に原告により個別火葬場にて単独火葬される。
(ウ) 立会葬 葬儀終了後,飼い主らが待合室にて待機するうち,個別火葬場にて単独火葬される。

エ 埋蔵・納骨
原告の境内に,ペット専用の合同墓地,個別墓地,納骨堂を設置し,飼い主らの希望に従って利用することができる。

オ 法要
毎月17日には,合同の法要がなされるほか,希望者には,位牌を祭り,初七日法要や七七日法要を行う。

カ その他
希望者には,塔婆,ネームプレート,位牌,骨壺,袋,石版及び墓石を頒布している。

(3) 人間用の墓地管理等(甲3,乙13)

原告は,愛知県G市○○町○○○番地○に「C」という名称の霊園を設置して,利用者から管理料を収受し,また墓石の販売を行っている(以下,ペット葬祭業と併せて「ペット葬祭業等」という。)。

(4) 本件課税処分から本訴提起に至る経緯(甲1及び2の各1ないし5,3ないし10)

被告は,原告に対し,平成14年5月20日付けで,本件課税処分を行った(同日付けで源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び重加算税賦課決定処分並びに源泉徴収に係る不納付加算税賦課決定処分も行われているが,本訴の対象となっていないので,以下においては割愛する。)。

これに対し,原告は,平成14年7月19日,被告に対して異議を申し立てたところ,被告は,同年10月18日,本件課税処分のうち,平成13年3月期(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)の無申告加算税賦課決定処分の全部並びにそれ以外の法人税決定処分及び無申告加算税賦課決定処分の一部をそれぞれ取り消し,その余の申立てを棄却する旨の異議決定をした。

さらに,原告は,平成14年11月15日,国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ,同審判所長は,平成15年10月28日,平成12年3月期の法人税決定処分及び無申告加算税賦課決定処分の一部を取り消し,その余の審査請求を棄却する旨の裁決をした。以上の経緯は別表1記載のとおりである。

原告は,平成16年1月20日,本訴を提起した。

(5) 関係法令等の抜粋

ア 法人税法
(定義)
2条13号 収益事業 販売業,製造業その他の政令で定める事業で,継続して事業場を設けて営まれるものをいう。
(納税義務者)
4条1項 内国法人は,この法律により,法人税を納める義務がある。ただし,内国法人である公益法人等…については,収益事業を営む場合……に限る。

イ 施行令
(収益事業の範囲)
5条1項 法第2条第13号(略)に規定する政令で定める事業は,次に掲げる事業(その性質上その事業に付随して行われる行為を含む。)とする。
  1号 物品販売業(略)のうち次に掲げるもの以外のもの
  (中略)
  5号 不動産貸付業のうち次に掲げるもの以外のもの
  (中略)
    ニ 宗教法人法(略)第4条第2項(略)に規定する宗教法人又は民法

第34条の規定により設立された法人が行う墳墓地の貸付業
  (中略)
  9号 倉庫業(寄託を受けた物品を保管する業を含むものとし,第31号の事業に該当するものを除く。)
  10号 請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)のうち次に掲げるもの以外のもの
  (以下略)

ウ 法人税基本通達(以下「本件通達」といい,個別の条項を示すときは,末尾の番号を付加して「本件通達10」のようにいう。)
    (宗教法人,学校法人等の物品販売)
    15−1−10 宗教法人,学校法人等が行う物品の販売が令第5条第1項第1号《物品販売業》の物品販売業に該当するかどうかについては,次に掲げる場合には,それぞれ次による。
     (1) 宗教法人におけるお守,お札,おみくじ等の販売のように,その売価と仕入原価との関係からみてその差額が通常の物品販売業における売買利潤ではなく実質は喜捨金と認められる場合のその販売は,物品販売業に該当しないものとする。ただし,宗教法人以外の者が,一般の物品販売業として販売できる性質を有するもの(例えば,絵葉書,写真帳,暦,線香,ろうそく,供花等)をこれらの一般の物品販売業者とおおむね同様の価格で参詣人等に販売している場合のその販売は,物品販売業に該当する。
 (以下略)
    (非課税とされる墳墓地の貸付け)
    15−1−18令第5条第1項第5号ニ《非課税とされる墳墓地の貸付業》の規定により収益事業とされない墳墓地の貸付業には,同号ニに規定する法人がいわゆる永代使用料を徴して行う墳墓地の貸付けが含まれることに留意する。
    (倉庫業の範囲)
    15−1−26令第5条第1項第9号《倉庫業》の倉庫業には,寄託を受けた物品を保管する業が含まれるから,手荷物,自転車等の預り業及び保護預り施設による物品等の預り業(貸金庫又は貸ロツカーを除く。)もこれに該当する。
     (注) 貸金庫又は貸ロツカーは,同項第4号《物品貸付業》の物品貸付業に該当する。
    (請負業の範囲)
    15−1−27令第5条第1項第10号《請負業》の請負業には,事務処理の委託を受ける業が含まれるから,他の者の委託に基づいて行う調査,研究,情報の収集及び提供,手形交換,為替業務,検査,検定等の事業(略)は請負業に該当するが,農産物等の原産地証明書の交付等単に知つている事実を証明するだけの行為はこれに含まれない。
    (請負業と他の特掲事業との関係) 
    15−1−29公益法人等の行う事業が請負又は事務処理の受託としての性質を有するものである場合においても,その事業がその性格からみて令第5条第1項各号《収益事業の範囲》に掲げる事業のうち同項第10号以外の号に掲げるもの(以下…「他の特掲事業」という。)に該当するかどうかにより収益事業の判定をなすべきものであるとき又は他の特掲事業と一体不可分のものとして課税すべきものであると認められるときは,その事業は,同項第10号《請負業》の請負業には該当しないものとする。
    (神前結婚等の場合の収益事業の判定)
    15−1−71宗教法人が神前結婚,仏前結婚等の挙式を行う行為で本来の宗教活動の一部と認められるものは収益事業に該当しないが,挙式後の披ろう宴における飲食物の提供,挙式のための衣装その他の物品の貸付け,記念写真の撮影及びこれらの行為のあつせん並びにこれらの用に供するための不動産貸付け及び席貸の事業は,収益事業に該当することに留意する。

2 本件の争点

原告の営むペット葬祭業等が法2条13号,施行令5条1項各号所定の収益事業に該当するか。

3 争点に関する当事者の主張

(1) 被告の主張

原告の営むペット葬祭業等は,法人税法2条13号,施行令5条1項各号所定の収益事業に該当する。

ア 公益法人に対する課税制度

内国法人は,法人税法の定めるところにより法人税を納める義務がある(法4条1項本文)が,内国法人である公益法人等については,収益事業を営む場合に限って法人税を納める義務があり(同条1項ただし書),収益事業から生じた所得以外の所得及び清算所得は非課税とされる(法7条)。

ところで,公益法人等に対する課税制度の基本的な考え方は,以下のとおりである。すなわち,元来,公益法人が営利的事業を行うのは,その本来の目的たる公益事業を遂行するためのやむを得ない手段たるべきであるにもかかわらず,それが本来の事業遂行を賄ってなお余りあるという段階に至れば,それは公益法人の行う営利的事業としては行き過ぎであるといえるし,一般の営利法人の行う事業との間に,一方は法人税が非課税であり,一方は課税されるという著しい不権衡を生ずるに至る。そこで,公益法人に対する法人税課税問題が台頭するに至ったが,その際,課税方法として,個々の公益法人の事業の内容により,その事業の公共性が強いときはたとえ収益事業を行っても課税せず,逆に公共性に乏しいときは事業全部に課税するという方法も考えられた。しかし,すべての公益法人についてその事業を精査し,公共性の強弱を判定することは不可能に近いことから,シャウプ勧告を受けた昭和25年の法改正においては,すべての公益法人を一律課税法人とし,その収益事業から生ずる所得に対してのみ法人税を課税することとなったものである。

そして,法2条13号によれば,収益事業とは,販売業,製造業その他の政令で定める事業で,継続して事業場を設けて営まれるものとされているところ,その具体的内容は,施行令5条1項に物品販売業をはじめとする33の事業をもって収益事業としている(同項1号ないし33号。以下,同項に掲げられた各事業を「特掲事業」という。)。これは,公益法人等に対する課税制度の趣旨に則って,一般事業者(営利企業,民間企業)との競合関係に立つと思われる事業を特に掲げたものである。また,同項本文括弧書きは,公益法人等がこれらの収益事業を営むに当たり,その性質上その事業に付随して行われる行為は,それぞれの収益事業に含まれると規定している。

イ 特掲事業該当性の判断基準

本件においては,原告が営むペット葬祭業等が,特掲事業に該当するか否かが問題となるところ,その判断に当たっては,まず,問題となる当該事業が,法施行令5条1項各号に掲げる各事業の法的な定型的な特徴(この点については,民法や商法といった私法体系における理論が基礎に置かれる。)を備えたものでなければならないことはいうまでもないが,さらに,前記の趣旨により,税法独自の判断が必須であり,当該事業が一般事業者が営む事業との関連から課税対象とするにふさわしいものか否かという観点からの判断を欠くことができない。

そのためには,①問題とされる当該事業と一般事業者が行っている事業との類似性の有無・程度,②明文の規定によって特掲事業から除外されていたり,また,特掲事業として掲げられていないため,非課税とされている事業との関係,③当該事業で提供されるサービス・物品等の性質・態様等の諸般の事情を,国民の社会的・文化的意識を基礎とする社会通念に照らし,また課税の公平性という制度趣旨を勘案して,総合的に判断するのが相当である。

ウ 原告の営むペット葬祭業等の特掲事業該当性

原告が営むペット葬祭業等は,以下のとおり,①葬祭(葬儀・火葬),②法要,③遺骨処理とその管理(納骨堂,墓地管理),④オプションとなる物品販売(塔婆,プレート,骨壺,袋,位牌,石版,墓石),⑤ペットの死体引取りの各事業に分類できるところ,①は請負業(施行令5条1項10号)に,③は倉庫業(同項9号)及び請負業に,④は物品販売業(同項1号)に,②及び⑤は付随事業(同項括弧書き)にそれぞれ該当する。

(ア) 原告の営むペット葬祭業等の内容
a 原告は,境内に葬儀場,火葬場を設置して,ペットの火葬,葬儀業務を取り扱っているところ,これには,前提事実(2)で示すとおり,合同葬,一任葬及び立会葬の3種類のメニューが用意されており,各メニューや対象動物の大きさに応じて,一定額の料金(別表2参照)が設定されている。なお,原告は,希望者からの依頼に応じて,ペットの死体を引き取って斎場まで運搬するサービスを3000円で提供したり,葬儀後,毎月17日に法要を行うなどしている。

また,原告は,境内に墓地及び納骨堂を設置し,遺骨処理業務を行っているところ,墓地については,ペット専用の合同墓地と個別墓地が用意されており,このうち前者については,原告に葬儀の依頼をした利用者については無料とされているものの,後者については,年間2000円の管理費と9年ごと(3年ごとの更新3回)に継続利用料(平成12年現在で1万円)の支払が必要とされているほか,墓石の購入費用も必要となる。

納骨堂については,使用許可料3万5000円のほか,年間2000円の管理費が必要であり,墓地と同様の更新条件が設定されている。さらに,原告は,ペット葬祭業に関連して,塔婆,ネームプレート碑,位牌,骨壺,袋,石版及び墓石の販売を行っている。

b 上記のペット葬祭業のほか,原告は,愛知県蒲郡市内に,「C」という名称の人間専用墓地を設置し,利用者から管理料(年間3000円)を徴収して管理しているほか,同霊園事業に関連して墓石の販売等も行っている。

(イ) 収益事業の定型的特徴の具備

a 葬祭について

ペット葬祭業は,読経その他の供養・追悼の儀式,死体の焼却及び拾骨といった一連の労務・サービスの提供であるから,法的には,仕事の完成及びこれに対する報酬の支払を要素とする「請負」若しくは「準委任」として構成できる。そして,原告の前記業務内容には,読経のみならず,追悼の儀式や死体の焼却及び拾骨といった業務が広く含まれており,その業務を全体としてみるならば,葬祭一般についての事務の取扱いと評価できるから,その労務・サービスの性格は,国民の社会・文化的意識に照らしても,寺社がこれを取り扱うことにこそ価値があると一般に理解されているとはいえない。

このことは,ペット葬祭が一般事業者でも広く取り扱われていることからも明らかである。加えて,原告の事業においては,一般事業者と同様,合同葬等の葬祭メニューや対象動物の大きさに応じた料金を設定しているが,かかる扱いは,労務ないしサービスの内容が料金に反映されていることの現れであり,また,設定された料金も,ほぼ一般事業者と同様であることからすれば,原告が行うペット葬祭業務につき授受される経済的利益は,原告が提供する労務・サービスに対する対価の性質を有すると解される。

よって,原告の行うペット葬祭業は,請負業の特質を備えているばかりか,その事業形態は一般事業者が営むそれと極めて類似し,しかも,業務内容や態様等に照らして,賽銭や喜捨と同列に見るべき事情も存しないから,課税対象とするにふさわしいと評価できる。

この点について,原告は,読経,火葬,法要は僧侶自身の宗教行為又はその前提行為ないし付随行為にほかならず,仕事を完成させるために行うものではない旨主張するが,民法上の請負の目的である「仕事」は無形的なものでもよく,本件でも,儀式及び火葬等がつつがなく執り行われるという結果を生むことが前提となっているから,それを「請負」と構成することに何ら支障はないし,宗教行為であることを理由に,当該行為を請負業と構成することが妨げられるわけではない。

また,原告は,利用者から受け取る金銭が「布施」であって対価性を欠く旨主張するが,原告のパンフレットには,明確に「料金表」と表示され,一般事業者のものと同様,葬祭業務のメニューや動物の大きさに応じた金額が記載されているなど,その体裁が一般事業者によるものに酷似していること,料金表にそれが目安である旨の記載もないことなどからすれば,原告が提供する労務ないしサービスの対価であることは明らかである。

b 遺骨の処理について

原告は,火葬したペットの遺骨を,利用者の依頼に応じて,設置している納骨堂において保管・管理したり,墓地の利用者の依頼に応じて墓地を管理し,利用者から一定額の経済的利益を享受している。

ところで,利用者の依頼により物である「遺骨」を納骨堂に保管してこれを管理することは,寄託物の引受けを業とする倉庫業の典型的な特徴を備えているばかりか,原告においては,納骨堂の利用及び管理を利用するにつき一定の金額を設定しており,これが保管・管理の対価であることは明らかである。しかも,一般事業者においても,原告と同様の遺骨の保管・管理業が営まれていることをも考慮すれば,原告の上記事業は,課税対象とするにふさわしいと評価できる。

この点について,原告は,本件では,①焼骨の永久保管が前提となっていること,②焼骨の出し入れが予定されていないこと,③寄託期間に応じて費用が決定されていないこと,④原告の収受する管理費の実体は「護持会費」であり,対価性のない喜捨金であることなどを主張する。しかしながら,納骨堂の利用期間である9年を経過すれば,更新料の支払がない限り合同墓地に改葬されるから,この更新料の支払が納骨堂の継続利用の前提条件となっていることは明らかであり,永久保管が前提であるとはいえないこと,管理費用も3年更新で年間2000円とされていること,倉庫に預けられた物品の出し入れは,寄託契約の要素となっていないこと,原告のホームページで護持会費を請求しないと明言していることなどからすれば,上記主張はいずれも事実と異なる。

なお,人の遺骨の墓地への埋蔵は,施行令5条1項5号ニの「墳墓地の貸付業」に当たり,収益事業には該当しないが,ペットの遺骨処理は,同号ニには当たらない。なぜなら,税法上「墳墓地」の意義は明定されていないが,墓地,埋葬等に関する法律(以下「墓地法」という。)2条4項は,「死体を埋葬し,又は焼骨を埋蔵する施設をいう」と規定していることからすれば,施行令において,収益事業から除かれる墳墓地の貸付けは,人間に関するものに限られると解されるし,ペットの遺骨処理においては,人の遺骨の埋蔵のような高い公共性・公益性を見出し難いからである。

c 物品販売について

原告は,ペット葬祭に関連して,塔婆,プレート,骨壺,袋,位牌,石版,墓石を販売しているところ,かかる事業が物品の売買という販売業の定型的特徴を備えており,これに応じて原告が享受する経済的利益が物品の対価の関係に立つことは明らかである。加えて,上記物品の販売は一般事業者においても行われていることからも,原告の営む上記各物品の販売は,お札・おみくじの頒布と異なり,施行令5条1項1号の「物品販売業」に該当する。

d 法要及び死体の引取りについて

法要は,葬祭のアフターケアの部分であって,請負業である葬祭の付随的事業活動といえるし,また,死体の引取りは,葬祭を執り行うに先立って,死体を回収するサービスであって,その準備行為といえるので,葬祭の付随的事業活動に該当するというべきであるから,収益事業に当たる。

e 人間用の墓地管理等について

原告は,人間用の墓地を設置し,利用者からの依頼を受けて管理し,その対価としてあらかじめ定められた料金を得ているところ,これは通常の霊園墓地経営と同様であるから,施行令5条1項10号の「請負業」に該当する。

エ 原告の主張に対する反論

この点について,原告は,①宗教法人や僧侶の行うペット葬祭は,非課税とされる人の葬祭と同様の宗教的意義を有し,対価性を欠く,②非課税とされる針供養や人形供養との比較からも,ペット葬祭を収益事業として取り扱うことは許されない,③もともと,宗教法人等が本来の公益事業として行ってきた行為であっても,一般事業者がビジネスチャンスと見て参入した場合に課税対象となるのは不当である,④墳墓地の貸付業の非課税を定めた本件通達18や,神前結婚式等の場合の収益事業の判定に係る本件通達71に照らせば,法は,収益事業の判定に当たって,「一般事業者が同一ないし類似の事業をしているか」や「競合関係に立つか」などを考慮することなく,本来の宗教活動の一部と認められるか否かを唯一の判断基準としていると解されるなどと主張する。

しかしながら,以下のとおり,原告の上記主張は相当でない。

(ア) 宗教的意義について

公益法人等の収益事業に対する課税に当たっては,主として一般事業者との競争関係の有無や課税上の公平の維持などが考慮されるべきであって,宗教的意義といった公共性の有無やその強弱だけで,その課税の是非についての判断が行われるものではないから,宗教的意義の有無等はその解釈に影響しない。

そして,原告の営むペット葬祭業の業務内容は,人の葬祭と異なり,読経その他の供養,追悼の儀式,遺体の焼却及び拾骨などを含む一体的なサービスであり,その事業形態は,一般事業者が営む葬祭業と極めて類似しているから,業務内容の一要素である供養の部分の宗教的意義を強調するのは,公益法人等に対する課税制度の趣旨に照らし,相当でない。

すなわち,人の葬祭の場合,葬祭を執り行おうとする者は,葬儀会社に依頼することが少なくないが,その場合でも,当該業者が一括して処理するのではなく,式場の手配等を葬儀会社が取り扱うものの,火葬は地方公共団体等が運営する火葬場,また,読経等の供養は寺社等というように,その業務内容が分断されており,宗教法人が一括して執り行う例は見当たらないようである。したがって,その場合に,宗教法人が取り扱う事業は,読経等の供養のみとなるが,これについては,寺社等がこれを取り扱うことにこそ価値があると一般に理解されており,一般事業者による類似事業は存在しない。

(イ) 非課税事業との比較について

a 針供養・人形供養については,その供養に伴って金銭の授受を伴うことがあるため,これを外形的に見れば,ペット葬祭と同様に,「請負」業に該当する可能性があるが,一般的に,針供養等を事業として行っている一般事業者は見当たらないようであるし,これらについて授受される金銭についても,明確な料金設定はされていないことが多い。加えて,国民の社会・文化的意識に照らしても,針供養等は,ペット葬祭と異なり,古くから行われてきた宗教的習俗として確立しており,両者を比較することは相当でない。

b 施行令5条1項5号ニや本件通達18は,人間の墳墓地経営の高い公共性・公益性を踏まえて政策的に収益事業から除外したものにすぎず,ペットの墓地について妥当するものではない。

c 神前結婚式等に係る本件通達71においても,一般事業者との競合の有無・程度が当然の前提とされていることは明らかであり,このことは,一般事業者との競合可能性がある披露宴における飲食物の提供等が収益事業とされていること,挙式という儀式自体については,国民の社会的・文化的意識に照らして一般的に宗教的色彩を有することが否定できず,お礼やおみくじと同様であると考えられることからも明らかである。原告の上記主張は,通達の字義を機械的にとらえて,この部分のみをいたずらに拡大解釈し,もって公益法人等の収益事業に関する法の趣旨を解釈するものであって,本末転倒である。

(ウ) 一般事業者の事業参入について

一般事業者と競合するような事業については,税務の公平上,課税対象とするという考え方からすれば,従前の経緯はどうであれ,これを非課税とするのは,法の趣旨に反するというべきである。

(2) 原告の主張

被告の主張は争う。原告の営むペット葬祭業等は,法2条13号,施行令5条1項各号所定の収益事業に該当するものではない。

ア 公益法人に対する課税制度

(ア) 税法解釈・運用の在り方

国民に義務を課し,その権利を制限することは国民の代表者によって構成される国会の定める法律によってのみ行われるべきであり,法律によらないで租税を課すことはできない(憲法84条の租税法律主義)。これは,国家財政の負担者である国民が自らその内容を決定するという民主主義からの当然の要請である。

したがって,その一内容として,租税が賦課される対象は,原則として法律で明記される必要があり,その範囲を政令等や解釈・運用等で安易に拡張することは厳に慎まなければならない。

(イ) 公益法人と収益事業

公益法人である宗教法人については,かつては宗教法人令が非課税としていたのと異なり,課税され得る法人とされたものの,原則は非課税であり,それに対する課税は収益事業すなわち施行令5条で限定列挙された33の特掲事業に限定されている(法7条,2条)。そして,租税法律主義の趣旨からして,たとえ収益事業であっても33の特掲事業に該当しない限り課税の対象とならないと解すべきであり,その解釈・運用は厳格になされなければならず,安易な類推解釈や拡大解釈は許されない。また,解釈の基準やペットに対する意識が社会通念に従わなければならないことは当然であるが,法令の解釈が社会通念に従うということは,宗教法人一般に対する非課税についての不公平感などの安易な感情によって規律されることを意味するものでないことも明らかである。

以上は,法人税法が,公益法人が本来的な公益活動をする場合には課税しないという基本原則を採用していることの現れである。すなわち,そもそも,公益法人が原則的に課税されないのは,公益法人が専ら公益を目的として設立され,営利を目的としないというその公益性と,たとえ収益事業を行ったとしても,そこから生じる利益は,株式会社における株主に対する配当のように,特定の個人に帰属する性質のものではないことによる。

だからこそ,法人税法は,公益法人の本来的公益活動に含まれ得るにもかかわらず形式的に収益事業に含まれる可能性のある公益活動を確認的意味で課税対象から排除しているし(例えば,施行令5条1項3号ニなど),人についての葬祭のように本来的な公益・宗教活動といえる事業については,収益事業に含めていないのである。

イ 被告の主張に対する反論

被告は,「本来の公益活動であっても,当該活動の公益性の有無・程度には着目することなく,一般事業者と競合するような事業については税務の公平上課税すべきものである」という理論(イコール・フィッティング論)を前提にして,①一般事業者の行う事業との類似性の有無・程度,②非課税事業との関係,③提供されるサービス・物品の性質・態様等の諸般の事情を,国民の社会・文化的意識を基礎とする社会通念に照らして判断すべきであると主張する。

しかしながら,上記主張は,実定法規の冷静な分析を怠ったまま独自の理念のみを強調し,公益法人課税見直しの議論に依拠するものであって,立法論的主張を解釈論の中に混在させているとの批判を免れない。

(ア) 宗教行為における対価性の欠如

宗教法人については,対価性のない所得については収益事業収入に該当せず,課税対象とされていない。その理由は,喜捨・布施・お礼が外形的には読経等の行為に対する対価のように見受けられるとしても,もともと,僧侶の供養は,布施という宗教行為のうちの法施といわれ,僧侶あるいは寺院に対する財物の施しは布施のうちの財施に当たり,いずれも宗教行為そのものであり,しかも,法施・財施は相手の財施・法施とは無関係になされるものである上,これらは魂の救済を目的とし,利益の追求を目的とするものではないから,両者の間に対価性を肯定することができないからである。

ところで,原告は,大乗仏教の1つである天台宗の末寺であるところ,大乗仏教においては,「一切衆生悉有仏性(全ての存在は皆仏性を有し成仏すべき存在である。)」,「六道輪廻(世界は,天上界,人間界,修羅道,畜生道,餓鬼道,地獄の6つに分かれており,すべての存在はこの六道を輪廻して転生している。)」という根本的な仏教観があり,ペットなどの動物は因果などによって畜生道にいるが,死後は読経等の供養による功徳によって本来の仏性が顕れ,天上界・人間界に転生することができると考えられている。したがって,ペットに対する読経等も宗教行為なのであり,さらに,森羅万象すべてのものに仏性があるという立場からすれば,人形や針などの物質についてさえ同様のことがいえる。だからこそ,針供養や人形供養は宗教的な意義を認められ,その多くが寺院において僧侶によってなされているのである。

また,ペットは単なる愛玩動物ではなく,伴侶動物であるとの認識が国民の間に一般化しており,そのような認識を背景として,ペットの供養も寺院で行いたいとの強い要請があり,それ故にこそ,一般事業者も宗教法人をまねて葬祭業を営んでいることからすれば,社会通念上も,ペットの供養と人の供養との間に差異はないというべきである。すなわち,布施の宗教的意義を度外視するとしても,ペットであっても愛するものを亡くし,家族を亡くしたのと同様な喪失感にさいなまれた飼い主は,僧侶による供養によって,ペットという愛する対象を亡くしたことを受容し,喪失感をいやし,感謝や哀悼の意を生ずるものであって,これらの点においては,人が亡くなった場合の供養とペットが亡くなった場合の供養とで変わりはない。

原告において行うペット葬祭については,とりわけ,ご本尊が動物愛護を勧めた徳川綱吉の守り仏といわれる薬師如来像であり,その経緯も純粋な宗教的意義から出たものであり,現在でも無償で動物の遺骨を引き取り,その霊を供養していることなどからしても,収益事業などではなく,純粋な宗教行為であることは明白である。

この点について,被告は,①ペット葬祭は読経等からなる一連のサービスであり,供養の部分をクローズアップすることは相当でない,②人の葬祭は業務内容が分断され,宗教法人が一括して行うことはない,③人の葬祭では,国民の社会的・文化的意識に照らして,読経等の供養は寺社が行うことにこそ価値があると考えられているなどと主張する。

しかしながら,そもそも,葬祭は,通夜・告別式・それらにおける読経・火葬・拾骨を含めた全体として,死というものを認識させ,喪失感を慰め,鎮魂するものであって,一体たるべきものであり,だからこそ,火葬に際しても読経による供養がなされ,拾骨・納骨にも僧侶が関与するのである。本来,葬祭においては,一連の行為の中で読経等の供養がなされることにその本質があり,供養に宗教的意義があるのであるから,供養の部分をクローズアップするのは当然である。人の葬祭においては,式場の手配等は葬儀会社が,火葬は地方公共団体等が運営する火葬場が,読経等の供養は僧侶がそれぞれ担当するように分断されているが,これは,住宅事情や墓地法によって,分断されざるを得ないにすぎない。

このような経緯からすれば,人の葬儀ないし供養とペットの葬儀ないし供養とを別のものと考えることは疑問である。また,人に対する供養はもちろん,ペットの供養も,僧侶が行うことにこそ価値があると一般にとらえられており,この点についてもペットの供養と人の供養とは異ならない。そうすると,人の供養とペットの供養を区別する根拠は存在しない。そして,人の葬祭の場合やペット葬祭であっても宗教法人の僧侶が民間のペット葬祭業者の依頼により民間業者の施設に赴いて供養する場合には課税対象となっていないことと比較すると,原告のペット葬祭業に課税することは,課税の公平原則に反して不当である。

また,被告は,原告の「料金表」を問題とするところ,確かに,原告は,お布施額について,当該動物の種類・大きさによって一定の金額を定めている。しかし,これは,ペット葬祭が国民の間に一般化されるようになってまだそれほど年月が経っていないため,人の葬祭と異なり,一般的な目安がなく,ペット葬祭を依頼する人がどの程度の布施をすればよいか困惑することがあることから,一般事業者の基準表を基に一応の目安を設定することによって,金額が多くないときちんと供養してもらえないのではないかという不安を取り除くことができると考えたためであり(実際,人の葬儀においても,お布施の目安を明示するお寺も存在している。),また,火葬において要する燃料費などは大きさによって違いがあり,ペットの大きさに応じて金額を異にする必要があることから,一般事業者の料金表を参考に基準表を作成したにすぎない。現に,この金額にこだわらずにお布施を支払われる方もあり,逆にわずかしかお金がないと言われる場合には目安を大幅に下回る金額(場合によっては全く無償)でもペット葬祭を実施している。

(イ) 一般事業者の事業参入を基準とすることの不当性

確かに,原告のペット葬祭業と一般事業者のそれとは,外形的に類似したところがあるが,これは,国民の一般的な社会的・文化的な意識から宗教的儀式によってペットの霊を送り,それによって自らをいやしたいという欲求に対応するため,一般事業者が宗教家による宗教行為をまねている結果にすぎない。原告のペット葬祭業においては,火葬前,火葬時,拾骨,納骨という一連の葬儀過程において読経による供養を行っているが,かかる一連の行為が宗教的意義を有しているからこそ,ペットの霊の鎮魂と飼い主の喪失感のいやしになっているものであり,これらの宗教的意義を有しない一般事業者のペット葬祭業とは決定的に異なる。

また,本件は,原告がその教義に基づいてペット葬祭業を本来的宗教活動として行っていたところ,ペットブームに便乗した一般事業者が名前や形式等を宗教法人の活動に似せて葬祭業を行い始め,その結果,競合関係が生じているケースであり,現行法規が想定した事態と全く逆のケースであるが,このような場合にまで,一般事業者との類似性・競合性の有無を基準とするイコール・フィッティング論に基づいて課税対象とするのは,立法趣旨に反し明らかに不当である。

(ウ) 非課税事業との比較

針供養や人形供養の際に依頼者から謝礼として受け取る喜捨に対しては課税されない取扱いであるが,僧侶が読経し,供養の対象が物である点でペット葬祭も同様であるにもかかわらず,後者が課税対象とされるのは不当である。

この点,被告は,①人形供養・針供養を事業として行っている一般事業者はない,②明確な料金設定がない,③古くから行われてきた宗教的習俗であるから,ペットの供養と異なる旨主張する。しかしながら,人形供養は人形協会等の関連業界やDなどの一般事業者も多数主宰し,その代金も3000円から5000円が一般的であって,明示もされているから,両者を区別する根拠は存在しない。

さらに,施行令5条1項5号ニの定める非課税の「墳墓地の貸付業」に関する本件通達18の解釈として,墳墓地の貸付業が宗教法人,財団法人又は社団法人によって行われるものは非課税であるが,これら以外の公益法人等によって行われる場合には収益事業課税の対象となるとされていることや,本件通達71が,「宗教法人が神前結婚,仏前結婚等の挙式を行う行為で本来の宗教活動の一部と認められるものは収益事業に該当しないが,挙式後の披ろう宴における飲食物の提供,挙式のための衣装その他の物品の貸付け,記念写真の撮影及びこれらの行為のあつせん並びにこれらの用に供するための不動産貸付け及び席貸の事業は,収益事業に該当することに留意する。」としているとおり,宗教法人がその本来の宗教活動として行う挙式行為は非課税とされる反面,宗教法人以外の公益法人等が神前結婚等の挙式を行う場合には,その挙式の部分についても,「請負業」として課税されると解されていることに現れているように,公益法人のうち宗教法人については,まさにその宗教活動の宗教的意義を尊重した解釈・運用がなされていることからすれば,当該活動の宗教的意義の有無・程度に着目することなく,類似事業の有無や民間業者との競合の有無によって収益事業性を判断しようとする被告の主張は不当である。

(エ) 個々の行為の特掲事業該当性についての反論

a 葬祭について

被告は,ペット葬祭が,読経のほか,追悼の儀式・死体の焼却等の一連の内容を含むと指摘し,国民の社会的・文化的意識に照らしても,寺社がこれを取り扱うことにこそ価値があるとはいえないと主張するが,伴侶動物ととらえられているペットの読経,火葬,火葬後の法要を事務処理であると評価することは,人の葬儀における読経,火葬,火葬後の法要を請負業と評価することと同様,国民の社会・文化的意識に反する。

被告が指摘する一般事業との類似性・競合性については,同事業が,ペット葬祭は宗教家によることに価値があるという国民の認識を背景として,本来は宗教家がなす供養の形態を模倣し,あるいは宗教法人と提携することによって,ペットの霊を供養しようとする飼い主の要望に応えようとするものであることからも,本末転倒した議論である。

仮に,被告が主張するように,読経等による供養を「請負」概念に含まれると解するならば,すべての無形の行為が請負に該当することになってしまうが,このような無限定な概念の拡張は,租税法律主義に反し,施行令5条の趣旨にも反する。

なお,原告が定めた「料金表」が一応の目安にすぎないことは前記のとおりであり,原告が受け取るお布施の金額は,本来,財施をする人の志次第である。

b 遺骨の処理について

原告は,納骨堂で,ペットの遺骨をお預かりしているが,これは保管自体が目的ではなく,ペットの霊の鎮魂が目的である。

被告主張のように,伴侶動物ととらえられているペットの遺骨を供養のため保管する行為を倉庫業と評価すること自体,国民の社会・文化的意識に反する。

すなわち,社会通念上,倉庫業は,寄託を受けた物を倉庫に保管する事業であるところ,寄託は寄託物の返還を当然に予定している。ましてや業として成立する場合には,頻繁に寄託物の出し入れをすることを想定している(商法597条以下)。これに対し,ペットの遺骨は永久に保管されることを予定しており,寄託・倉庫業の概念に該当しない。また,ペットの遺骨の保管は,保管すること自体が目的ではなく,保管した上で読経等の供養をすることが主たる目的であるから,やはり保管すること自体を主たる内容とする倉庫業の概念には当てはまらない。

なお,原告が受け取る管理費は,宗教法人である原告の維持発展のために護寺会費として受け取っているものであり,管理費との名目は,説明の便宜上のものである。

c 物品販売について

墓石や位牌は,そのままでは加工した石・木などの物質にすぎず,これが仏壇や墓地に設置され,お精入れという宗教的儀式が加えられることによって,はじめて鎮魂とおまいりの対象となる位牌・墓となるのである。したがって,仏壇業者が位牌を販売したり,石材業者が墓石を販売する場合とを同列に扱うことはできない。塔婆も塔を擬したものであって,極めて宗教性の強いものであり,僧侶等が仏文字を記入しなければただの木片にすぎず,原価的にも極めて安価なものにすぎない。石版は,ペット供養とは直接の関連性はない。

この点,被告は,お札・おみくじの頒布と異なる旨主張するが,これらは,「護符ないし占い(神仏のお告げ)」と理解されているところ,特に占いについては様々な占いが行われ,一般事業者も幅広く参入しているとおり,必ずしも神社仏閣が行うから尊く価値があると理解されているわけではない。それにもかかわらず,これらに対して課税されていないのは,宗教法人が宗教行為の一環(本尊たる神仏のお告げとして)として行われるからであり,それ以外の理由は見当たらない。

d 法要及び死体の引取りについて

法要は,一定の期日に読経等によって供養することにより故人や亡くなったペットを追悼し,鎮魂することであり,供養こそ法要の本体であって,アフターケアなどではないから,葬祭の付随的事業活動に当たらない。

ペットの遺体の引取りは,ペット葬祭に付随するものであり,供養行為と一体として考えるべきであって,これに伴って受け取る金員については実費以上の何ものでもない。


第3 当裁判所の判断

1 収益事業の意義とその判断基準

(1) 公益法人等に対する課税制度と宗教法人

ア 法4条1項は,法人税の納税義務者について,「内国法人は,この法律により,法人税を納める義務がある。ただし,内国法人である公益法人等又は人格のない社団等については,収益事業を営む場合……に限る。」と定め,法7条は,公益法人等の非収益事業所得等について,「内国法人である公益法人等又は人格のない社団等の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得……については,第5条(内国法人の課税所得の範囲)の規定にかかわらず,それぞれ各事業年度の所得に対する法人税…を課さない。」とそれぞれ規定している。

そして,公益法人等については,法2条6号により,「別表第2に掲げる法人をいう。」と定義されているから,これに該当する限り,その具体的活動内容などに関わりなく,法人税法上の公益法人等に当たることになる。また,収益事業については,法2条13号が「販売業,製造業その他の政令で定める事業で,継続して事業場を設けて営まれるものをいう。」と定義しているところ,施行令5条1項柱書は,「法第2条第13号(収益事業の意義)に規定する政令で定める事業は,次に掲げる事業(その性質上その事業に付随して行われる行為を含む。)とする。」と定め,1号から33号において,物品販売業,不動産販売業を含む33業種から成る特掲事業を掲げている。

したがって,公益法人等については,上記の収益事業に該当しない限り,その行う事業から得た収益に対して法人税は一切課税されないし,収益事業から得た収益についても,普通法人に対する法人税率が34.5パーセント(法66条1項。平成10年法律第24号による改正前は37.5パーセント)であるのに対し,公益法人等については25パーセント(前同27パーセント)の軽減税率が適用される(同条3項)上,寄付金の損金算入の特例も認められている(37条4項ただし書,施行令73条1項3号)ので,同一法人内部で非収益事業に支出をした場合の実効税率はさらに低下する。以上のほか,道府県民税,市町村民税,事業税,事業所税,不動産取得税,固定資産税,都市計画税(地方税法25条1項,72条の5第1項,73条の4第1項,296条1項,348条2項,702条の2第2項),消費税(消費税法60条4項,同法施行令75条),登録免許税(登録免許税法4条2項,同法別表第3)などにおいても,優遇措置が講ぜられている。

イ ところで,上記優遇措置については,公益法人等の活動における公益性にその存在理由を求めるのが一般的であるが,法人税法別表第2の定める公益法人等を概観すれば明らかなとおり,その内実は,公共法人(法2条5項,別表第1)に比肩すべきものから,単に構成員の福利や同業者間の相互扶助などを目的とするものまで,実に様々なものがあり,その有する公益性,公共性の強弱についても幅広いものがある。したがって,あえてこれらの共通点を探求するならば,せいぜい,営利を目的としない団体(非営利法人)としての性格を有する点を挙げ得るにすぎないとも指摘されている。

本件で問題となっている宗教法人について述べると,歴史的に見れば,近代社会においては国家が責任を持つべきものとされている社会福祉,教育の相当部分を宗教団体が担ってきたといわれているが,法人税法上は,宗教法人法(昭和26年法律第126号)に基づいて設立された宗教法人をいうと定義されている(別表第2)。そして,宗教法人法は,同法12条所定の事項を記載した規則の認証を同法5条の定める所轄庁(原則として都道府県知事,例外的に文部科学大臣)に対して申請し,その認証を得た後に設立登記をすることによって宗教法人が成立する(同法15条)と定めているが,所轄庁は,認証の可否を審査するに当たっては,当該団体が宗教団体であること等の要件の具備を判断するのみである(同法14条1項。もっとも,その運用においては,相当年月の実績を示すことが求められる。)。したがって,法文上は,宗教の教義を広めることなどを主目的とする団体であるならば,宗教法人たる資格を取得することが可能な制度となっているが,ここでいう宗教とは,一般には「超自然的,超人間的本質の存在を確信し,畏敬崇拝する心情と行為」というような広い意味に解されているから,その具体的な教義や活動内容が,その構成員やその属する社会の利益を現実に増進せしめるものであることは必ずしも要求されていないといわざるを得ない(そもそも,公権力がそのような審査を行うことは,信教の自由を保障した憲法20条に違反するおそれがあり,現に,宗教法人法25条5項,84条などは,公権力が,その事務を遂行する上で,宗教上の特性及び慣習を尊重し,信教の自由を妨げることがないよう特に留意すべき旨を定めている。)。

他方,宗教法人法上,宗教法人は,公益事業以外の事業から収益を得たときは,当該宗教法人,包括宗教団体又はそれが援助する宗教団体若しくは公益事業のために使用しなければならず,所轄庁は,これに違反する事実がある場合には,当該宗教法人に対して報告を求め,あるいは質問をすることができ,さらには1年以内の事業停止を命ずることができる(6条2項,78条の2第1項1号,79条)上,上記の事務が適正に行われることを担保するため,宗教団体は,毎会計年度終了後に財産目録及び収支計算書を作成して,これらを所轄庁に提出しなければならない(25条1項,3項,4項)とされている。

そうすると,上記のような超自然的,超人間的本質の存在を確信などする心情そのものが,人の精神に安らぎを与え得ることは否定できないものの,現行法上は,かかる意味での公益性,公共性を高く評価しているが故に税制上の優遇措置が講ぜられているというよりも,宗教法人が非営利法人であることを求められ,しかも,そのことを担保するために所轄庁による監督に服している点が重視されていると解することができる。

(2) 公益法人に対する課税制度の経緯

証拠(甲24,乙14,15)及び弁論の全趣旨によれば,公益法人に対する課税制度の経緯について,以下の事実が認められる。

ア 我が国における所得課税制度は,明治20年に制定された所得税法(明治20年勅令第5号)によって創設されたが,当時の納税義務者は個人のみであって,法人に対する課税は行われなかった。

その後,明治32年の所得税法改正(明治32年法律第17号)により,法人の所得に対しても1000分の25の税率により所得税を課することとされたが,公益法人については課税の対象外とされた(同法5条4項)。その根拠は,公益法人は専ら公益を目的として設立され,営利を目的としないというその公益性と,たとえ収益事業を行ったとしても,それから生ずる利益は特定の個人に帰属する性格のものではないと考えられたことにある。

そのため,大正9年の改正(大正9年法律第11号)や,法人税法の創設(昭和15年法律第25号)によって法人に対する課税制度の大変革が行われた際にも,公益法人等に対しては課税されないままであったが,昭和20年12月に宗教団体法が廃止されて宗教法人令(昭和20年勅令第719号)が制定されて初めて,収益事業を営む宗教法人については,その収益事業から生ずる所得について法人税を課税することとされた。

イ 戦後に来日したシャウプ博士を団長とする使節団は,昭和24年8月,日本の税制の在り方に関する報告書を公表したが,その中で,非課税とされている公益法人の多くが,「収益を目的とする活動に従事し,一般法人並びに個人と直接競争している……このような非課税法人の上げる利益金は,その活動をさらに拡張するかまたは饗宴のために費消されている」こと,「そのいずれもが,免税を正当化するためには極めて薄弱及び全く無価値なものである」ことなどを指摘した上,租税の全部又は一部を免除する場合には,その目的及び趣旨を法規中に具体的に規定すること,免税を要求しようとする一切の法人に対し,免税証明書の交付を大蔵省から受け取ることを要求すべきこと,3年ごとに免税の資格を審査すべきことなどの勧告を行った。

これを受けて昭和25年法律第69号により改正された法人税法においては,個別審査方式は,その困難性などの理由から採用に至らなかったものの,公益法人等の収益事業から生じた所得に対しては,法人税を課することとし,収益事業の範囲は政令で定めるというように,現行法と基本的に同じ形式が採用された。この改正の基本的な考え方について,当時の大蔵省主税局調査課は,「戦後の急激な物価騰貴のため,多くの公益法人は従来程度の収入を得ていたのでは本来の公益事業遂行の資金を賄うことが困難となったので,従来営利的事業を行わず,もっぱら一般の寄付金等によって事業を行っていた公益法人も新たに営利的事業を行うこととなり,また従来からの営利的事業も拡張する傾向が顕著になってきた。元来公益法人が営利的事業を行うのは,その本来の目的たる公益事業を遂行する上のやむを得ない手段たるべきであって,公益法人の行う営利的事業が本来の事業遂行を賄ってなお余りあるという段階に至ると,それは公益法人の行う営利的事業としては行き過ぎであるともいえるし,一般の営利法人の行う事業との間に,一方は法人税が非課税であり,一方は課税されるという関係から著しい不権衡を生ずるに至った。そこで公益法人に対する法人税課税問題が台頭するに至ったのであるが,その課税方法として,個々の公益法人の事業の内容により,その事業が非常に公共性が強いときはたとえ収益事業を行っても課税せず,また公共性に乏しいときはその事業の全部に対し課税するという方法も考えられた。しかしすべての公益法人についてその事業を精査し,公共性の強弱を判定することは事実上不可能に近いので,改正税法においてはすべての公益法人を一律に課税法人とし,その収益事業から生ずる所得に対してのみ法人税を課税することとしたのである。」と説明している。

(3) 収益事業概念の解釈の在り方

以上の検討結果によれば,法人税法等が公益法人等に対して種々の優遇措置を講じているのは,必ずしも,それら全部が,本来は国家が行うべきほどに公共性,公益性の高い活動を担っており,国家としてもかかる団体を積極的に支援,育成すべきと考えられたからではなく,少なくとも,人間社会において潤滑油に例えるべき一定の有用性を持った非営利活動を行うとされていることに着目し,国家としても,その限りにおいて税制上の便宜を提供しようとするものと解するのが相当である(このことは,宗教法人においても例外ではない。)。

したがって,法人税法は,およそ公益法人等であれば,どのような活動によって得た収益であろうと課税しないとする立場に立脚するものではなく,これらの法人等も納税義務者とした上で,本来の非営利活動については課税対象から外すこととするが,一般事業者が利益の獲得を目的として行っている事業と同じ類型の(収益)事業から生じた収益に対しては,これらに税制上の便宜を提供すべき根拠がなく,また課税の公平性の確保の観点から,低率ではあるものの,課税対象としていると解される(この意味で,一般事業者との競争条件の平等化を意味するイコール・フィッティング論が現行課税制度の根拠の一つとなっていることは否定できない。)。

そうすると,法2条13号,施行令5条1項各号の定める収益事業の概念は,憲法30条の定める租税法律主義の観点から,他の国法と整合する意味内容が与えられるべきことは当然であるものの,他方で,当該団体やその活動が高い公益性,公共性を有していることを理由に,制限的に解釈しなければならないものでないことも明らかである。


(4) 宗教行為と収益事業性の有無

この点について,原告は,仏教においては僧侶の行う法施と在家信者の行う財施は,いずれも宗教行為である布施に当たり,対価関係に立たないから,本来の宗教行為である限り,収益事業には当たらない旨主張する。なるほど,施行令5条1項の示す特掲事業は,これを通覧すれば明らかなとおり,一方がある給付行為を行うのに対し,その対価として財貨を移転することを約することによって成立する類型の事業であるから,財貨移転行為が給付行為の対価として行われない場合,すなわち給付行為の内容とは無関係に任意でなされる場合には,特掲事業の定型的な特徴を欠き,収益事業に該当しないというべきである。そして,人の葬儀における読経行為など,宗教行為の典型例とされているものにおいては,通常,かかる意味での任意性が存在すると考えられていることは公知の事実である(その場合に収受されるお布施には,ある程度の幅を持った世間相場というものが存在することは否定できないが,同じ内容の読経を行う場合でも,被葬者の身分,経済力等によってその金額が異なり得ることは当然視されているし,仮にお布施の金額が上記の世間相場より低額であったとしても,これが債務不履行として責任が追及されることは考え難いなど,法的な拘束力を有していると認識されていない。)。

しかしながら,このことは,当事者が当該行為に対して何らかの宗教的意義を感じさえすれば,直ちに当該行為の収益事業該当性が否定されるということを意味するものではなく,また,当該行為が宗教的な外形を呈していることや,主宰者が宗教家ないし宗教法人であることによっても,上記該当性が否定されるべきではない。ある行為に宗教的意義を感ずるか否かは,人によって大きく異なり得るし,宗教的な外形を呈しあるいは主宰者が宗教法人であるからといって,財貨移転が任意のものであることの保障は何もなく,法人税法上も,このような要素を基準として収益事業性の有無を判断する規定を置いていないからである。

したがって,その該当性の有無は,当該事業の展開の手法,収受される財貨の額が定まるに至る経緯,その額と給付行為の内容との対応関係,例外の許容性などの具体的諸事情を総合的に考慮し,一般事業者が行う類似事業と比較しつつ,社会通念に従って,果たしてその財貨移転が任意になされる性質のものか,それとも一定の給付行為の内容に応じた債務の履行としてなされるものかを判断して決せられるべきものである(前者と判断される行為をもって本来の宗教行為と定義するならば,原告の上記主張は正当というべきであるが,その趣旨が,当事者が本来の宗教行為と考えるものは前者と判断すべきであるというのであれば,採用できない。)。そして,このことは,本件で問題となっているペット葬祭業だけに妥当するものではなく,針供養や人形供養,おみくじ等の頒布などの宗教的行為にも当てはまるというべきである。

2 本件において,被告は,原告の行うペット葬祭業等は収益事業(請負業,倉庫業,物品販売業,これらの付随事業)に当たると主張するのに対し,原告は,その属する天台宗の教義やペットに対する国民の認識に照らすと,ペットの供養は,人の供養と同様の宗教行為であるから,ペット葬祭業は収益事業に当たらない旨主張するので,以下,その当否について判断する。

(1) 前記前提事実(1)ないし(3)に証拠(甲8,16,20の1ないし6,21,22,乙1,4ないし13,16ないし23,原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。

ア 原告は,嘉暦元年(1326年)ころ,慈妙上人によって開山され,その後は,同上人によって開山された密蔵院住職の隠居寺として利用されてきたと伝えられる古刹であり,最澄を開祖とし比叡山延暦寺を総本山とする天台宗に属していて,現在は,徳川5代将軍綱吉の守り仏と伝えられる薬師如来像を本尊としている。原告は,昭和44年10月28日,実質的に先代住職のEによって法人化されたが,平成6年10月31日,同人の死去に伴い,Aが代表者兼住職に就任した。

ところで,大乗仏教においては,「一切衆生悉有仏性」とか「六道輪廻」といった教義が示すように,すべての存在に仏性があり,現在は因果によって畜生道にいるとしても,功徳を積むことによって,天上界,人間界へ転生することができると考えられていることから,人間以外の動物に対する供養も否定されないところ,特に綱吉が,1687年から22年間にわたって,後に「生類憐れみの令」と総称される動物等の殺生や虐待を禁じた種々の法令を出し続けたことについて,かかる教義の影響が指摘されている。

イ 原告は,昭和58年ころ,Eが,知人である愛知県動物保護管理センターの所長から,処分した動物の遺骨等が放置されている状況を聞いたのを契機に,愛知県条例に基づく許可を受けて,動物の死体処理のための火葬場を設け,ペット葬祭業を始めた。もっとも,当初は特段の広告活動を行わず,専ら口コミに頼っていた上,それを必要とする国民の意識も希薄であったことから,依頼件数は1か月に2,3件程度であったが,ペットブームの隆盛に伴い,平成元年ころになると年間で犬・猫合わせて130件に増加し,お布施の合計額も74万6000円位となった(1件当たり平均5738円)。

原告は,元々檀家が少ないために,運営に苦慮することが多く,特に,昭和52年ころ,火災によってその本堂や庫裡などが焼失した際には,寺院の再建に大きな困難を伴ったが,ペット葬祭を開始した後は,徐々に運営が安定してきた。そして,現在では,かなり広範囲な地域から,ペット葬祭の依頼を受けるようになり,その数は,年間約2000件程度に達している。

ウ 原告が営むペット葬祭業の概要は,以下のとおりである。

(ア) 原告は,約3000坪の境内に,動物専用の火葬場(個別用及び合同用の2基),墓地(約30坪の穴を有する合同墓地と,区画された個別墓地から成り,後者には人間用に模した墓石を設置することができる。),納骨堂,待合室,駐車場を備え,引取りのための自動車を数台保有している。

(イ) ペットを亡くした飼い主が原告によるペット葬祭を行うことを希望する場合,まず,その死体を原告に持ち込むか,自動車で原告に引き取ってもらって運搬してもらうかを選択することになる。後者の場合,依頼者は,原告に対して3000円を支払うことを求められる。

(ウ) 葬儀は,火葬場に隣接するペット専用の葬式場において人間用祭壇を用いて僧侶が読経して行う。これが終了した後,死体を火葬に付すが,これには,以下のとおり,合同葬,一任葬(個別葬)及び立会葬の3種類がある

a 合同葬 依頼者は,葬儀終了後,併設火葬場において死体を原告に預けてお別れする。死体は,その日のうちに原告によって合同火葬され,合同墓に納骨される。

b 一任葬(個別葬) 依頼者は,葬儀終了後,併設火葬場において一時死体を原告に預ける。死体は,立会葬のない時間に原告によって単独火葬される。依頼者は,後に遺骨を引き取った上,納骨堂,単独墓(以上は有料),合同墓(無料)への納骨を選択することができる。

c 立会葬 死体は,葬儀終了後,直ちに併設火葬場にて単独火葬される。依頼者らは,この間,待合室にて待機し,焼却後,自ら拾骨する。納骨方法は,bと同様の選択が可能である。

なお,原告の発行するパンフレット又は開設しているホームページには,火葬・納骨方法について3種類の方法があることの説明とともに,別表2記載のとおり,動物の重さと火葬方法とを組み合せた金額表(8000円から5万円まで)が,「料金表」(乙6)ないし「供養料」(乙8)の表題の下に掲載されているところ,これは,Aが,愛知県T市所在の有限会社Fの料金表を参考にして作成したものである。また,同ホームページには,「上記は一式全てを含む費用です(引取・お迎え費用等は別)」との記載がある。

もっとも,同ホームページは,その後に改定され,本訴提起後である平成16年8月当時には,金額表は「お布施について」(乙23)の表題に代えられるとともに,「以下の費用には僧侶へのお布施が含まれます」との注記が記載されている。

(エ) 原告は,境内にペット専用の合同墓地と個別墓地を設置しており,上記のとおり,依頼者の希望に従い,個人墓,合同墓に埋蔵する。その際も,僧侶による読経がなされる。合同墓地の利用は,原告にペット葬祭を依頼した者については無料であるが,個別墓地については,年間2000円の「管理費」のほか,3年間の使用期間を3回更新した時(9年経過時)には,「継続利用料」1万円の支払を求められる。

また,納骨堂の利用を希望する場合は,「永代使用料」(小さめの納骨箱については3万5000円,大きめのそれについては同5万円)のほか,「管理費」として年間2000円の支払が必要であり,また,3年間の使用期間を3回更新した時(9年経過時)に「契約更新料」の支払が求められるのは,個別墓地と同じである。そして,3ヶ月以上管理費が納入されなかった場合は,中身一切と利用を含む権利を放棄したものとして扱われ,遺骨は合同墓へ埋蔵され,仏具も処分されることになっている。

なお,前記ホームページには,「合同のお墓は上記費用にて無料でお使いいただけます。また,納骨堂・石墓地(個別墓)などのご利用の場合でもお手ごろにご用意できます(下記参照)。B動物霊園では葬式後に護持会費などを請求することはありません。」などと記載され,さらに,それぞれの写真とともに,合同のお墓,納骨堂,石墓地の説明と費用(納骨堂は1区画3万5000円,石墓地は3万円より)が示されている。

(オ) 原告は,ペット葬祭業に関連して,次のとおり,物品の頒布をしている。

a 塔婆 1本1000円
b 位牌 作成費5000円。なお,これを年間5000円で預かるが,3ヶ月以上管理費を納入しなかった場合は位牌・利用利益を放棄したものと扱う。
c ネームプレート,骨壺,袋,石版及び墓石

(カ) 原告は,毎月17日に合同の法要を行っており,これについては,任意の志以外の金員が収受されることはないが,遺骨を納めた飼い主からの依頼に基づいて,初七日法要や七七日法要を行う際には,あらかじめ定められた金員を受け取っている。

(キ) 原告は,「B 動物霊園」の名称を用いて,ペット葬祭業のあらましを写真入りで説明したパンフレット(甲16,乙6)を発行し,同様の内容のホームページ(乙8,23)を開設するなど,その周知に努めている。また,動物病院や獣医師からペット葬祭の希望者を紹介してもらった際に謝礼金を渡したり,紹介を依頼するために中元等を贈ることもしている。

(ク) 原告は,ペット供養による収入金額について記帳した平成8年4月以降の帳簿を保管しているところ,その概要欄は,ほとんどペットの種類の記載しかなく,収入金額の内訳の記載もないが,その収入金額がいずれも料金表の金額又はこれに運搬料を加えた金額に合致していることから,ペット葬祭依頼者のほとんどが,「料金表」ないし「供養料」として掲示された金員を原告に支払っていると推測される。また,それ以外の管理費等は,すべて掲示されている金額が入金されている。

エ 動物,特に家畜を死なせた場合に,それを供養することは,日本においては,古くから見受けられるが,ペットについての供養や葬祭を行うことは,昭和50年代くらいから広まり始めたといわれている。

その背景としては,少子化傾向が進み,ペット動物を家族と同様の愛情を注ぐ対象と考え,その死亡の際には空虚感を埋め,精神的ないやしを求める風潮が強まったことが挙げられる。その結果,ペット専用の葬儀や動物霊園を取り扱う事業者が増加し,平成11年には,これらの情報を提供することを目的とする「全国ペット霊園ガイド」が発刊され,平成14年には,ペットに関するビジネス全体の概要を内容とする「図解で分かる1兆円市場 ペットビジネスのすべて」が発刊され,その中で,「ペットの終末ビジネス」の表題の下にペット葬祭業についても解説が施され,平成16年4月には,寺院運営に関する月刊誌「寺門興隆」が,「ペット供養寺院」についての特集記事を掲載し,山梨県T市の曹洞宗G,東京都S区の日蓮宗H及び原告の3例を紹介する(もっとも,前2者は,宗教法人とは別個に会社を設立し,同社がペット葬祭業を営む形態を採用しているところ,その概要は,後記のとおりである。)など,ペット葬祭業への一般的な関心の高まりが見られる。

現在では,ペット専用の葬儀社は全国で6000ないし8000社あるといわれ,その事業主体は,仏教寺院だけでなく,倉庫業,運送業,不動産会社(出資),石材店,動物病院などの民間業者にも広く及んでいる。

オ 原告以外にペット葬祭業を営む者として,以下のような具体例が挙げられる。

(ア)埼玉県T市所在の「I」では,動物愛護家から連絡を受けると,霊柩車で引取りに行き,焼却から葬儀セレモニー,埋蔵までを行うが,火葬して共同埋蔵する場合は,依頼者は,小型中型犬の場合は1万9000円,大型犬の場合は2万4000円,猫やウサギの場合は1万5000円,小鳥の場合は5000円をそれぞれ支払わねばならない。なお,立会葬では,希望する宗派の読経テープが流れるが,別途に3万8000円の支払を要する。

(イ)山梨県T市所在の有限会社「J」は,曹洞宗Gの住職が設立したもので,移動用火葬炉やペット用合同慰霊碑,納骨堂を備え,火葬には一任合同葬,一任個別葬及び立会葬の3種の中から選択でき,これと動物の大きさの組み合わせによって料金が異なり,中型犬の場合は合同葬で1万9000円,一任個別葬で2万4000円,立会葬で3万9000円と定められているが,これには,引取費用,棺桶や骨壺等の料金が含まれている。立会葬では,僧侶が20分ほど読経する。合同葬の場合,遺骨は合祀スペースに埋蔵するが,その料金は5000円であり,個別葬及び立会葬で返骨を希望する場合は,1万円の追加支払が必要である。納骨堂へ安置する場合は,仕切のない棚は1万円,それ以外は納骨箱の大きさに応じて3万円,5万円,7万円,10万円と料金が設定され,納骨から3年経つと,合同慰霊碑に合葬するか,5000円の更新料で3年間継続するかを選択する。

(ウ)東京都S区所在の株式会社Kは,日蓮宗Hが母体となって設立した株式会社で,以下の3つのコースを用意している。①立会葬は,飼い主が同席し僧侶による読経ともに行う告別式とお別れの儀の後火葬し,骨揚げ後は骨壺に入れて返骨するコースであり,中型犬の場合の料金は6万2500円である。②個別一任葬は,動物の遺骸を一体づつ供養・火葬し,同じく返骨するコースであり,中型犬の場合の料金は3万8800円である。③合同葬は,何体かまとめて供養・火葬し,合同墓所の地下に埋蔵するコースであり,中型犬の場合の料金は2万6700円である。そして,合同葬以外は,別料金で納骨棚に安置でき,棚の大きさに応じて,2年間で2万5000円から5万5000円までの使用料が設定されている。

(エ)岐阜県H市所在の有限会社Dは,僧侶の立会い・読経による葬儀の後,合同火葬するか個別火葬するかの選択と動物の重さ(極小,10キログラムまでの小,15キログラムまでの中,30キログラムまでの大,30キログラムを超え40キログラムまでの特大)の組み合わせに応じて,7000円から5万円までの志納料が設定されている。法要については,単独供養か否か及びその回数に応じて,2万円から10万円まで志納料が異なり,納骨についても,納骨塔への収納(無料),墓への埋蔵(有料),位牌供養(一部有料)かを選択することができる。

(オ) 愛知県T市所在の有限会社Fは,原告の行う葬儀・火葬と同じ方法を用意し,原告と同様に,合同供養・合同火葬,個別供養・合同火葬,個別供養・個別火葬の別と動物の重さの組み合わせに応じた料金表を用いている。そのホームページには,その業務内容はペット葬祭業であり,契約先は動物菩提寺宗教法人妙楽寺とされ,その住職による読経が個別供養等の際になされることが記載されている。

(2) 以上の認定事実を基に,原告のペット葬祭業等が特掲事業に該当するか否かについて判断する(原告のペット葬祭業が,収益事業性の他の要件,すなわち継続性や事業場の設置の要件を満たすことは明らかである。)。

ア 原告の行う合同葬,一任葬及び立会葬の請負業該当性の有無

(ア) 請負契約とは,当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対して報酬を与えることを約する契約であり(民法632条),請負契約の目的たる「仕事」とは,物の製作のような有形のものでも,運搬のような無形のものでもよいが,いずれにしても仕事の完成によってもたらされる結果そのものが契約の目的とされる必要がある。また,施行令5条1項10号の請負業に含められている事務の委託契約(準委任契約)とは,当事者の一方が法律行為以外の事務をなすことを相手方に委託し,相手方がこれを承諾することによってその効力を生ずる契約であり(民法656条,643条),受任者にある程度の自由裁量権がある点で雇傭契約と異なり,委託された事務を処理すること自体を内容とし,仕事の完成を内容としない点で民法上の請負契約と異なっている。そして,民法上の準委任契約は無償契約であることを原則とするが,特約によって報酬支払を約することもできるところ,特掲事業は収益事業が列挙されたものであるから,報酬の支払が合意され,受任者はその支払請求権を取得することが要件となると解される。

しかるところ,前記認定事実ウによれば,原告が行う合同葬,一任葬及び立会葬は,いずれも,原告がペットの葬儀を執り行い,ペットの死体を焼却することを約し,他方,ペット供養希望者が「料金表」ないし「供養料」の表題が付された金額表に記載された金員を交付することを約しているのであるから,死体の焼却については請負契約,それ以外については準委任契約の成立要件を充足すると解される。

(イ) この点について,原告は,①大乗仏教においては,その教義上,ペットなどの動物に対する供養は本来的な宗教行為であること,②僧侶の供養は,布施という宗教行為のうち法施であり,僧侶あるいは寺院に対する財物の交付は布施のうち財施であり,いずれも宗教行為そのものであって,両者は対価関係に立つものではない旨主張するところ,請負契約であれ報酬支払の特約付き準委任契約であれ,いずれも有償双務契約たる性質を有するから,これらの契約が成立するためには,報酬支払債務と仕事を完成させる債務ないし事務を処理する債務とが対価関係にあることを要することは明らかである。そして,証拠(甲12の1ないし57,20,21)によれば,原告にペット葬祭を依頼する者の多くが,そこに何らかの意味の宗教的意義を見いだしていると認められ,原告も,本来の宗教行為である人の葬祭の形式を踏んでペット葬祭を執り行っていることは明らかである。

しかしながら,前記のとおり,法人税法上の特掲事業該当性は,当事者が当該行為に宗教的意義を見いだし,あるいはその外形を取ることによって直ちに否定されるべきものではなく,これを取り巻く具体的諸事情をも総合的に考慮し,一般事業者の類似事業と比較しつつ,社会通念に従って,財貨移転が任意になされる性質のものか否かを判断して決せられるべきものである。しかるところ,原告のペット葬祭業は,前記認定事実ウないしオのとおり,「料金表」ないし「供養料」の表題の下に,3種類の葬儀内容と動物の重さの組み合わせに応じた確定金額から成る表を定め,ホームページにも同様の表を明示的に掲載していること,ペット葬祭依頼者のほとんどが,あらかじめホームページなどを通じ,あるいは依頼時に同表を示されるなどして同表の存在を認識し,実際にも同表に記載された金員を支払っていたこと,ペット葬祭を実施する民間業者が多数存在しており,その料金システムは原告のものと極めて類似していることなどに照らせば,原告のペット葬祭業においては,依頼者は,原告がその支払う金員に対応する葬祭行為をするものと期待し,原告も,その提供する葬祭行為に対応する金員が支払われるものと期待しているというべきであるから,依頼者の支払う金員が任意のものであるとは到底解されず,両者の間に対価関係を肯認するのが相当である。


原告は,さらに,「料金表」を設けたのは,ペット供養が国民の間に一般化されるようになってまだそれほど年月が経っていないため,金額が多くないときちんと供養してもらえないのではないかという国民の不安を取り除くべく,一応の目安として設定したものにすぎない旨主張するが,国民が上記のような不安を抱いている
ということ自体,その裏返しとして,支払う金額の多寡に応じた葬祭行為(サービス)がなされることを当然視していると考えられる上,そもそも,前記「料金表」には,3種類の葬儀形式と6段階の重量等を組み合わせた18の確定金額が明示されており,また,パンフレットやホームページには,同表の金額が一応の目安にすぎない旨の注記が記載されていないことなどに照らすと,原告の上記主張は,到底採用できない。

イ 遺骨処理の倉庫業ないし請負業該当性の有無

(ア) 倉庫業とは,業として(有償かつ継続して),他人のために物品を倉庫に保管することを意味する(商法597条)ところ,倉庫とは,その名称のいかんを問わず,物品の滅失若しくは損傷を防止するための工作物又は工作を施した土地等であって,物の保管の用に供するものをいう(倉庫業法2条1項)。

しかるところ,前記認定事実ウによれば,原告は,火葬したペットの遺骨を,利用者の依頼に応じて,設置している納骨堂内の納骨箱において保管し,その使用許可料及び管理費の支払を受け,9年の使用期限が到来した際は,更新料の支払がなされればそのまま保管を継続するが,そうでない場合は,合同墓へ改葬するとしているのであるから,倉庫寄託契約の成立要件を満たすと解される。また,個別墓地についても,その利用者の依頼に応じて墓地を管理し,利用者から一定額の管理費の支払を受け,9年の使用期間が経過すれば,納骨堂の使用とほぼ同じ取扱いをするというのであるから,報酬支払特約付きの事務委託契約の成立要件を満たすというべきである。そして,上記のとおり,原告の行うものとされている給付行為と金員の支払との間の対価性も優に認められる。


(イ) この点について,原告は,①永久保管が前提となっていること,②寄託物の出し入れが予定されていないこと,③寄託期間に応じて費用が決定されていないこと,④管理費は「護持会費」であることなどを理由に,倉庫業等に該当することを否定する。

しかしながら,典型的な倉庫業においても,保管期限を定めない契約形態は十分にあり得る上,本件において,仮に納骨堂利用者から遺骨の返還を求められれば,原告がこれを拒絶する理由は見当たらないばかりか,逆に管理料や更新料の支払がない場合には,納骨堂の利用を拒絶されて,遺骨は合同墓地に改葬されることになっているから,①や②は,倉庫寄託契約の類型に当たることの支障となるものではない。また,上記のとおり,寄託期間や管理期間に応じて管理費が定められていること,原告のホームページで護持会費を請求しないと明言していること(これに関する原告代表者の説明は理解し難い。)などからすれば,上記主張はいずれも採用できない。

(ウ) なお,施行令5条1項5号ニは,「墳墓地の貸付け」が収益事業に該当しない旨定めているが,本件のような個別墓地におけるペットの遺骨の埋蔵がこれに該当しないことは明らかである。すなわち,税法上,「墳墓地」の意義は明定されていないが,墓地法は,2条4項で「死体を埋葬し,又は焼骨を埋蔵する施設をいう」と規定しているところ,ここにいう死体ないし焼骨が人間のそれを指すことは疑う余地がないから,「墳墓地」も人間に関するものに限られると解される上,実質的にも,墳墓地が,周辺住民の生活環境との関係で配慮が求められる一方,国民生活にとって必要な施設である(墓地法4条1項により,人の遺骨は墓地に埋蔵することが義務付けられている。)ことから,その永続性と非営利性を確保する必要性が高いのに対し,ペットの死体の処理については,現行法上,特段の規制はなく,法的には「廃棄物」として,市町村が処理すべき性質のものであるから,人についての墳墓地と同様の公共性,公益性は見出し難いからである。

ウ物品販売業該当性の有無

(ア) 施行令5条1項1号の「物品販売業」とは,動産である物品を有償かつ継続して販売することを意味すると解されるところ,前記認定事実ウのとおり,原告は,ペット葬祭業に関連して,塔婆,プレート,骨壺,袋,位牌,石版,墓石を交付し,これに対して,あらかじめ定められた一定額の金員を受領しているのであるから,これらの行為は,物品を有償かつ継続して販売しているものに該当する。

(イ) この点について,原告は,墓石や位牌は,そのままでは加工した石・木などの物質にすぎないのであり,これが仏壇や墓地に設置され,お精入れという宗教的儀式が加えられることによって,はじめて鎮魂とお祭りの対象となる位牌・墓となるのであり,また,塔婆も塔を擬したものであるなど,極めて宗教性の強いものであるから,一般事業者の販売と同視することはできない旨主張する。

しかしながら,前記のとおり,法人税法は,宗教的意義の有無,強弱を特掲事業該当性の判断基準とする立場を採用していないところ,本件においては,支払うべき金額は,あらかじめ原告によって定められており,同物品の取得を希望する者としては,同金額を支払う以外の途を選択することができないことや,このような物品の販売は,一般事業者においても行われていることなどに照らせば,その支払は任意の性質を有するものではなく,両者間に対価性が存在すると認めることができるから,原告の上記主張は採用できない。

エ 死体引取り及び法要の請負業付随事業該当性の有無

(ア) 前記認定事実ウのとおり,原告は,ペット葬祭を依頼した者の希望によって,ペットの死体の引取りを行い,これに対して,あらかじめ定められた3000円の支払を受けているところ,この行為は,ペットの葬儀を執り行うに先立って,その準備行為として行われることが明らかであるので,その付随的事業活動に該当すると解される。

原告は,ペットの供養行為と一体として考えるべきであり,受け取る金員も実費にすぎないと主張するところ,本件におけるペットの供養自体が請負業に当たると解されることは前記のとおりであり,また,あらかじめ3000円という確定金額が定められている以上,仮に引取り自体からは収益を上げることが稀であったとしても,両者間における対価性の存在を否定することはできないというべきである。

(イ) また,前記認定事実ウによれば,原告は,合同供養については,志以外の金員を受け取っていないものの,遺骨を納めた飼い主からの依頼に基づいて,初七日法要や七七日法要を行う際には,あらかじめ定められた金員を受領しているところ,このような行為は,請負業に該当すると解される。

オ人間用墓地管理の請負業該当性の有無

前記認定事実ウのとおり,原告は,愛知県G市内に人間についての墓地を設置し,その利用者から依頼を受けて管理し,その対価としてあらかじめ定められた料金を取得しているところ,このような行為は,通常の霊園墓地経営と同様であるから,10号の請負業に該当すると解される。

3 本件課税処分の適法性

本件各事業年度における原告のペット葬祭業等による収入金額,事業経費及び法37条4項(平成14年法律第79号による改正前のもの)所定の寄付金の額とみなされる金額は,それぞれ別紙3の当該欄記載のとおりである(原告は,同各金額を明らかに争わない。)ところ,これらに基づいて所得金額を計算し,さらに関係法条を適用して納付すべき法人税額及び無申告加算税の額を算出すると,別紙3の当該欄記載のとおりとなる。

しかるところ,本件課税処分(ただし,平成14年10月18日付け異議決定及び平成15年10月28日付け裁決によって一部取り消された後のもの)により原告が納付すべきこととなった法人税額等は,これと同額か又はこれを下回っているから,同処分は適法というべきである。

4 結論

以上の次第で,原告の本訴各請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第9部

裁判長裁判官    加  藤  幸  雄
裁判官    舟  橋  恭  子
裁判官    尾  河  吉  久

(別表及び別紙はいずれも省略)

オオクチバス再放流禁止義務不存在確認等請求事件(平成17年02月07日大津地方裁判所)平成14(行ウ)14

・最高裁判所判例検索による検索結果(PDF)

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[判事事項]
1 琵琶湖において,レジャー活動としてオオクチバス,ブルーギル等の外来魚を採捕した場合に,これを再び琵琶湖に放流してはならない旨を規定する条例に基づく外来魚を再放流してはならないとの義務のないことの確認を求める訴えが,確認の利益を欠き,不適法であるとして却下された事例 

2 琵琶湖において,レジャー活動としてオオクチバス,ブルーギル等の外来魚を採捕した場合に,これを再び琵琶湖に放流してはならない旨の条例の規定の制定行為の取消し及び無効確認を求める訴えが,同規定は国民の具体的な権利に直接的な影響を及ぼすものではなく,同規定の制定行為は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとして,却下された事例

[裁判要旨]
1 琵琶湖において,レジャー活動としてオオクチバス,ブルーギル等の外来魚を採捕した場合に,これを再び琵琶湖に放流してはならない旨を規定する滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例(滋賀県条例第52号)に基づく外来魚を再放流してはならないとの義務のないことの確認を求める訴えが,特定の公共用物において特定の魚類を採捕して放流するということまで憲法13条の基本的人権として保障される個人の私的領域に関する事項に含まれるものではなく,外来魚を食せず,殺生することなく再放流するという同法19条及び20条に基づく思想的信条や宗教的信念とその自由が侵害され続けるとの不安,危険は事実上の影響にすぎず,法律上のそれであるとは認められず,確認の利益を欠き,不適法であるとして却下された事例 

2 琵琶湖において,レジャー活動としてオオクチバス,ブルーギル等の外来魚を採捕した場合に,これを再び琵琶湖に放流してはならない旨の条例の規定の制定行為の取消し及び無効確認を求める訴えが,同規定そのものが,その適用によってキャッチ・アンド・リリースによって魚釣りを楽しむという釣り人としての自己決定権や外来魚を殺生することなく再放流するという思想的信条,宗教的信念という憲法上の具体的権利等に直接具体的な影響を及ぼすものではなく,同規定の制定行為は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとして,却下された事例

[判決全文]

主文
  1 原告らの別紙行為目録1及び2記載の日時場所において採捕した琵琶湖に生息するオオクチバス各1匹を生きたまま再放流したことについて,これを再放流してはならないとの義務がないことの確認を求める訴えをいずれも却下する。
  2 原告らの滋賀県条例第52号滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例のうち「琵琶湖におけるレジャー活動として魚類を採捕する者は,外来魚(ブルーギル,オオクチバス,その他の規則で定める魚類をいう。)を採捕したときは,これを琵琶湖に放流してはならない。」とする規定部分の処分の取消しを求める訴え及び同規定の無効確認を求める訴えをいずれも却下する。
  3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
  4 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判

Ⅰ 原告ら

 1 主位的請求
   (1) 原告らが,別紙行為目録1及び2記載の日時場所において採捕した琵琶湖に生息するオオクチバス各1匹を生きたまま再放流したことについて,原告らには,被告との間においてこれを再放流してはならないとの義務がないことを確認する。
   (2) 被告が制定した滋賀県条例第52号滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例のうち「琵琶湖におけるレジャー活動として魚類を採捕する者は,外来魚(ブルーギル,オオクチバス,その他の規則で定める魚類をいう。)を採捕したときは,これを琵琶湖に放流してはならない。」とする規定部分の処分を取り消す。
   (3) 被告は,原告ら各自に対し,それぞれ金10万円を支払え。

 2 上記1(2)についての予備的請求

   被告が制定した滋賀県条例第52号滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例のうち「琵琶湖におけるレジャー活動として魚類を採捕する者は,外来魚(ブルーギル,オオクチバス,その他の規則で定める魚類をいう。)を採捕したときは,これを琵琶湖に放流してはならない。」とする規定が無効であることを確認する。

Ⅱ 被告
  1 本案前
    原告らの上記1(1),(2)及び2の請求にかかる訴えをいずれも却下する。
  2 本案
    原告らの請求をいずれも棄却する。

第2 事案の概要

 本件は,被告が,条例において,オオクチバス等の外来魚の再放流の禁止の規定を定めたことについて,同規定は,立法事実が存在せず,また,釣り人である原告らの権利を侵害する違憲・違法なものであると主張して,被告に対し,行政事件訴訟法4条の「当事者訴訟」として,原告らが行ったオオクチバスの再放流行為について,オオクチバスを再放流してはならないとの義務がないことの確認を,また,主位的に同法3条2項の「処分の取消しの訴え」として,同規定部分の処分の取消しを,予備的に同条4項の「無効等確認の訴え」として,同規定の無効確認をそれぞれ求めるとともに,上記規定や本件訴訟における被告の応訴態度によって精神的損害を被ったなどと主張して,国家賠償法1条に基づき,上記精神的損害の賠償を求めた事案である。

Ⅰ 争いのない事実等

(1) 平成14年10月16日,被告において,滋賀県条例第52号滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例(以下「本件条例」という。)が成立した。
(2)  本件条例18条は,外来魚の再放流の禁止として「琵琶湖におけるレジャー活動として魚類を採捕する者は,外来魚(ブルーギル,オオクチバスその他規則で定める魚類をいう。)を採捕したときは,これを琵琶湖に放流してはならない。」ことを定めている(以下「本件規定」という。)。
(3) 本件条例は,平成14年10月22日,滋賀県知事により公布され,本件規定の施行日は,平成15年4月1日と定められた(乙1)。

Ⅱ 争点

 1 原告らの別紙行為目録1及び2記載の各再放流行為(以下,同目録1記載の各再放流行為を「各再放流行為1」,同目録2記載のそれらを「各再放流行為2」という。)について,再放流してはならないとの義務のないことの確認を求める訴えの適否(確認の利益の有無)

 2 原告らの本件規定部分の処分の取消し及び本件規定の無効確認を求める訴えの適否(本件規定の制定行為の処分性の有無)

 3 本件規定の適否

 4 被告の国家賠償法1条に基づく責任の有無
 Ⅲ 当事者の主張
  1 争点1について
  (原告ら)
   (1) 原告らの各再放流行為1及び2について,再放流禁止が義務づけられないことの確認を求める訴えは,行政事件訴訟法4条にいう,公法上の法律関係について,本件規定上の禁止義務のないことの確認を求める当事者訴訟である。
   (2) 原告らは,キャッチ・アンド・リリース(魚を釣り上げ,釣り上げた魚をその場所に返すこと。以下「再放流」ということもある。)を行う釣り人であるところ,具体的・現実的に各再放流行為1及び2をした原告らと,釣り人に対してこれを禁ずる本件規定を定めた被告との間の具体的・現実的事件であり法律上の争訟性を満たしている。
   (3) また,本件規定を含む本件条例が存続する限り,原告らの各再放流行為1及び2や将来の同様の再放流行為は,常に違法の評価がされることになり,これによって,外来魚の再放流を続けようとする原告らの釣り人としての憲法13条に基づく自己決定権が否定され,また,オオクチバスを食せず,殺生することなく再放流するという同法19条及び20条に基づく思想的信条や宗教的信念とその自由が侵害され続ける。このような原告らの憲法上の権利又は法的地位に対する不安・危険を除去するためには,各再放流行為1及び2について,本件規定による再放流の禁止が義務づけられないことの確認を求める利益がある。

   (被告)
   (1) 原告らの各再放流行為1及び2について,再放流禁止が義務づけられないことの確認を求める訴えの内容は,実質的には,単に本件条例の違憲・違法の確認を求めるものに他ならない。
     したがって,同訴えは,いずれも具体的・現実的事件としての法律上の争訟の存在を欠き,不適法である。
   (2) 原告らの各再放流行為1は,未だ公布も施行もされていない時点のもので,本件規定は適用されない。したがって,各再放流行為1について,再放流禁止が義務づけられないことの確認を求める原告らの訴えは,訴えの利益を欠き不適法である。

  2 争点2について

(原告ら)

  本件規定は,違反行為に対する行政処分は予定されていない特別な場合であるから,その施行によって,まさに釣り人として反復継続して琵琶湖でオオクチバス釣りを行う原告らの具体的な権利を制限し,再放流を禁止する義務を課すという法律上の効果が生じる。このような規定を制定する行為は,それ自体通常の行政処分と異ならないから,当該規定の制定行為を対象として,直接抗告訴訟を提起することができる。したがって,本件規定の制定行為は,抗告訴訟の対象となる行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」である。よって,原告らの抗告訴訟はいずれも適法である。

  仮に,本件規定の制定行為が処分の取消しの訴えの対象に当たらないとしても,無効等確認の訴えとして認められる。

(被告)

  本件条例は,本件規定を含め,住民の権利義務関係を一般的,抽象的に定めるもので,これを制定する行為は,個人の具体的権利義務関係に直接の効果を及ぼさない。したがって,本件規定の制定行為は,行政事件訴訟法3条2項及び4項にいう「処分」に当たらないから,原告らの抗告訴訟は,いずれも不適法である。

  3 争点3について
  (原告ら)
    本件規定は,以下のとおり違憲・違法である。

   (1) 立法事実の不存在

ア 被告は,外来魚が増加し,在来魚を一方的に捕食して在来魚を減少さているという立法事実に基づいて,在来魚の減少を阻止するという立法目的を実現するために本件規定を制定したが,以下のとおり,上記立法事実には根拠がなく,本件規定は,立法目的の合理性を支える立法事実がない。

     (ア) オオクチバスは減少傾向にあり増加していない。
       琵琶湖では,環境負荷への増大に伴ってオオクチバスも在来魚と共に減少しており,外来魚の絶対数が増加し,在来魚のそれが減少しているという事実はない。
       在来魚とオオクチバスの減少率は比較的高く,ブルーギルの減少率は比較的低いという琵琶湖の現状を踏まえれば,ブルーギルとオオクチバスとを区別して科学的に検討する必要があり,単にオオクチバスとブルーギルを一括りに外来魚に分類して,在来魚の相対的減少と外来魚の相対的増加という概括的な二元的判断を行っても琵琶湖の実態を正確に把握することはできない。
     (イ) 在来魚の減少とオオクチバスの増加には因果関係がない。
       在来魚の減少は,主として,① 人為的な開発行為(琵琶湖総合開発等)による在来魚の産卵場所の急激な減少,② 漁業技術の革新による在来魚の乱獲,③ 開発行為等による汚水,汚物,有害化学物質等の流入による水質悪化,

④  外来魚駆除事業等による巻き添え死滅という複合的要因による。因果関係は,多様かつ複雑に形成されており,オオクチバスが在来魚を捕食するという単線的な因果関係ではない。食物連鎖とは小型種から中型種,さらに大型種というような単線的かつ一方的な捕食の連鎖ではなく,小型種の成魚が中型種や大型種の卵や稚魚を捕食したり,在来魚と外来魚の異種間同士の捕食や,飽和絶滅を回避するために外来魚同士が共喰いするなどの複合的な構造を有しており,昭和61年から同63年ころにはオオクチバスがモロコやフナと共生していたこと,採捕したオオクチバスを開腹してもケイ藻類しか出てこなかったという漁業関係者の証言も存することからして,オオクチバスが一方的に在来魚を捕食するという単純な食物連鎖論は成立しない。
       ブルーギルの増加は,ブルーギルが環境負荷に強い種であり,他の魚類と比較して強い繁殖力を有していることの結果にすぎず,オオクチバスが在来魚を捕食するという食物連鎖論とは何ら関係がない。
       被告は,本件条例成立の約1年前から滋賀県琵琶湖生態系検討会(以下「生態系検討会」という。)や滋賀県琵琶湖生態系研究会(以下「生態系研究会」という。)を諮問機関として設置したが,これらにおいても,琵琶湖の生態系変化を推測する多種多様にわたる要因が指摘されるにとどまっており,その因果関係を総合的に究明し,断定するまでの成果はなく,オオクチバス以外の考えられるべき諸要因に対する科学的な調査,分析は全く行われていない。
       また,被告が提出したオオクチバスの生息状況等に関する学術論文等は,いずれも,オオクチバスの増加に関する科学的なデータがないなど,オオクチバスの増加と在来魚の減少の因果関係を科学的に基礎づける資料とはいえない。
       漁獲量から魚の個体数や現在量を推定することはできないし,被告が提出した近畿農政局滋賀統計情報事務所作成の漁獲量に関する統計資料(乙21の1)は,漁獲量の定義が明らかでないなど,在来魚及び外来魚の生息数の増減を判断する資料足りえない。
     (ウ) 外来魚を「害魚」と断定する被告の思想自体が問題である。特定の生物の生存自体については,その生態と生息環境等を科学的に検証し,生物学,生態学,病理学などにより,共生不能かどうかを十分に検討する必要があり,外来魚が在来魚を捕食するという一局面から,安易に善悪を判断するべきではない。上記(イ)のとおり,オオクチバスはモロコ,フナと共生していた時期があり,共生不能生物ではない。被告の思想は,外来魚を新たな資源とし,在来魚と外来魚を共生させようとする人類の叡智と努力を否定する。

    イ 規制手段の不合理性

   本件規定は,以下のとおり,在来魚の減少を阻止するという立法目的を達成するために選択した規制手段としての合理性を支える立法事実がない。

   本件規定は,費用対効果の面で極めて不経済である。被告は,補助金を支出して外来魚駆除事業を行っているが,これによる外来魚の回収量は多い年で年間40トンにすぎず,他方,キャッチ・アンド・リリースをする釣り人がリリースを失敗した場合のオオクチバスの死亡量はその2倍強の年間80トンである。本件規定は,湖岸に死魚を放置させ,湖岸の環境と衛生に大きな問題をもたらすことになるが,このような問題を回避するためには,回収箱,いけす,その他の施設や設備,多数の監視員や指導員の配置などを整備する必要があり多額の予算措置を講じなければならない。これは,駆除の効率からして極めて不経済で財政的に破綻する。

   また,釣り人の動向調査によると,本件条例の施行により,約8割の釣り人が,琵琶湖にオオクチバス釣りに行くことはしないとしている。釣り人のうちでブルーギル釣りを目的とする人は極めて稀で,ほとんどがオオクチバスのキャッチ・アンド・リリースを目的としている。被告としては,補助金を支出せずに,釣り人の協力を得て,駆除効果を上げる方策をとることが十分に考えられ,かつ可能であるにもかかわらず,あえて釣り人の文化を否定して敵対することによって,釣り人を琵琶湖から遠ざけ,リリースによる駆除効果を激減させている。

   琵琶湖適正利用懇話会(以下「懇話会」という。)は,「琵琶湖におけるレジャー利用のあり方」の提言において,バスフィッシングへの対応についてリリースを明確に禁止する方向を打ち出すべきとするのが懇話会の大勢の見解であるとしているが,これは議会慣れした県職員や学者の会議運営の技術によるもので琵琶湖利用者や関係者の意見を正当に反映したものではない。

   したがって,釣り人が本件規定に従うことによって,外来魚駆除の効果が見込まれるという被告の認識は誤っており,本件規定には,立法目的を達成するための実効性や効率性がない。

(2) 法令違反等
ア 憲法13条違反
  キャッチ・アンド・リリースは,環境保全を重視し,魚類の棲み分けと生息分布による生存調整に配慮して魚類資源の枯渇を防止するためのものとして,欧米では当然のこととされ,我が国でも定着されつつある。原告らは,この世界的潮流に賛同して,キャッチ・アンド・リリースを自己の信条として魚釣りを楽しむという幸福追求権,自己決定権(憲法13条)という人格権を有している。本件規定は,原告らの人格権を侵害する。

イ 憲法14条違反
  被告は,在来魚の減少の主たる原因である琵琶湖の環境負荷の増大に対して,その除却及び改善措置を講じ,また,外来魚駆除事業等による大量の在来魚の死滅に対して,同時に採捕した在来魚の再放流を行わせるなどの是正措置を講じて,自己の行為責任及び監督責任を果たすべきである。しかるに,本件規定は,再放流禁止のみを定めて,釣り人の権利を侵害している。本件規定は,原告ら釣り人を不当に差別するものであり,憲法14条に違反する。

ウ 憲法19条及び20条違反
  原告らは,オオクチバスを殺生せず生きたまま再放流することを思想的信条及び宗教的信念として,釣りをしている。本件規定は,原告らのその思想的信条及び宗教的信念を否定して,その行動を規制するものであり,憲法19条及び20条に違反する。

エ 憲法26条及び13条違反
  全国の小学校においては,水槽で飼育される魚類を含む動物の飼育が行われ,魚の虐待を禁止する教育がされている。外来魚を殺すことになる本件規定は,教育理念の矛盾と退廃を生む結果となり,子供の学習権,幸福追求権,親の教育権を侵害するものであり,憲法26条及び13条に違反する。

オ 公布行為の違憲・違法
  滋賀県知事は,地方自治法176条1項の付再議権を有しており,独自の判断で,議会が成立させた違憲,違法な本件条例の問題点を検討して,本件規定を含む本件条例の違憲・違法性を認識し得たはずである。しかるに,同知事は,これを看過して本件条例を公布した。したがって,本件条例の公布行為は,違憲・違法である。

カ 「動物の愛護及び管理に関する法律」違反
   被告は,「動物の愛護及び管理に関する法律」3条に基づき,外来魚をみだりに殺すことを回避するための施策を本件条例に盛り込む義務があるにもかかわらず,これを怠った。本件条例には,再放流禁止を釣り人に義務づけるだけで,再放流に代わる措置が全く規定されていない。本件規定は,釣り人が外来魚を湖畔に放置することを予測あるいは奨励するものである。また,被告は,同法23条1項にいう採捕した外来魚の安楽死処理に関する規定も定めておらず,そのための予算措置も講じていない。本件規定は,上記各条項に違反する。

キ 「漁業資源保護法」違反
  オオクチバスは食糧源として,ブルーギルは真珠養殖の宿主として,いずれも漁業資源保護法に基づいて琵琶湖に移植された水産資源であり,漁業資源保護法の保護を受ける。被告は,同法に基づき,オオクチバス及びブルーギルを水産資源として保護培養し続ける義務があるにもかかわらず,これに違反して長年にわたって駆除の対象とし,釣り人に対して水産資源を活用せずに殺して破棄することを奨励する本件規定を制定した。また,被告は,外来魚の安楽死措置の施設を設置するなどを怠っている。本件規定は,同法5条及び6条等に違反する。

ク 「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」及び「動物の愛護及び管理に関する法律」違反
   上記各法律によれば,野生傷病動物保護のための傷病野生鳥獣救護事業について,国から日本獣医師会へ補助金が拠出され,傷ついた動物の保護がされている。本件規定は,同じ生物の命を差別する結果となり違法である。

ケ 「生物の多様性に関する条約」違反
  被告は,国と共同して,主権的権利に基づき,生物の多様性に関する条約の生物資源としてオオクチバス及びブルーギルを琵琶湖に移植した以上,その後も国と協力して外来魚を水産資源の保全及び持続可能な利用方法の開発を推進しなければならない責任を負い,駆除のみを行うことは同条約に違反する。キャッチ・アンド・リリースは,同条約のいう生物資源の保全に貢献する行為である。これを規制する本件規定は同条約に違反する。

コ 概念の不明確性
  本件規定は,卵から稚魚へ,稚魚から成魚へという魚の成長過程のどの段階を規制の対象としているのかについて言及されておらず,不明確である。また,外来魚の名称だけを特定しているが,その名称と稚魚・成魚の写真を図解的に示さなければ,禁止規範を遵守させる前提としての概念の明確性を欠く。本件規定は,いわゆる「漠然性の故に無効の理論」により無効である。

   (3) 立法裁量の濫用
     上記(1)イのとおり,被告は,行政政策上の前提事実の認識を誤ったまま立法裁量を濫用して本件規定を制定した。

   (被告)
   (1) 本件規定の適法性
     琵琶湖は,古琵琶湖の誕生から400万年,現在の場所で深い湖となってからでも30数万年の歴史を有する世界でも有数の古代湖で,その長い歴史の中で琵琶湖にしか生息しない50種を超える固有種をはじめとする多様な生物で構成される豊かで貴重な生態系が育くまれてきた。
     しかしながら,現在の琵琶湖は,沿岸域にブルーギル,オオクチバス等の外来魚が在来種に優先して生息するようになり,生態系も外来魚優占のそれへと変化し,琵琶湖固有の生態系を前提とした漁業や食文化等の存続すら危ぶまれる状況になっている。外来魚の食性が在来種の生息に与える影響は極めて大きく,琵琶湖固有の生態系を保全するためには,外来魚を駆除し,その生息量をできる限り少なくする取組みが必要である。
     オオクチバスなどの外来魚の食害が在来種の減少に大きな影響を与えていることは,オオクチバスが在来種を一方的に捕食するという食性,オオクチバスが体重1キログラム増長するために約10キログラムの魚介類を捕食するという食害の程度,フナやコイ等のオオクチバスの食害を受けやすい魚種の漁獲量がオオクチバスが急増した昭和58年ころから,スジエビやホンモロコというブルーギルの食害を受けやすい魚種の漁獲量がブルーギルが急増した平成2年ころから急減している事実から明らかである。

  本件規定は,琵琶湖固有の生態系の保全という目的に明らかに反する外来魚の再放流を禁止するもので,琵琶湖の在来種の保護を図るための様々な取組の一環として,必要かつ合理的な規定であって,何ら,違法違憲の点はない。

 (2) 原告らの主張に対する反論

ア 立法事実について

  被告は,外来魚が琵琶湖の固有の生態系に与える影響の大きさについて,学術的な調査等の科学的根拠に基づいて判断している。オオクチバスとブルーギルとを一括りに外来魚に分類して,概括的に判断したことはない。

  オオクチバスの食害性は,ブルーギルと比較しても格段に大きく,仮にオオクチバスが減少しているとしても,引き続き駆除の対象とする必要がある。オオクチバスは,オオクチバスの食害性が在来種に与える影響の大きさ,すなわち,オオクチバスは,親が自らの卵や稚魚を強く守るためこれらが在来魚介類に捕食されることはないが,外来魚は一方的に在来魚介類を捕食するという偏った関係が存することが問題であり,その生息数が減少したからといって,その問題が解決するわけではない。

  原告らが在来魚の減少の主たる要因とする事項は,科学的根拠に乏しい独自の見解である。外来魚駆除事業は,古くから営まれてきた漁業の中で混獲された外来魚を駆除の対象として実施してきたものであり,これによって在来種が死滅することはない。琵琶湖の漁業は伝統的な漁法により実施され,在来種の生息に大きな影響を与えるおそれのある漁法等は滋賀県漁業調整規則等で制限されているのであって,琵琶湖漁業の漁法が在来種の減少に大きな影響を与えることはない。被告は,外来魚の増加のみを在来魚の減少の原因と考えているわけではなく,ヨシ帯等の産卵,繁殖場所の減少や水質自浄能力の低下等の要因もあると考えており,これらの要因に対する様々な取組を行っている。

  被告は,近畿農政局の統計の外来魚の漁獲量を用いて,外来魚の増加を主張したことはない。フナ・コイ・ホンモロコ・スジエビ・アユ・ビワマスは一定の社会的な影響を受けながらも根強い需要があり漁獲努力が続けられてきた魚種であり,これらの魚種については,漁獲量の増減が生息数の増減を反映している。

  琵琶湖の在来種と外来魚は,進化の歴史を全く共にしておらず,外来魚が琵琶湖固有の生態系に大きな影響を与えることなく共生することは困難である。

  被告は,釣り人に対する啓発活動等を通じて,本件規定の実効性及び効果を高める努力を行っており,立法事実の認識に誤りはない。

イ 原告らの法令違反等の主張,立法裁量の濫用の主張については,いずれも争う。


  4 争点4について

(原告ら)

   前記3の原告らの主張のとおり,被告において制定された本件規定は,違憲・違法である。また,被告は,本件訴訟の公開法廷において,本件規定が違憲・違法であるにもかかわらず,本件条例は合憲かつ合法であり,原告らの各再放流行為1及び2は違法である旨を主張し続けた。

   原告らは,これらの被告の行為により,自らの各再放流行為1及び2が違法であるという公的な評価を受け,それぞれ精神的苦痛を被った。

   原告らが被った精神的苦痛に対する損害は,それぞれ10万円を下らない。 したがって,原告らは,国家賠償法1条に基づき,上記損害の賠償を求める。

(被告)
いずれも争う。


第3 判断
Ⅰ 争点1について

1 原告らの各再放流行為1及び2は,いずれも過去の行為であり,当該行為時点における義務の不存在確認を求めることは訴えの利益を欠くといわざるを得ない。なお,各再放流行為1については,施行日前の行為であり本件規定による禁止義務がないことは当然である。

2 原告らは,本件規定が存続する限り,原告らの各再放流行為1及び2や将来の再放流行為について,常に違法の評価を受けることになり,原告らのキャッチ・アンド・リリースによって魚釣りを楽しむという釣り人としての自己決定権(憲法13条)やオオクチバスを殺生することなく再放流するという思想的信条,宗教的信念の自由(憲法19条,20条)が否定され続けるから,このような原告らの憲法上の権利又は法的地位に対する不安・危険を除去するために,各再放流行為1及び2について,再放流禁止の義務がないことを確認する利益があると主張する。

  以上によれば,原告らは,過去のオオクチバスの再放流行為について,本件規定による禁止義務を負わないことが確認されれば,今後も同様の義務を負わないことになるから,過去の事実であっても確認を求める利益があると考えるようである。これを前提とすれば,原告らの主位的請求(1)は,現在本件規定による禁止義務がないことの確認を求めるものとも解することができ,その確認の利益の有無については,通常の民事訴訟と同様,本件規定により原告らのどのような権利や法的利益がどの程度制約され,その危険・不安を排除する必要性があるのかによって,判断されることになる。

  前記第2のⅠのとおり,本件規定は,滋賀県内に存し,一般公衆の共同使用に供される公共用物(自然公物)である琵琶湖において,レジャー活動として,オオクチバス及びブルーギル等の外来魚を採捕した場合に,これを再び琵琶湖に放流してはならない旨を定めたものである。このような個人のレジャー活動という私的領域に関する事柄一般について,憲法13条の基本的人権として保障される場合があり,魚釣りを楽しむことがこれに含まれると解する余地があるとしても,それ以上に,特定の公共用物において特定の魚類を採捕して放流するということまでをも含むものではないし,また,同様に原告らの主張する憲法19条及び20条によって保障される具体的な権利又は法的利益であるということもできず,原告らの主張する不安や危険は,事実上の影響にすぎず,法律上のそれであるとは認められない。

3 したがって,原告らの主位的請求(1)は,いずれにしろ,いずれも確認の利益を欠き,不適法である。


 Ⅱ 争点2について
   原告らは,被告に対し,主位的に本件条例のうちの本件規定部分の処分の取消しを,予備的に本件規定の無効確認をそれぞれ求めている。

   これらの訴えは,いずれも,被告が行った本件規定の制定行為に対する抗告訴訟(行政事件訴訟法3条2項及び4項)であるところ,このような地方公共団体の条例の制定行為は,通常は,一般的・抽象的な規範を定立する立法作用の性質を有しており,原則として,個人の具体的な権利義務や法的利益に直接影響を及ぼすものではなく,抗告訴訟の対象となる処分(同条2項及び4項)ということはできない。もっとも,条例の形式をとっていても,他に行政庁の具体的な処分をまつまでもなく,当該条例そのものによって,その適用を受ける特定個人の具体的な権利義務や法的利益に直接具体的な影響を及ぼすという事情が認められる場合には,条例の制定行為自体をもって,抗告訴訟の対象となる処分と解する余地もないではない。


   原告らは,本件規定は,それ自体によってキャッチ・アンド・リリースによって魚釣りを楽しむという釣り人としての自己決定権(憲法13条)やオオクチバスを殺生することなく再放流するという思想的信条,宗教的信念(憲法19条,20条)という憲法上の具体的権利を直接侵害するから,抗告訴訟の対象となると主張する。

   しかしながら,前記Ⅰで示した本件規定の内容に照らせば,本件規定そのものが,原告らの主張する憲法上の権利等に重大な関わり合いをもつものとして,その適用によって,これらの権利等に直接具体的な影響を及ぼすという事情は認められない。

   したがって,本件規定の制定行為は,通常の立法作用として,抗告訴訟の対象となる処分に当たらないから,原告らの上記主位的請求及び予備的請求は,いずれも不適法である。

   なお,原告らは,本件規定の制定行為について,仮に,処分の取消しの訴えの対象に当たらないとしても,無効等確認の訴えとして認められると主張するが,抗告訴訟の対象となる処分といえるか否かについては,処分の取消しの訴えにおけるそれと無効等確認の訴えにおけるそれとに差異はなく,同主張を採用することはできない。


 Ⅲ 以上のとおり,原告らの前記第1のⅠ1(1)及び(2),2の請求にかかる各訴えは,いずれも不適法であるから,却下を免れない。

 Ⅳ 争点3及び4について
  1 被告の本件規定の制定行為について

   (1) 本件条例は,琵琶湖におけるレジャー活動に伴う環境の負荷を低減し,琵琶湖の自然環境およびその周辺における生活環境の保全に資することを目的とするもの(乙1)であり,このような地方公共団体が制定する条例において,その地域に存し,一般公衆の共同使用に供されてる自然公用のレジャー利用に関し,自然環境等を保全するため,当該地方公共団体が行う施策として,いかなる基本方針や規制,措置等を定めるかという事柄は,当該自然環境等の変化の状況,保全の必要性やその程度,当該地方公共団体の諸施策との関係,利用者の動向,国などの環境政策の情勢等を総合的に考慮して決定される極めて専門的,政策的な事柄であり,被告の合理的な裁量判断に委ねられているというべきである。

   (2) 括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ
る。
    ア 琵琶湖は,50種以上の固有種を含む多様な動植物による豊かな生物相を有し,これらの豊かな魚類等を対象に伝統的な漁具,漁法による漁業が営まれ,また,滋賀県の伝統的な食文化を支えていたが,昭和58年ころからオオクチバスの,平成2年ころからブルーギルの生息数が急増し始め,平成6年及び同7年に沿岸域でオオクチバス及びブルーギルの優占が,平成12年及び同13年ころにもそれらの優占がそれぞれ確認され,また,平成12年には,固有種を含む全53種の魚類が絶滅危惧種,絶滅危機増大種,希少種などの「滋賀県で大切にすべき野生生物」に選定され,さらに,琵琶湖漁業においても在来種の漁獲量の低迷状態が続くなど,本件条例が制定された平成14年当時,琵琶湖は,在来種の生息数が極端に減少し,沿岸域はオオクチバス及びブルーギルが優占し,特に南湖では魚類相の単純化の進行が懸念されるという,豊かで多様であった従来の生態系が危機的な状況に陥っていた。(甲9,80,90,99,乙2,11,12,14,16,21の1,22ないし24,33,36,43ないし46,81,調査嘱託の結果)

    イ 琵琶湖におけるオオクチバス及びブルーギルの食性等の調査結果,オオクチバスの稚魚期から成魚期の食性や環境順応能力等の特性,ブルーギルの稚魚期から成魚期の食性,仔稚魚の初期減耗率やその生命力等の特性及び生態系検討会の中間報告や生態系研究会の琵琶湖における魚介類の生息状況の変化とその要因に関する報告からして,オオクチバス及びブルーギルによる在来種の捕食が在来種の生息数の減少という琵琶湖の生態系の変化に大きな影響を与えていることは明らかである。(甲101ないし108,乙11,12,14,16ないし18)

    ウ 上記調査においてオオクチバスによる捕食が認められた魚類の中には「滋賀県で大切にすべき野生生物」で絶滅危惧種に選定されたシロヒレタビラ,希少種に選定されたビワヒガイ,要注目種に選定されたニゴロブナ,ホンモロコなど,分布上重要種に選定されたアユ,ハスが含まれている。(乙36)

    エ 被告は,外来魚の生息数を減少させ,琵琶湖の生態系を保全するため,昭和60年から県漁連が行っている外来魚駆除事業に対する補助や,外来魚の持ち帰りのための啓発活動などを行うとともに,在来種の繁殖環境の整備や水質保全の観点からの規制や対策を講じるなど,琵琶湖の生態系の保全について,種々の観点からの施策を実施している。(甲2,乙25,41,42,52)

    オ 政府は,国の環境政策について,生物多様性の保全に関する外来種問題を重点的取組事項とし,地域の実態に応じ外来魚の生息域・量の抑制を推進する必要があるなどの,水産基本計画において,水域の生態系の保全の観点からオオクチバスなどの外来魚の移植の制限やその駆除の推進等の措置を講じることなどの各方針を示し,また,被告を含む多くの地方公共団体は,漁業調整規則によりオオクチバスやブルーギルの移植の原則禁止を定めている。さらに,ユネスコの支援により政府機関関係者及びNGOの協力を目的として設立された自然環境保全に関する活動を行う国際団体である国際自然保護連合(IUCN)の種の保全委員会は,平成12年「世界の侵略的外来種ワースト100」を発表し,オオクチバスをこれに選定している。(乙6ないし8,9の1・2,37,48,67,68)

    カ 本件条例の要綱案について実施された滋賀県民政策コメント制度よる意見募集においては,オオクチバス及びブルーギルの再放流禁止規定に対し,県民等から賛否両論の意見が提出され,琵琶湖の利用実態を踏まえ,その適正な利活用のあり方を検討するために設置された琵琶湖の利活用者を含む24名の委員からなる懇話会においては,外来魚の再放流につき,明確に禁止の方向を打ち出すべきであるとの意見が大勢であったなどを含む「琵琶湖におけるレジャー利用のあり方」の提言が滋賀県知事に提出された。また,平成12年度の滋賀県政世論調査においては,外来魚対策に関する質問に対し,1位が「琵琶湖の生態系に関わる問題なので駆除すべきだ。」とする回答で60.7パーセントを,2位が「釣り上げた外来魚を回収する体制を整えるべきだ。」で42パーセント,3位が「外来魚の密放流防止の啓発を強化すべきだ。」で40.5パーセントをそれぞれ占めていた。

      本件条例は,上記滋賀県民政策コメント制度による意見等の募集を経て,平成14年9月県議会定例会において可決成立し,被告は,本件規定の施行に向けて,琵琶湖ルールの推進活動や外来魚回収施設の設置等の本件規定の実効性,効率性を向上させるための準備を行った。(以上につき,甲113ないし118,乙32,50,76)

   (3) 以上の事実関係に照らせば,琵琶湖の本来の生態系を回復するために,琵琶湖に生息する外来魚の絶対数を減らしていくことが不可欠であり,釣りというレジャー活動の側面からも,本件規定を制定してオオクチバス及びブルーギルの再放流を禁止する必要があるとした被告の判断は,十分な合理性があり,本件規定を含む本件条例の制定にかかる被告の行為は,立法裁量の濫用などの事情もなく,適法であると認められる。

  2 原告らの主張について
   (1)ア 原告らは,ブルーギルと異なりオオクチバスは減少しているし,また,在来魚の減少は,開発行為等による産卵場所の急激な減少,水質悪化などの複合的な要因に基づくもので,オオクチバスの食害との間には因果関係がないとして,本件規定について立法事実が存在しないと主張する。

      しかしながら,平成14年当時,オオクチバスがブルーギルと共に琵琶湖沿岸において在来種に優占して生息していたことは前記1(2)ア認定のとおりであり,オオクチバスが減少傾向にあることをもって,オオクチバスの琵琶湖の生態系に与える影響を否定することはできない。また,原告らが主張する各要因のうち,在来種の減少に重要な関わり合いを有する事柄が含まれているとしても,前記1(2)イ認定のオオクチバスの食性の調査の結果等に鑑みれば,オオクチバスの捕食が在来種の減少に与える影響は大きく,この事実に本件条例制定当時の琵琶湖の生態系の危機的状況や前記1(2)ウのオオクチバスの捕食が認められた在来種の生息状況を併せ考えれば,オオクチバスの捕食による影響を軽視することは相当でない。

      原告らは,オオクチバスと在来魚との共生は不可能ではないと主張するが,前記認定の本件条例制定当時の琵琶湖におけるオオクチバスと在来種の生息状況からして,琵琶湖において,オオクチバスが在来種と共生して,従来の生態系を維持,回復しうると認めることはできない。

      原告らは,本件規定は琵琶湖から釣り人を遠ざけることになるから,本件規定の制定により外来魚駆除の効果を見込めるという被告の認識は誤っており,また,費用対効果の面からも極めて不経済であるなどとして,本件規定は規制手段として不合理であると主張するが,被告の本件条例の施行に向けた琵琶湖ルールの推進活動や外来魚の回収施設の設置,施行後の外来魚の回収状況(乙32,50)からして,同主張は採用できない。

    イ 原告らは,オオクチバスの生息状況等に関して被告が提出した学術論文は,科学的なデータを欠きオオクチバスの増加と在来魚の減少との間の因果関係を基礎づけるものではない,また,生態検討会及び生態研究会の各報告は科学的な調査・分析を欠いている,懇話会の提言は琵琶湖利用者の意見を正当に反映したものではないなどと主張するが,上記各論文に引用されたオオクチバスの生息状況や食性等に関する調査結果や生態検討会及び生態研究会の各報告内容について,その採集データの客観性や信憑性を疑う事情は認められないし,また,懇話会の協議経過(甲116ないし117)からしても,提言に示された意見の正当性を疑う事情は認められない。

      また,原告らは,近畿農政局滋賀統計情報事務所作成の漁獲量に関する統計資料(乙21の1)は,漁獲量の定義が明らかでないなど,これによって在来魚及び外来魚の生息数の増減を判断することはできないなどとするが,在来種に関する漁獲量の全体的な推移を把握する上では,同資料における漁獲量の定義に不明な点はなく(調査嘱託の結果),同資料に関する原告ら主張の諸事情は前記認定を左右しない。

   (2) また,本件規定が憲法13条,19条,20条に違反しないことは前記Ⅰ判示のとおりであり,この点に関する原告らの主張は認められない。原告らのその余の法令違反等の主張は,いずれも的確な裏付けがなく採用できない。

     原告らは,被告が本件規定によって外来魚駆除の効果が見込まれるなどの誤った認識を前提として,本件規定を制定しているなどとして,立法裁量の濫用を主張するが,上記1(ア)のとおり,同主張は採用できない。

   (3) 原告らは,本件規定が違憲・違法であるにもかかわらず,被告が本件訴訟において,本件条例を合憲かつ合法であり,原告らの各再放流行為1及び2は違法である旨を主張し続けたことにより精神的苦痛を被ったと主張するが,本件規定が適法であることは前記1判示のとおりであって,本件規定が違憲・違法であることを前提とする原告らの主張は,その前提において採用できない。

 Ⅴ 結論
   以上によれば,原告らの各再放流行為1及び2についてオオクチバスを再放流してはならないとの義務がないことの確認を,主位的に外来魚再放流禁止規定部分の処分の取消しを,予備的に同規定の無効確認を求める訴えはいずれも不適法であるから,これらをいずれも却下し,原告らのその余の請求は,いずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民訴法61条及び65条1項を適用して,主文のとおり判決する。

大津地方裁判所民事部

  裁判長裁判官   稻  葉  重  子
   裁判官   岡  野  典  章
   裁判官   本  多  智  子

国立大学の動物実験計画書等に関する公文書非開示決定取消請求事件(平成16年12月24日東京地方裁判所)[棄却]

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国立大学が,実験動物として搬入されるニホンザルを個体管理するために作成したニホンザル戸籍簿中の識別用各個別写真が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前)5条6号ハに掲げるおそれのある事務事業情報に該当するとされた事例等(平成16年12月24日東京地方裁判所)平成15(行ウ)597公文書非開示決定取消請求事件



[判示事項]
1 国立大学の動物実験計画書のうち,申請者氏名欄及び連絡先欄(いずれも講師以上の者を除く。)を記載した文書に記載された情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前)5条1号に不開示情報として定める「個人に関する情報」に該当するとされた事例 

2 国立大学の動物実験計画書のうち,実験題目及び実験内容中の研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分を記載した情報並びに同大学が実験動物として搬入されるニホンザルを個体管理するために作成したニホンザル戸籍簿の実験利用記録欄の「処置記録」中,研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分を記載した情報が,いずれも,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前)5条6号ハに掲げるおそれのある事務事業情報に該当するとされた事例 

3 国立大学が,実験動物として搬入されるニホンザルを個体管理するために作成したニホンザル戸籍簿中の識別用各個別写真が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前)5条6号ハに掲げるおそれのある事務事業情報に該当するとされた事例 

4 国立大学で動物実験を行おうとする研究者の請求により,担当職員が,実験動物取扱業者から実験動物を購入するという手続を記載した書類である「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」及び「物品購入等請求書」中の「品名」欄,「規格品質」欄,「納入」又は「相手方」欄に記載された情報が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前)5条2号イに不開示情報として定める法人等情報に該当するとされた事例

[裁判要旨]
1 国立大学の動物実験計画書のうち,申請者氏名欄及び連絡先欄(いずれも講師以上の者を除く。)を記載した文書に記載された情報につき,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前)5条1号本文の個人識別情報に当たるとした上,同計画書に含まれる情報を公開すべきとする法令の定めや事実上の慣習が存在するとは認められず,同情報の開示請求に対する決定がされた当時,前記大学の助手及び大学院生の氏名が同大学のホームページに掲載されることが事実上の慣習になっていたと認めることもできないことなどから,同号ただし書イの場合に該当しないなどとして,前記情報が,同号に不開示情報として定める「個人に関する情報」に該当するとした事例 

2 国立大学の動物実験計画書のうち,実験題目及び実験内容中の研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分の情報並びに同大学が実験動物として搬入されるニホンザルを個体管理するために作成したニホンザル戸籍簿の実験利用記録欄の「処置記録」中,研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分を記載した情報につき,同各部分には,当該研究の重要事項を示す文言が記載されており,当該研究者の専門分野及び研究業績等,その他の情報と照合することによって,どのような目的のために研究を行っているのかやその研究の価値などが推測し得るものであるから,当該研究の独創性や独自性,研究者の着眼点等,研究者の優先権に相当する部分が含まれていることが認められ,このような情報が公になれば,その研究の独創性や独自性,研究者の着眼点等,その研究者の優先権に相当する部分が失われることとなり,結果として,研究者の自由な発想,創意工夫や研究意欲が不当に妨げられるなど,研究の能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあると認めることができるから,前記情報は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前)5条6号ハに掲げるおそれのある事務事業情報に該当するとした事例 

3 国立大学が,実験動物として搬入されるニホンザルを個体管理するために作成したニホンザル戸籍簿中の識別用各個別写真につき,これを開示した場合,そこに写っているニホンザルの写真が動物実験に対する反対活動に用いられることによって,調査研究のために本当に必要な動物実験についても,これを行うことが困難又は不可能となるおそれが客観的にあり,実験動物を用いた研究の「能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」が存在すると認めることができるとして,前記写真が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前)5条6号ハに掲げるおそれのある事務事業情報に該当するとした事例 

4 国立大学で動物実験を行おうとする研究者の請求により,担当職員が,実験動物取扱業者から実験動物を購入するという手続を記載した書類である「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」及び「物品購入等請求書」中の「品名」欄,「規格品質」欄,「納入」又は「相手方」欄に記載された情報につき,前記の大学に対して実験動物を納入している実験動物取扱業者の名称や当該業者の納入した実験動物の種類,品質等が明らかになると,平和的な抗議活動や言論活動だけでなく,これらの業者の営業に不当な圧力をかけたり,営業を妨害するなどの活動が行われる可能性があり,現に,これらの業者はそのおそれを抱いていることを認めることができ,このような妨害活動等が行われると,実験動物取扱業者の営業に不利益な事態が発生する可能性があるということができるとして,前記書類が行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第140号による改正前)5条2号イに不開示情報して定める法人等情報に該当するとした事例

[判決全文]

主        文

一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一 請求
被告が、平成13年12月12日付けでした下記不開示部分を不開示とする旨の行政文書部分開示決定(ただし、平成15年9月30日付けの「不服申立に対する決定」による一部取消し後のもの)を取り消す。

記

1 「動物実験計画書」について
① 「申請者氏名」及び「連絡先」(ただし、いずれも講師以上の者を除く。)
② 「実験題目」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分
③ 「実験内容」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分(ただし、「動物実験計画書」No.2201の「実験内容」のうち倫理的配慮欄の麻酔薬の名称を除く。)

2 「ニホンザル戸籍簿」について
① 「識別用各個別写真」
② 「処分者氏名」、「飼育開始届申請者名」及び実験利用記録欄の「利用者名」(ただし、いずれも講師以上の者を除く。)
③ 実験利用記録欄の「処置記録」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分(ただし、「ニホンザル戸籍簿」検査送付番号2000−8の「処置記録」欄における麻酔薬の名称を除く。)

3 「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」について
① 「品名」、「規格品質」及び「納入」又は「相手方」
② 「使用場所」における研究者名(ただし、講師以上の者を除く。)

第二 事案の概要
一 事案の骨子
本件は、原告が、平成13年法律第140号による改正前の行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)3条に基づいて動物実験に関する行政文書の開示の請求(以下「本件開示請求」という。)をしたところ、被告(当時は大分医科大学長)が、それぞれ情報公開法5条1号本文、2号イ、4号又は6号柱書・同号ハ所定の不開示情報に該当するとして、一部を不開示とする旨の決定をしたため、原告が、被告に対し、被告が不開示とした部分は情報公開法所定の不開示情報に該当しないので、上記決定は違法である旨主張して、上記決定の取消しを求める事案である。

二 関係法令の定め

情報公開法5条

行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。

1 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

イ 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報

ロ …(略)…

ハ 当該個人が公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分

2 法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。

イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの

ロ …(略)…

…(略)…

4 公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

5 …(略)…

6 国の機関又は地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの

イ …(略)…

ロ …(略)…

ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
…(以下略)…

三 前提事実
証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることのできる事実は、その旨付記し、その余の事実は当事者間に争いがない。

1 当事者等
(一) 原告は、平成13年12月7日に設立された、動物実験の廃止と動物の権利擁護に関する事業を行うこと等を目的とする特定非営利活動法人であり、本件開示請求当時は、権利能力なき社団であった(弁論の全趣旨)。

(二) 本件開示請求を受けたのは大分医科大学長であったが、平成15年10月1日、大分大学と大分医科大学とが統合して大分大学となり(以下、統合前の大分医科大学についても「大分大学」ということがある。)、大分大学長が、大分医科大学長の事務及び権限を承継した(弁論の全趣旨)。

さらに、平成16年4月1日をもって、国立大学法人法により、国立大学法人である被告が成立した。被告は、大分大学の権利義務を承継し、国立大学である大分大学を設置した。

そして、国立大学法人法施行令附則16条1項によって、平成16年3月31日以前の大分大学長がした情報公開法に関する行政文書の開示、不開示の決定は、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律の規定に基づき、国立大学法人である被告がしたものとみなされている(以下、大分医科大学長及び大分大学長についても「被告」ということがある。)。

2 本件訴訟に至る経緯

(一) 原告の行政文書開示請求

原告は、平成13年11月9日付けで、被告に対し、開示を請求する文書を「①サル・犬・猫に関する2000年度の実験計画書」及び「②実験に使用している全ての動物の入手について以下の事がわかる2000年度の資料 種類・頭数・購入金額・入手元(業者名、機関名など)・入手元の住所と電話番号」として、本件開示請求をした(甲1)。

(二) 平成13年12月12日付け部分開示決定

被告は、平成13年12月12日付けで、本件開示請求に係る文書を「動物実験計画書」、「ニホンザル戸籍簿」、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」及び「物品購入等請求書」(以下、これらを併せて「本件各行政文書」という。)と特定し、本件各行政文書について、次の各部分を不開示とし、その余の部分を開示する旨の決定をした(以下「本件部分開示決定」という。甲2)。

(1) 「動物実験計画書」の不開示部分
ア 「申請者所属欄の所属・氏名・連絡先・印影」、「講座等責任者欄氏名・連絡先・印影」
イ 「実験場所」(記入部分のみ)
ウ 「実験題目」(不開示部分のみ)
エ 「実験内容」
オ 「動物の飼育、実験、処分における倫理的配慮」欄の薬品名
カ 「動物実験計画承認書」欄の申請者名
キ 「備考」(記入部分のみ)

(2) 「ニホンザル戸籍簿」の不開示部分
ア 「捕獲許可発行自治体名」
イ 「捕獲許可証番号」・「飼養許可証の番号」
ウ 「識別用各個別写真」
エ 「処分者氏名」・「飼育開始届申請者氏名」
オ 実験利用記録の「講座名」・「利用者名」
カ 「処置記録」

(3) 「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」の不開示部分
ア 「講座名等」・「使用場所」(動物実験施設を除く。)
イ 「規格品質」
ウ 「納入」
エ 「印影」(研究及び講座に関わる者以外の者の印影は除く。)

(4) 「物品購入等請求書」の不開示部分
ア 「講座名等」・「研究担当者氏名・印」・「受領印」
イ 「印影」(研究及び講座に関わる者以外の者の印影は除く。)
ウ 「規格品質」
エ 「相手方」
オ 「課題番号」

(三) 原告による不服申立て
原告は、本件部分開示決定について、平成14年2月8日付けで、被告に異議申立てをした(甲3)。

(四) 被告による一部開示

被告は、上記異議申立てを受けて、平成15年2月28日、情報公開審査会に諮問したが、諮問に際し、本件各行政文書のうち、次の各部分を開示することとした(甲4、乙5、弁論の全趣旨)。

(1) 「動物実験計画書」について
ア 「申請者所属欄の所属・氏名・連絡先・印影」及び「講座等責任者欄氏名・連絡先・印影」のうち講師以上の者に関するもの
イ 「実験場所」
ウ 「実験題目」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分以外の部分
エ 「実験内容」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分以外の部分
オ 「動物実験計画承認書」欄の申請者名のうち講師以上の者に関するもの

(2) 「ニホンザル戸籍簿」について
ア 「処分者氏名」及び「飼育開始届申請者名」のうち講師以上の者に関するもの
イ 「実験利用記録」欄の「講座名」・「利用者名」のうち講師以上の者に関するもの
ウ 「処置記録」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分以外の部分

(3) 「物品請求、命令書・管理簿(乙)」について
ア 「講座名等」及び「使用場所」(講師以上の者以外の者の氏名に関する部分を除く)
イ 「印影」のうち講師以上の者に関するもの

(4) 「物品購入等請求書」について
ア 「講座名等」、「研究担当者氏名・印」及び「受領印」のうち講師以上の者に関するもの
イ 「印影」のうち講師以上の者に関するもの

(五) 情報公開審査会の答申
情報公開審査会は、平成15年8月6日付けで、本件各行政文書について次の各部分を開示すべき旨の答申をした(甲4、乙5)。

(1) 「動物実験計画書」について
ア 「動物の飼育、実験、処分における倫理的配慮」欄における麻酔薬の名称
イ 「動物実験計画書」No.2201の「実験内容」欄のうち「倫理的配慮」欄の麻酔薬の名称

(2) 「ニホンザル戸籍簿」について
ア 「捕獲許可発行自治体名」
イ 「捕獲許可証の番号」及び「飼養許可証の番号」
ウ 「ニホンザル戸籍簿」検査送付番号2000−8の「処置記録」欄における麻酔薬の名称

(3) 「物品購入等請求書」について
「課題番号」

(六) 平成15年9月30日付け部分開示決定

被告は、上記答申を受けて、平成15年9月30日付けで、本件各行政文書のうち、本件答申で開示すべきとされた部分を開示する旨の「不服申立てに対する決定」をした(甲114)。

したがって、本件各行政文書のうち、次の各部分(以下、総称して「本件不開示部分」という。)が最終的に開示されていない。

(1) 「動物実験計画書」について
① 「申請者氏名」及び「連絡先」(ただし、いずれも講師以上の者を除く。)
② 「実験題目」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分
③ 「実験内容」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分(ただし、「動物実験計画書」No.2201の「実験内容」のうち倫理的配慮欄の麻酔薬の名称を除く。)

(2) 「ニホンザル戸籍簿」について
① 「識別用各個別写真」
② 「処分者氏名」、「飼育開始届申請者名」及び実験利用記録欄の「利用者名」(ただし、いずれも講師以上の者を除く。)
③ 実験利用記録欄の「処置記録」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分(ただし、「ニホンザル戸籍簿」検査送付番号2000−8の「処置記録」欄における麻酔薬の名称を除く。)

(3) 「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」について
① 「品名」、「規格品質」及び「納入」又は「相手方」
② 「使用場所」における研究者名(ただし、講師以上の者を除く。)

(七) 本件訴訟提起

原告は、平成15年11月5日、本件不開示部分を不開示とする旨の本件部分開示決定(ただし、平成15年9月30日付けの「不服申立に対する決定」による一部取消し後のもの)の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

四 争点

本件不開示部分に含まれる各情報が、それぞれ情報公開法5条1号本文、2号イ、4号又は6号柱書・同号ハ所定の不開示情報に該当するか否か。

五 当事者の主張の要旨

1 「動物実験計画書」中の不開示部分について

(被告の主張)

(一) 「申請者氏名」及び「連絡先」(ただし、いずれも講師以上の者を除く。)について

(1) 情報公開法5条1号該当性について
ア 情報公開法5条1号本文に該当すること
「動物実験計画書」の「申請者氏名」欄に記載された情報が、情報公開法5条1号本文の「特定の個人を識別することができる」情報に該当することは明らかである。 また、「動物実験計画書」の申請者の「連絡先」欄には、当該申請者の内線電話番号が記載されている。そして、内線電話番号は、被告の職員その他の関係者であれば入手可能な情報である。そうすると、「動物実験計画書」の申請者の「連絡先」欄に記載された情報は、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなる」情報(情報公開法5条1号本文)に該当する。

イ 情報公開法5条1号ただし書イ又はハに該当しないこと

(ア) 助手の氏名について

a 本件開示請求当時、被告は国立大学であり、その助手は大学の職員(学校教育法58条1項)として、国家公務員法2条1項に規定する公務員(情報公開法5条1号ただし書ハ)に該当した。

情報公開法5条1号は、公務員の氏名については、公にした場合、公務員の私生活等に影響を及ぼすおそれがあり得ることから、私人の場合と同様に個人情報として保護に値すると位置付けた上で、同号ただし書イに該当する場合には例外的に開示することとしている。

そうすると、公務員の氏名は、情報公開法5条1号ただし書ハに該当する場合についても、同号ただし書イに該当する場合に限り公にされることになる。 b まず、国立大学の助手の氏名を公にするとする法令の規定は存在しない。

次に、人事異動の官報への掲載その他行政機関により職名と氏名とを公表する慣行がある場合や、行政機関により作成され、又は行政機関が公にする意思をもって提供した情報を基に作成され、現に一般に販売されている職員録に職と氏名とが掲載されている場合には、その職にある者の氏名を一般に明らかにしようとする趣旨であると考えられ、「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている」(情報公開法5条1号ただし書イ)と解される。

しかし、被告の助手は、職員録等の一般に入手又は閲覧することのできる名簿に、その氏名が記載されているものではないから、「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている」情報(情報公開法5条1号ただし書イ)に該当しない。

c したがって、助手の氏名は、情報公開法5条1号ただし書イに該当しないから、不開示情報の例外に該当しない。

(イ) 学部学生及び大学院生の氏名について

学部学生及び大学院生は、被告の職員録等の一般に入手又は閲覧することのできる名簿にその氏名が記載されている者ではないから、「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている」情報(情報公開法5条1号ただし書イ)に該当せず、また、国家公務員法2条1項に規定する国家公務員にも地方公務員法2条に規定する地方公務員にも該当しない。

したがって、学部学生及び大学院生の氏名は、情報公開法5条1号ただし書イに該当しないから、不開示情報の例外に該当しない。

(ウ) 原告の主張に対する反論

原告は、動物の愛護及び管理に関する法律(以下「動物愛護法」という。)、実験動物の飼養及び保管等に関する基準(昭和55年総理府告示第6号。以下「実験動物飼養基準」という。)及び動物実験に関する指針(昭和62年社団法人日本実験動物学会発表)を根拠に、「動物実験計画書」は、求められれば何人にも提供することを予定している文書であり、そこに記載された動物実験を実施する者の氏名は、「公にすることが予定されている情報」(情報公開法5条1号ただし書イ)に該当すると主張する。

しかし、そもそも「動物実験計画書」は、第三者に公開することを目的として作成するものではなく、実験者が、動物実験委員会に対して、動物実験の適法性及び遂行方法を明確にし、動物実験の必要性、重要性、倫理性等の審査を行うために作成するものである。

また、動物愛護法及び実験動物飼養基準は、行政文書の開示・不開示を決する基準ではなく、被告に「動物実験計画書」を公にすることを義務付ける法的効力はない。

さらに、動物実験に関する指針は法令ではなく、被告に「動物実験計画書」を公にすることを義務付けるものではないことは明らかである。

したがって、原告の主張は、情報公開法5条1号ただし書イの解釈を誤るものである。

(2) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について
ア 本件開示請求当時、被告は国の機関であり、そこで実施される動物実験は、国の機関が行う研究、教育に関する事務であるから、「国の機関…(中略)…が行う事務又は事業に関する情報」(情報公開法5条6号柱書前段)に該当することは明らかである。

イ 「動物実験計画書」の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報は、被告において、教育、研究目的で実験動物を用いて実験を行う研究者や学生に関する情報である。

そして、後記3(一)(2)のとおり、動物実験に反対する団体のメンバー等により、暴力的な手段を用いて、実験動物取扱業者に対して、過激な抗議活動が行われている。また、日本の大学の研究室に不正な手段を用いて侵入し、動物実験等で用いられる資料、あるいは実験動物を不正に持ち出すという事件が発生している。

これらの事実に照らせば、動物実験を行う研究者や学生に関する情報が公にされた場合、これらの研究者や学生に対して、嫌がらせや暴力的な抗議行動が行われたり、動物実験用の資料や実験動物が不正に持ち出されたりすることにより、これらの研究者や学生の行う動物実験の「公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」(情報公開法5条6号ハ)があることは明らかである。

ウ したがって、「動物実験計画書」の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報が、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当することは明らかである。

(二) 「実験題目」及び「実験内容」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分について

(1) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について
ア 本件開示請求当時、被告は国の機関であり、そこで実施される動物実験は、国の機関が行う研究、教育に関する事務であるから、「国の機関…(中略)…が行う事務又は事業に関する情報」(情報公開法5条6号柱書前段)に該当することは明らかである。

イ 本件各行政文書のうちの「動物実験計画書」に記載された「実験題目」欄及び「実験内容」欄中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分は、いずれも、当該研究の研究上のキーワード等が記載されている部分であり、当該研究の独創性や独自性、研究者の着眼点等、研究者の優先権に相当する部分が含まれている。

特に、特許や実用新案に関わる研究活動の場合、このような研究上のキーワード等が公になれば、その研究の独創性や独自性、研究者の着眼点等、その研究者の優先権に相当する部分が失われることとなり、当該研究の遂行にとっては致命的な支障を来すものである。

調査研究に関する事務については、その成果を上げるために、研究者が、その発想、創意工夫等を最大限に発揮できるようにすることが重要であり、研究上のキーワード等に関する情報を公にすることは、自由な発想、創意工夫や研究意欲が不当に妨げられ、減退するなどし、ひいては研究活動の停滞や中止といった研究上の致命傷になり得るなど、研究の「能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」(情報公開法5条6号ハ)がある。

ウ したがって、本件各行政文書のうちの「動物実験計画書」に記載された「実験題目」欄及び「実験内容」欄中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分に記載された情報が、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当することは明らかである。

(2) 原告の主張に対する反論
ア 原告は、「実験題目」欄及び「実験内容」欄に記載された情報を開示すべきであるとの主張の前提として、被告における動物実験の管理態勢等を非難するが、原告の主張は、前提を誤るものである。

すなわち、被告は、近隣住民等への安全管理については、大分医科大学動物実験指針に基づき、特に病原体等を取り扱う動物実験について、病原菌による汚染が生ずることのないよう、検疫や汚染防止措置を十分に施すなど、実験者及び近隣住民の安全を確保している。また、動物実験においては、性別、年齢の特定を必要としないサルを用いた実験もあるので、「動物実験計画書」には、年齢、性別をあえて未記入にしている場合もあり、この点で「動物実験計画書」の記載に不備があるわけではない。なお、被告はBウイルスを用いた動物実験は行っていないし、解剖実習にはサルを用いていない。

イ 原告は、本件開示請求の対象となった「動物実験計画書」に記載された動物実験は、違法飼養のサルを用いて実施されたものであることが疑われるから、情報公開法5条6号によって保護される適正な事務の遂行に該当しない旨主張する。

しかし、本件開示請求の対象となった「動物実験計画書」は、平成12年度のものであって、その対象となる実験動物は、鳥獣保護法に基づき、適法かつ適正に飼養されていたものであるとともに、その「動物実験計画書」は、動物実験委員会の審査と承認を受けた適正なものである。

また、高次脳機能や感染症の研究においてニホンザル等の霊長類を用いた動物実験が不可欠であるように、動物実験に基づく研究は、学問・研究の発展をもたらし、社会に有益な成果を還元するものであるから、こうした研究の前提となる動物実験には、公共の利益があることは明らかである。

したがって、原告の上記主張は、前提となる事実を誤るものである。

ウ 原告は、由来や病歴が不明な動物や野生動物を使用していること等を理由として、不開示となった動物実験のすべてが高い質と機密性を有するものとは考えられず、「動物実験計画書」の「実験題目」欄及び「実験内容」欄に記載された情報を公にしても、研究の遂行に支障を及ぼすことはない旨主張する。

しかし、「動物実験計画書」において、サルの年齢等を記載していない理由は前記1(二)(2)アのとおりであり、開示済みの「動物実験計画書」の記載からも明らかなとおり、解剖実習にはサルは用いられていない。

また、国立大学動物実験施設協議会及び国立大学医学部長会議常置委員会が、環境省自然環境局長及び「動物の愛護管理のあり方検討会」の座長あてに提出した「動物の愛護及び管理に関する法律の改正に対する見解と要望について」では、科学的利用に供する実験動物の範囲を明確にし、野生動物や譲渡犬等実験動物以外の動物も一定の条件下で利用できるようにすることを要望しており、野生動物がすべて実験動物としての適格を欠くということはできない。

さらに、「手掌皮膚に分布するマイスナー小体の三次元微小解剖に関する研究」等、野生由来のニホンザルを動物実験に使用したとみられる研究で、国際学会誌に発表されている論文は多数あり、質の高い研究として評価されている例も少なくない。

したがって、原告の主張は、前提を欠くものである。

エ 原告は、他大学では、被告よりもはるかに詳細に実験内容を公にしているが、公開したことによる研究上の支障は生じていないことからすれば、「動物実験計画書」の「実験題目」欄及び「実験内容」欄に記載された情報を公にしても、研究の遂行に支障を及ぼすことはない旨主張する。

しかし、公開したことにより研究上の支障が生じていないという原告の主張には、何らの根拠もない。

また、大学は、最先端の教育・研究を担っており、学問・研究の分野における国際的競争にもさらされている。基礎的、学問的な研究には高い価値があり、こうした研究におけるプライオリティの重要性は、各種の学術賞の受賞状況をみても、知的財産保護の理由からみても明らかである。そうであるからこそ、研究におけるプライオリティは強く守られてきたのである。研究内容を具体的に公にしている場合は、そのようなプライオリティがないことを前提としていると解すべきである。

(三) 「動物実験計画書」全般に関する原告の主張に対する反論

原告は、「動物実験計画書」は、動物実験計画が適法であるか否かの判断をする根拠となる行政文書であり、密室で行われる動物実験が適法に行われているか否かを知るためには、「動物実験計画書」が開示される必要がある旨主張する。

被告は、動物愛護法及び実験動物飼養基準に基づき、昭和62年9月25日、大分医科大学動物実験指針を制定し、平成7年12月に大分医科大学動物実験委員会を設置して、同委員会において、動物実験の適法性について合議制による審査を行い、動物を用いた各種の動物実験が適正に実施されるよう努めている。しかし、上記の法律及び基準は、行政文書の開示・不開示を決する基準ではなく、行政文書の開示・不開示は、飽くまで情報公開法の定める不開示事由の有無により決められるべきものである。

したがって、「動物実験計画書」は、本来公開されるべきものであるという原告の主張は失当である。

(原告の主張)

(一) 「動物実験計画書」について

(1) 日本において、動物実験は、動物愛護法と、同法に基づいて制定された実験動物飼養基準及び動物実験に関する指針(昭和62年社団法人日本実験動物学会発表)に基づいて実施することが定められている。さらに、文部省は、昭和62年に、動物の福祉にも配慮した動物実験の指針を整備するよう各大学に通知している。これにより、大半の大学等において、指針が策定されるとともに、動物実験倫理委員会が設置され、研究者が動物実験計画書を各大学内部の動物実験倫理委員会等に提出することで、動物実験の承認を受ける方法が採られている。そして、動物実験倫理委員会は、実験動物飼養基準及び動物実験に関する指針に基づいて、申請された動物実験計画書が適法であるかどうかの判断を下している。

以上のとおり、「動物実験計画書」は、計画されている動物実験が適法かつ適正に実施されているかどうかの判断の根拠となるものである。

(2) そもそも、原告が「動物実験計画書」の情報公開請求をしたのは、大分県大分市(以下「大分市」という。)によるニホンザルの違法捕獲とそれに関連した実験用払下げの真相を解明するには、払下げを受けた側の被告の情報を明らかにすることが不可欠であったという理由からであった。 大分市の違法事件報道がきっかけで、被告によって長年行われていた違法飼養の事実が明るみに出たが、それ以外の払下げに関する事実や密室下での動物実験については、その一切が不透明で全く明らかにされていない。これらの事実を知るには情報公開によるしかない。

(3) 被告においては、動物実験委員会が設置されているにもかかわらず、長年の違法飼養を見逃し、「動物実験計画書」の明らかな不備さえも指摘できなかったなどの事実からして、動物実験委員会の承認を得たとしても、動物実験が適正に行われている保証にはならない。現に、動物実験の管理のあり方については、各研究機関における自主管理について、その実効性に大きな疑問が持たれている。

(4) 動物実験に関する指針は、動物実験計画に際して、動物の犠牲を最小限にすること、慎重かつ厳密に計画を立てることを求めている。ところが、被告においては、「動物実験計画書」における使用動物数が正当な根拠に基づかない数字であった可能性が高く、これは明らかに動物実験に関する指針の趣旨に反するものである。 また、動物実験に関する指針は、野生のニホンザルを安易に動物実験に使用することは避けることを求めている。しかし、被告によって長年行われてきた動物実験は、地方公共団体により違法に捕獲され、被告により違法飼養された野生のニホンザルを使用したものであり、動物実験に関する指針に違反するものであった。

(5) 情報公開の目的は、国民が行政の諸活動を注視し、行政機関に説明を求め、又はその説明を聞いて行政に関する意見を形成し、行政が適切に行われることを促すために、その意見を適宜の形で表現することにある。 「動物実験計画書」の開示を求める目的も、正に行政の適正化にあり、動物実験の適法性を判断する根拠となる「動物実験計画書」は、本来公開されるべきものである。被告の場合は、過去に違法の事実があった上、さらなる違法の強い疑いが生じているのであるから、疑惑を払拭するためにも、自ら進んで情報を開示し、真相を明らかにする責務がある。

(二) 「申請者氏名」及び「連絡先」について

(1) 情報公開法5条1号該当性について
ア 講師以上の者を除いた研究者のうち、公務員とみなされる者について
(ア) 講師以上の者を除いた研究者の中で、助手等、大学から報酬を得ている者については、公務員とみなされる。これらの者の氏名及び連絡先に関する情報は、情報公開法5条1号ただし書ハに該当するので、開示されるべきである。

(イ) 「動物実験計画書」は、実施又は計画されている動物実験の適法性を判断するための文書である。通常、この判断は、大学内の動物実験倫理委員会等にゆだねられているが、仮にその動物実験の適法性に疑いが生じた場合は、大学外の第三者に対して情報を開示し、その適法性を証明する義務が生ずる。

このような「動物実験計画書」の性質からすると、「動物実験計画書」は、求められれば何人にも提供することを予定している文書であって、ここに記載されている「申請者氏名」及び「連絡先」は、情報公開法5条1号ただし書イに該当する。

また、大分大学医学部のホームページには、各講座の紹介として、助手の氏名も掲載されていることからすると、「動物実験計画書」中の助手の氏名は、事実上の慣習として公にされている情報として、情報公開法5条1号ただし書イに該当するというべきである。

(ウ) したがって、「動物実験計画書」中の助手等の「申請者氏名」及び「連絡先」については、情報公開法5条1号ただし書イ及びハに該当するので、開示されるべきである。

イ 講師以上の者を除いた研究者のうち、学部学生及び大学院生について

(ア) 前記のとおり、「動物実験計画書」は、実施又は計画されている動物実験の適法性を判断できる唯一の根拠となる文書であるから、求められれば何人にも提供することを予定している文書であって、ここに記載されている「申請者氏名」及び「連絡先」は、情報公開法5条1号ただし書イに該当する。

また、大分大学医学部のホームページには、各講座の紹介として、学部学生及び大学院生の氏名も掲載されていることからすると、事実上の慣習として公にされている情報として、学部学生及び大学院生の氏名は、情報公開法5条1号ただし書イに該当するというべきである。

(イ) さらに、実験動物飼養基準に定められている実験動物の苦痛の排除等の規定を遵守するにしても、薬品の使用や安楽死等に関する相応の知識と経験を持つ者でなければ、現実には実施することが不可能な場合があるから、「動物実験計画書」において、実験の実施者(申請者)がだれであるかは重要な要素となる。そうすると、動物実験の適法性を判断する上で、「申請者氏名」及び「連絡先」の開示は必要不可欠である。

(ウ) したがって、「動物実験計画書」の学部学生及び大学院生の「申請者氏名」及び「連絡先」については、情報公開法5条1号ただし書イに該当し、開示されるべきである。

(2) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について
「動物実験計画書」の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報は、後記3(二)と同様の理由により、情報公開法5条6号柱書・同号ハには該当せず、開示されるべきである。

(三) 「実験題目」及び「実験内容」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分について

(1) 原告が、平成13年に被告を訪れた際、被告ではピロリ菌やBウイルスを用いた長期にわたる動物実験も行っていると聞いたが、これらの動物実験は、研究者のみならず、近隣住民への健康や安全を確保する上でも、厳重な管理が必要になる。 ところが、被告では、「動物実験計画書」中の最低限記入が必要な事項であるニホンザルの性別や年齢等でさえ未記入であったり、そのように不備な「動物実験計画書」も承認されているなど、その管理体制は実にずさんなものである。細菌やウイルスを用いた危険な動物実験がずさんな管理体制の下で行われていることに対して、国民が強い不安を抱くのは当然であり、情報を広く公開し、国民の理解を求めることが極めて重要である。

(2) 「動物実験計画書」中の「実験題目」欄及び「実験内容」欄に記載された情報は、情報公開法5条6号柱書・同号ハには該当せず、開示されるべきものである。 ア 情報公開法5条6号柱書後段の「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」については、支障の程度は名目的なものでは足りず、実質的なものが要求され、おそれの程度も単なる確率的な可能性ではなく、法的保障に値する蓋然性が要求される。

しかし、被告が主張する不開示の理由は、何ら実質的な根拠がなく、法的保障に値する蓋然性があるとは認められないものである。

イ 由来や病歴が不明な払下げの動物や野生動物を使用した動物実験では正しいデータが得られないことは、研究者間での通説とされており、特許や実用新案に関わるような質の高い研究に、払下げの動物や野生動物が使用されることは、通常あり得ない。

また、「動物実験計画書」には、質の高い動物実験には不可欠なニホンザルの性別や年齢さえ記載されていないこと、実験内容の記載の仕方も他大学の「動物実験計画書」と比べると、見るからにずさんであること、標本を採ることを目的とした解剖実習と思われる動物実験が多いこと等からみても、不開示となった動物実験のすべてが高い質と機密性を有するものとは考えられない。

したがって、「実験題目」欄及び「実験内容」欄に記載された情報を公にすることによって、優先権の喪失の問題が生ずるという被告の主張は、極めて現実性に乏しいものである。

ウ 他大学では、既に「動物実験計画書」中の「実験題目」欄及び「実験内容」欄に記載された情報を情報公開しており、一見したところ、被告よりもはるかに詳細に実験内容が記載されているのであるが、これらの大学の研究において、公開したことにより研究上の支障が生じたという事例は、過去において一件も生じていない。

したがって、被告の研究においてのみ、公開した場合に研究に支障が生ずるという被告の主張は、全く根拠がない。

エ 研究の詳細な方法や過程、研究に基づくデータや研究の成果等を記した研究論文と、動物実験の目的とその概要を記した「動物実験計画書」は、その目的・内容において、全く異なる性質のものであって、同一に考えることができない。

そもそも、「動物実験計画書」が作成される目的は、計画されている動物実験が適正に行われるかどうかを審査するためであるから、「動物実験計画書」の内容が、調査研究の途中段階の情報や試行錯誤の段階の情報として、情報公開法5条6号ハにより保護されるものに該当しないことは明らかである。

オ そもそも、本件開示請求の対象となっている動物実験は、違法飼養のニホンザルを用いて実施されていたのであるから、動物実験が適正であったとは到底いえない。

情報公開法5条6号柱書後段の「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」については、事務又は事業がその根拠となる規定・趣旨に照らし、公益的な開示の必要性等の種々の利益を衡量した上での「適正な執行」といえるものであることが求められる。このことからすると、当該条項を不開示の理由とするには、その業務自体が適正に遂行されていなければならない。

2 「ニホンザル戸籍簿」中の不開示部分について
(被告の主張)

(一) 「識別用各個別写真」について

(1) 情報公開法5条6号柱書該当性について

ア 本件開示請求当時、被告で実施される動物実験が情報公開法5条6号柱書前段に該当することは、既に主張したとおりである。

イ 本件各行政文書のうちの「ニホンザル戸籍簿」中の「識別用各個別写真」は、実験動物として、被告に搬入されるニホンザルの個体識別を行うために各個体ごとに撮影した顔写真を掲載したものである。

ウ 「識別用各個別写真」は、写真撮影時に、ニホンザルが暴れるなどして、大学職員、研究者等に危害が及ばないようにするため、当該ニホンザルに深麻酔を施した上で撮影されたものである。そのため、「識別用各個別写真」には、麻酔が施されていない場合と比較して、著しく衰弱しているかのような顔貌が記録されている。
このように著しく衰弱しているかのような顔貌が記録された「識別用各個別写真」を公にすれば、写真としての画像に写し込まれている背景や表情等、文字以外の情報を視覚的に形容することになるため、例えば撮影時の状況に対する憶測や推測を増幅させることになる。

エ また、「ニホンザル戸籍簿」にその顔写真が掲載されたニホンザルは、既に死亡し、あるいは相当期間経過後に死亡することに照らせば、その利用の方法によっては、社会一般に誤解を招き、動物実験に対する評価を不当に左右するおそれがあるとともに、特定の意図の下に使われるおそれがある。

例えば、動物権利保護団体ALIVEの機関誌では、京都大学霊長類研究所内の写真を、高崎山の頭数過剰となったニホンザルを実験動物として供給する新聞記事に重ねて掲載している。また、原告の機関誌である「JAVA NEWS」では、高崎山の観光用ポスターと京都大学霊長類研究所内での実験用の動物写真を並列的に掲載し、あたかも、同研究所内において、高崎山のニホンザルを動物実験に用いているかのような印象を与える掲載の仕方をしている。このように、写真の利用のされ方によっては、それを見る者の誤解を招いたり、誤解の増幅につながるおそれがある。

さらに、研究室内で動物実験に供されている動物の写真を、あたかもその動物が虐待されているかのような説明を付してホームページに掲載すれば、動物実験の目的やその有益性について詳細を知らない者が、動物実験とは単に動物を虐待するにすぎないものであるといった誤った理解をすることも想像に難くない。

こうした誤解等を背景として、私企業に対する過激な暴力活動や研究施設に対する不法な侵入を肯定的にとらえ、動物実験に対していわれのない批判を行う者が現われてくる。これは、単なる懸念や危惧ではなく、犯罪行為が現に行われていることは、動物実験を用いた研究という事務の適正な遂行に支障を来すおそれの蓋然性を示している。

オ 以上のように、実験動物の写真を恣意的に用いれば、その写真を見る者に誤解を与え、いたずらに感情を刺激することにより、このような動物実験の意義についての誤解を招き、動物実験に対する評価を不当に左右するおそれがあることは否定できない。そうすると、「識別用各個別写真」を公にすることは、動物実験に対する誤解や偏見を生じさせ、ひいては、ニホンザルを用いた動物実験に対する評価を不当に誤らせ、社会的にも有用なニホンザルを用いた動物実験の「適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」(情報公開法5条6号柱書後段)というべきである。

したがって、「識別用各個別写真」欄に記載された情報は、情報公開法5条6号柱書に該当する。

(2) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について
上記2(一)(1)から明らかなとおり、「識別用各個別写真」を開示することによって、実験動物を用いた研究の「能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」(情報公開法5条6号ハ)が生じるおそれがある。

したがって、「識別用各個別写真」欄に記載された情報は、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当する。

(二) 「処分者氏名」、「飼育開始届申請者名」及び実験利用記録欄の「利用者名」(ただし、いずれも講師以上の者を除く。)について

(1) 情報公開法5条1号該当性について
「処分者氏名」欄、「飼育開始届申請者名」欄及び実験利用記録欄の「利用者名」欄に記載された情報が、情報公開法5条1号本文の「個人を識別することができる」情報に該当することは明らかである。

また、講師以上の者を除いた者、すなわち、助手、大学院生及び学部学生の氏名が、情報公開法5条1号ただし書イ及びハに該当しないことは、前記1(一)(1)のとおりである。

(2) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について
「処分者氏名」欄、「飼育開始届申請者名」欄及び実験利用記録欄の「利用者名」欄に記載された情報は、前記1(一)(2)と同様の理由により、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当する。

(三) 実験利用記録欄の「処置記録」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分について
 実験利用記録欄の「処置記録」欄中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分に記載された情報は、前記1(二)と同様の理由により、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当する。

(四) 原告の主張に対する反論
 原告は、あたかも平成12年以前は、被告が譲り受けたニホンザルの個体管理を行うための文書も作成せず、検疫も実施していなかったかのような主張をする。
確かに、被告が「ニホンザル戸籍簿」の作成を開始したのは、平成12年4月以降に譲り受けた個体からではあるが、平成11年に大分県知事から厳重注意を受けた後は、関係法令に従い、適法にニホンザルを譲り受けてきたのであり、それ以前から「動物実験計画書」の作成、検疫検査は当然に実施してきた。

原告は、憶測により、現在も被告が不正にニホンザルを取得し、違法に飼養しているかのように主張するが、このような主張には何らの具体的な根拠もない。

(原告の主張)

(一) 「ニホンザル戸籍簿」について
「ニホンザル戸籍簿」に関しては、平成10年、鳥獣保護法違反が発覚し、市民の強い批判を浴びた「大分市と被告との間で行われていたニホンザルの実験用譲渡」に関する情報として、大きな意味を持つ。「ニホンザル戸籍簿」は、鳥獣保護法、動物愛護法等の法律に抵触していなかったかどうかなど、一連の事実関係を知る上で、極めて重要な資料である。
平成9年に山口大学において未検疫のサルを動物実験に使っていたことが発覚して、大きな問題となったように、動物を動物実験に使用する際に、検疫は当然行うべきものである。
ところが、原告が被告を鳥獣保護法違反で刑事告発した際、原告は、大分地方検察庁から、「平成12年1月に被告に出向いて調査を行ったところ、サルは全頭処分されていて一匹もいなかった。また、関係書類も存在していなかったため、個体識別ができない。個体識別ができない以上、立件することは極めて難しい」との報告を受けている。また、原告が被告を訪問した際も、「平成12年以前の書類はない」との話であった。この事実からすると、被告は検疫を行わず、戸籍簿も作らないといった、不適法な動物の管理と極めてずさんな動物実験を長年続けていたことになる。

以上によれば、「ニホンザル戸籍簿」を開示する必要性は極めて高い。

(二) 「識別用各個別写真」について

(1) 情報公開法5条6号柱書後段の「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」については、支障の程度は名目的なものでは足りず、実質的なものが要求され、おそれの程度も単なる確率的な可能性ではなく、法的保障に値する蓋然性が要求される。

しかし、被告が主張する「支障」は、誤解を招くことや評価を不当に左右すること等、極めて抽象的なものであり、何ら実質的なものではない。

また、支障を及ぼす「おそれ」に関しても、誤解や偏見を生じる可能性があるので、動物実験の遂行に支障を及ぼすおそれがあると主張するのみで、これをもって法的保障に値する蓋然性があるとは認められない。

このように、「識別用各個別写真」欄に記載された情報は、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当せず、開示されるべきである。

(2) 被告の主張は、現在行われている動物実験、あるいは行われようとしている動物実験を全面的に肯定した上で、動物実験への反対意見や批判は、すべて行政の事業を妨げる不当なものとして排除しようとする意図がうかがえる。 しかし、実際には、動物実験にまつわる違法問題が現実に生じており、また、動物権利保護団体だけでなく、医学者や科学者の中にも批判的な見解は数多くみられる。

さらに、動物実験に対する適正な批判は、代替法等優れた科学研究を促してきた歴史があり、最近は日本の研究者の間でも、社会的に認知される動物実験とは何かについて盛んに論じられている。

このような状況からして、動物実験を行政の事務として行う以上、国民による幅広い議論と適正な批判は、必要不可欠なものであるといえる。

(3) 被告は、写真が特定の意図の下に使われると、動物実験に対する誤解を招くおそれがある実例として、原告の機関誌である「JAVA NEWS」の記事を挙げ、写真の使い方や表現の仕方に批判を加えている。

「JAVA NEWS」の当該記事の趣旨は、高崎山のニホンザルを観光の目玉にしておきながら、一方では、市民に知られないようにニホンザルを動物実験用に払い下げていた事実を会員に知らせると同時に、ニホンザルを使った動物実験の実態を知ってもらうことにあった。事実を正確に伝えるために写真は不可欠であるため、それぞれの写真に説明文を付記した上で、高崎山の記事にはポスターの写真を、動物実験の記事にはニホンザルの実験写真をそれぞれ掲載した。事実に反したことは、一切書かれておらず、被告の批判は全く根拠がない。

(三) 「処分者氏名」、「飼育開始届申請者名」及び実験利用記録欄の「利用者名」について

「処分者氏名」、「飼育開始届申請者名」及び実験利用記録欄の「利用者名」欄に記載された情報は、前記1(二)と同様の理由により、情報公開法5条1号ただし書イ及びハに該当し、また、後記3(二)と同様の理由により、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当しないから、開示されるべきである。

(四)  実験利用記録欄の「処置記録」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分について

実験利用記録欄の「処置記録」欄に記載された情報は、前記1(三)(2)と同様の理由により、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当せず、開示されるべきである。

3 「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の不開示部分について

(被告の主張)
(一) 「品名」、「規格品質」及び「納入」又は「相手方」について
(1) 情報公開法5条1号該当性について
本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「納入」又は「相手方」欄のうち、個人名が記載されたものが、情報公開法5条1号本文の「個人を識別することができる」情報に該当することは明らかである。

(2) 情報公開法5条2号イ該当性について
ア 動物実験に反対する者、あるいはそのような者の所属する団体の中には、動物実験にかかわる企業等に対して極めて過激な反対運動を行い、当該企業の営業等を妨害する例が散見される。

  例えば、平成13年1月19日の日経流通新聞において、「実験動物の英HLS社愛護団体の圧力で経営難 バイオ産業衰退懸念も」との見出しの下に、薬剤や化学品の動物実験を専門に手がける英国のハンティンドン・ライフ・サイエンス社(以下「HLS社」という。)が動物権利保護団体の強い圧力を受けて倒産の危機に直面している旨の報道がされている。

  HLS社がこのような経営上の危機を迎えた背景には、ストップ・ハンティンドン・アニマル・クルエルティ(以下「SHAC」という。)と名乗る団体が、動物実験に反対し、HLS社の従業員を対象に自動車を爆発させる事件やHLS社の役員をバットで殴打する事件を起こしたり、HLS社に投資する投資家等に対して、氏名、住所、電話番号をホームページに掲載するなどの嫌がらせが繰り返され、HLS社に対する投資、資金提供がされなくなったという事実がある。

  また、SHACのように暴力を含めた実力行使による動物実験反対運動を展開する団体に対しては、アメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。)においても、FBI(連邦捜査局)によって「アメリカ国内最大のテロリスト脅威」とされ、動物実験反対を標榜する戦闘的な団体が現われ、デモ行進等の通常の抗議方法に満足せず、暴力的な活動がエスカレートしているとも報じられている。さらに、こうした団体のリーダーとされる者は、脅迫、不法侵入による実験動物の持ち出し、実験室等への投石、自動車の破壊等の、犯罪と評価し得るような暴力的行為を用いた反対運動を容認する発言をしていることも伝えられている。

  加えて、平成16年5月18日、アメリカの上院司法委員会では、動物権利保護団体についての公聴会が開催され、同委員会の委員長は、動物権利保護団体の一部過激行動者が言論の自由や合法的抗議活動を逸脱した行動に及んでいることに懸念を表明している。同月には、アメリカでも、SHACのメンバーが、HLS社に対する恐喝、脅迫等により起訴されている。

イ 以上のとおり、英国、アメリカ等で暴力を用いた反対運動が発生していることが伝えられているが、日本国内においても、明らかに不法な手段を用いた動物実験反対運動が行われている。

例えば、平成14年7月2日の朝日新聞において、平成13年夏に、SHACのメンバーが、大阪大学等日本の五つの大学の動物実験施設に、虚偽の紹介状等を用いて侵入し、実験施設の内部を撮影したり、資料を持ち出していたことが報道されている。このSHACメンバーによる日本の大学への侵入は、SHACのホームページにも掲載されている。そして、上記朝日新聞によると、SHACは、朝日新聞の取材に対し、「(この侵入事件について)今回は日本の動物実験への攻撃の手始めだ」などとも語ったとされている。

 また、上記の大学への侵入事件等に関与したSHACのメンバーが、日本国内で逮捕され、窃盗罪等により有罪判決を受けた旨の報道もされている。

 さらに、日本国内の団体が、ある製薬会社に多数で抗議に訪れるなどの事例も見られるとともに、こうした抗議活動に参加する団体の中には、SHACの活動を肯定的にとらえている団体も存在する。

ウ このような事実を踏まえれば、日本国内でもSHAC又はそれに同調する団体等が、実験動物を供給する業者に対して、SHACがHLS社に対して行ったと同様の暴力的な活動を行ったり、あるいは動物実験を行う研究施設に不法に侵入し、資料等を不法に持ち出したりするなどの事件が発生する具体的なおそれが存在する。

  そして、このような事件が発生すれば、実験動物を納入する業者に対して、過激な反対運動が展開されることにより、その営業が妨害されたり、業者が保管等する実験動物が不法に持ち出されたりするなどして、実験動物の販売等の事業を継続し難くなったり、あるいは、事業に従事する従業員等が身体、生命の危険にさらされるなどの事態に至るおそれがある。

 なお、被告は、対象となる実験動物取扱業者に対して、情報公開法13条に基づき、第三者に対する意見聴取を行った。その結果、すべての業者が、適正な事業の妨害等に対して強いおそれを抱き、「品名」、「規格品質」及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報の情報の公開を望まない旨の意見書を提出しており、これらの情報の公開を望んでいない。このことからも、これらの情報を公開することによって、実験動物の納入業者の「権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」(情報公開法5条2号イ)ものと認められる。

エ 本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報を公にすることにより、実験動物を納入等する業者が特定される。そうすると、以上に述べたことからすれば、これらの情報が、情報公開法5条2号イに該当することは明らかである。

(3) 情報公開法5条4号該当性について
前記のとおり、動物実験に反対する団体等が、実験動物を供給する業者に対して、暴力的な活動を行ったり、動物実験を行う研究施設に不法に侵入し、資料等を不法に持ち出したりするなどの事件が現実に発生していることに照らすと、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」、「規格品質」及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報を公にすると、業者の設備の破壊や実験動物の不法な持ち出しなどの犯罪が発生する蓋然性があることは明らかである。

したがって、これらの情報は情報公開法5条4号に該当する。

(4) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について
本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報は、その内容によって、実験動物を納入する業者を特定することのできる情報である。
このような情報が明らかになれば、動物実験に反対する団体のメンバー等が、実験動物を供給する業者に対して、暴力的な活動を行ったり、あるいは動物実験を行う研究施設に不法に侵入し、資料等を不法に持ち出したりするなどの事件が発生する具体的なおそれが存在する。
そして、このような事件が発生すれば、実験動物を納入する業者が、過激な反対運動等による被害を恐れて、実験動物の取扱いを中止したり、営業を停止したりする事態が生ずることも容易に想定される。そのようなことになれば、被告において、動物実験に必要な動物の入手が著しく困難となり、実験動物を用いた教育、研究に関する事業又は事務の「公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」(情報公開法5条6号ハ)があることは明らかである。

したがって、本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報は、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当するというべきである。

(二) 「使用場所」における研究者名(ただし、講師以上の者を除く。)について

(1) 情報公開法5条1号該当性について
 本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「使用場所」欄に記載された研究者名が、情報公開法5条1号本文の「個人を識別することができる」情報に該当するというべきである。
また、講師以上の者を除いた者、すなわち、助手、大学院生及び学部学生の氏名が、情報公開法5条1号ただし書イ及びハに該当しないことは、前記1(一)(1)のとおりである。

(2) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について
「使用場所」欄に記載された研究者名は、前記1(一)(2)と同様の理由により、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当する。

(三) 原告の主張に対する反論
 開示請求の対象となった行政文書を保管する行政機関の長は、不開示情報に該当しない情報を開示する義務を負うとともに、不開示情報に該当する情報を開示してはならない義務を負っているものである。

したがって、ある企業が、自らの判断で情報公開法5条2号イの不開示事由に該当する情報を公開しているという事実、あるいは、特定の私人が、何らかの方法で、ある企業の同号イの不開示事由に該当する情報を調査し、それを公開しているという事実が存在しているとしても、ある情報が同号イの不開示事由に該当する場合には、当該情報が記載された行政文書を保有する行政機関の長の当該行政文書を開示してはならない義務を免除することにも、開示すべき義務を負わせることにもならないことは明らかである。

(原告の主張)
(一) 「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」について

(1) 昨今、公共機関と民間業者との癒着が社会的に深刻な問題となっているが、実験動物に関しても、同様の事例が多発している。例えば、野生サルの違法捕獲と違法な取引、猫の実験用違法捕獲と横流し、払下げにまつわる違法行為が後を絶たない。これらは、行政機関と民間業者の癒着が招いた事件であり、同じような問題はすべて、公共機関と民間業者との不透明な関係の中で行われているのである。
したがって、国民の税金が投入されている公共の研究機関において、取引業者を公開することは、取引の透明性を高め、違法行為を未然に防ぐ意味でも極めて重要であり、その公開は、公共機関に課せられた義務といえる。

(2) 実験動物取扱業者については、業者自らホームページを作るなどして、広くその情報を公開している。また、原告は、独自に調査を行い、主な実験動物取扱業者についての情報を既に得ており、これらについて随時情報を公開している。したがって、実験動物取扱業者に関する情報は、何人も入手することができる種類の情報であって、何の機密性も存在しない。 さらに、他の国立及び公立の研究機関においては、情報公開請求に応じて実験動物取扱業者名等を公開しているが、業者名を公にしたことで何らかの支障が生じた事例はない。
以上のように、実験動物取扱業者名に関する情報が既に公開されていること、実験動物取扱業者名を公にしたことで支障が生じた事例がないことからすれば、被告の場合にのみ、取引業者名を不開示とする理由は認められない。

(二) 「品名」、「規格品質」及び「納入」又は「相手方」について

(1) 被告は、「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報について、情報公開法5条2号イ、4号、6号柱書・同号ハの不開示情報に該当すると主張し、その理由として、欧米において一部の人間による暴力事件が発生していることや日本においても違法行為があったことを挙げている。

 しかし、事務の適正な遂行等に「支障を及ぼすおそれ」については、支障の程度は名目的なものでは足りず、実質的なものが要求され、おそれの程度も単なる確率的な可能性ではなく、法的保障に値する蓋然性が要求される。
このように、蓋然性が要求される以上、行政文書の中の情報が公になったことに起因して、不法侵入等の違法行為が生ずると判断できる合理的な理由が明らかにされなければならない。

(2) 被告が主張する暴力事件に関する情報の大半は、「医学の進歩を求めるアメリカ人たち」(以下「AMP」という。)というグループのホームページからそのまま引用したものであるが、その根拠となるAMPは、アメリカの一任意団体のようであり、そのホームページの翻訳文が非常に稚拙で曖昧な表現が多く見られることからしても、信頼に足り得る情報でないことは容易に推測することができる。しかも、通常、私的なホームページに掲載されている情報の信頼性は低く、その意味においても、当該ホームページによる情報をそのまま事実とし、それを根拠に論ずるのは不適切である。

 被告は、平成14年にSHACのメンバーが日本の動物実験施設で犬とビデオを盗んだ疑いで逮捕され、この事件に関連して特定非営利活動法人アニマルライツセンター(以下「ARC」という。)という団体に属する日本人2名が逮捕された事件を取り上げている。この事件に関する詳細が掲載されているARCの会報によると、この事件に関与した2名はARCの理事を辞任して活動から身を引き、違法行為に及んだことを謝罪しており(1名は既に病死している。)、ARCのもう1人のメンバーとSHACのメンバーも深く反省しているとして、既に判決が下されている。

  また、この事件が発生したのは、実験動物取扱業者や動物実験施設の情報が公になったことに起因するものではなく、逆に、動物実験が密室下で行われ、すべてが隠されていることが要因であるともいえる。

(3) さらに、SHACの目的は、世界最大級の動物実験施設であるHLS社を過激な方法で攻撃し、センセーションを引き起こすことにあり、暴力行為の対象としているのは、HLS社と同社に実験を委託している施設であって、実験動物取扱業者ではない。被告と取引している実験動物取扱業者名が明らかにされたとしても、SHACが実験動物取扱業者の施設に不法侵入する理由はなく、違法行為が引き起こされる可能性は全くない。

(4) 被告は、欧米における一部の人間による突出した暴力事件と、日本で発生した一件の違法行為をもって、日本の動物実験に反対する団体等はすべて、同様の犯罪行為に及ぶ潜在的な危険性があるかのように主張する。

 本件における被告の姿勢は、国民を頭から疑ってかかるものであり、不誠実極まりない。日本で動物愛護や動物実験反対の活動をしている団体は、原告が把握しているだけでも100以上あり、それらの活動に参加あるいは賛同協力している人の数は、化粧品の動物実験反対キャンペーンで集まった署名が37万名分、法律改正のときに原告が単独で集めた署名が50万名分だったことからみて、100万人は下らないと推測されるが、これらの団体や個人が、法を遵守し、社会に貢献する活動を行っていることはいうまでもない。

  被告が、たった一件の違法行為をもって、原告等動物実験に反対する団体や個人のすべてを、犯罪のおそれがある者たちと決めつけることは、これらの運動に関わってきた団体及び個人を犯罪者扱いするに等しく、このような誹謗中傷は、原告が社会貢献活動を地道に続けて、20年かけて培ってきた信用と名誉を著しく傷つけるものである。

(三) 「使用場所」における研究者名(ただし、講師以上の者を除く。)について

「使用場所」欄に記載された研究者名は、前記1(二)(1)と同様の理由により、情報公開法5条1号ただし書イ及びハに該当し、また、前記(二)と同様の理由により、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当しないから、開示されるべきである。

第三 当裁判所の判断

一 「動物実験計画書」中の不開示部分について
1 「動物実験計画書」について
前記前提事実に加え、証拠(各事実の後に付記する。)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる。

(一) 被告は、動物愛護法及び実験動物飼養基準に基づき、昭和62年9月25日、大分医科大学動物実験指針を制定し、平成7年12月25日に大分医科大学動物実験委員会を設置した(乙16から19まで)。被告が制定した大分医科大学動物実験指針においては、動物実験を実施する者が動物実験に従事しようとするときには、「動物実験計画書」を動物実験委員会に提出して承認を得なければならないとされている(乙19)。

(二) 本件各行政文書のうちの「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄には、動物実験を申請する者の氏名及び内線電話番号がそれぞれ記載され、「実験題目」欄及び「実験内容」欄には、動物実験の目的や内容が具体的かつ詳細に記載されている(甲4、115、乙1、5、18)。

(三) 被告は、「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報のうち、講師以上の者を除いた者、具体的には助手及び大学院生の氏名及び連絡先を不開示とし、「実験題目」欄及び「実験内容」欄に記載された情報のうち、被告が研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分と判断した部分を不開示としている(甲4、115、乙5)。

2 「申請者氏名」及び「連絡先」(ただし、講師以上の者を除く。)について

(一) 情報公開法5条1号該当性について

(1) 情報公開法5条1号本文該当性について
ア 本件各行政文書のうちの「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄に記載された情報が、情報公開法5条1号本文にいう「特定の個人を識別することができる」情報に該当することは明らかである。

イ 情報公開法5条1号本文は、「特定の個人を識別することができる」情報には、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものも含む」旨規定している(同号本文括弧書)ところ、この規定は、当該情報単独では特定の個人を識別することができないが、他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができるものについても不開示情報とする趣旨であると解される。

そして、内線電話番号を記した大分大学の職員名簿や配置表等のように、動物実験の申請者の内線電話番号から当該申請者個人を識別することを可能とする情報は、大分大学の職員その他の関係者であれば容易に入手可能であると考えられる。

そうすると、「動物実験計画書」中の申請者の「連絡先」欄に記載された情報は、情報公開法5条1号本文所定の「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができる」情報に該当するというべきである。

ウ したがって、「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報(ただし、講師以上の者を除く。)は、情報公開法5条1号本文の不開示情報に該当するというべきである。

(2) 情報公開法5条1号ただし書イ又はハ該当性について
ア 処分の取消訴訟において、開示請求に対する不開示決定が適法であることを主張する者は、情報公開法5条1号から6号までに定める不開示情報が記録されていることを主張立証しなければならない。そして、このような不開示情報が開示請求の対象となっている行政文書に記録されている場合には、行政機関の長は当該行政文書を開示してはならない義務を負うが、さらに同条1号ただし書イからハまでのいずれかにも該当する情報は、その例外として不開示情報から除外され、開示禁止の効果を発生させないと解される。

このように、情報公開法5条1号ただし書イからハまでは、同号本文によって不開示とされる情報から例外的に除外されるものを定めたものであるから、開示請求者がその適用を求めるべき規定である。したがって、同号ただし書イからハまでの該当性については、開示を求める原告がこれに該当する事実を主張立証する責任を負うと解される。


イ まず、原告は「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報が情報公開法5条1号ただし書イに該当する旨主張するので検討する。

(ア) 情報公開法5条1号ただし書イは、①法令の規定により公にされている情報、例えば、登記簿に登記されている法人の役員に関する情報や不動産の権利関係に関する情報等や、②慣行として公にされている情報、例えば、叙勲者名簿、中央省庁職員録記載の情報等は、これを開示されることによりプライバシー侵害のおそれがあるとしても受忍すべき範囲にとどまるとして、例外的開示情報として規定したものと解される。

そして、情報公開法5条1号ただし書イにいう「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている」とは、事実上の慣習として、当該情報が現に公衆が知り得る状態に置かれている、又は将来的に公にする予定の下に保有されていることをいうものと解される。


(イ) 原告は、被告が長年実験動物の違法飼養をしており、更なる疑惑もあるなどと批判した上、「動物実験計画書」は、実施又は計画されている動物実験の適法性を判断するための文書であり、このような「動物実験計画書」の性質からすると、「動物実験計画書」は、求められれば何人にも提供することを予定している文書であって、ここに含まれている情報は、情報公開法5条1号ただし書イに該当する旨主張する。

しかしながら、証拠(乙16、18)及び弁論の全趣旨によると、「動物実験計画書」について規定した大分医科大学動物実験指針にも、同指針の基礎となった動物愛護法及び実験動物飼養基準にも、「動物実験計画書」やこれに類する動物実験に関する書類を一般に公開すべき旨定めた規定は存在しないことが認められ、そのほか、「動物実験計画書」に含まれる情報を公開すべきとする法令の定めや事実上の慣習が存在すると認めるに足りる証拠はない。

そうすると、「動物実験計画書」の性質からして、「動物実験計画書」に含まれる情報が情報公開法5条1号ただし書イに該当する旨の原告の主張には理由がない。


(ウ) また、原告は、大分大学医学部のホームページには、各講座の紹介として、助手及び大学院生の氏名も掲載されており、これらの者の氏名は事実上の慣習として公にされている情報である旨主張する。

確かに、証拠(甲113)によると、現在、大分大学医学部のホームページにおいて、解剖学講座第一及び眼科学講座の紹介のページに両講座の助手及び大学院生の氏名が掲載されていて、これらの者の氏名は、現に公衆が知り得る状態に置かれていることが認められる。

しかしながら、証拠(甲113)によると、上記両講座のページの内容や体裁は大きく異なっていることが認められ、大分大学医学部においては各講座ごとに講座紹介のページを作成しているものと推認される。そうすると、大分大学医学部において、解剖学講座第一及び眼科学講座以外の講座に所属する助手及び大学院生の氏名がホームページに掲載されているか否かは明らかでないというべきである。そして、証拠(甲115)によると、本件開示請求の対象となっている「動物実験計画書」には、上記両講座以外の微生物学講座や解剖学講座第二に所属する助手及び大学院生の申請に係るものも含まれていることが認められ、これらの者の氏名がホームページに掲載されていたことを認めるに足りる証拠はない。

また、大学等がホームページを作成して、講座の紹介等をするようになったのは比較的最近であると考えられるところ、本件部分開示決定がされた平成13年12月当時において、大分大学医学部のホームページに助手や大学院生の氏名が掲載されていたか否かや、今後も継続的にそれらの氏名がホームページに掲載され続けるか否かは明らかでないというべきである。そうすると、被告の助手及び大学院生の氏名がホームページに掲載されることが事実上の慣習になっていると認めることはできない。

そのほか、被告の助手及び大学院生の氏名が公刊されている職員録等に掲載されていることを認めるに足りる証拠はない。

以上によれば、被告の助手及び大学院生の氏名が事実上の慣習として公にされているという原告の主張には理由がない。

(エ) さらに、原告は、被告によって行われてきた動物実験の適法性を判断する上で、「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報の開示は必要不可欠であるから、これらの情報は開示されるべきである旨主張する。

しかしながら、行政文書が開示されるべきか否かは、当該行政文書に含まれる情報が情報公開法5条に規定されている不開示情報に該当するか否かによって判断されるべきであって、情報公開法7条が規定する公益上の理由による行政機関の長による裁量的開示の場合を除いて、開示の必要性が高いという理由によって、不開示情報が開示されるべきであるということはできないことは明らかである。そして、本件において、原告は情報公開法7条に基づく裁量的開示に関して何ら主張立証していない。

そうすると、原告の上記主張に理由がないことは明らかである。

(オ) 以上によれば、「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報(ただし、講師以上の者を除く。)が情報公開法5条1号ただし書イ所定の例外的開示情報に該当するということはできない。


ウ 次に、原告は、「申請者氏名」及び「連絡先」欄に記載された情報が情報公開法5条1号ただし書ハに該当する旨主張するので検討する。

情報公開法5条1号ただし書イ及びハを読み合わせれば、同号ただし書ハは、公務員の職名と職務遂行の内容につき、政府の諸活動を説明する責務が全うされるようにする観点から、「当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」を不開示情報から除外して、当該公務員の個人に関する情報としては不開示とはしないとする一方で、当該公務員の氏名は、これとは別に、非公務員の場合と区別することなく、同号ただし書イにより開示の是非を判断することとして規定していると解される。

したがって、「当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」に公務員の個人名や、他の情報と照合することにより特定の個人を識別することのできるところの個人名に準ずるような情報が含まれないことは明らかである。


そうすると、「動物実験計画書」中の「申請者氏名」及び「連絡先」に記載された情報が情報公開法5条1号ただし書ハに該当するということはできない。

(3) 以上によれば、「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報(ただし、講師以上の者を除く。)は、情報公開法5条1号本文の不開示情報に該当し、その例外を定める同号ただし書イ又はハには該当しないというべきである。


(二) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について

(1) 前示のとおり、「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報(ただし、講師以上の者を除く。)は、情報公開法5条1号の不開示情報に該当すると認めることができるので、同条6号柱書・同号ハ該当性の有無にかかわらず、本件部分開示決定のうち、上記情報を不開示とした部分は適法である。そうすると、本来は、同条6号柱書・同号ハ該当性の有無を判断する必要はないが、訴訟の経緯にかんがみ、これを検討することとする。

(2) 情報公開法5条6号が不開示情報を定めた趣旨は、国の機関又は地方公共団体が行う事務又は事務は、公共の利益のために行われるものであるから、これを公にすることにより、その事務の適正な遂行に支障を及ぼす情報については、これを不開示とすることにより、上記事務又は事業の適正な遂行を確保しようということにあると解される。そして、「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」(同号柱書後段)や「調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」(同号ハ)の有無は、その事務又は事業の目的、その目的達成のための手法等に応じて判断されるべきであると解される。また、上記要件にいう「おそれ」とは、情報公開法が国民主権の理念から行政文書については公開を原則としていること(情報公開法1条、5条柱書)からすれば、単に行政機関の主観においてそのおそれがあると判断されるだけではなく、客観的にそのおそれがあると認められることが必要であるというべきである。 もっとも、上記「おそれ」があるか否かの判断に当たり、当該文書の個別具体的な記載文言等から、事務又は事業の遂行が具体的にどのように害される蓋然性があるかが明らかにされなければならないとすることは、結果的に当該行政文書の開示を要求するということに等しく、不開示情報を定めた法の趣旨に反することは明らかである。

そうすると、行政文書に記載された情報につき、情報公開法5条6号柱書・同号ハ所定の「おそれ」があるか否かを判断するに当たっては、当該情報が、どのような事務又は事業に関するどのような種類のものであるかなどといった一般的な性質から、当該事務又は事業の遂行を害するおそれがあるかを否かを客観的に判断することが相当であるというべきである。


(3) 本件開示請求当時、被告は国の機関であり、そこで実施される動物実験は、国の機関が行う研究、教育に関する事務であるから、「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報が、情報公開法5条6号柱書前段にいう「国の機関…(中略)…が行う事務又は事業に関する情報」に該当することは明らかである。

(4) 被告は、動物実験を行う研究者や学生に関する情報が公にされた場合、これらの研究者や学生に対して、嫌がらせや暴力的な抗議行動が行われたり、動物実験用の資料や実験動物が不正に持ち出されたりすることにより、これらの研究者や学生の行う動物実験の「公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」(情報公開法5条6号ハ)がある旨主張する。

そこで検討するに、研究者や学生による貴重な実験動物を用いた調査研究は、成果が上がれば、通常、論文や学会発表等の手段により公表されることによって、その成果が国民に還元され、公共の利益につながるものである。そして、このような研究結果の公表の際には、研究者や学生は、氏名を自ら公表しているのが通常であり、その公表内容を見れば、調査研究が動物実験に基づくものであることも必然的に明らかになるものである。

そうすると、「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報は、調査研究のために動物実験を行うという事務に関して、その動物実験を行おうとしている特定の研究者や学生の氏名を明らかにする情報であるが、そもそも、その性質上、動物実験を行う者の氏名については、後に公開されることもあることが想定されているものというべきである。

また、前記前提事実のとおり、被告が、「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報のうち、講師以上の者に関する情報を開示していることからすると、被告は、これらの者については、その氏名を公開しても、動物実験の「公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」がないと判断しているものと解される。そして、講師以上の者と、助手以下の者で、その氏名を公開した場合に、動物実験を「公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」があるか否かという点に大きな違いがあるとは考え難い。そうすると、助手以下の者についても、氏名を公開した場合に、動物実験の「公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」はないと解する方が自然である。

このように考えると、過去に被告の主張するような動物実験に対する嫌がらせや妨害行動の例が存在したとしても、「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報を開示することにより、情報公開法5条6号ハ所定の「公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」があると認めることはできない。

(5) 以上によれば、「動物実験計画書」中の「申請者氏名」欄及び「連絡先」欄に記載された情報(ただし、講師以上の者を除く。)が、情報公開法5条6号柱書・同号ハの不開示情報に該当するということはできない。

(三) 以上のとおり、本件各行政文書のうちの「動物実験計画書」中の「申請者氏名」及び「連絡先」欄に記載された情報(ただし、講師以上の者を除く。)は、情報公開法5条6号柱書・同号ハの不開示情報に該当すると認めることはできないものの、情報公開法5条1号の不開示情報に該当すると認めることができるから、本件部分開示決定のうち、上記情報を不開示とした部分は、適法というべきである。

3 「実験題目」及び「実験内容」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分について

(一) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について

(1) 情報公開法5条6号ハが「国の機関又は地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報」であって、公にすることにより「調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」があるものを不開示情報とした趣旨は、国の機関又は地方公共団体が行う調査研究の成果については、社会、国民等にあまねく還元することが原則であるが、成果を上げるためには、従事する職員が、その発想、創意工夫等を最大限に発揮できるようにすることが重要であり、調査研究に関する事務の中には、①知的財産権に関する情報、調査研究の途中段階の情報などで、一定の期日以前に公にすることにより成果を広く国民に適正に提供する目的を損ね、特定の者に不当な利益や不利益を及ぼすおそれがあるもの、②試行錯誤の段階のものについて、公にすることにより、自由な発想、創意工夫や研究意欲が不当に妨げられ、減退するなど、能率的な遂行を不当に阻害するおそれがある場合があるため、このような情報を不開示情報としたものであると解される。

(2) 証拠(甲4、乙5)及び弁論の全趣旨によると、本件各行政文書のうちの「動物実験計画書」中の「実験題目」欄及び「実験内容」欄に記載された情報のうち、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分であるとして被告が不開示とした部分は、いずれも、当該研究のキーワード等が記載されている部分であって、当該研究者の専門分野及び研究業績等、その他の情報と照合することによって、どのような目的のために研究を行っているのかやその研究の価値などが推測し得るものであり、当該研究の独創性や独自性、研究者の着眼点等、研究者の優先権に相当する部分が含まれていることが認められる。 そうすると、このような研究上のキーワード等が公になれば、その研究の独創性や独自性、研究者の着眼点等、その研究者の優先権に相当する部分が失われることとなり、結果として、研究者の自由な発想、創意工夫や研究意欲が不当に妨げられるなど、研究の能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあると認めることができる。

(3) したがって、「動物実験計画書」に記載された「実験題目」欄及び「実験内容」欄に記載された情報のうち、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分に含まれる情報は、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当するというべきである。


(二) これに対し、原告は、特許や実用新案に関わるような質の高い研究に、払下げの動物や野生動物が使用されることは通常あり得ず、本件各行政文書のうちの「動物実験計画書」の記載がずさんであること等からすると、不開示となった動物実験のすべてが高い質と機密性を有するものとは考えられない旨主張する。

確かに、証拠(甲109、115)及び弁論の全趣旨によると、本件開示請求の対象となった「動物実験計画書」の中には、「性・週齢・体重」欄に記載がないものが存在することが認められる。

しかしながら、このような記載が存在しないことのみで、当該研究の質が低いものであって、そこに研究者の優先権に相当する部分が含まれることはないと認めることはできない。また、被告の「動物実験計画書」の記載がずさんであることをうかがわせる証拠はない。さらに、証拠(乙22)によると、野生動物を使用した動物実験に基づく研究についても、研究者の優先権に相当する部分が含まれるようなものが存在することが認められる。

そうすると、原告の上記主張によっては、「実験題目」欄及び「実験内容」欄に記載された情報のうち被告が不開示とした部分に研究者の優先権に相当する部分が含まれているという前記認定は左右されるものではないというべきである。

したがって、原告の上記主張には理由がないというべきである。

(三) また、原告は、他の大学では、既に「動物実験計画書」中の「実験題目」及び「実験内容」を情報公開しているが、公開したことにより研究上の支障が生じたという事例は、過去において一件も生じていない旨主張する。

確かに、証拠(甲83の1から4まで、84の1から3まで)によると、滋賀医科大学は、「動物実験計画書」中の「実験題目」欄並びに「実験目的及び内容」欄に記載された動物実験の目的や内容に関する情報を開示しており、神戸大学医学部も、「動物譲渡願(実験用)」中の「実験の目的」欄及び「実験の内容」欄に記載された動物実験の目的及び内容に関する情報を開示したことがあることが認められる。

しかしながら、本件開示請求の対象となった「動物実験計画書」中の「実験題目」欄及び「実験内容」欄に記載された情報のうち被告が開示した部分(甲115)と、滋賀医科大学の「動物実験計画書」中の「実験題目」欄並びに「実験目的及び内容」欄の記載(甲83の1から3まで)や神戸大学医学部の「動物譲渡願(実験用)」中「実験の目的」欄及び「実験の内容」欄の記載(甲84の1から3まで)を読み比べると、滋賀医科大学及び神戸大学医学部が開示した動物実験の目的及び内容に関する情報は、被告が開示した情報とその内容において大差なく、これらの情報に当該研究の独創性や独自性、研究者の着眼点等、研究者の優先権に相当する部分が含まれていたとは認め難い。

また、滋賀医科大学及び神戸大学医学部において、動物実験の目的及び内容に関する情報を開示したことにより、その後の研究上の支障が生じたか否かも明らかでない。

したがって、原告の上記主張はその前提を欠いているものといわざるを得ず、これを採用することはできない。

(四) 原告は、研究の詳細な方法や過程、研究に基づくデータや研究の成果等を記した研究論文と、動物実験の目的とその概要を記した「動物実験計画書」とは、その目的・内容において、全く異なる性質のものであるし、「動物実験計画書」が作成される目的は、計画されている動物実験が適正に行われるかどうかを審査するためであるから、「動物実験計画書」の内容は、情報公開法5条6号ハにより保護される情報に該当しない旨主張する。

確かに、前記のとおり、「動物実験計画書」は、大分医科大学動物実験指針に基づき、動物実験委員会による動物実験の承認を得るため、動物実験を行おうとする研究者によって作成、提出されるものである。

しかし、証拠(甲4、115、乙5、18)及び弁論の全趣旨によると、「動物実験計画書」は、動物実験委員会において、動物実験の必要性、重要性とともに、実験動物に与える無用な苦痛の除去等の動物福祉の観点から、動物実験の適否を判断するために作成・提出されるものであり、動物実験の手順、方法、動物の使用数や苦痛軽減の方法等を詳細に記述することが求められているものであることが認められる。

そうすると、「動物実験計画書」中の「実験題目」欄及び「実験内容」欄に記載された情報は、当該研究の独創性や独自性、研究者の着眼点等、研究者の優先権に相当する部分が含まれ得るものであって、情報公開法5条6号ハにより保護される情報に該当することがあるものというべきである。したがって、原告の上記主張には理由がない。

(五) 原告は、本件開示請求の対象となっている動物実験は、違法飼養のニホンザルを使用して実施されていたのであるから、動物実験が適正であったとはいえず、被告における動物実験は事務の「適正な遂行」に該当しない旨主張する。

確かに、証拠(甲69から74まで、77、乙14)及び弁論の全趣旨によると、平成14年法律第88号により改正される前の鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(以下「旧鳥獣保護法」という。)1条の4に定める狩猟鳥獣以外のものについて、旧鳥獣保護法12条1項の規定により学術研究又は有害鳥獣駆除のため捕獲したものを飼養し、譲渡し、又は譲り受けようとするときは、旧鳥獣保護法13条の規定により飼養許可証と共にこれを行わなければならないとされているにもかかわらず、被告の動物実験施設においては、昭和55年ころから、高崎山周辺で捕獲されたサルを飼養許可証がないまま譲り受けており、旧鳥獣保護法13条に違反していたため、被告は、平成11年に大分県知事から厳重注意を受け、その後は、旧鳥獣保護法等の関係法令に従った適正な手続により実験動物を譲り受けるようにしていることが認められる。

しかしながら、本件各行政文書が上述したように旧鳥獣保護法に定める手続に違反して譲り受けたニホンザルを用いた動物実験に関するものであることを認めるに足りる証拠はない上、そもそも、仮にそのようなニホンザルを実験に用いたからといって、その動物実験自体が直ちに違法なものとなり、その動物実験を行う研究者の優先権に相当する部分が保護されないことになるわけではないというべきである。

したがって、原告の上記主張は、いずれにせよ理由がない。

(六) 以上のとおり、本件各行政文書のうちの「動物実験計画書」中の「実験題目」欄及び「実験内容」欄のうち、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分として被告が不開示とした部分に含まれる情報は、情報公開法5条6号柱書・同号ハ所定の不開示情報に該当すると認めることができるから、本件部分開示決定のうち、上記情報を不開示とした部分は適法というべきである。

二 「ニホンザル戸籍簿」中の不開示部分について
1 「ニホンザル戸籍簿」について
前記前提事実に加え、証拠(各事実の後に付記する。)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる。

(一) 本件各行政文書のうちの「ニホンザル戸籍簿」は、実験動物として被告に搬入されるニホンザルを個体管理するために作成されるものであり、個体識別のための写真を貼付して管理されているものである(甲4、115、乙2、5、18)。

(二) 「ニホンザル戸籍簿」中の「識別用各個別写真」欄には、実験動物であるニホンザルの写真が貼付され、「処分者氏名」欄、「飼育開始届申請者名」欄及び実験利用記録欄の「利用者名」欄には、動物実験を実施する者の氏名が記載されている(甲4、115、乙2、5、18)。そして、「識別用各個別写真」欄に貼付する写真が撮影される際には、ニホンザルに麻酔を施しているため、写真では、ニホンザルの表情が、麻酔を施されていない場合と比較して、著しく衰弱しているかのように見える(甲4、乙5)。

(三) 被告は、「ニホンザル戸籍簿」中の「識別用各個別写真」を不開示とするとともに、「処分者氏名」欄、「飼育開始届申請者名」欄及び実験利用記録欄の「利用者名」欄に記載されている氏名のうち、講師以上の者を除いた者、具体的には助手及び大学院生の氏名を不開示としている(甲4、115、乙5、弁論の全趣旨)。

2 「識別用各個別写真」について

(一) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について

(1) 本件開示請求当時、被告は国の機関であり、そこで実施される動物実験は、国の機関が行う研究、教育に関する事務であるから、「国の機関…(中略)…が行う事務又は事業に関する情報」(情報公開法5条6号柱書前段)に該当することは明らかである。
(2) 前示のとおり、行政文書に記載された情報につき、情報公開法5条6号柱書・同号ハ所定の「おそれ」があるか否かを判断するに当たっては、当該情報が、どのような事務又は事業に関するどのような種類のものであるかなどといった一般的な性質から、当該事務又は事業の遂行を害するおそれがあるかを否かを客観的に判断することが相当であるというべきである。
(3) そこで検討するに、証拠(甲5、6、11、13から30まで、42から54まで、56、57、61から64まで、67、68、77、88、99から106まで、乙9の2、10から12まで)及び弁論の全趣旨によると、動物実験に関して、原告やARC等の団体は、市民への広報活動、地方公共団体や製薬会社への働きかけ、動物愛護法の改正への働きかけ等を通じて、動物実験の廃止を求める運動を広く行っていて、相当数の市民がその運動に参加しており、特に霊長類であるニホンザルを用いた動物実験に対しては強い反対運動が行われていることが認められる。 また、証拠(甲37から39まで、85から88まで、乙13、21)によると、研究者の間では、実験動物を用いない代替法の開発、使用動物数の削減及び実験動物の苦痛削減等の動物に対する倫理的配慮が必要であるという見解が有力となっているが、これらの見解は、動物実験が全く不要であるとするのではなく、必要な見直しをすべきであるというものであることが認められる。

以上のとおり、動物実験については、研究者の間では動物実験の必要性は一定程度認められているが、他方で、動物権利保護団体等によって動物実験の廃止を目指す反対運動が広く行われていることが認められる。


(4) 前記のとおり、「ニホンザル戸籍簿」中の「識別用各個別写真」は、麻酔を施されているため、著しく衰弱しているかのように見えるものであって、かつ、「識別用各個別写真」に写っているニホンザルは、動物実験に使用され、いずれ死亡するものであるという特異性がある。そして、写真は、文字による情報よりも人間の感覚に訴えかける力が強いだけでなく、その表示方法や説明文の付け方等によって、事実とは異なる印象、ないしは過剰な印象を与えることも可能なものである。 そうすると、「ニホンザル戸籍簿」中の「識別用各個別写真」を開示した場合、そこに写っているニホンザルの写真が動物実験に対する反対活動に用いられることによって、調査研究のために本当に必要な動物実験についても、これを行うことが困難又は不可能となるおそれが客観的にあり、実験動物を用いた研究の「能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」(情報公開法5条6号ハ)が存在すると認めることができる。

(5) 原告は、「ニホンザル戸籍簿」は、鳥獣保護法、動物愛護法等の法律に抵触していなかったかどうかなど、一連の事実関係を知る上で、極めて重要な資料であり、被告が不適法な動物の管理と極めてずさんな動物実験を長年続けていたことからすれば、「ニホンザル戸籍簿」を開示する必要性は極めて高い旨主張する。 しかし、行政文書が開示されるべきか否かは、当該行政文書に含まれる情報が情報公開法5条に規定されている不開示情報に該当するか否かによって判断されるべきであって、情報公開法7条が規定する公益上の理由による行政機関の長による裁量的開示の場合を除いて、開示の必要性が高いという理由によって、不開示情報が開示されるべきであるということはできず、本件において、原告は情報公開法7条に基づく裁量的開示に関して何ら主張立証していないことは、前記一2(一)(2)イ(エ)で判示したところと同様である。したがって、原告の主張には理由がない。

(6) 以上によれば、「ニホンザル戸籍簿」中の「識別用各個別写真」は、情報公開法5条6号柱書前段・同号ハに該当する情報というべきである

(二) 情報公開法5条6号柱書後段該当性について

前示のとおり、「ニホンザル戸籍簿」中の「識別用各個別写真」は情報公開法5条6号柱書前段・同号ハに該当するというべきである。そして、情報公開法5条6号は、同号柱書後段の「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」の典型的なものとして、同号イからホまでを挙げたものであるから、「識別用各個別写真」が同号ハに該当する場合、同号柱書後段に該当することは当然であって、同号柱書後段に該当するか否かを改めて検討する必要はないというべきである。

(三) 以上によれば、「ニホンザル戸籍簿」中の「識別用各個別写真」は、情報公開法5条6号柱書・同号ハの不開示情報に該当すると認めることができるから、本件部分開示決定のうち、上記情報を不開示とした部分は適法というべきである。

3 「処分者氏名」、「飼育開始届申請者名」及び実験利用記録欄の「利用者名」(ただし、いずれも講師以上の者を除く。)について

(一) 情報公開法5条1号該当性について

前記のとおり、本件各行政文書のうちの「ニホンザル戸籍簿」中の「処分者氏名」、「飼育開始届申請者名」及び実験利用記録欄の「利用者名」は、ニホンザルを用いた動物実験を実施する者の氏名を記載したものであるから、これらの情報が情報公開法5条1号本文の「個人を識別することができる」情報に該当することは明らかである。

また、講師以上の者を除いた者、すなわち助手及び大学院生の氏名が情報公開法5条1号ただし書イ及びハに該当しないことは、前記一2(一)で判示したところと同様である。

したがって、「ニホンザル戸籍簿」中の「処分者氏名」、「飼育開始届申請者名」及び実験利用記録欄の「利用者名」欄に記載された情報(ただし、いずれも講師以上の者を除く。)は、情報公開法5条1号に該当する。

(二) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について

「処分者氏名」、「飼育開始届申請者名」及び実験利用記録欄の「利用者名」が情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当すると認められないことは、前記一2(二)で判示したところと同様である。

(三) 以上のとおり、本件各行政文書のうちの「ニホンザル戸籍簿」中の「処分者氏名」欄、「飼育開始届申請者名」欄及び実験利用記録欄の「利用者名」欄に記載された情報は、情報公開法5条1号の不開示情報に該当すると認めることができるから、本件部分開示決定のうち、上記情報を不開示とした部分は適法というべきである。

4 実験利用記録欄の「処置記録」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分について

(一) 証拠(甲4、乙5)及び弁論の全趣旨によると、「ニホンザル戸籍簿」のうち、実験利用記録欄の「処置記録」中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分であるとして被告が不開示とした部分は、いずれも、当該研究における重要事項を示す文言が記載されている部分であって、当該研究者の専門分野及び研究業績など、その他の情報と照合することによって、どのような目的のために研究を行っているのかやその研究の価値などが判明するものであり、当該研究の独創性や独自性、研究者の着眼点等、研究者の優先権に相当する部分が含まれていることが認められる。

そして、このような情報が開示された場合、研究者の自由な発想、創意工夫や研究意欲が不当に妨げられるなど、研究の能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあると認めることができることは、前記一3(一)(2)で判示したところと同様である。

(二) したがって、「ニホンザル戸籍簿」のうち、実験利用記録欄の「処置記録」欄中、研究者にとって研究のプライオリティ等を示す最も重要な部分として被告が不開示とした部分に記載された情報は、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当すると認めることができるから、本件部分開示決定のうち、上記情報を不開示とした部分は適法というべきである。

三 「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の不開示部分について 

1 「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」について 前記前提事実に加え、証拠(各事実の後に付記する。)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる。
(一) 「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」は、動物実験を行おうとしている研究者が、動物実験に必要な実験動物について品名(動物名)、規格品質(性別・年齢等)、数量等を特定して請求し、契約等の担当職員が、「納入」又は「相手方」欄に記載されている実験動物取扱業者から、実験動物を購入するという手続を記載した書類である(甲4、115、乙5、弁論の全趣旨)。
(二) 被告は、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の
①「品名」欄に記載された実験動物の品名、②「規格品質」欄に記載された実験動物の品質、③「納入」又は「相手方」欄に記載された実験動物取扱業者の名称、④「使用場所」欄に記載されている研究者名のうち、講師以上の者を除いた者、具体的には助手及び大学院生の氏名を不開示としている(甲4、115、乙5、弁論の全趣旨)。

2 「品名」、「規格品質」及び「納入」又は「相手方」について

(一) 情報公開法5条1号該当性について

被告は、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「納入」又は「相手方」欄のうち、個人名が記載されたものが、情報公開法5条1号本文の「個人を識別することができる」情報に該当する旨主張する。

しかし、証拠(甲2、4、乙5)及び弁論の全趣旨によると、被告は、本件部分開示決定や情報公開審査会に対する不開示理由の説明においても、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」中の「納入」欄並びに「物品購入等請求書」中の「相手方」欄に記載された情報が情報公開法5条1号に該当することや、「納入」又は「相手方」欄の記載のうち個人名が記載されたものが存在することについて何ら主張していなかったことが認められる。そして、被告は、本件訴訟においても、「納入」又は「相手方」欄に記載された個人名とはいかなるものであるかについて、主張立証していない。

そうすると、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「納入」又は「相手方」欄に記載された名称については、その名称が、実験動物取扱業者の担当者等の氏名(それならば情報公開法5条1号本文に該当し得る。)であるのか、それとも実験動物取扱業を営む個人の氏名であって、「事業を営む個人の当該事業に関する情報」(情報公開法5条1号本文括弧書により除外されている。)に該当するものであるか、あるいは実験動物取扱業を営む法人等の名称(その場合は、同号の問題ではない。)であるのかも明らかでないといわざるを得ない。

そうだとすれば、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「納入」又は「相手方」欄の記載について、個人名が記載されたものがあり得るとして、当該欄を特定しないまま、「納入」又は「相手方」欄記載の情報が、情報公開法5条1号本文の「個人を識別することができる」情報に該当すると認めることは相当ではないといわざるを得ない。

(二) 情報公開法5条2号イ該当性について

(1) 情報公開法5条2号柱書本文・同号イは、不開示情報として、「法人…(中略)…に関する情報」であって、「公にすることにより、当該法人等…(中略)…の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」を規定している。

これは、法人等に関する情報には、営業秘密等のように、それが公開されると当該法人等の権利利益を害するおそれのあるものがあり、原則として法人等が有する正当な権利利益は、行政庁による情報の開示によって害されるべきではないという考え方に基づき規定されたものであり、「権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」の有無は、その情報の性質や法人等の性格、権利利益の内容等に応じて判断されるべきであると解される。そして、上記要件にいう「おそれ」とは、情報公開法が国民主権の理念から行政文書については公開を原則としていること(1条、5条柱書)からすれば、単に行政機関の主観においてそのおそれがあると判断されるだけではなく、客観的にそのおそれがあると認められることが必要であるというべきである。

もっとも、上記「おそれ」があるか否かの判断に当たり、当該文書の個別具体的な記載文言等から当該法人等の権利が具体的にどのように害される蓋然性があるかが明らかにされなければならないとすることは、結果的に当該行政文書の開示を要求するということに等しく、不開示情報を定めた情報公開法の趣旨に反することは明らかである。

そうすると、行政文書に記載された情報につき、情報公開法5条2号イ所定の「おそれ」があるか否かを判断するに当たっては、当該情報が、どのような法人等に関するどのような種類のものであるかなどといった一般的な性質から、当該法人等の権利利益等を害するおそれがあるかを否か客観的に判断することが相当であるというべきである。


(2) そこで、本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄、「納入」又は「相手方」欄に記載された情報が情報公開法5条2号イ所定の不開示情報に該当するか否かについて検討する。

ア 証拠(各事実の後に付記する。)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる。
(ア) SHAC等の活動に関する新聞報道
a 平成13年1月19日付けの日経産業新聞には、動物権利保護団体が薬剤や化学品の動物実験を専門に手掛ける英国のHLS社の役員、株主、取引銀行等のHLS社に関係する個人を標的に爆弾の脅しをかけたり、実際に従業員の自動車を爆破するなどして、HLS社に圧力をかけたため、HLS社の株価が急落するなどし、銀行が融資延長を拒否すれば倒産を免れない状況にある旨の記事が掲載された(乙6)。

b 平成14年7月2日の朝日新聞には、①欧米で違法手段も使って過激な動物愛護運動を展開している英国の団体であるSHACが、平成13年夏に大阪大学等日本の5大学の動物実験施設に侵入して内部を撮影したり、資料等を持ち出したりした上、ホームページで、実験動物が虐待されているなどと批判したこと、②SHACは、動物実験に反対し、世界有数の動物実験請負会社であるHLS社を閉鎖に追い込むために平成11年に設立された団体であり、幹部がHLS社の社員に殺人予告をして懲役刑を受けたり、HLS社の取引銀行を脅迫するなどしており、その過激な活動が英国で社会問題化していること、③HLS社は、日本の大手製薬会社の大半と取引があり、売上の約2割を日本で占めており、SHACは、朝日新聞の取材に対して、今回は日本の動物実験への攻撃の手始めであり、今後も多くの施設に入り、HLS社とかかわるとマイナスになるという警告を送るというコメントをしていること等を内容とする記事が掲載された(乙8の1)。

c 平成15年6月30日の毎日新聞には、英国の動物権利運動団体であるSHACの女性活動家と東京都内のNPOであるARCの代表が順天堂大学医学部の施設に侵入して、実験に使用された犬を盗んだ疑いで逮捕状が出された旨の記事が掲載された(乙8の2)。

d 平成15年7月1日の毎日新聞には、SHACの女性活動家とARCの代表が、順天堂大学医学部に侵入し、実験に使われた犬を盗んだという窃盗の被疑事実で逮捕された旨の記事が掲載された(乙8の3)。

e 平成15年8月25日の読売新聞には、平成14年4月に大阪大学医学部から動物実験のビデオテープを盗んだという窃盗の容疑で、SHACの活動家に対して、懲役3年執行猶予5年の刑が宣告された旨の記事が掲載された(乙8の4)。

(イ) AMPが公表している情報

a アメリカの団体であるAMP(Americans for Medical Progress)のホームページには、①SHACは、平成12年から、HLS社の経済的後援者に対する脅迫や嫌がらせ、HLS社の従業員を対象とする11の自動車爆発事件、2人のHLS社重役に対する暴行等を行い、SHACのメンバーが逮捕、投獄されたこと、②アニマルライツ団体であるALF(動物解放前線)やELF(地球解放前線)は、平成8年以来アメリカ国内で600件以上の暴力行為を行い、4300万ドル以上の損害を与え、FBIは、両団体をアメリカ国内の最大のテロリスト脅威と指定していること等の記事が掲載されている(乙7の1及び2)。

b AMPの会員レポートでは、アメリカ上院司法委員会において開催された動物権利保護団体についての公聴会において、SHAC、ALF、ELF等の動物権利保護団体の過激主義に関して、この種のテロリズムが近年エスカレートしており、FBIの調査最優先事項となっている旨の報告がされた旨伝えられている(乙24)。

c AMPの会員のレポートでは、アメリカにおいて、SHACの活動家リーダー7人がHLS社従業員の日常業務を妨害するための電話や電子メール攻撃、FAX攻撃、コンピュータ遮断を行ったなどとして、テロの陰謀、動物関連企業保護法及びストーカー行為禁止法違反により、平成16年5月26日に逮捕・起訴された旨伝えられている(乙25)。

(ウ)a 被告が不開示としている「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄に記載された実験動物の品名、並びに「規格品質」欄に記載された実験動物の品質は、これらを開示すると、実験動物取扱業者についての一般的情報と照らし合わせることにより、被告が実験動物を購入した相手方である実験動物取扱業者を特定することができる可能性が高い情報である(甲4、115、乙5、弁論の全趣旨)。

b 被告が、本件開示請求の対象となった「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」に記載された実験動物取扱業者に対して、情報公開法13条に基づき、意見聴取を行った結果、すべての業者が、適正な事業の妨害等に対して強いおそれを抱いているとして、業者名等の情報の公開を望まない旨の意見書を提出している(甲4、乙5、弁論の全趣旨)。

イ 以上の事実によると、英国及びアメリカでは、SHAC等の過激な動物権利保護団体によって、特定の動物実験請負会社の営業を妨害したり、動物実験を廃止させたりする手段として、動物実験請負会社の役員や従業員に対する自動車爆破事件や暴行、脅迫等の犯罪行為が組織的に行われていることが認められる。

また、日本国内においても、大学の動物実験施設にSHAC及び日本国内の動物権利保護団体の活動家が不法に侵入し、実験動物や動物実験の資料を盗み出し、活動家が有罪判決を受けるという事件が発生したことが認められる。

そして、前記のとおり、日本国内の動物権利保護団体により動物実験に反対する活動が広く行われており、それらの活動には相当数の者が参加している。

以上を総合考慮すると、被告に対して実験動物を納入している実験動物取扱業者の名称や当該業者の納入した実験動物の種類・品質等が明らかになると、平和的な抗議活動や言論活動だけでなく、これらの業者の営業に不当な圧力をかけたり、営業を妨害するなどの活動が行われる可能性があり、現に、これらの業者はそのおそれを抱いていることを認めることができる。

そして、このような妨害活動等が行われると、実験動物取扱業者の営業に不利益な事態が発生する可能性があるということができる。

したがって、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報が公開されると、情報公開法5条2号イにいう「権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」があると認めることができる。

(3) これに対し、原告は、国民の税金が投入されている公共の研究機関の取引業者名を公開することは、取引の透明性を高め、違法行為を未然に防ぐ意味でも極めて重要であり、その公開は公共機関に課せられた義務であることからすれば、「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報は開示されるべきである旨主張する。 しかしながら、行政文書が開示されるべきか否かは、当該行政文書に含まれる情報が情報公開法5条に規定されている不開示情報に該当するか否かによって判断されるべきであって、情報公開法7条が規定する公益上の理由による行政機関の長による裁量的開示の場合を除いて、開示の必要性が高いという理由によって、不開示情報が開示されるべきであるということはできず、本件において、原告は情報公開法7条に基づく裁量的開示に関して何ら主張立証していないことは、前記一2(一)(2)イ(エ)で判示したところと同様である。したがって、原告の主張には理由がない。

(4) また、原告は、実験動物取扱業者名に関する情報が既に公開されていること、他の行政機関が実験動物取扱業者名を公にしたことで支障が生じた事例がないことからすれば、被告についてのみ、取引業者名を不開示とする理由は認められない旨主張する。 確かに、証拠(甲93の1から5まで、94から97まで)によると、実験動物取扱業者の中には、自社のホームページ内において、実験動物を取り扱っていることを宣伝し、会社所在地や電話番号等を明記している業者が存在していること、奈良県は、平成13年6月19日に開示した「動物実験に関する集計」の中で、講座研究費一覧表中の「債権者」欄に記載された実験動物取扱業者と推測される名称を開示していること、岡山大学医学部においては、「動物実験計画書」中の「使用動物」欄に記載された「入手先」の名称についても、これを開示したことがあること、財団法人東京都医学研究機構は、ニホンザルの購入契約における相手方の団体の名称を開示したことがあることを認めることができる。

しかしながら、情報公開法5条及び公益上の裁量開示を規定した情報公開法7条の規定に照らすと、情報公開法は、行政機関の長に対して、情報公開法5条に規定する不開示情報に該当しない情報については開示することを義務付けている一方、不開示情報については、情報公開法7条に該当しない限り、その開示を禁止しているものと解される。

したがって、ある企業が、自らの判断で情報公開法5条2号イの不開示事由に該当する情報を公開することは自由であるが、そのような公開の事実があったとしても、当該情報が不開示事由に該当する場合は、行政機関の長としては、情報公開法7条に該当しない限り、当該行政文書を開示することはできないというべきである。

また、地方公共団体等や他の国立大学において、実験動物取扱業者の名称を開示した例があるとしても、地方公共団体等の場合には、情報公開の根拠法令が異なる上、これらの事例においては、開示の対象となった実験動物取扱業者がその開示に反対していなかったため、当該業者の名称が開示されたことも考えられ、さらに、当該各事案において、開示した判断が正しかったのか否かも不分明である。そうすると、これらの機関において実験動物取扱業者の名称が開示された例があるというだけでは、被告が本件において実験動物取扱業者の名称を開示した場合に「権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」があるとする前記判断を覆すことはできないというべきである。

したがって、原告の主張には理由がない。

(5) 以上によれば、本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報は、情報公開法5条2号イの不開示情報に該当するというべきである。

(三) 情報公開法5条4号該当性について

(1) 前示のとおり、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報は、情報公開法5条2号イの不開示情報に該当すると認めることができるので、同条4号該当性の有無にかかわらず、本件部分開示決定のうち上記情報を不開示とした部分は適法である。そうすると、本来は、同条4号該当性の有無を判断する必要はないが、訴訟の経緯にかんがみ、これを検討することとする。

(2) 情報公開法5条4号は、「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として規定している。この規定は、公共の安全と秩序を維持することは、国民全体の基本的利益を擁護するために政府に課された重要な責務であり、これらの利益は十分に保護する必要があることから設けられた規定と解される。

そして、情報公開法5条4号のこのような立法趣旨及び「…支障を及ぼすおそれがある情報」という規定の仕方ではなく、「…支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」という規定の仕方をしていることからすると、このような情報の開示・不開示の判断には、その性質上、犯罪等に関する将来予測等についての専門的・技術的な情報と経験に基づく判断を要し、公共の安全と秩序の維持という国民全体の基本的利益を守るための高度の政策的判断を伴うこと等の特殊性があることから、同号は、行政庁に比較的広範な裁量権を付与したものと解される。

そうすると、情報公開法5条4号該当性の司法審査の場面においては、裁判所は、同号に該当する情報が記録されているかどうかについての行政機関の長の第一次的な判断が合理性を持つものとして許容される限度のものであるかどうか、すなわち、当該処分に社会通念上著しく妥当性を欠くなどの裁量権の範囲の逸脱又は濫用があると認められる点があるかを判断するという審査方法によるべきであると解される。そして、処分の取消訴訟においては、同号の該当性を否定する原告が、上記のような裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったことを基礎付ける具体的事実を主張立証する責任を負うというべきである。


(3)ア 証拠(甲2、4、乙5)及び弁論の全趣旨によると、被告は、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報を公にすることにより、実験動物取扱業者の設備の破壊や実験動物等の不法な持ち出しなどの犯罪を引き起こす蓋然性があると判断して、情報公開法5条4号に該当すると判断していることが認められる。

イ 前記のとおり、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」に記載された「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報は、被告に実験動物を納入する業者を特定することができる情報である。そして、前記のとおり、英国及びアメリカでは、SHAC等の過激な動物権利保護団体によって、特定の動物実験請負会社の動物実験を廃止させる手段として、動物実験請負会社の役員や従業員に対する自動車爆破事件や暴行等の犯罪行為が組織的に行われており、日本国内においても、大学の動物実験施設に動物権利保護団体の活動家が不法に侵入し、実験動物や動物実験の資料を盗み出すという事件が発生していること、また、日本国内の動物権利保護団体により動物実験に反対する活動が広く行われ、それらの活動には相当数の者が参加していることを認めることができる。

ウ これらの事実によると、前示のとおり、実験動物取扱業者の名称と実験に提供した動物の種類、品質等が明らかになれば、動物実験に反対する団体等によって、特定の業者の営業活動に対する妨害活動等が行われるおそれがあることを認めることができる。

しかしながら、前記のとおり、英国やアメリカにおいては、上記のSHAC等の過激な動物権利保護団体によって実験動物取扱業者の役員や従業員に対する脅迫、自動車爆破、暴行等の多数の犯罪行為が行われているのに対し、日本においては、上記事例一件以外に、動物権利保護団体によって実験動物取扱業者や動物実験施設に対して犯罪行為が行われた事例があることをうかがわせる証拠は見当たらない。そして、日本国内において活発に活動している動物権利保護団体の一つであると考えられるところの原告について見ても、原告が上述したSHAC等の過激な動物権利保護団体と同列の団体であることをうかがわせる証拠は見当たらず、そのほか、英国やアメリカに存在するような過激な動物権利保護団体が日本で活発に活動していることを認めるに足りる証拠もない。

また、被告が本件部分開示決定を行う際に、原告が上述したSHAC等の過激な動物権利保護団体と同列の団体であると認定していたことや、動物権利保護という目的のために犯罪行為も辞さないような団体が日本国内に存在しており、そのような団体による犯罪行為が発生するおそれが存在すると判断していたと認めるに足りる証拠もない。そして、このような点以外に、被告が情報公開法5条4号該当性を認めるにつき他の根拠があったことをうかがわせる証拠もない。

そうすると、実験動物取扱業者の名称と実験に提供した動物の種類、品質が明らかになったとしても、特定の実験動物取扱業者の営業活動に対する抗議、妨害活動等のように必ずしも犯罪行為に該当するとはいえない行為を超えて、動物権利保護団体等によって、実験動物取扱業者の設備の破壊や実験動物等の不法な持ち出し等の犯罪行為が行われるおそれがあると判断することは、根拠を欠き、社会通念上妥当ではないものといわざるを得ない。

このように見てくると、被告は、実験動物納入業者の営業に対する上記妨害活動等のおそれが存在することから、直ちに、実験動物納入業者の名称等が開示されると、動物実験に反対する団体等によって、これらの業者に対して、施設への不法侵入や破壊行為などの犯罪が行われる可能性が存在すると認めたものと考えられ、このような認定判断は、社会通念上著しく妥当性を欠くものであって、裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるというべきである。

エ そうすると、被告が、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報を公にすることにより、犯罪を引き起こす蓋然性があると判断したことは、被告の有する裁量権を逸脱又は濫用したものというべきである。

(4) 以上によれば、本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報は、情報公開法5条4号の不開示情報に該当するということはできない。

(四) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について

(1) 前示のとおり、本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報は、情報公開法5条2号イの不開示情報に該当すると認めることができるので、同条6号柱書・同号ハ該当性の有無にかかわらず、本件部分開示決定のうち上記情報を不開示とした部分は適法である。そうすると、本来は、同条6号柱書・同号ハ該当性の有無を判断する必要はないが、訴訟の経緯にかんがみ、これを検討することとする。

(2) 本件開示請求当時、被告は国の機関であり、そこで実施される動物実験は、国の機関が行う研究、教育に関する事務であるから、「国の機関…(中略)…が行う事務又は事業に関する情報」(情報公開法5条6号柱書前段)に該当することは明らかである。

(3) 前示のとおり、行政文書に記載された情報につき、情報公開法5条6号柱書・同号ハ所定の「おそれ」があるか否かを判断するに当たっては、当該情報が、どのような事務又は事業に関するどのような種類のものであるかなどといった一般的な性質から、当該事務又は事業の遂行を害するおそれがあるかを否かを客観的に判断することが相当であるというべきである。

(4) 前記のとおり、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報は、被告に実験動物を納入する業者を特定することができる情報である。 そして、前記のとおり、英国及びアメリカでは、SHAC等の過激な動物権利保護団体によって、動物実験請負会社の役員や従業員に対する自動車爆破事件や暴行等の犯罪行為が組織的に行われており、日本国内においても、大学の動物実験施設に動物権利保護団体の活動家が不法に侵入し、実験動物や動物実験の資料を盗み出すという事件が発生していること、また、日本国内の動物権利保護団体により動物実験に反対する活動が広く行われ、それらの活動には相当数の者が参加していること、さらに、被告が、被告に実験動物を納入する業者に対して、意見聴取を行った結果、すべての業者が、適正な事業の妨害等に対して強いおそれを抱いているとして、業者名等の情報の公開を望まない旨の意見書を提出していることを認めることができる。

これらの事実によると、実験動物取扱業者の名称や、実験に提供した動物の種類、品質等が明らかになれば、動物実験に反対する団体等によって、特定の業者に対して、その営業に不当な圧力をかけたりするなどの様々な妨害活動が行われるおそれがあり、かつ、被告に実験動物を納入する業者がそのような事態が生ずることを恐れて、被告に対して実験動物を納入しなくなるなどの影響が生ずるおそれがあることを認めることができる。

そうすると、実験動物取扱業者の名称や、実験に提供した動物の種類、品質等を明らかにすることによって、被告が調査研究のために動物実験を行おうとしても、実験動物を入手することが困難になるなどして、調査研究の「能率的な遂行を不当に阻害するおそれおそれ」が客観的に存在すると認められる。

したがって、「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報は、情報公開法5条6号柱書・同号ハの不開示情報に該当すると認めることができる。

(五) 以上のとおり、本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「品名」欄、「規格品質」欄及び「納入」又は「相手方」欄に記載された情報は、情報公開法5条1号又は同条4号に該当すると認めることはできないものの、同条2号イ、及び同条6号柱書・同号ハの各不開示情報に該当すると認めることができる。したがって、本件部分開示決定のうち、上記情報を不開示とした部分は適法というべきである。

3 「使用場所」における研究者名について

(一) 情報公開法5条1号該当性について

本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「使用場所」欄に記載された研究者名が、情報公開法5条1号本文の「個人を識別することができる」情報に該当することは明らかである。

また、講師以上の者を除いた者、すなわち、助手及び大学院生の氏名が、情報公開法5条1号ただし書イ又はハに該当しないことは、前記一2(一)で判示したところと同様である。

したがって、本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「使用場所」欄に記載された研究者名は、情報公開法5条1号に該当する。

(二) 情報公開法5条6号柱書・同号ハ該当性について

本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「使用場所」欄に記載された研究者名が情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当するとは認められないことは、前記一2(二)で判示したところと同様である。

(三) 以上のとおり、本件各行政文書のうちの「物品請求及び命令書・管理簿(乙)」並びに「物品購入等請求書」中の「使用場所」欄に記載された研究者名は、情報公開法5条6号柱書・同号ハに該当すると認めることはできないものの、情報公開法5条1号の不開示情報に該当すると認めることができるから、本件部分開示決定のうち、上記情報を不開示とした部分は適法というべきである。

四 結論
以上によれば、本件不開示部分を開示しないとした本件部分開示決定は適法というべきである。
したがって、本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

     東京地方裁判所民事第38部

         裁判長裁判官   菅  野  博  之
             裁判官   鈴  木  正  紀
             裁判官   馬  場  俊  宏