マンションにおける犬の飼育差止請求及び弁護士費用相当額の損害賠償請求が認容された事例(東京地判平成8・7・5、判時1585・43)[分譲★]→控訴

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last update 02 December 1999
□ 一、区分所有権者の規約違反行為の差止請求訴訟におけるマンション管理組合の原告適格が肯定された事例
  二、マンションにおける犬の飼育差止請求及び弁護士費用相当額の損害賠償請求が認容された事例
犬の飼育禁止差止請求事件、東京地裁平六(ワ)一七二八一号、平8・7・5民二五判決、一部認容、一部棄却(控訴)

判例時報1585号、43頁。

《参照条文》 一につき、建物区分所有法五七条、民事訴訟法四六条

       二につき、建物区分所有法六条・三〇条、民法七〇九条

 

原告          p管理組合

右代表者理事      P

右訴訟代理人弁護士   ------

被告          D

右訴訟代理人弁護士   ------

 

主 文

一 被告は、別紙物件目録記載の物件内で犬を飼育してはならない。

二 被告は原告に対し、金四〇万円及びこれに対する平成六年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三 原告のその余の請求を棄却する。

四 訴訟費用は被告の負担とする。

五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第一 請求

1 主文第一項と同旨

2 被告は原告に対し、金六〇万円及びこれに対する平成六年九月十八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

  本件は、マンションの管理組合である原告が、その構成員であり、専有部分で犬を飼育している被告に対し、管理組合規約の規定に基づき、マンション内での犬 の飼育に中止を求めるとともに、被告が原告の飼育中止の要請を拒否して犬の飼育を継続し、原告をして弁護士を依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくさせた ことが原告に対する不法行為に該当するとして損害賠償を請求した事案である。

 一 争いのある事実等(認定事実は証拠を示す。)

  1 原告は、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」)三条に基づき、区分所有者全員で構成されている、別紙物件目録記載の一棟の建物(以下 「本件マンション」という。)を含む五棟の共同住宅とその敷地及び付属設備の管理を行うための団体(管理組合)であり、同法三〇条に定められた規約(以下 「本件規約」という。)を有し、右規約に基づき、全組合員で構成する総会により理事長を選任する法人格なき社団である。

 2 被告は、昭和五八年七月末に本件マンション×××号室(別紙物件目録記載の専有部分)に入居し、以来居住している同質の区分所有者であり、本件管理組合の組合員である。

  3 本件規約二四条は、「管理組合は、共用部分の管理及び使用に伴う共同生活の円滑な運用をはかるため、区分所有者及び居住者が守るべき事項について別に 細則を定めるものとする。」と規定しており、原告はこれに基づき「共同生活の秩序に関する細則(以下「本件細則」という。)」を定めた。

 4 右細則の二条(2)(以下「本件規定」という)は、組合員が、「小鳥及び魚類以外の動物を飼育すること」を禁じている。

  5 ところが、細則の右規定に違反して犬猫を飼育する区分所有者がいたことから、昭和六一年六月一日の管理組合総会において、同時犬猫を飼育中の組合員に より構成されるペットクラブを設立させ、ペットクラブの自主管理の下で、当時飼育中の犬猫一代限りにつきその飼育を認めることを決議し、同年七月二六日、 右決議に基づき、当時のペット飼育者らが集まり、ペットクラブが発足した。

 6 被告は、平成四年八月以降現在に至るまで、自宅でシーズー犬(以下「本件犬」という。)を飼育している。

 7 原告は、平成五年八月二九日から、被告に対し、本件犬の飼育を中止するよう申し入れたが、被告は、同年一〇月一一日ころ、原告に対し、犬の飼育を続ける旨回答し、その後も犬の飼育を続けている。

 8 本訴の提起については、平成六年五月二九日、管理組合総会において承認された。

 二 争点

 1 本案前の争点

 原告に当事者適格が存するか。

 (一) 被告の主張

  本件犬の飼育差止め請求は、区分所有法五七条に基づく請求であるところ、同条三項によれば、訴訟追行権を有するものは「管理者又は集会において指定された 区分所有者」とされており、権利能力なき社団である原告には訴訟追行権は付与されていない。仮に、原告に当事者能力が認められるとしても、本件規約六八条 三項は、理事長が差止め等必要な措置を取るにつき理事会の決議を必要と定めているのであり、原告の訴訟提起についても、右規定の準用により、理事会の決議 が必要と解すべきである。

 (二)原告の主張

  本件犬の飼育差止め請求は、区分所有法五七条に基づく請求ではなく、本件規約上の義務に違反する行為に対する差止め請求であるところ、本件規約は原告と被 告の直接の法律関係を定めるものであって、原告は本件請求に係る権利の主体である。したがって、原告は民訴法四六条の規定に基づき、自己の名において訴訟 を提起することができる。

 2 本案の争点

 (一)本件規定の解釈上、被告による本件犬の飼育が本件規定に違反する行為か。本件規定により犬の飼育の差止めを求めることは権利濫用となるか。

 (二)本件規定が平等原則違反となるか。

 (三)原告の要求を拒絶し、本件犬の飼育を継続した被告の行為は原告に対する不法行為となるか。

 3 本案の争点に関する被告の主張

 (一)本件規定の解釈と被告による本件犬の飼育について

  犬をはじめとするペットを飼育する権利は、憲法一三条及び二九条によって保障された重大な権利であり、かかる重要な権利を制限するについては、本件規約及 び本件規定の弾力的解釈を通じ、対立する利益との比較衡量により、できるかぎり最小かつ合理的な制限にとどめるべきである。現在、ペット飼育の重要性が社 会的に認知されつつあり、東京都がマンションにおけるペット飼育の在り方を模索するなど、マンションにおけるペット飼育を許容する条件が整いつつある。ま た、本件マンションにおいても、被告のペット飼育を是認する住民が多数存在する。このような状況を考慮すれば、本件規定は、ペット飼育による被害が他のマ ンション住民に具体的に発生している場合ないし被害が発生する蓋然性が存在する場合に限り飼育を禁止する趣旨に解されるべきである。

 しかるに、被告の飼育している本件犬は、小型のシーズー犬であり、右犬を飼うことにより他のマンション住民に対して何らの被害も与えていないから、被告による本件犬の飼育は本件規定に違反しない。

 仮に右のような解釈ができないとしても、本件において、具体的被害なくして差止め請求するのは権利の濫用として許されない。

 (二)平等原則違反について

 ペットクラブの会員と被告との間でペット飼育に差別を設け、ペットクラブの会員のみに飼育を認める取扱いには合理的理由はない。非会員にのみ適用される本件規定は憲法一四条に違反するのであって、その効力は認められない。

 (三)不法行為の成否について

 被告は原告の要求に対し誠実に対応してきたものであり、被告の行為は不法行為に当たらない。むしろ、原告が、一方的に飼育中止を強制してきたものである。

 4 本案の争点に関する原告の主張

 (一)本件規定の解釈と犬の飼育禁止について

  マンション内のペット飼育は、鳴き声による騒音、排泄物による臭気、咬傷事故の可能性等、周囲の区分所有者に対する影響が大きいものであって、区分所有法 六条一項の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するものであり、区分所有者相互間における専有部分の使用を調整するために必要な事項として、管 理組合はペット飼育に関する規約を定めることができるものである。本件規定は合理的理由に基づくものであるから有効であることはもちろん、本件規定は、具 体的な迷惑行為が生じないように事前にルールを定めたものであって、ペット飼育により実害が生じた場合のみ適用されるものではない。

 被告主張のように限定的に解釈すべき理由はなく、被告の本件犬による具体的被害の有無を問わず、差止め請求認められるべきである。

 (二)平等原則違反について

 本件ペットクラブの設立については、あくまでも例外として一時的な猶予期間を定めたものであり、現在飼育している居住者は一代限りでしか飼育を認められないので、いずれは犬猫は消滅する運命にあり、本件ペットクラブは一時的暫定的な措置にすぎない。

 (三)不法行為の成否について

  被告は原告の度重なる本件犬の飼育中止要求を一年以上も無視し続け、また、本件訴訟提起を決議した組合員総会において、裁判は受けて立つと発言するなどし て挑発的言動を示したものであり、原告をして、弁護士に依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくさせた。被告の右行為は原告に対して不法行為となるもので あって、被告の右不法行為により原告は弁護士費用相当額金六〇万円の損害を被った。

第三 争点に対する判断

 一 本案前の争点について

  本件の飼育差止め請求は、原告が、被告による犬の飼育が本件規約に基づき定められた本件規定に違反するとして、その差止めを求めるものであるところ、規約 は区分所有者に対して効力を生ずるのであり(区分所有法三〇条、四六条参照)、区分所有者は規約において定められた義務を遵守しなければならないが、規約 は管理組合内部の規範であるから、そこに定められた義務は区分所有者の管理組合に対する義務であり、これに対応する権利は法人格なき社団としての管理組合 に帰属する。したがって、管理組合は、民訴法四六条に基づき自己の名において差止め訴訟を提起することができる。被告の主張には理由がない。

 また、被告は、理事会の決議の有無を問題とするが、前記争いのない事実等一8のとおり、本件訴訟の提起については管理組合総会の決議を経ているのであるから、少なくとも本件において理事会の決議が必要とされるものではなく、被告の主張には理由がない。

 二 本案の争点について

 1 飼育差止め請求について

 (一)本件規定の解釈について

  被告は、ペットを飼育する権利が、憲法一三条及び二九条によって保障された重要な権利であることを理由に、本件規定は、ペット飼育による被害がマンション 内の他の住民に具体的に発生している場合ないし被害が発生する蓋然性が存する場合に限り、飼育を禁止する趣旨に解されるべきである旨主張する。

  ペットの飼育は、飼主が飼主としての責任を果たし、愛情をもって飼育する限り、動物との触れ合いを通じて飼主及びその家族がより豊かな生活を享受すること を可能にするののであるから、広義においては個人の幸福追求にかかわるものであるということができるが、それが、憲法一三条後段にいう「幸福追求に対する 国民の権利」に含まれるか否かは別として、人格権、プライバシーの権利のように個人の人格そのものにまつわる権利と同一視することはできず、あくまでも他 人に迷惑をかけない限りにおいてペットを飼育するか否かの決定を自由に行うことができるというにとどまる(なお、憲法一三条後段にいう「幸福追求に対する 国民の権利」は、同条前段の個人の尊重の原理を受けているが、ここにいう個人の尊重の原理とは他人の犠牲において自己の利益を主張しようとする利己主義を 意味するものではないことはいうまでもないし、同条後段は、「幸福追求に対する国民の権利」についても、公共の福祉に反しない限りにおいて立法その他の国 政の上で最大の尊重を必要とするものであり、他人の権利、自由との矛盾、衝突のある場合に調整原理が働くことを明示的に定めているのであって、「幸福追求 に対する国民の権利」を主張する場合にはこれらの点に留意する必要がある。)。また、被告の本件犬に対する財産権は保障されるが、本件マンション内におい て本件犬を飼育することができるか否かは財産権の保障とは別の問題である。

  ペットの飼育は、動物の種類、生態、飼育環境、飼育方法等により他人の権利、自由と衝突することを免れない場合がある。公共の交通機関や施設、他人の店舗 等に持ち込む場合において顕著であるが、多数の人々が一棟の建物を区分所有している場合にも、各人の生活の場に不可避的に接点が生ずることとなるから同様 の問題がある。すなわち、このような建物においては、さまざまな価値観を有する人々が互いに節度を維持し、共存していかなければならないのであるが、ペッ トを自ら飼育したいと考え、又は他人がペットを飼育することに理解を示す人々があり得る反面、動物の鳴き声、臭気、体毛等を生理的に嫌悪し、あるいはそれ に悩まされる人々もあり得る。また、飼主が十分注意するにしても、動物による病気の伝染の危険等、衛生面の問題を完全に払拭することはできない。したがっ て、共用部分については、ペットの飼育がその用法に含まれる場合は別として、ペットの飼育のためn利用することができないことはいうまでもないが、飼主の 専有部分のみにおいてペットを飼育するにしても、一棟の建物の構造上他人の専有部分の利用に影響せざるを得ない場合があるから、ペットの飼育について区分 所有法の規定に従い規約でその調整を測ることは当然許容されるものというべきである。

  すなわち、マンションは入居者が同一の建物内で共用部分を共同して利用し、専有部分も上下左右又は斜め上若しくは下の隣接する他の専有部分と相互に壁や床 等で隔てられているにすぎず、必ずしも防音、防水面で万全の措置が取られているわけではないし、ベランダ、窓、換気口を通じて臭気が侵入しやすい場合も少 なくないのであるから、各人の生活形態が相互に重大な影響を及ぼす可能性を否定することはできない。したがって、区分所有者は、右のような区分所有の性質 上、自己の生活に関して、内在的な制約を受けざるを得ないものと考えられる。

  区分所有法六条一項は、右内在的制約の存在を明らかにしており、その一棟の建物を良好な状態に維持するにつき区分所有者全員の有する共同の利益に反する行 為、すなわち建物の正常な管理や使用に障害となるような行為を禁止するものである。そして、右の共同の利益に反する行為については、区分所有者は管理規約 においてこれを定めることができるものとされている(同法三〇条一項)。

  そして、マンション内における動物の飼育は、建物の構造上前記のような問題点があることからすれば、糞尿によるマンションの汚損や臭気、病気の伝染や衛生 上の問題、鳴き声による騒音、咬傷事故等、建物の維持管理や他の居住者の生活に有形の影響をもたらす危険があることはもちろんのこと、動物の行動、生態自 体が他の居住者に対して不快感を生じさせるなどの無形の影響をも及ぼすおそれのある行為であるといわざるをえない。たしかに、飼主が責任を持って必要な措 置を十分に執れば、動物の種類、生態等によっては、右のような有形、無形の影響を及ぼす危険、おそれを実際上無視し得るほど小さくすることは可能であるも のの、飼主の生活領域内での飼育であるだけに飼主及びその家族の良識と判断にゆだねざるを得ず、遺憾ながら規範意識、責任感、良識に欠ける者がペットを飼 育する可能性を否定できない。そうすると、居住者の自主的な管理にゆだねることは限界があり、大方の賛同を得ることは困難である。また、具体的な実害が発 生した場合に限って規制することとしたのでは、右のような不快感等の無形の影響の問題に十分対処することはできないし、実害が発生した場合にはそれが繰り 返されることを防止することも容易ではないことが考えられる。したがって、規約の適用に明確さ、公平さを帰すことに鑑みれば、右禁止の方法として、具体的 な実害の発生を待たず、類型的に前記のような有形、無形の影響を及ぼす危険、おそれの少ない小動物以外の動物の飼育を一律に禁止することにも合理性が認め られるから、このような動物の飼育について、前記共同の利益に反する行動として、これを禁止することは区分所有法の許容するところであると解するのが相当 である。

 したがって、本件規定について被告の主張するような限定解釈を加える必要はなく、本件マンションにおいて犬を飼育することは、共同生活上の利益に対する具体的被害やその蓋然性の有無にかかわらず、それ自体で本件規定に違反する行為というべきである。

 (二)権利濫用について

 《証拠略》及び前記争いのない事実等3、4によれば、以下の事実が認められる。

    (1) 本件規定が定められた後、本件規定に違反して犬猫を飼育する者がおり、管理組合に苦情が寄せられた。そこで、当時の管理組合の理事らは、現実 的な妥協策として、違反者を管理組合の管理下におき、当該犬猫一代限りでのみ飼育を認めることにより、歳月の経過とともに違反者を皆無とし、細則が遵守さ れた状態を実現することを目的として、昭和六一年六月一日、当時犬猫を飼育中の組合員を構成員とするペットクラブを設立し、自主管理の下で一代限りの飼育 を認めることを管理組合総会に諮り、賛成多数で承認された。

    (2) 同年七月二六日、右総会決議に従い、ペットクラブが結成され、ペットクラブ規約を定め、役員の選出等を行った。原告は、管理組合ニュースにより ペットクラブの発足を全組合員に公表するとともに、ペットクラブの全員の指名[ママ]、住所、電話番号、犬猫の種類及び匹数をも公表し、ペットクラブ会員 以外に犬猫を飼っている者を見かけた場合には、管理事務所に届け出るよう呼びかけた。そのころ以後、新たに犬猫の飼育を開始した者で、ペットクラブ会員以 外に、犬猫の飼育が管理組合に認められた例はない。

   (3) ペットクラブの会員数及びその飼育する犬猫の数は減少を続け、平成七年八月ころにはいずれも半数になった。

   (4) 本件マンションは、一四階建ての居住用の分譲マンションであり、動物の飼育を配慮した設計、構造にはなっていない。

  以上、認定の事実によれば、本件マンション内における犬猫の飼育を一律に禁じる本件規定を受けて、原告は区分所有者の共同の利益の保護のために、本件規定 の違反者を皆無とすべく、ペットクラブを設ける一方で、右クラブが歳月の経過により自然消滅するような構成にして本件規定の遵守を組合に対して求めてお り、その方針は多くの区分所有者の協力を得て浸透していることは明らかである。原告の執った右措置は、区分所有者の共同の利益の保護実現を目指しつつ、既 に飼育していた犬猫が寿命を全うできるように配慮した経過措置であって、その内容を公表したことと併せて十分合理的なものであるということができる。被告 は、本件規定のみならず右の事情を知りながら、平成四年八月に本件犬の飼育を始めたものであり、このような本件規定に違反する行為を放置していては規律を 保つことができないこととなるから、原告が、本件規定に基づき被告に対し犬の飼育禁止を請求することは、権利の濫用にも該当しないというべきである。

  被告は、ペットの飼育の重要性を強調するが、ペットの飼育は、飼い主の生活を豊かにし、ペットが飼い主やその家族にとって、かけがえのない存在となる場合 のあることは否定できないとしても、被告の主張するペット飼育の重要性を肯定するか否かは、多分に個人の主観にかかわるものであって、そのような認識を他 人に強要することはできないところ、前述のとおり、本件規定は本件マンション内における犬猫の飼育を一律に禁止しており、このような禁止も合理性がある以 上、実害の有無を問わず、飼育を禁じられるというべきである。また、被告の主張中には、ペット飼育の重要性が社会的に認知されつつあり、東京都等がマン ションにおけるペット飼育の在り方を模索するなど、マンションにおけるペット飼育を許容する条件が整いつつあること、本件マンションにおいても、被告の ペット飼育を容認する住民が多数存在することを理由に、本件規定を制限的に解釈すべきと主張する部分も存するが、本件訴訟の提起が、管理組合の総会におい て承認されている(前記争いのない事実一8)事実からすれば、本件マンションにおいて、住民の多数が犬猫の飼育を是認しているものとは認めることができな い。被告の主張は採用できない。

 (三) 被告は、また、ペットク ラブの会員に犬猫の飼育が認められていることに比して、被告のような非会員がペットの飼育を認められないことは平等原則に反すると主張する。しかしなが ら、前記(二)で認定したとおり、原告は、当時の飼育者に配慮しつつ、将来的に、時間の経過とともに違反者を皆無にするための現実的な妥協策として、ペッ トクラブを設立したものにすぎず、ペットクラブの会員も、新たな犬猫の飼育は禁止されているのであるから、本件規定の適用を受けるものであることは明らか である。以上によれば、ペットクラブの会員にのみ、一代限り飼育を認めることには合理的理由があるというべきである。

 (四) 以上のとおりであるから、本訴請求中、被告に対し、本件規定違反を理由に犬の飼育禁止を求める部分は理由がある。

 2 損害賠償請求について

 (一) 《証拠略》によれば、以下の事実が認められる(一部争いのない事実を含む)。

  (1) 原故意は、平成五年七月、組合員からの苦情をきっかけに、被告が本件犬を飼育している事実を知った。

   (2) 同年八月二九日、原告は被告に対し、管理規約を遵守し本件犬の飼育を中止するよう申し入れ、同年九月五日までに書面により回答するよう求めた が、右期限までに回答はなかった。その後、原告理事長が五回にわたり被告に電話で連絡した結果、平成五年一〇月一一日、被告は、原告に対し、本件犬の飼育 を続ける旨回答し、その後書面でも同様の回答をした。

  (3) 平成五年一一月一四日、原告は被告に対し、本件規約六八条一項により本件犬の飼育中止を指示し、中止しないときは同条三項により裁判手続をとることを通告した。

   (4) 被告はその後も本件犬の飼育を中止しなかったため、平成六年五月二九日、本件管理組合の総会において、被告に対し法的手続をとることを承認する 決議がなされた。右決議に先立ち、被告の妻Aは、「規約があることは認めるが重要とは考えてはいない。お互いの考え方が違うのだから仕方ない。裁判は受け て立つ。」と述べ、これは被告の意向でもあった。

  (5) 平成六年八月三〇日本件訴訟が提起された。

  (二) 右の各事実によれば、被告は、本件犬の飼育が本件規定に違反する行為であることを知悉しながら、原告の再三にわたる飼育中止の要請を拒否して、本 件犬の飼育を継続し、その結果、原告は弁護士に依頼して本件訴訟を提起せざるを得なくなったものである。したがって、被告の右行為は原告に対する不法行為 を構成するものというべきである。そして、原告は、右訴訟提起のために、弁護士に訴訟の提起、追行を委任し、着手金三〇万円、成功報酬三〇万円の支払を約 した事実が認められる。そして、本件事案の難易、訴え提起に至る経過、被告らの応訴の状況等、その他諸般の事情を考慮すると、右弁護士費用のうち四〇万円 は被告らの不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

  三 よって、原告の請求は、犬の飼育差止め請求と金四〇万円の損害賠償を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費 用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

 

 (裁判長裁判官 高世三郎  裁判官 小野憲一 前澤達朗)

 


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