市が獣医師に飼犬又は飼猫の不妊手術を受けさせた市民にその手術料の一部に相当する金員を補助金として交付するに当たり右の獣医師を獣医師会支部に所属する者に限定した措置が国家賠償法譲違法であるとはいえないとされた事例(平成7年11月7日最高裁第三小法廷判決平成6(オ)952号)

last update 11 December 1999

□市が獣医師に飼犬又は飼猫の不妊手術を受けさせた市民にその手術料の一部に相当する金員を補助金として交付するに当たり右の獣医師を獣医師会支部に所属する者に限定した措置が国家賠償法譲違法であるとはいえないとされた事例

平成7年11月7日最高裁第三小法廷判決平成6(オ)952号

判時1553・88、判タ897・61

 

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理 由

 上告代理人----の上告理由について

 本件は、被上告人が、野犬及び野良猫の発生を防止するための施策の一つとして、本件要綱によって、獣医師に飼犬、飼猫の不妊手術を受けさせたA市民である飼主にその手術料の一部に相当する金員を補助金として交付するに当たり、その獣医師を東京獣医師会A支部に所属する獣医師に限定したところ、上告人らが、右の措置はA市内に診療施設を有しながら同支部に所属しない上告人ら獣医師を不当に差別するもので、その営業の自由を侵害する違憲・違法なものであるなどとして、被上告人に対し、国家賠償法一条に基づいて慰謝料と遅延損害金の支払いを求めるものである。

 原審の適法に確定した事実関係の下において、同支部の規模、同支部に加入してない獣医師の数、右補助金交付の手続等に照らすと、右の措置は、被上告人における行政効率の点で必ずしもその必要性が高いとはいえず、右の獣医師と競業関係に立つ上告人らの営業上の利益に対する十分な配慮をしたとは言い難いうらみがある。しかしながら、右補助金を交付する趣旨は犬猫の不妊手術を奨励して野犬や野良猫の発生を防止することにあり、不妊手術を受けさせた飼主や不妊手術をする獣医師を保護するためではなく、また被上告人の右措置によって同支部に所属しない獣医師に生じ得る営業上の不利益は直接的なものではなく、これに所属する獣医師との競業関係による波及的な効果である。そして、獣医師会は任意加入の公益社団法人であり、これに加入して会費を納入するとともに獣医師会の各種制約の下に営業するか、加入しないで営業するかは、基本的には各獣医師個人の自由意思に委ねられているものである(上告人らにおいて、同支部への加入が不当に制限されているため同支部に所属する獣医師と同様の利益を受けることができないというのであれば、獣医師会との間でその点を問題にすべきである。)。これらの点を考慮すると、本件要綱によって同支部に所属しない獣医師に飼犬、飼猫の不妊手術を受けさせた飼主を補助金交付の対象から除外したことが直ちに上告人らを含む右の獣医師の営業上の利益を侵害するとして国家賠償法上違法になるとは認め難いというべきである。原審の判断は、以上と同趣旨をいうものとして是認し得ないではなく、その過程にも所論の違法は認められず、右違法を前提とする所論違憲の主張は失当である。論旨は採用することができない。

 よって民訴法四○一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文の通り判決する。

 (裁判長裁判官 大野正男  裁判官 園部逸夫  裁判官 可部恒雄  裁判官 千種秀夫  裁判官 尾崎行信)